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茂雄、稽古をつける

 おじいさんたちがお茶とお菓子の用意を終えて、みんなでフレンド交換をしながらワイワイしていると、茂雄が大谷に付き添われてG区画の家にやってきた。


 イリューシュは茂雄と大谷に家に入る権限を付与すると、桜の木の下にロッキングチェアを出現させた。


 そして茂雄を招き入れると、茂雄に言った。


「ようこそ私たちの家へ。どうぞお掛けください。この椅子は茂雄さんの椅子として使ってくださいね」


「こんなに素晴らしい場所に……。良いのでしょうか……」


「ええ。いつでもここへいらして桜を楽しんでください」


「う……」


 すると茂雄は突然涙を流した。


「申し訳ございません。こんなに良くして頂いて……」


 するとアカネが笑顔で走ってきて茂雄に言った。


「じいちゃん、これ食べてよ! とっても美味(うま)いんだよ!」


 そう言うと、アカネは茂雄にプレミアム・ドラゴン大福を手渡した。


「ありがとう、お嬢さん」


「あたし、アカネだよ。よろしくね」


「あぁ、ありがとうアカネさん。わたしは茂雄です」


「ははは、知ってるよ。じゃあ、(しげ)じぃって呼ぶね」


「ありがとうございます、あだ名を付けてもらったのは何十年ぶりでしょうか」


 茂雄は嬉しそうにすると、めぐが慌ててやってきてアカネに言った。


「ちょっとアカネ、急に失礼だよ」


「え? なんで?」


 めぐはアカネを(たしな)めると茂雄に挨拶をした。


「茂雄さん改めまして。わたし、めぐです」


「あ、めぐさんですね。茂雄です。宜しくお願いします」


「茂雄さん、アカネが失礼なことを言ってすみません」


「いえいえ、めぐさん。僕はアカネさんにあだ名を付けてもらって、とても嬉しいんです」


「え、そ、そうですか……」


 すると突然社長と話していたタマシリが大声を上げた。


「Wow!! Is it true, CEO!? It's amazing!! (ええっ! 社長、本当ですか!? すごい!)」


 それを聞いた黒猫はイリューシュの家全体に翻訳魔法(ほんやくまほう)をかけた。


 タマシリは茂雄の所へ行くと(ひざ)()いて頭を下げた。


「シゲオさん、あなたは伝説のボクサー、シゲオ・オオサワですね」


「え? あ、ははは。そんな伝説だなんて……」


「わたしはタマシリといいます。あなたの右フックは凄かった。右フックを食らったら最後、誰一人立ち上がる者は居なかった」


「え、あ、ははは」


 茂雄は恥ずかしそうに頭を()くと、タマシリは続けた。


「その世界チャンピオンの右フック、教えて頂けませんか!」


「「「ええっ!!」」」


 みんなが世界チャンピオンという言葉に一斉に驚くと、茂雄は恥ずかしそうに下を向いた。


 アカネはそれを聞くと嬉しそうに茂雄に尋ねた。


「茂じぃ! 世界チャンピオンだったの?」


「え、あ、はい。ですが何十年も前の話ですよ」


「すげー! 熊じぃと同じマンションに住んでるんでしょ。そのマンションやばいな!」


 大熊笹はそれを聞くと、アカネの所へやってきて言った。


「はっはっは。茂雄さんは私よりも凄いんだよ。3階級の体重で世界チャンピオンになったんだ」


「え? 3階級で!? 茂じぃ、すごいね!」


 すると、めぐがアカネの(えり)の後ろを(つか)んで引っ張った。


「ちょっとアカネ、いまタマシリさんがお話ししてるでしょ」


「え、あ、そ、そうか。ごめんねタマちゃん」


「ははは、気にしないでアカネさん。素敵な笑顔で話していたから、わたしも楽しく聞いていたよ」


「まじ!? 笑顔が素敵?」


 ボフッ!


「いてっ!」


 めぐはアカネの脇腹に「めぐ小パンチ」を食らわせるとアカネを引きずっていった。


 すると茂雄は笑顔になりながらタマシリに言った。


「ええと、タマシリさん。では、まずは、ぼくの右フックを味わってみますか」


「は、はい! 良いんですか?」


「ははは。こんな老いぼれですが、この世界では若い頃のように体が動きますので」


 それを聞いたイリューシュは茂雄とタマシリに言った。


「『格闘リング』と『グローブセット』がありますけれど、お使いになりますか?」


「はい、おねがいします」

「リングですか?」


 茂雄が不思議そうな顔をすると、イリューシュが説明した。


「通常は町や村の中では戦闘ができないのですが、格闘リングの上では町の外と同じように戦闘ができるんです」


 イリューシュはそう言うと、庭の端に格闘リングを出現させた。


 ボワン!


