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翠、飛び跳ねる

 リングの上では美咲がレイピアを前に突き出して腰を低く構え、大谷は刀を下段に構えて静止していた。


 リングの上の空気が張り詰めると、アカネが試合開始を宣言した。


『試合開始!!』


 ブワッ!


 先手を取ったのは大谷だった。


 大谷は下段の構えから素早く斬り上げると、そこから怒涛(どとう)の連続攻撃で美咲に攻めていった。


 ヒュッ……、キン!

 ヒュッ、ブンッ!


 美咲は大谷の攻撃を軽やかなステップでかわしていったが、少しずつコーナーに追い詰められていった。


『おおっと! 美咲さん、コーナーに追い詰められていく!』


『素早さが自慢の美咲さんも狭いリングの中では戦いにくいかもしれません!』


 美咲はとうとうコーナーに追い詰められると、大谷は一瞬下がって大き振りかぶった。


「待ってたよ」


 美咲は小さく呟くと、大谷が刀を振り下ろすよりも早く踏み込んだ。


 キュッ!

 ドスッ!


「くっ」


 美咲のレイピアは見事に大谷の肩に命中し、同時に素早くサイドステップをして刀を()けた。


 そして美咲は即座に足を踏ん張ると、そこからさらに連続で突きを放った。


 ヒュッ、ヒュヒュッ!


 しかし大谷は素早く回転すると、刀でレイピアの攻撃を弾いた。


 キン! キンキン!


 美咲は攻撃しながら軽やかに回り込むと、いつの間にか大谷がコーナーに追い詰められた形になっていた。


「「おおーー!」」


 大谷はコーナーを背中にしながら少し笑うと、美咲も笑った。


『おおっと! 美咲さん、いつのまにか有利なポジションに!』


『これは美咲さん、狙っていたかもしれません!!』


 するとなぜか試合を見ている翠が大汗をかいて両手を握りしめていた。


 それを見たルルが翠に話しかけた。


「ねぇ、すごい汗かいてるけど、大丈夫??」


「あ、ああ。美咲は妹なんだ。なぜか自分が試合しているような気分になってしまって……」


「そ、そう……。はい、よかったらタオル使って」


 ルルはタオルを出現させて渡すと翠は汗を拭きながらお礼を言った。


「す、すまん、ありがとう」


 翠はテーブルに置いてあったドラゴン大福を口に入れると、また大汗をかきはじめた。


 リングの上ではコーナーに追い詰められた大谷が上段の構えをとり、美咲はなんと剣を攻撃力が高いバックソードに切り替えた。


『あっ! 美咲さん、剣を持ち替えた!』


『あれは死竜(しりゅう)のバックソードですね。素早さを犠牲(ぎせい)にする代わりに重い一撃を()り出せます。次で勝負が決まるかもしれません!』


 その時、1枚の桜の花びらが大谷と美咲の間にゆっくりと落ちてきた。


 そしてその花びらがリングに落ちた瞬間、


 ブワッ!


 なんと大谷はリングのロープに足をかけて空へ飛び上がり、一気に体ごと刀を回転させて空中から美咲に(せま)った。


「うりゃぁああああ!」


 大谷の攻撃を見た美咲は冷静に大谷を観察すると、ほんの数センチだけ後ろへステップしてバックソードを突き出した。


「やぁああっ!」


 ヒュッ!


 美咲のバックソードは正確に大谷の喉元(のどもと)を狙ったが、大谷はそれを分かっていたかのようにバックソードを弾いた。


 キン!


 そして大谷はそのまま美咲の頭を狙ったが、その瞬間、刀がほんの数センチだけ届かない距離に美咲がいる事に気づいた。


「なにっ!」


「ふふっ。飛んだら着地点は変えられない」


 美咲は静かに笑うと、弾かれたバックソードを軽く1回転させて下から(えぐ)るように突き出した。


 ドスッ!

 ズバッ!


