ひろし、選別する
猿の集落を出発した一行は密林を抜けて河原に出ると、イリューシュは立ち止まっておじいさんに言った。
「ひろしさん。この河原に、あの丸い石がありますよ」
「ほんとうですか!」
「ええ、ご覧になってください」
「ありがとうございます」
おじいさんがイリューシュに頭を下げると、目の前には丸い石だらけの河原があった。
おじいさんは走っていって石を1つ拾うと、笑顔になりながらイリューシュに言った。
「イリューシュさん、素晴らしい石です! これなら変化球も思い通りに投げられそうです」
「ふふふ。ひろしさんの嬉しそうな顔を見ると、わたしも嬉しくなります。どうぞ、お好きなだけ拾ってくださいね」
「あぁ、ありがとうございます!」
おじいさんは嬉しそうにしゃがむと、丸い石を手に持ちながら野球ボールに近いものを集め始めた。
すると黒ちゃんが空を見上げながらイリューシュに言った。
「イリューシュさん、そろそろ日が落ちます。炎獣ララガが出るかもしれません」
「あ、そうでしたね。では、わたしたちは先に神殿への道を開いておきましょう」
イリューシュはそう言うと、石を拾っているおじいさんに言った。
「ひろしさん、わたしたちは日が落ちる前に神殿の入口を塞ぐ石像の魔物を倒してきます」
「あ、すみません。もう大丈夫です。一緒に行きます」
「いえいえ、ひろしさん。せっかくですから良い石を拾っていってください」
すると、をれを聞いていたアカネとめぐも言った。
「そうだよ、じいちゃん。あたしたちに任せて!」
「うん。おじいちゃん、ゆっくり石を選んで」
みんなが笑顔でおじいさんに言うと、おじいさんも笑顔でみんなに頭を下げた。
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、急いで石を集めて追いかけます」
「気にしないでよ、じいちゃん!」
「せっかくだから、良い石さがしてね」
「ひろしさん、お気になさらず」
「ぅん」
「では先にいきますね」
「みなさん、すみません。すぐに追いつきます」
みんなが次々とおじいさんに声をかけると、おじいさんは深々と頭を下げて見送った。
「ききっ!」
「おや?」
おじいさんが猿の声に気づいて振り向くと、両手に丸い石を持った子猿がいた。
「あぁ、さっきの子猿さん」
「きっ」
子猿は嬉しそうにおじいさんに近づくと、丸い石を両手で差し出した。
「この丸い石をくれるのかい」
子猿は嬉しそうにおじいさんを見つめると、おじいさんは笑顔で丸い石を受け取った。
「これは丁度いい石ですね。ありがとう子猿さん。それにしても、1人で付いてきてしまったのかい」
おじいさんは辺りを見渡してみたが、子猿の仲間がいる気配はなかった。
「1人で来てしまったようですね。では一緒に神殿に行きましょうか。帰りに送っていきますね」
おじいさんは笑顔で子猿に話しかけると、子猿は嬉しそうにおじいさんをよじ登り始めた。
「おやおやおや。ははは」
おじいさんは子猿を抱えて頭を撫でると、ふと呟いた。
「子猿さんを抱えていては、何かあった時に石が投げられないか……。そうだ」
おじいさんはジャージのファスナーを少し下げると子猿に言った。
「どれ、この中にお入りなさい」
「ききっ」
子猿は嬉しそうにおじいさんの懐へ入ると、ファスナーの上から、ひょっこりと顔だけ出した。
「ははは、これなら大丈夫」
おじいさんがそう言うと、子猿は嬉しそうにおじいさんの顔を見上げた。
おじいさんは子猿の頭を撫でると、また石を拾い始めた。
その頃、イリューシュたちは石像の魔物と対峙していた。
石像の魔物は2体1組で剣を構え、神殿の入口を守るように塞いでいた。
アカネは石像を見ると少し嬉しそうにイリューシュに言った。
「へへへ。イリューシュさん、この石像強そうっすね」
「ええ。動きは遅いですが、一撃が強いので気をつけてくださいね」
「おっけーっす!」
アカネはそう言うと、石像の1体に走っていった。
「あたしが一番乗りだっ!」
アカネは素早く石像の懐へ入ると剣を持っている腕を掴んで足を払いにいった。
「やぁああ!!」
ゴツッ!!
「いったぁーー!!!」
なんと、石像が重すぎて重心を動かせず、アカネは硬い石像の足を蹴っただけになってしまった。
「くっそーー!!」
アカネは素早く後ろへ下がると、再び構えをとった。
すると後ろから大熊笹が現れてアカネに言った。
「アカネさん、敵は相当重いでしょうな。しかし動きが遅いですから、やり方次第では倒せるでしょう」
「まじで?」
「我々には滑るアレがあるではありませんか」
「え? あ、そっか!」
大熊笹はそう言いながら石像の前へ出ると、2体の石像がゆっくりと同時に襲いかかってきた。
ゴ、ゴゴゴゴ
2体の石像は剣を振りかぶると、一直線に大熊笹に剣を振り下ろした。
ビュゥゥウウ!!
「ほいっ」
ドガン! ドガン!!
大熊笹は剣をヒラリとかわすと、剣は2本とも地面に突き刺さった。
ゴゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴ
するとなんと、2体の石像は自分の重さが災いして、剣が深く地面に刺さってしまい、剣が抜けなくなってしまった。
それを見た大熊笹は左側にいる石像へ走り込みながら、みんなに言った。
「わたしは左の石像と戦いますから、右の石像をお願いします!」
「「はい!」」
剣が抜けずに身動きが取れなくなった右側の石像には、黒ちゃんが走り込み、イリューシュとナミが弓を引き、めぐが詠唱を唱えた。
「おぉぉおりゃぁあ!」
ドガン、ドガン!!
ヒュッ……、ズドドドドドドドド
ヒュッ……、ドドドッ
「聖なる雷を司る者たちよ。我にその慈悲と慈愛を与えたまえ。清く正義の力をもって嘆願する。あの者に裁きの雷を!」
ズガガガガガン!!
総攻撃を受けた右側の石像は堪らず剣から手を離すと、近くにいた黒ちゃんにタックルを食らわせて吹き飛ばした。
ドガン!
「ぐわっ!」
ズザァァアアア
そして黒ちゃんを吹き飛ばした石像は、ゆっくりと走り出してナミに向かっていった。
ズシン ズシン ズシン
「「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!」」
それを見た大猿たちはナミを取り囲むように守りを固めると、アカネは後ろから石像に近寄りながら言った。
「へへへ。そんな遅い走り方じゃコレの餌食だな。くらえっ!」
アカネはバナナの皮を出現させると、石像の足元に投げつけた。
ズシン ズシン ツルッ!
ドゴゴォォオオオン!!!
石像は豪快にすっ転んだ。
「グゴゴオォォ」
石像は転んだ衝撃で大ダメージを食らってHPが無くなり、静かに消滅していった。




