ひろし、タッちゃんが気になる
イリューシュが大広間に戻ると、大広間で待っていたベンドレとルルがイリューシュにお土産を差し出した。
「はい、月乃屋珈琲のパンケーキ」
「よかったら食べてくれ」
ルルは月乃屋珈琲のパンケーキをイリューシュに手渡した。
「あら! これ、美味しいわよね」
「よかった!」
ルルは喜ぶイリューシュを見て笑顔になると、イリューシュは懐かしむように2人に言った。
「なんだか、イークラトのチームの家を思い出しますね」
するとベンドレが恥ずかしそうに答えた。
「は、ははは。あの頃は、わたしがリーダーだったな……。なつかしい」
「あの家のチームメンバーさんたちは、どうしてるのでしょうね」
「それが……」
ベンドレが言葉を濁すと、代わりにルルがイリューシュに言った。
「イリューシュ。あの家のメンバーって、あたしたちとプレイヤー殺ししてたじゃない」
「ええ……、そうでしたね」
「あのメンバーたち今でもプレイヤー殺しをしてて、組織まで作ってるみたいなの」
「ええっ!?」
「昨日ね、海くんがプレイヤーキラーに騙されて斬られちゃったんだけど、槍使いのライラちゃんに調べてもらったらさ……」
「あの家のメンバーたちの組織だったんですね」
「そうなの。しかもリーダーはベンドレ並に攻撃力があるみたいなの」
「ベンドレさん並に!?」
「それだけじゃないの。幹部もかなり強いみたいで、ライラちゃんの話によると、イークラトのレッドドラゴンは一撃だって」
「レッドドラゴンが一撃……。攻撃力は5万以上ね」
「そうなのよ。しかもリーダーは昔ベンドレを師匠って慕ってたアーボンで、幹部にはあの素直だったタケチもいるの」
「ええ! あの子たちが?」
すると、それを聞いていたベンドレがイリューシュに言った。
「これは、わたしの責任だと思っている。わたしはこれからプレイヤーキラーたちを倒しながら彼らの居場所を突き止め、話をするつもりだ」
「そうですか。ベンドレさん、もし何か手伝えることがあったら言ってください。わたしも協力します」
「すまない。とても助かる」
ベンドレは静かに頭を下げると、イリューシュも笑顔で頭を下げた。
その頃、海は課題を後回しにしてシャームの丘でシャームタイガーの群れを倒し、ゴールデンシャワーを集めていた。
「つむぎちゃん、ゴールデンシャワー喜んでくれたなぁ。また渡そう。へへへ」
すると、海の後ろから声がした。
「こんばんは。昨日はすみませんでした」
「え?」
海が振り向くと、昨日、海を騙したプレイヤーキラーがいた。
「あっ!」
「すみません、今日は何もしませんから! それにアイテムを返しますから!」
「え? ほんとうですか」
海が動揺していると、プレイヤーキラーは海から騙し取ったアイテムを全て海に返した。
「昨日はすみませんでした。上からの命令で断れなかったんですよ。それに俺、通報されるみたいで……。罪滅ぼしっていうか」
「あ、そ、そうなんですか」
「ところで、あなた花を集めているんですよね」
「あ、はい。友達が花が好きなので」
「桜の木、欲しくないですか?」
「え、ええ!? でも『サムライの亡霊』を倒さないと手に入らなですよね。僕じゃ……」
「……はい。でも、もし僕たちの仲間になれば手に入ります」
「仲間になれば……、ですか?」
「はい。ていうか、花が好きなお友達……。それって、もしかして狙ってる女の子ですか」
「え、は、え、い、いや、ははは」
「図星のようですね。あなたも僕たちの仲間になれば強い人が手伝ってくれます。世界中の花が手に入りますよ」
「ほ、ほんとですか!?」
「本当です。きっと、その女の子も喜びますよ。仲間になりませんか」
「は、はい! おねがいします! つむぎちゃんを喜ばせたいです!」
「ですよね。あ、そういえば、この間ベンドレさんと一緒にいましたよね」
「はい! ベンドレさん知ってるんですね」
「はい。有名人なんで」
「本当ですか!? やっぱベンドレさん、すごいや!」
