第一話 さようなら
転性者撲滅法が制定された次の日――
会社、友人、SNS、私に通ずる全ての人は、私が転性だということを知っている。
つまり、私は同じ転性以外の誰も頼ることができない状況に置かれたのだ。
「どうしようか…」
テレビはずっと、転性と飛山についての話題で溢れている。
『私はねぇ、ずっと前から転性に反対だったんですよね。人間は生まれ落ちた時から、性は2つと生物学的に決まっているんです!』
小太りのいけ好かない、スーツを着た男が、私は全部知っていた!と言わんばかりの台詞を口八丁に並べる。
イラつきながら、荷物の整理を進めているとピコーンと電話が来た。
画面をスライドして、電話に出る。
「もしもし」
『ササさん、こんちはっす!ニュースの件で警察の手が回って来る前にどこか一緒に逃げようかと思ってるんですが…」
電話の相手は望月 薫、24歳。
薫は私の大学の後輩であり、親友だ。
身長は180cmほどで、かなり細身である。
そして転性が日本に浸透する前から私を受け入れてくれていた唯一の人。
ササというのは、サエキサキトの頭文字を取ってササという意味だ。
「薫、恐らくだけど身分を証明できる全てのものに転性と記載されているならどこに行っても捕まるわ。無茶はよして、何か方法を考えましょう。何より、あなたはただの男性よ」
『だから、法が制定されて間もない今なんじゃないすか!善は急げってやつですよ!ササさんは何か別に悪いことした訳じゃないのに!』
「言いたいことは分かるけど…、薫さ、ずっと一緒に逃げて行くつもり?」
『ササさん、どういうことっすか?』
「私はね、ツケが来たんじゃないかと思うの。私たち転性が飛山さんに全てを押し付けてのうのうと生きてきたツケが……」
『何言ってるかわかんねえっすけど、とにかくササさん。準備できてますか?迎えに行くっす!」
プツッと電話を切られた。
「お父さん、お母さん、私生きてちゃいけないのかな。逃げてでも生き延びていいのかな」
涙が頬を伝う。
薫が来るまで、両親と最後の電話をすることにした。
「もしもし、お父さん、お母さん…っ…っ、普通に男性として生きられなくてごめんね…っ。私、社会から逃げてもいいのかな…っ」
泣きじゃくりながら、最後の電話を始めた。
『咲人、生きてちゃダメなんて人なんていないのよ!逃げ延びて、苦しくても生き延びなさい!いつか、社会がまた咲人達を認めてくれるまで』
『お父さんとお母さんは咲人の味方だ。いざとなれば警察だってぶん殴ってやる!困ったらいつでも帰って来い!』
お母さんとお父さんが私に言葉をかける。
「ありがとう…。私やっぱり何回生まれ変わってもお父さんとお母さんの子がいいな!佐伯家の子供がいい!お父さん、お母さん元気でね!」
そう言って、私は電話を切った。
そして、父と母の連絡先を削除した。
転性を庇う者にも容赦のない法の牙が、家族には届かないようにと願って。
数時間後――
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
少し、寝落ちしてしまっていたようだ。
インターホンを覗くと――
警察が玄関に立っていた。




