アカネ、開業する
ー イークラト地区のとある山 ー
ブゥー……ン
ベンドレは景色の良いイークラトの山の上に転移してきた。
「すまん、ルル。遅くなった」
なんとそこにはベンドレの参謀だったルルがいた。
「ベンドレ。あの戦い、負けたんだってね」
「ああ」
「ベンドレ、あたしが逃げて怒ってるでしょ」
「いや、そんな事はない」
「うそ。だって、あたし役にたたなかったし」
「もういいんだ。終わったことだ」
「勝手に終わらせないでよ」
するとルルは涙を流しながら声を荒げた。
「ルル……」
「あたしは……、ベンドレの役に立ちたかったの。でも、自分のプライドが邪魔して逃げちゃって……」
「いいんだ。わたしは怒っていない。むしろ謝りたい」
「え……?」
「わたしは敵だったひろしさんという方にフレンド申請をもらったんだ。それも戦闘中に」
「……フレンド申請?」
「そうだ。そして、ひろしさんは戦いの後、わたしを正気に戻してくれた。今では戦ったメンバーたちに申し訳ないと思っている。もちろん、ルルもだ」
するとルルは涙を拭いながら答えた。
「ベンドレ。ほんとはね、あたしベンドレに褒められたかっただけだったの……。だから参謀になった」
ルルは、ふぅっと息を吐くと静かに話を続けた。
「ベンドレだけだったんだよ。あたしの戦闘能力を褒めてくれたの」
「え……」
「みんな、可愛いって褒めてくれてたけど、そんなのぜんぜん嬉しくない。だって、あたしが頑張ったわけじゃないし」
ルルは少し下を向くと涙を拭きながら続けた。
「ベンドレは、あたしがモンスターに見つからないように潜みながら魔法を放ったのを見てくれていて褒めてくれた」
「いや、あれは本当に凄い能力だと思った。囮の魔法陣まで出していたな……」
「いつも見てくれてたからベンドレに付いていったんだよ。プレイヤー殺しを始めた時だって、褒めてくれるから一緒にやった。……あたし、強くなるために沢山課金したんだよ」
すると、それを聞いたベンドレは頭を下げた。
「本当にすまなかった。そんな事とは知らずに……」
「……もういいよ。あたしは逃げたくせにベンドレに分かってもらおうとしてる。自分でもカッコ悪いって思ってる」
するとベンドレは頭を上げてルルに言った。
「ルル。また、褒めさせてくれないか」
「え?」
「今まで、わたしが間違っていた。本当にすまなかった。わたしはまたプレイヤーを助けるつもりなんだ。一緒にやらないか」
「え……」
「ルル。お前の素晴らしい暗殺技、また見せて欲しい」
「でも……」
ルルが下を向いて小声で呟くとベンドレはその場に座り、下の景色を眺めながら話を続けた。
「昔、まだ一緒にプレイヤーを助けていた頃、この見晴らしの良い山の上から困ってる人が居ないか一緒に探していたのを思い出す」
「……うん」
「あそこに居るレッドドラゴンみたいに、船で初めてイークラトに降りたプレイヤーに襲いかかって……、ん? あ! プレイヤーがやられている!」
「……ねぇ、ベンドレ。行こうよ……。助けに」
それを聞いたベンドレは笑顔でルルに答えた。
「ああ!」
ベンドレはバギーのモービルを出現させると、ルルを乗せてアクセル全開で山を下った。
◆
ベンドレが見つけたプレイヤーたち3人は初めて見るレッドドラゴンに大苦戦を強いられていた。
「うわっ! 一撃が強い!」
「危ない、飛んだぞ! 爪に気をつけろ!」
「きゃー!!」
ブゥーン
するとその時、ドラゴンの目の前に魔法陣が現れて炎が吹き出された。
ブワァァァアア!
ドラゴンはそれを躱して下降すると、なんと地面から魔法陣が現れてフラッシュライトのような光が放たれた。
ビカッ!!!
ギャォォオオオオ!
ドォォン!
ドラゴンは羽をにダメージを受けると、そのまま地面に墜落していった。
それを見たプレイヤーたちは驚きの表情で口々に言った。
「あ、あれ! 光の魔法!!」
「え、すごい! はじめて見た!」
「え、どこ? 使える人いるの?」
「はーい。あたし使えるの」
「「うわっ!」」
いつの間にかプレイヤーたちの後ろに居たルルは、プレイヤーたちに笑顔で手を振った。
「あたし、まだ本調子じゃないから、あなたたちも頑張ってねー」
「は、はい……」
ザッ!
