ひろし、意表を突く
スタンドのおばあさんは、おじいさんのピッチャー姿に思わず涙ぐんでつむぎに言った。
「ほんとうに格好良かったわね」
「うん! ひろじいちゃん、カッコ良かった!」
「あんな姿をまた見れるなんて……」
「よかったね、洋子おばあちゃん」
「ええ」
アカネたちも手を取り合って喜んでいた。
「やったぜ、じいちゃん!!」
「すごかったな!」
「おじいちゃん、最高!」
「はははは、ひろしさん素晴らしい!」
「きゃーー!」
おじいさんがベンチに戻るとチームメイトもおじいさんを祝福した。
「ひろしさん、ナイスピッチング!」
「すげぇや! ありがとう!」
「かっこ良かったです!」
「ありがとう!」
そしてマサもおじいさんのところにやってきた。
「ひろしさん、最高の投球だったよ! あとは、おれらに任せて。この回で1点とってサヨナラ勝ちだ!」
「よろしくおねがいします」
「っても、おれまで打順が回ってくるかなぁ。あ、ってか、おれより先にひろしさんの打順だよね」
「……はい。運が悪ければ、最後のバッターになってしまいます……」
そう言うと、マサは急に立ち上がって次のバッターを応援し始めた。
「ぜってー打ってくれよ!! たのむぞ!!」
「よろしくおねがいします!」
おじいさんも一緒になって応援した。
『さぁ、試合も大詰め、9回の裏を迎えました。1点入ればサヨナラです』
『ここはピッチャーにプレッシャーがかかりますねぇ』
『そうですねー。さぁ、そのピッチャー、投球準備を整えました。そして、ゆっくりと第1球を振りかぶって……、投げた!』
ビュゥゥウウ……、ドガッ!
「うっ!」
『おおっと、ボールがバッターに当たりました! デッドボールで1塁に出塁です!』
「「「ざわざわざわざわ」」」
『いやぁ、さすがにピッチャーも緊張しましたね』
おじいさんとマサは胸をなでおろした。
「ひろしさん、これで最後にならずに済んだね」
「はい。ですが、今度はマサさんが最後になるかもしれませんね……」
「やば。責任重大じゃんか」
おじいさんたちのチームは次のバッターが確実に送りバントを決め、アウトになる代わりにランナーは2塁へと進んだ。
そして、おじいさんに打順が回ってきた。
『さぁ、次のバッターはひろしさんです。1アウトで余裕もありますがピッチャーも確実にアウトを狙ってくるでしょう』
スタンドのアカネたちは立ち上がって大声で応援した。
「じいちゃん、ホームランだー!!」
「ひろしさん、頑張ってください!」
「おじいちゃん、頑張れー!」
「ひろしさん!!」
「きゃーー!」
「大丈夫かしら……」
「ひろじいちゃん!」
おじいさんがバッターボックスに入ると、ピッチャーは静かに投球フォームに入った。
『さぁ、ピッチャー第1球。振りかぶって……、投げた!』
ビュゥゥウウ……、ズバン!
『空振り、ストライク!』
「「「わーーー!!」」」
『今のは良い球でしたねぇ。さすがにピッチャーのひろしさんには厳しいでしょう』
『おおっと、ピッチャー少し笑顔が出ました。あれ、ひろしさんも笑っていますね』
『そうですねぇ。2人とも野球が好きでたまらない少年のようですね。ははは』
『さぁ、ピッチャー投球フォームに入りました。第2球を振りかぶって……、投げた!』
ビュゥゥウウ……、カキッ
『バントだ! バットを振ると見せかけてバントだー!』
『これは上手い!』
おじいさんの打球はちょうどピッチャーとキャッチャーの間に転がり、急いで走り出したピッチャーがボールを拾った。
ピッチャーは3塁を見たが、すでに間に合わず、仕方なく1塁へ送球した。
バン! タタタタッ
「アウト!」
おじいさんはアウトになったが、ランナーは3塁まで進んだ。
『さぁ、2アウト、ランナー3塁。ここでバッターは1番のマサです』
「「「わぁーーー!!!」」」
『おおっと、スタンドを見てください! 巨大な横断幕ですよ』
『マサがんばれ、と書いてありますねぇ』
バッターボックスに立ったマサは横断幕を見て笑いながらつぶやいた。
「ははは、翠さんたち……。練習とか仕事で間に合わないって言ってたのに」
マサは大きく手をふる仲間たちを見て少しだけ目に涙を浮かべると、バットを横断幕に向けた。
「おっし。一昨日の戦いでは倒されちまったからな。ここで挽回しねぇと!」
マサはバットを1回転させるとバットを長めに持って構えた。
『さぁ、ピッチャー運命の3人目。第1球を振りかぶって……、投げた!』
ビュゥゥウウ……、ブンッ!!
