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ひろし、神業を見る

 マユと茂雄がゆっくりと歩いている頃、先頭の社長は両手の盾でサムライの亡霊たちをなぎ倒していた。


 ドガン! ドガン! ガンガン!


 そして、その間をぬっておじいさんが石で攻撃をし、おばあさんも氷の魔法で援護した。


 シャァァアアアアア……ガン!

 シャァァアアアアア……ガン!


「凍てつく氷の女神たちよ、我に冷血なる力を与えたまえ。凍る六花の結晶をもって嘆願する。あの者に絶対零度の裁きを!」


 キィー……ン

 ズガガガガガガガ!!


 するとその時、社長のボイスチャットが入った。


「すみません! サムライが3体抜け出しました! お願いします!」


「「はい!」」


 おじいさんとおばあさんは、サムライが茂雄とマユのところへ行かないように必死に攻撃を仕掛けた。


 シャァァアアアアア……ガン!

 シャァァアアアアア……ガン!

 シャァァアアアアア……ガン!


 キィー……ン

 ズガガガガガガガ!!


 おじいさんは抜けてきた1体に石を投げつけ、おばあさんもMPの消耗が激しい大呪文を何度も3体に放った。


 おじいさんとおばあさんの激しい攻撃で3体のうち1体は消滅したが、攻撃をかわした1体のサムライが刀を抜いておじいさんに飛びかかった。


 ズバッ!


「しまった!」

「あなた!」


 おじいさんは必死に刀をよけたが、サムライから一撃を食らってしまった。


 しかしおじいさんはHPを減らしながらも体勢を整え、おばあさんに叫んだ。


「わたしは大丈夫! うしろ気をつけて!」


 おばあさんがおじいさんの言葉に我に返ると、なんと別の1体のサムライが走ってきていた。


「あっ!」


 しかし、おばあさんは冷静に痺れ粉と毒の粉を手に出現させると、思い切りサムライに投げつけた。


 バフッ!


 痺れ粉と毒の粉はアンデッドモンスターのサムライには効かなかったが、その粉塵で視界を遮ることができた。


 おばあさんはそのまま走ってサムライから距離を取ると、素早く氷の大呪文を詠唱した。


「凍てつく氷の女神たちよ、我に冷血なる力を与えたまえ。凍る六花の結晶をもって嘆願する。あの者に絶対零度の裁きを!」


 キィー……ン

 ズガガガガガガガ!!


 氷の大呪文はサムライを直撃し、そこへ、


 シャァァアアアアア……ガン!

 シャァァアアアアア……ガン!


「グォォォ……」


 戦闘中のサムライから逃れるように距離を取ったおじいさんが石を命中させ、トドメを刺した。


 するとその時、おばあさんが大きな声をあげた。


「あなた、サムライが!」


 おじいさんはおばあさんの声で振り返ると、おじいさんと戦っていたサムライが茂雄とマユが歩いているほうへ走っていくのが見えた。


「これはいかん!」


 おじいさんは急いで石を投げようとウェストバッグに手を入れたが、なんとすでに全ての石を投げきってしまっていた。


「ああ、しまった!」


 おじいさんは慌てた表情でアイテム欄から麻の袋を出現させたが、サムライはどんどん茂雄とマユのほう向かっていってしまった。


 その様子を見てたおばあさんは大呪文を放とうとしたが、なんと大呪文を使いすぎてMPが足りなくなっていた。


 おばあさんは慌てて魔法回復薬を探しながらマユにボイスチャットを繋いだ。


「ごめんなさい! MPが少なくてサムライを1体止められないわ! マユさん、おねがい!」


 マユはおばあさんのボイスチャットを聞くと茂雄を立ち止まらせて優しく言った。


「茂雄さん、ちょっとここで待ってて。すぐ戻るから」


「ええ? どうしたんだい?」


 マユは茂雄の肩を両手で優しく抑えると、茂雄を驚かせないように振り返ってゆっくりと歩き出した。


 そして、少しずつ足を早めて進んでいくと、前から走ってくるサムライを睨みつけた。


「いくよ」


 マユはそう呟くとゆっくりと走り出し、サムライに向かっていった。


 そして片手剣と盾を装備すると、刀を抜いて向かってくるサムライに踏み込んだ。


「行かせない!」


 ダッ!


