ひろし、伝説の試合を見学する
茂雄とタマシリが対戦を終えるとアカネは調子に乗ってアナウンスを続けた。
「さぁて! 次の挑戦者はーー! 熊じぃだーーー!!」
「「「おおーー!!!」」」
「ボクシング世界チャンピオン対柔道オリンピック金メダル! ここでしか見られないよー!」
さすがにそれを聞いためぐはアカネに言った。
「ちょっと、アカネ! 勝手に……」
しかし、茂雄と大熊笹は笑顔で頭を下げると、大熊笹はリングへ上がっていった。
「「「おおー!!!」」」
すると、それを見ていた美咲が翠に言った。
「お姉ちゃん。あんな笑顔なのに、やっぱり世界のトップを取った人って風格がちがうね」
「ええ。見ているだけで圧倒されるわ。あんな笑顔なのに恐怖さえ感じるもの」
すると、格闘技ヲタクの魔術武闘家マサが、突然涙を流しながら大声で叫んだ。
「あぁぁあああ、生きててよかった! こんな試合見れないよーー! 伝説が……、伝説が生まれるよーーー!!!」
リングの上で茂雄と大熊笹が一礼すると、アカネがリングのロープに足をかけて言った。
「さぁーー! 世紀の対決が始まりますよー!」
アカネがリングの2人を見ると、2人は笑顔で頷いた。
「では、行きましょうーー!」
スッ
キュキュッ
大熊笹と茂雄が構えをとるとアカネが試合開始を宣言した。
「試合開始!!」
パンッ
2人は拳を軽く当てて挨拶すると、2人のオーラが豹変した。
キュッ! ブワッ!
茂雄は先手を取ると、体を低くして大熊笹の間合いに入った。
ダダッ、バン!
しかし大熊笹は突進するように茂雄の懐に飛び込むと、茂雄は回り込むようにステップして距離を取った。
茂雄は笑顔でファイティングポーズをとると、大熊笹も笑顔になった。
「「「おおーー!」」」
それを見たマサは思わず声を出した。
「すげぇ! 普通なら攻撃されたら後ろに下がるのに、大熊笹さんは前に出て攻撃を防いだ!」
アカネはそれを聞いてアナウンスした。
「おおっと! 熊じぃ、前に出て攻撃を防いだーー!」
すると、マサは大声で続けた。
「それだけじゃない! 茂雄さんは近すぎてパンチの威力が減るのを嫌って距離をとった!」
それを聞いたアカネはマサに言った。
「えっと、マサさん。詳しそうだから、ちょっとこっち来て」
「え?」
アカネがマサをリングの近くに呼ぼうとすると専務の大谷が机と椅子、そしてマイクを出現させてアカネとマサに言った。
「お2人とも、この席に!」
「「おお!」」
2人は席に座ると、アナウンサーと解説者になった。
『さぁ! 熊じぃから距離をとった茂じぃ! 次はどうするのでしょうか!』
『このレベルの戦いでは、1発で勝負がつくでしょう! 次の動きで勝負がつくかもしれません!』
『なるほど! それは興味深いですねー。……おおっと! 熊じぃが動いた!』
バンッ!
大熊笹は大きく踏み込んで茂雄に迫ると、茂雄は咄嗟にガードしてバックステップをした。
「はいっ!」
大熊笹は一瞬宙に浮いた茂雄の足を見逃さず、払いにいった。
スカッ!
しかし茂雄はそれを予測していて、拳1つ分ほど大きく下がっいた。
キュッ、バッ!!
そして即座に切り返して前へ大きく踏み込むと、大熊笹に必殺の右フックを放った。
ブワッ!
それを見たマサは興奮して叫んだ。
『伝説の右フックだぁっ!!』
バンッ! バチン!!
しかし大熊笹は大きく足を開いて踏ん張ると、なんと茂雄の右フックを肩で跳ね返した。
「「「おおおー!!」」」
そして大熊笹はそのまま一本背負いを仕掛けようと飛び込んだ。
ブワッ!
