ひろし、老人を見つける
みんなが楽しく喋りをしていると、イリューシュが黒ちゃんに尋ねた。
「黒ちゃんさん。このプレミアム・ドラゴン大福、本当はアカネさんにサプライズで買ってきたんじゃないんですか?」
「え? あ、は、ははは」
「え、そうなの黒ちゃん」
「うむ……。サプライズのつもりだったのだが、あの新人のボスにバラされてしまったのでな……」
すると白たんがチキンを食べながら黒ちゃんに頭を下げた。
「後輩が、すみません……。わたしがナミ様のお世話になったばかりに……」
「あ、いや、いいのです。こうしてアカネも喜んで食べてくれていますし」
するとルルがニヤリと笑いながらアカネに言った。
「あらアカネさん、愛されてるわねー。あたしもそんな彼氏ほしいわ」
「え、ちょっ、黒ちゃんは彼氏じゃないっすよ!」
アカネは顔を赤くしながら答えると、イリューシュがルルに言った。
「あら。ルルもベンドレさんが良くしてくれてるでしょう?」
「うん、……そうね。助かってるわ。いつもありがとねベンドレ」
「ぶふっ!」
ルルがベンドレにお礼を言うと、ベンドレは思わずプレミアム・ドラゴン大福を吹き出しそうになった。
「ちょっ、ベンドレきたないっ!」
「す、すまん。急にお礼を言われて驚いてしまって」
「はぁ? ちょっとベンドレ、それじゃあたしが、お礼をしない人みたいじゃない」
「い、いや、そういうワケではなくて……」
「「ははははは」」
みんなはしばらくワイワイとお喋りを楽しむと、ララガたちとタッちゃんを寝かしつけてバラバラとログアウトしていった。
ー シャーム ー
その頃、ピンデチのスマイル道具店からシャームの2号店に品物を補充にしにきたおばあさんは、お店が開いていることに気がついた。
「あら、お店が開いているわ」
おばあさんが急いで2号店に行くと、黒猫とドラちゃんが店番をしていた。
「洋子殿」
「洋子様!」
「あら猫ちゃん、ドラちゃん、今日はみんなで出かけるからお休みしてって言ったのに」
「はい、少し出かけておりましたが、特にする事もなかったのでお店を開けておりました」
すると黒猫はおばあさんに沢山のアイテムと素材を送信して言った。
「洋子殿、どうかこちらをお受け取りください。」
『眷属より、氷結の壺50個と氷獣マグヒの目玉1、爪6、牙5、毛皮3、白髪3が贈られました』
「あら、これは?」
「洋子殿、我々眷属は主人に素材をお渡しする事ができます。どうか、この素材を使って鍛冶屋でマグヒの杖を作ってください」
「猫ちゃんたち、素材を取りに行ってくれていたの?」
「はい。洋子殿がご友人と転移魔法を開放するとお聞きしていましたので、鍛冶屋も開放していると察しまして」
「まぁまぁ嬉しいわ。猫ちゃん、ドラちゃん、ありがとう!」
「いえ、洋子殿のクエストクリアのお祝いです」
「うんうん!」
「じゃあ、もうお店を閉めましょう。ちょうど2人に渡したいものがあったのよ。お店を閉めて2階に来てちょうだい」
「承知しました」
「はい!」
バタバタバタバタ
ズズッ、カシャン、キー、シャッシャッ
ガラガラガッシャーン
2人は大急ぎでお店を片付けて閉店すると2階へあがっていった。
「閉店いたしました」
「片付けました!」
「あら、早いわね。はい、プレミアム・ドラゴン大福よ。とっても美味しかったの。一緒に食べましょう」
「それは購入制限付きの限定品……」
「洋子様、そんなレアな物わたしたち頂けない……」
「ううん。これは元々、猫ちゃんとドラちゃんのお土産なのよ。それとも、わたしと一緒に食べるのは嫌かしら?」
「と、とんでもございません!」
「そ、そんな!」
「じゃあ、一緒に食べましょう! うふふ」
「ありがたき幸せ!」
「ありがとうございます!」
「さっきね、美咲さんから聞いてイークラトで買ってきたのよ」