「なんでも、ベンドレさんは石を投げるおじいさんと仲が良いとか」
「はい、つむぎちゃんのおじいさんなんです」
「へぇー、有名人とお友達なんですね。すごいですねー」
「え、いえいえ、ははは」
「さて。では、そろそろ船で一緒に行きましょうか」
「はい、おねがいします!」
こうして海はプレイヤーキラーに付いていってしまった。
ー 翌日 ー
早朝、おじいさんは子猿のタッちゃんが心配になって早めにログインしていた。
おじいさんは時計台の前に出ると三輪自転車を出現させてGの区画の家へと急いだ。
バタン
おじいさんは家の玄関を開けて中に入ると、和室でタッちゃんとララガの子供が座布団で遊んでいた。
「あぁ、よかった。元気でしたね」
タッちゃんはおじいさんを見つけると大急ぎで走ってきて抱きついた。
「きききっ」
「ははは。タッちゃん、とっても偉かったですね」
おじいさんがタッちゃんの頭を優しく撫でると、タッちゃんはおじいさんをよじ登ってジャージのファスナーを開け、懐に入って顔を出した。
おじいさんはララガの子供の頭も優しく撫でると、ララガの子供も嬉しそうにした。
ガチャ
「ぁれ?」
するとその時、釣り竿を担いだナミがクーラーボックスを持って入ってきた。
「あぁ、おはようございますナミさん。今日は早いですね」
「ぉはよぅございます、ひろしさん。ララガに魚もってきた」
ナミはそう言うと、ララガの子供の前にクーラーボックスを置いて蓋を開けた。
ララガの子供はいち早くクーラーボックスの中の魚に気付くと、嬉しそうに走ってきて魚にかぶりついた。
すると、ララガのお母さんもやってきて一緒に魚を食べ始めた。
「ききき」
タッちゃんはおじいさんを見つめると、おじいさんはタッちゃんに言った。
「ははは。タッちゃんにも美味しいものをあげましょうか」
「ぅきっ!」
おじいさんは和室に戻ると戸棚から「溶岩ようかん」を取り出して個装をあけると、小さくちぎってタッちゃんに食べさせた。
「きっきっ!」
はむはむ
タッちゃんが美味しそうに食べると、おじいさんも笑顔になって今度は大きくちぎってタッちゃんに食べさせた。
はむはむ、はむはむ
「ははは、たくさんお食べ」
おじいさんはタッちゃんの頭を優しく撫でると、タッちゃんは嬉しそうに溶岩ようかんを口に入れた。
するとその時、和室の窓の外に突然、桜の木が現れた。
「おや、桜が」
おじいさんはタッちゃんと一緒に自動ドアを抜けて庭に出てみると、庭の一角に満開の桜の木が植わっていた。
「あぁ、これは素晴らしい」
「あ、つむぎちゃんのおじいさん、おはようございます」
おじいさんが声をするほうを見ると海が立っていた。
そして家の区画の外には、海を騙したプレイヤーが立っていた。
「あぁ、海くんですね。おはようございます」
「おはようございます、おじいさん。桜の木、どうでしょうか」
海が桜の木を指さしながらおじいさんに言うと、おじいさんは海に尋ねた。
「これは海くんが?」
「は、はい! 助けてもらったのですが……。つむぎさんが喜ぶと思って!」
「ははは。きっと、つむぎちゃんも喜びますよ」
「あ、ありがとうございます!」
ナミもララガの子供を抱っこしながら庭に出てきて桜の木を見上げた。
「わぁ、きれぃ」
「ありがとうございます!」
海がそう言うと、家の外にいる海を騙したプレイヤーがおじいさんとナミに話しかけてきた。
「お二人とも、動物を飼っていらっしゃるんですね。あのぅ、たくさん肉と魚が余っているのですが、動物たちにいかがですか?」
それを聞いたおじいさんとナミは嬉しそうに答えた。
「本当ですか? 頂けるのなら」
「ぅん。たすかる」
「良かったです。では仲間に持って来させますね。村の外へ行きましょう」
「すみません、ありがとうございます」
「ぁりがとぅ」
おじいさんとナミは家の中にタッちゃんとララガを入れると、海たちと一緒にピンデチの外へと向かった。