「「おおーー!」」


「リングの中では対戦者のステータスが平等に調整されて実力だけで戦えます。それに倒されても無傷ですから安全に戦えます」


「なるほど、実力で戦えるのですね」


 茂雄はイリューシュの話をだいたい理解すると、タマシリとお互いに一礼し、そしてリングに一礼してリングの中に入っていった。


 2人はリングに上がると、2人の頭の上には名前とHPが表示された。


 するとみんなは興味津々(きょうみしんしん)でリングの周りに集まってきた。


 2人がグローブをつけてリングの上でウォーミングアップを始めると、アカネはリングの(はし)に飛び乗ってアナウンスを始めた。


「さぁー、始まりました! ボクシング対ムエタイ! 世紀の一戦です!」


「「おおーー!!」」


 パチパチパチパチ!


 めぐはアカネを止めようとしたが、みんなが盛り上がっているので(しばら)く様子を見る事にした。


「赤コーナー! 3階級制覇の元世界チャンピオン、茂じぃーー!!」


「「「おおーー!!」」」


 パチパチパチパチ!


 茂雄は静かに頭を下げた。


「青コーナー! 笑顔の挑戦者。タマシリー!!」


「「「おおーー!!」」」


 パチパチパチパチ!


 タマシリは両手を合わせると笑顔で頭を下げた。


 茂雄とタマシリがファイティングポーズをとって中央で近づくと、アカネが試合開始を宣言した。


「では、いくよー! 試合開始!!」


 パチッ


 2人はグローブを軽く当てて挨拶を交わすと、タマシリは素早く踏み込んで渾身の右ストレートを放った。


 ブワッ!!


「シュッ!」


 しかしその瞬間、タマシリの視界から茂雄が消えた。


「!?」


 ズバン!!!


「うっ!」


 なんと、タマシリの視野の外から恐ろしい速さで茂雄の右フックが放たれ、一瞬でタマシリの顔面を(とら)えていた。


 キュキュッ!


 タマシリは即座に体勢を整えたが、追い打ちをかけるように茂雄のボディブローが炸裂した。


 ドスッ!!


「ぐっ」


 茂雄はさらに恐ろしい速さの右ストレートを繰り出すと、タマシリは(たま)らず後ろへ下がった。


「「おおーー!!」」


 茂雄は背中を丸めてガードを固めながらタマシリに言った。


「ぼくの右フック、いかがでしたか?」


「すばらしい……、何も見えなかった……」


 タマシリは呼吸を整えると、ゆっくりとガードを固めた。


 しかし、タマシリが警戒して茂雄との距離を詰められずにいると、茂雄がタマシリに言った。


「あなたはキックボクサーですね。キックを使っても大丈夫ですよ」


「シゲオさん、でもそれでは……」


「大丈夫です。かかってきてください」


 茂雄が笑顔になるとアカネは嬉しそうにアナウンスした。


「おおっと! 茂じぃがタマちゃんにキックを(ゆる)したー! タマちゃんの本気が出るよー!」


「「「わーー!!」」」


 みんなが盛り上がると、タマシリは(わき)を緩めて(わず)かに重心を後ろへ移し、ファイティングポーズを変えた。


「あぁぁあああい!」


 タマシリは素早くボクサーが苦手とされているローキックを放つと、茂雄は一瞬で前に踏み込んでタマシリに体を密着させた。


「!!!」


 タマシリは逃げ場を失って咄嗟(とっさ)に下がったが、その瞬間、茂雄の強烈なボディブローが炸裂した。


 ドスン!!


「うぐっ!」


「待って待って!! ストップ! ストーップ!!」


 アカネが慌てて止めに入ると、なんとタマシリのHPは1/4を切っていた。


 タマシリは事態(じたい)把握(はあく)して両手を合わせると、茂雄に深々と頭を下げた。


 アカネはリングの中に入ると、茂雄の右腕を上げた。


「勝者ー! 茂じぃーー!!」


「「「わーーー!!!」」」


 茂雄とタマシリはグローブを外して握手をすると、見ていたみんなは大盛りあがりで拍手をした。

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