おばあさんはそう言うとプレミアム・ドラゴン大福を開封して、両手を合わせた。
「じゃあ、頂きましょう。いただきます」
「「いただきます!!」」
黒猫とドラちゃんも両手を合わせると、おばあさんは嬉しそうに話しかけた。
「うふふ。今日はとっても色々あったのよ。お話聞いてくれる?」
「ぜひ、お聞かせくだい!」
「洋子様、たくさん聞かせてください!」
2人は嬉しそうに答えると、洋子は話し始めた。
「今日は、船の上に大きなタコが来てね……」
「おお!」
「たこが!」
黒猫とドラちゃんは、おばあさんと一緒に楽しい時間を過ごした。
ー 現実世界 ー
おばあさんはVRがグラスを外して現実世界に戻ってくると、テーブルの上にはおじいさんが作ったお好み焼きが置いてあった。
「あらあら、今日は遅くなっちゃったから……」
すると、台所からおじいさんがサラダを持ってきながら言った。
「おかえり。今日は遅かったね」
「すみません、ちょっとお話しすぎてしまって……。それと鍛冶屋さんにも寄って杖を作っていて……」
「ははは、楽しんでたみたいだなぁ。じゃあ、夕飯にしようか」
「はい、ありがとうございます」
2人はテーブルについて両手を合わせると頭を下げて言った。
「「いただきます」」
おばあさんはお好み焼きを口に入れると嬉しそうにおじいさんに言った。
「やっぱり、あなたのお好み焼きは美味しいわね」
「ははは、それは良かった」
今日もおじいさんとおばあさんは遅くまで楽しくお喋りをした。
ー 翌日、お昼すぎ ー
おじいさんとおばあさんは家の仕事を終わらせて昼食を終えると、一緒にVRグラスをかけて時計台の前にやってきた。
するとおじいさんは、思わず声を漏らした。
「おや?」
なんとピンデチふれあい苑へと続く道の真ん中に、上下スウェット姿の老人が座っていた。
「あのお方、道の真ん中に座っていらっしゃる」
「あらほんと。どうしたのかしら」
おばあさんは老人に近づくと優しく話しかけた。
「こんにちは」
「あ、ヨシ子かい?」
「いいえ、わたしは洋子です。ヨシ子さんを待っているんですか?」
「ええ? あれ、なんだっけ?」
おばあさんは少し考えると、老人に尋ねた。
「お名前はなんですか?」
それを聞いた老人は笑顔で答えた。
「茂雄と申します」
「あら、宜しくおねがいしますね、茂雄さん。うふふ」
おばあさんが笑うと、茂雄は突然キョロキョロとし始めて言った。
「ああ、そうだ。バス停に行かないと」
「あら、茂雄さん。バス停に行くんですね」
「え? バス停? なんだっけ?」
シュゥゥゥウウ……
すると突然、茂雄は姿を消した。
「あっ!」
「あ!」
おじいさんとおばあさんが驚いていると、ピンデチふれあい苑のほうからイグラアの社長が走ってきた。
「あ、ひろしさん!」
「あ、あぁ、社長さん」
「社長さん?」
「驚かせてしまって申し訳ありません。実は先週から哲夫さんご夫妻のマンションの他の方にもVRをグラスをお渡ししておりまして……」
すると、それを聞いたおばあさんは社長に言った。
「あら、確か哲夫さんたちのマンションは介護付きの……」
「はい、そのとおりです。先程の茂雄様には先週から来ていただいていたのですが……」
「あの方は大丈夫なのかしら」
「それが……。今朝、容態が急変しまして昏睡状態なのです……。今夜が峠との事でして……」
「そうでしたか……」
「そこで、ご家族様のご意向で既にお亡くなりになられている奥様のアバター(ゲームの世界だけの体)を作って茂雄様にお会して頂いたのですが……」
「まぁ、それは良い考えだわ」
「しかし、茂雄様は奥様のアバターにお気づきにならず……」
「まぁ……」
「ヨシ子かい?」
すると、おばあさんの目の前に再び笑顔の茂雄が突然現れた。