ルルは一瞬で居なくなると、ベンドレのバギーの裏に隠れて杖を持ち替えた。
墜落したドラゴンは怒りながら立ち上がると、そこへベンドレが走り込んでいった。
「うぉぉおおお!」
ズザァアアア……、ズバッ!!
ギャァオオオオ!
ベンドレは滑り込みながらドラゴンの腹を斬りつけて離れると、プレイヤーたちも必死に加勢した。
「でやぁああ!」
ズバッ!
「おれのハンマーを喰らえ!!」
ドゴン!!
「負けないからっ!」
ヒュッ、ドス! ヒュッ、ドス!
ギャァオオオオ!!
しかしその瞬間、レッドドラゴンは口の中を光らせながら大きく仰け反った。
それを見たプレイヤーたちは驚いて、全速力で逃げ出した。
「うわ! やばい!」
「炎!」
「きゃぁ!」
しかしベンドレはそれを気にせず、真っ直ぐにドラゴンへ走っていった。
プレイヤーの1人がベンドレの行動に驚くと、思わずベンドレに叫んだ。
「炎が来るぞ! 危ない!」
それを聞いたベンドレは走り込みながら答えた。
「大丈夫だ! 大切なパートナーが助けてくれる!」
ルルはバギーの影でベンドレの言葉に静かに笑うと、素早く詠唱した。
「地の力を司りし精霊よ、我は大いなる大地に祈りを捧げる者。母なる大地を尊びて嘆願する。我にその偉大な力を与えたまえ!」
ゴォォォォオオ……、ドガァン!!
ルルは大きな岩の塊を出現させて勢いよく飛ばすと、ドラゴンの頭に命中させて炎を吐くのを止めた。
「うぉぉおおお!」
ズバッ! ズバッ! ズバッ!
そこへベンドレが飛び込み、ドラゴンの腹に重たい三連撃を食らわせた。
ギャァオオオオ!!
シュゥゥウウウ……
すると、レッドドラゴンは静かに消滅していった。
それを見たプレイヤーたちは一斉に喜んでベンドレにお礼を言った。
「ありがとうございます!」
「助かりました!」
「す、すごいです!」
「いや、凄いのはパートナーのルルだ。ルルとの信頼がなければ、あんな戦い方はできない」
その言葉を聞いたルルはバギーの裏で嬉しそうに笑った。
その頃、G区画の家ではアカネがたこ焼きを焼いていた。
「よぉーし! ここからが見せ場! 『たこ焼きアカネ』、開業だよー!」
「「わぁーー!」」
アカネは両手に千枚通しを持つと、気合を入れてたこ焼きを返し始めた。
「やぁああ!!」
べちゃ、べちゃ、びちょ、すぽっ、でろん……
「え、あ、な、なんで!?!?」
「「ははははは」」
みんなが笑うと、アカネは黒ちゃんに千枚通しを渡した。
「黒ちゃん、後は頼んだ!」
「え、あ、わ、わたし?」
黒ちゃんは慌てて千枚通しを受け取ると、時間をかけて物凄く丁寧にたこ焼きを返しはじめた。
ジュゥゥウ……
すると、おばあさんが黒ちゃんに言った。
「あらあら、こっちのほうから焦げた匂いがしますよ!」
「え、あ、ああ!」
すると、なんと孫のつむぎが竹串を持って、たこ焼きを返し始めた。
クルッ……、クルッ……、クルッ……
「「おおーー!」」
それを見たおじいさんは喜んでつむぎに言った。
「つむぎちゃん、すごいなぁ!」
「へへ。大輔じいちゃんに教えてもらったの」
「ああ、大輔さんは大阪だったなぁ」
「うん!」
するとその時、ベンドレがルルと一緒にG区画の家に戻ってきた。
「みなさん、すみません。戻りました」
「「おかえりー!」」
するとイリューシュはルルに気づいて声をかけた。
「あら、ルルさん。いらっしゃい!」
イリューシュはルルに家に入る権限を付与すると、ベンドレとルルはイリューシュに頭を下げて庭に入った。




