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ひろし、囲まれる

 黒ちゃんは油まみれで吹き飛ばされると、魔法を放ったゴーストが黒ちゃんに言った。


「正直、先鋒がこんなに強いとは思わなかった。だがマガイルー代表というプライドを背負っている。先鋒相手に全敗するわけにはいかない」


 ゴーストはそう言うと、魔法陣を展開して氷の矢を準備した。


 それを見た黒ちゃんは苦笑いをしながらゴーストに言った。


「しかし……。あなたも油まみれという事は、これはお好きかな?」


 黒ちゃんはそう言うと、なんと豪炎の壺を出現させた。


 ゴーストはそれを見ると狼狽(うろたえ)えながら黒ちゃんに言った。


「それは豪炎の壷!」


「そうです。豪炎の壺は破裂すれば一瞬で800度以上。油は一気に発火する」


「「「ざわざわざわざわ」」」


「800度!?」

「え、火つけたらヤバいよね」

「まさか、撲殺紳士さん……」

「やばい、やる気だ!」


 黒ちゃんは静かに笑うと、ゴーストに言った。


「道連れです。行きましょうか」


「や、やめろ!!」


「「「ざわざわざわざわ!!」」」


 観客がザワめくと、黒ちゃんは豪炎の壺を地面に投げつけて着火した。


 ボワッ!!!


 炎は一瞬で油に引火すると一気に燃え広がった。


「「「きゃーーー」」」


 観客席から悲鳴が上がると、黒ちゃんとゴーストは炎に包まれた。


「黒ちゃん!!!」


 アカネが体を乗り出して黒ちゃんに叫ぶと、黒ちゃんは静かに笑って消滅した。



 黒ちゃんはプレイヤー席にリスポーンすると、信じられない光景を目にした。


 なんと、ゴーストは生き残っていた。


 ゴーストはゆっくりと立ち上がると、黒ちゃんに言った。


「氷と風の魔法で炎を散らさなければ危なかった……。道連れにしてまでも私を倒そうとは……。私はあなたに敬意を表する」


 ゴーストは黒ちゃんに深く頭を下げると、その姿を見た黒ちゃんも立ち上がって頭を下げた。


 パチパチパチパチ!!


 観客から大きな拍手が起こると、なんとマガイルー代表のプレイヤーからも拍手が起こった。


 黒ちゃんは少し照れると、勝者を知らせるアナウンスが流れた。


『勝者、ゴースト!!』


 パチパチパチパチパチパチパチパチ……


『ではピンデチ代表の次鋒(じほう)、ひろしさん準備してください』


 それを聞いたおじいさんは頭を下げて立ち上がると、ゆっくりとゴーストのほうへ歩いていった。


 するとそれを見た観客が口々に言った。


「あ、あの人、石投げるおじいさん!」

「ほんとだ! わたし見たことある」

「撲殺紳士の友達なの?」

「え、まじで?」


 おじいさんはゴーストに深々と頭を下げると、ゴーストも深く頭を下げた。


 ゴーストは頭を上げて杖を構えると、おじいさんに言った。


「ご老人。私のHPはもうわずか。MPもHPの回復に回せるほど余裕はありません。一気にいかせて頂きます」


「わかりました。わたしもがんばります」


 おじいさんはアイテム欄からレスカカルの丸い石を詰め込んだ麻の袋を出現させて近くに置いた。


 そして丸い石を1つ取り出して握りしめると戦闘準備を整えた。


 すると試合開始のゴングが鳴った。


 カーン!!


『試合開始!!』


 なんとその瞬間、大小無数の魔法陣がおじいさんを取り囲んだ。


 ゴーストは杖を高く(かか)げながらおじいさんに大声で言った。


「私の最後の力! 味わってください! うぉぉぉおおおお!」


 すると、炎、氷、雷、風の魔法が順番に次々とおじいさんに向かって放たれた。


 ブォォオオオオオ!

 キィィイイン……、ズガガガガガ!

 パンッ! ドガガガガガン!

 ビュゥ! ビュン!


「じぃちゃん!」

「ひろしさん!」

「おじいちゃん!」

「きゃぁーー!」


 アカネたちが驚くと、なんとおじいさんが放った石がゴーストに向かって飛んでいった。


 シャァァアアアアアア!!!


「あっ!」

「おじいちゃんの石!」


「なにっ!!」


 ゴーストは慌てて杖を構え直して防御の魔法陣を展開しようとした。


 しかし、おじいさんの剛速球はゴーストが防御魔法を展開するよりも早くゴーストの肩を撃ち抜いた。


 ガンッ!!

「うっ!」


 おじいさんはゴーストの魔法をまともに受けたがHPは持ちこたえていた。


 おじいさんはその姿を見て、必死に次々と石を投げていった。


 シャァァアアアアア……ガン!!

「なんだ、この攻撃力!」


 シャァァアアアアア……ガン!!

「く……、これまでか……」


 シュゥゥウウウ……


 ゴーストは消滅して席にリスポーンした。


『勝者、ひろし!! ピンデチ代表、準決勝進出です!!』


「「「わぁーーーー!!!」」」


 観客が盛り上がると、リスポーンしたゴーストはおじいさんの所へやってきた。


 そして、おじいさんに一礼すると笑顔を見せておじいさんに言った。


「負けました、完敗です」


「い、いえ、黒ちゃんさんに頑張っていただいたので。ははは」


「ひろしさん、ちなみにですが防具はこのジャージでしょうか」


「はい。ベスト・ピッチャー賞という賞の副賞で頂いたジャージです」


「そうでしたか、初めて見たもので……。もしよろしければ、スペックを教えていただけませんか?」


「すぺっく?」


 すると黒ちゃんがおじいさんに説明した。


「ひろしさん、スペックはステータスを見るとわかります。防御力とか、素早さとか……」


「あ、わかりました。少々お待ち下さい」


 おじいさんはそう言うと、自分のステータスを確認して言った。


「ええと、物理防御力と魔法防御力が1000づつで、素早さと器用さも500づつです」


 それを聞いたゴーストはおじいさんに尋ねた。


「ちなみに、ステータスの下に何か書いてありませんか?」


「え、あぁ、はい。全属性ダメージ無効、全デバフ無効……」


「「「えええええっっ!!!」」」


 それを聞いたゴースト、黒ちゃん、イリューシュ、そしてマガイルーのメンバーは一斉に驚いて口々に言った。


「全属性ダメージ無効の防具があったのか!!」

「全属性ダメージ無効ですか!?」


「おいおい、物理ダメージが乗る土の魔法以外、ほぼ魔法は無効だぞ!」


「ああ。水も物理的な水圧ダメージだけだ……。炎と雷と光に関しては完全な無力……」


「な、なんだよ、そのチート・ジャージ」

「魔法使い殺しだ……」


 おじいさんはみんなが驚いていることに驚いていると、観客のプレイヤーたちがやってきて黒ちゃんとおじいさんを取り囲んだ。


「おじいさん、握手してください!」

「撲殺紳士さん、かっこよかったです!」


「石、触らせてもらってもいいですか?」

「撲殺紳士さん、かっこいい投げ技でした!」


「きゃー! 写真撮らせてください!」


 おじいさんと黒ちゃんは照れくさそうにしながらも観客のプレイヤーたちに答えた。


 こうして、おじいさんたちは2回戦も勝利したのだった。

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