 美咲のバックソードは大谷の胸の急所を正確に貫通し。大谷の刀は美咲の腕を少しだけ傷つけた。


 シュゥゥウウウ


 大谷は空中で消滅すると後ろのコーナーにリスポーンした。


『おおっと! 大谷さん、消滅してコーナーにリスポーンしたー! 勝者、美咲さん!!』


「「おおーーーー!!」」


「きゃー! やったーーー!」


 リングの外にいた翠は美咲が勝利したのを見て、見たこともないような満面の笑顔で飛び跳ねた。


 美咲は姉の翠を見て少しだけ恥ずかしそうにしていると、リスポーンした大谷が嬉しそうに美咲に握手を求めてきた。


「美咲さん。完敗です」


 美咲は大谷と握手をすると少し笑みをこぼして答えた。


「いつでもリベンジ待っています。ふふ」


「次はもっと力を付けてきます。それにしても勉強になる試合でした」


「そう言ってもらえると嬉しいです」


 2人は笑顔でリングから降りると、アカネが近くにいた黒ちゃんに言った。


「やっぱ試合すると盛り上がるね! 黒ちゃんも試合してみたら? ベンちゃんなんか良いんじゃない?」


「いやいや、ベンドレさんは攻撃力を別にしても私なんかが(かな)う相手じゃないぞ」


「そうなの? じゃあ……、誰か居ないかなぁ」


「す、すみません! ぼくに試合させてくれませんか」


「えっ?」


 アカネが振り向くと、なんと海が居た。


「あれ、君は」


 するとルルがやってきてアカネに話した。


「この子、いま修行中でね。勉強になりそうだから試合を見るように呼んだのよ」


「あ、そうなんすね。なるほど!」


 すると海は目を輝かせながらアカネに言った。


「こんなにお強い方ばかりなので、ぜひ練習試合させていただきたいです!」


 海は直角に頭を下げるとアカネは笑顔で答えた。


「おっけー! 君みたいな練習好きは好きだよ! リングに上がって」


「はいっ!!」


 海がリングに上がると、アカネもリングの端に上がってみんなに言った。


「みなさん! この海くんと誰か手合わせしてくれませんかー!!」


 するとリングの外から声が聞こえた。


「はぃ」


「ガルルルルル」


 するとララガ親子を連れたナミがゆっくりとリングに近づいていった。


「「「おおおおーー!!」」」


 みんなから大歓声があがると、リングの上の海は緊張しながらララガを見つめた。


 アカネはアナウンス席に戻るとアナウンスを始めた。


『さぁ! 次の試合は、なんと海くん対ララガだー!』


 アカネがそう言った瞬間、ララガのお母さんの背中を踏み台にしてララ助がリングに上がった。


『おおっと!! なんと、ララ助だーー!』


「「「わーー!!」」」


 すると、みんなからララ助を応援する声が上がった。


「ララ助がんばれ!」

「ララ助くん、がんばれー!」

「ララ助負けるなー!」

「ララ助かわいー」


「「「あははははは」」」


 海は完全アウェイな状況に緊張すると、ララ助は嬉しそうにリングの真ん中に座って尻尾(しっぽ)を振った。


 パタパタパタパタ


「よ、宜しくおねがいします!!」


 海が頭を下げるとララ助は尻尾を振りながら海を見つめた。


『ではー、始めますよー! 試合開始!!』


 アカネが試合開始を宣言すると、海は盾を前に出してガードを固めた。


 するとララガのお母さんがリングサイドに来てララ助に何か言った。


「クルルル……クルル、クルルルル(あのお兄さんを倒しなさい。練習よ)」


「クルルル?(れんしゅう?)」


「クルル……、クルルル……クルル(そう。強くなるためよ。頑張って)」


「クルル(わかった)」


 ブワァァアアア


 ララ助は体に炎を(まと)わせると頭を低くしてゆっくりと海に近づいていった。


 するとイリューシュから家に入る権限をもらったライラが、リングサイドに駆け寄った。


「海! リングの上ではステータスが同じくらいに調整される! 子供のララガでも強いぞ!」


「はい!」


 海は盾の横からララ助の位置を確認しようとすると、それを見たララ助は素早く走り出した。


 トトトトトトト


 そして、あっという間に海の視界から消えると、一瞬にして海の後ろに回っていた。


「あれっ、居ない!」


「「「海、うしろ! 海、うしろーー!」」」


 海はみんなの声を聞いて後ろを見ると、すでにララ助が口から火の粉を吐いていた。


 アカネはそれを見ると慌ててアナウンスした。


『爆発するよ!! みんな伏せて!!』


「「「わーーー!!」」」


「え?」


 海が「?」な顔で周りを見た瞬間、


 ドガァアァァン!!


「うわーーー!!」


 シュゥゥウウウ……


 火の粉が爆発を起こすと、海はコーナーにリスポーンした。


 ガン、カラン……、ドシャッ


 海はコーナーで呆然(ぼうぜん)としながら盾とランスを落とすと、尻もちをついて座り込んだ。


 ララ助は嬉しそうに走って海に飛びつくと、海の顔を()めながら尻尾を振った。


『勝者、ララ助ーーー!!』


「「「わーーーー!!」」」


 リングの周りは大歓声に包まれた。

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