 マユは美しく跳び上がって斜めに回転すると、剣をしならせるように美しくサムライを斬りつけた。


 ズバッ!


「グォォ!」


 ズザァァアアア!!


 そして着地と同時に素早く身をかがめ、盾を前にして一気に踏み出してタックルを仕掛けた。


 バッ!


 しかし、サムライはそれを(かわ)すと、大きく刀を振りかぶって豪快に振り降ろした。


 それを見たマユは素早く反応して体を滑り込ませ、体ごと回転させてサムライの刀を滑らせるように弾いた。


 ジャキィィィン!


 そして、その勢いを利用して(まい)(おど)るようにステップを踏みながら連続して斬りつけた。


 ズバッ ズバババッ!


「グォォォオオオ!」


 サムライは大きくダメージを受けて怯んだが、なんと苦し紛れに前蹴りを放ってきた。


「えっ! 蹴り!?」


 ガン!


「うわっ!」


 マユは予想外の攻撃に体勢を崩しながら盾で受けたが、サムライは体勢を崩したマユに容赦なく刀を振り下ろした。


 ブンッ!


「やばっ!」


 マユが片手剣でそれを受けようとした瞬間、


「シュッ」


 ズバン!!



「え?」



 なんと、茂雄がサムライの顔面に美しい右ストレートを炸裂(さくれつ)させていた。


「グォ……ォォ」


 サムライは慌てて後ろへ下がったが、茂雄は背中を丸めてガードを固め、左右に体を振りながらサムライとの距離を()めていった。


「ええっ! し、茂雄さん!? ボクシング??」


 マユが驚いていると、サムライは刀を振りかぶり、ガードを固める茂雄に斬りかかった。


 ブンッ!


 スッ……、


 しかし茂雄は素早いステップで(なな)め前に()けると、体を(ひね)って鋭いボディブローをねじ込んだ。


 ドスッ!!


「グォォッ!」


 サムライは茂雄の強烈なボディブローを食らうと、(たま)らず尻もちをついた。


 ドシャッ!


 サムライは慌てて立ち上がったが、狼狽(うろたえ)えながら茂雄から距離をとった。


 すると茂雄は再び背中を丸めてガードを固め、体を左右に振りながらサムライとの距離を詰めていった。


「えっ、茂雄さん……、強い!」


 マユは茂雄の姿を見て思わず声をあげた。



 その頃、現実世界の茂雄のベッドでは医師たちが驚いていた。


「ど、どうしたんだ、急にバイタルが回復してきたぞ。正常値に戻りそうだ」


「ゲームの世界で何かあったのでしょうか。奥様に会えたのでしょうか」


「そうかもしれない。とにかくゲーム会社さんに連絡を」


「はい!」



 その時、茂雄は脳の血流が戻り、ゲームの中でも薄っすらと記憶が戻ってきていた。


 それまでヨシ子が棒を持った暴漢(ぼうかん)に襲われているように見えていたが、次第にサムライの姿が見えてきた。


 そして、少しずつヨシ子に先立(さきだ)たれた事も思い出してきた。


「ヨシ子……」


 サムライは茂雄の動きが(にぶ)くなった事に気がつくと、大きく刀を振りかぶって茂雄に斬りかかった。


 ブンッ!


 するとその瞬間、茂雄の脳内には本物のヨシ子の声が聞こえた。



「あなた、がんばって」



「ああ。ヨシ子、見ていてくれ」


 茂雄は小さく笑うと、刀を振り下ろしてきたサムライに突っ込むよう踏み込んだ。


 ザッ、ザザッ!


 そして左足で地面(じめん)を捉え、頭を下げるようにして刀を()けた次の瞬間、


 ズバァン!!


 茂雄の美しい右フックがサムライの顔面にめり込んだ。


 「グォォ……ォォ……」


 サムライはその勢いで吹き飛ばされ、体を分解させるように消滅していった。


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