キュキュッ! バッ!
しかし茂雄は察知していたかのように横へ大きくステップして軽やかに逃れた。
それを見たマサは感動して言った。
『す、すげぇ! すげぇよ! あの右フックを肩で! やべぇ!!』
すると突然、茂雄と大熊笹は笑顔になると頭を下げた。
そして、グローブを外してリングの中央で握手をすると、お互い満面の笑顔で抱き合った。
アカネはそれを見るとアナウンスに困った。
「あ、あれ? 熊じぃ、茂じぃ、どうしたの?」
大熊笹はリングからアカネに言った。
「実力拮抗というやつです。このままでは永遠に勝敗はつかず、あとは運が決めるんです」
「え、運が決める?」
すると茂雄もリングからアカネに言った。
「実力が同じなら、最後は運が良いほうが勝ちます。それでは実力勝負になりません」
それを聞いたマサが号泣しながら言った。
「そうです! そうですよね! 運で決まる勝敗なんて意味がないんです!!」
パチパチパチパチ!!
マサがそう言うと、みんなから拍手が起こった。
すると、翠が美咲に言った。
「今の試合は一瞬で終わったように見えたけど、無数の駆け引きがあった……」
「うん、お姉ちゃん。わたしでも分かった」
「世界の頂点に立つというのは……、技術だけじゃないのかもしれない」
「そうだね」
大熊笹と茂雄がリングから降りると、タマシリは茂雄に駆け寄って頭を下げた。
「シゲオさん、レッスンをありがとうございました」
「いえいえ、タマシリさん。そんなそんな」
「シゲオさん、私は強くなりたい。もっとレッスンをしてくれませんか」
「そうですか……。わたしは妻が死んでから無気力に生きてきました。ですが、この世界で私の技術を伝えられるなら嬉しいです」
「シゲオさん……」
「タマシリさん。あなたに右フックの奥義をお教えしましょう」
「ありがとうございます!」
タマシリは深々と頭を下げてお礼をすると、茂雄も頭を下げた。
その時、試合を観戦していた専務の大谷は、思い出したように美咲のところへ行って話しかけた。
「美咲さん、もし可能であれば1試合お願いできませんでしょうか」
「うふふ。コーシャタの決着ですね。もちろん喜んで」
美咲は嬉しそうに笑って答えた。
専務の大谷はイリューシュのところへ行くと、リングの使用許可を相談した。
「イリューシュさん、わたしもリングを使わせていただいても良いでしょうか」
「あら、大谷さん試合ですか? どうぞ、ご自由にお使いくださいね」
「ありがとうございます」
大谷は頭を下げると美咲にオーケーのジェスチャーをした。
大谷と美咲は一礼してリングに上がると、アカネが興奮してアナウンスを始めた。
『おおっと、次の試合だー!! 次の試合は、なんと大谷さんと美咲さんだー!』
「「「わーーー!!」」」
マサはリングの上を見ると解説を始めた。
『美咲さんは元カワセミ! 黒豹のレイピアを使う数少ないプレイヤーです』
『黒豹!?』
『はい。素早い攻撃ができる攻撃特化の片手剣なのですが、盾を持てないという弱点があり、あまり使われません』
それを聞いたマユは驚いてメイに尋ねた。
「美咲ちゃんの剣って、片手剣だったんだ」
「片手で持ってるし、片手剣じゃない?」
「あ、そうか。盾が無いだけで片手剣か。ははは」
すると大谷が背中から2本の刀を抜いのを見たマサが、少し興奮気味に解説した。
『おおっ! 大谷さんは銘刀、風斬村正二刀だ! 素早い連続攻撃ができ、ガードもできます!』
「「おおーー!」」
するとなんと、大谷は刀を一本リングの外へ投げ捨てた。
『なんと大谷さん! 刀を一本捨てたー!』
『これは面白くなってきましてよ。大谷さんはガードを捨ててスピード勝負に出るようです!』
「「「わーー!!!」」」
みんながリングの周りで盛り上がると、2人はお互いに一礼した。