「ストラィィーッ!」
『バッターのマサ、空振りでしたが豪快なフルスイングです!』
『これは一発を狙ってますねぇ~』
『バッター、ピッチャーに圧力をかけていきます』
ピッチャーは少し動揺したが意を決して2球目を振りかぶった。
『さぁ、ピッチャー第2球目。大きく振りかぶって……、投げた!』
ビュゥゥウウ……、ブンッ!!
「ストラィィーッ!」
「「「わぁーーー!!」」」
『おおっと、またもやフルスイングで空振りだぁ~』
『はっはっは、これはピッチャー怖いですねぇ』
マサはニヤリと笑うとバットを高く掲げた。
ピッチャーはキャッチャーからボールを受けると緊張した面持ちでキャチャーのサインを何度も見送った。
しかし、ふうっと一息つくとキャッチャーのサインに小さく頷いた。
『さぁ、ピッチャー2ストライクからの3球目。大きく振りかぶって……、投げた!』
ビュゥゥウウ……
「待ってたぜ! このコース!!」
マサはバットを振りながら叫んだ。
カキーーン!!
『打ったー!! しかしセカンドが必死に追いかける!! 3塁ランナーはホームベースへ!!』
『おお! セカンド追いつきましましたよ! ワンバウンドでキャッチ!』
『セカンド、体勢をたてなおして全力でホームへ投げた!! 3塁ランナーも走り込む!!』
「「「わぁーーー!!!」」」
『さぁ3塁ランナー、ホームベースに飛び込んだぁー!』
ズザァァアアアアア!!
『判定は!?』
「アウトー!!!」
「「「わーーー!!!」」」
『なんとーーー!! 判定はアウト! 記念すべき今回の試合は同点で引き分けとなりました!』
「「「わーーー!!!」」」
『いやぁ~、素晴らしい試合でしたねぇ』
こうしてテスト試合はゲームセットとなり、スタンドの観客からはプレイヤーたちに惜しみない拍手が贈られた。
おじいさんたちはスタッフに促されてベンチから出ると、両チームはホームベースの前に並んだ。
そしてお互いに礼をすると、スタンドから拍手と大歓声が起こった。
「「「わーーー!!!」」」
パチパチパチパチ!!
「最高の試合だったぞー!」
「両チームとも良くやった!!」
「いい試合をありがとー!」
「感動したっ!」
アカネたちも歓声を送った。
「じいちゃん、最高だったぜ! 優勝だ!」
「ひろしさん、格好良かったです!」
「おじいちゃん!!」
「よかったよかった! はっはっは!」
「きゃーー!」
「あなた、格好良かったわよ!」
「ひろじいちゃん!」
おじいさんはみんなの声に気づくとスタンドに大きく手を振った。
「みなさん、ありがとうございます!」
「「わーー!!」」
パチパチパチパチ!!
おじいさんたちはスタンドに深々と頭を下げると、大歓声に包まれながらベンチへ下がっていった。
◆
おじいさんたちは控室へ戻ると、控室で待っていた社長がおじいさんに話しかけてきた。
「ひろしさん、今日は素晴らしい投球でした! 申し訳ないのですが、こちらに来ていただいても良いでしょうか」
「え、あ、はい」
おじいさんは社長につれられて、球場の通路を進むと、少し広くなったところで相手チームの元プロ野球選手、初柴が待っていた。
おじいさんは初柴に頭を下げると嬉しそうに言った。
「初柴さん、今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
「はははは、ひろしさん。すばらしいピッチングでしたよ。今日は私の負けです」
「いえいえいえ、そんなそんな」
すると社長が大きな扉を開けながら2人に言った。
「では、お2人とも、こちらへ!」
扉が開くと、そこは球場だった。




