ひろし、笑顔で眠る
おじいさんがVRグラスを外して現実世界に戻ると、なんとおばあさんもVRグラスを外しているところだった。
「あ、おばあさん、もしかして……」
「うふふ。ずっと一緒に戦っていましたよ」
「ええ!?」
「お茶でも飲みますか?」
「あ、あぁ。お茶で一服すれば、ちょうど5分くらいだな。ははは」
「あなた、もう私が誰だか分かっちゃったかしら」
「まぁ、なんとなくだけどな。でもいいんだ、おばあさんが楽しければ」
「うふふ。ありがとうございます」
おじいさんたちは、お喋りしながら一緒にお茶を楽しんだ。
◆
しばらくして、ピンデチにはレアな武器や防具を装備したプレイヤーたちが続々と時計台の前に転移してきた。
それを見ていたピンデチのプレイヤーたちは驚いていた。
「え、あれ超レアな剣……。すごくない?」
「あ、ほんとだ! でも何でピンデチに?」
「みんな、ピンデチふれあい苑に向かってるんだけど……」
「あの施設で何やるんだろう」
すると、おじいさんたちも続々と時計台の前に現れた。
「あれ? あの人、石投げるおじいさんだよね」
「あ、ほんとだ」
「あの人たちも、ピンデチふれあい苑に行くんだけど」
「え、てか、まじであの施設に何があるの?」
ピンデチのプレイヤーたちがザワつく中、おじいさんたちもピンデチふれあい苑へと向かった。
ー ピンデチふれあい苑 ー
山口は全員が集まった事を確認すると、翠と一緒にみんなの前に出た。
翠は一歩前へ出るとみんなに勝利宣言をした。
「今夜はみなさんのお陰で勝利できました。素晴らしい戦いをありがとうございました」
翠は頭を下げると拍手が巻き起こった。
パチパチパチパチパチ
翠は山口のほうを見て続けた。
「では、山口総司令官に乾杯の音頭をお願いします」
山口は一歩前へ出た。
「では乾杯の音頭を取らせていただきます! 20歳以上でお酒を飲みたい方はイグラア・ビールをお持ちください。未成年の方はイグラア・ソーダを」
みんなはグラスに飲み物を用意すると、全員がグラスを掲げた。
それを見た山口は、自分のグラスを高く掲げると満面の笑顔で言った。
「みなさん、今夜は素晴らしいご活躍でした! みなさんのご活躍に……、乾杯!!!」
「「「かんぱーい!!!」」」
「「「わーーー」」」
みんなの喜ぶ姿を見た山口は、気力が一気に途切れてフラフラと席についた。
翠が山口の席へ行ってお酌をしようとすると、山口は慌ててグラスを空け、震える手でそれを受けた。
「山口さん。あなたが居なければ勝てない戦いでした。心から感謝致します」
「いやいや、老兵が出しゃばりました。今になって恐ろしく感じますよ。手の震えが止まりません。ははは」
「いえ、あんなに隊の士気を上げられる人間は、なかなか居ないと思います」
「わたしはみなさんの力を信じたまでです」
翠はしばらく山口と談笑すると、席を立って哲夫と和代の近くに座っていた美咲のところへやって行った。
そして少しだけ恥ずかしそうに美咲に話しかけた。
「美咲、隣いいかな」
「うん、お姉ちゃん」
翠は美咲の隣に座ると「ふぅ」と表情を崩した。
「おじいちゃん、おばあちゃん、今日はありがとう。おじいちゃん、1人で魔法使いと戦ってたんだってね」
「あぁ、はは。負けちゃったけどな。でも、やってやったぞっ! って感じだな!」
哲夫は立ち上がると格好をつけてブンブンと刀を振るジェスチャーをした。
「「ははははは」」
それを見た美咲と和代が笑うと、翠も一緒に笑った。
その頃おじいさんたちも笑いながら盛り上がっていた。
アカネはおじいさんがベンドレにフレンド申請を送った事を話していた。
「まさか、じいちゃんがフレンド申請を送るとは思わなかったよ」
それを聞いた大熊笹は笑いながらアカネに言った。
「そうですか? わたしはいい考えだと思いましたよ」
「「ええ!?」」
みんなが驚いた顔をする中、大熊笹は話を続けた。
「人間、オギャアと産まれた時から悪人なんていません。話を聞いてあげる事が一番なんです」
それを聞いたおじいさんもみんなに話した。
「わたしは皆さんのお陰で楽しくゲームをさせて頂いています。だから楽しいわたしが、苦しそうなベンドレさんのお話を聞いて差し上げるべきだと思ったんです」
それを聞いた黒ちゃんはおじいさんに言った。
「ひろしさんが楽しいのは、ひろしさんが素晴らしい人格で、みんなが慕っているからこそ。ベンドレは……」
みんなは、それを聞いてウンウンと頷いた。
しかし、おじいさんは黒ちゃんに答えた。
「わたしの人格なんかは大したものではありません。周りに恵まれているだけです。だから恵まれている私が話を聞いて差し上げるべきだと」
おじいさんがそう言うと、大熊笹も笑顔で言った。
「あとは、本人が受け入れるかどうかですが……、どうやら受け入れたみたいですな」
大熊笹がピンデチふれあい苑の入り口のほうを見ると、なんとベンドレが立っていた。
「「「ええーーー!!??」」」
どよめきの中、ベンドレは深く頭を下げると、大きな声で言った。
「大変申し訳ございませんでした。謝って許されるとは思っていません。今はステータスがほぼ0です。私を村の外で気が済むまで何度でも斬り捨ててください。痛みをもって謝罪したい」
ベンドレは一礼してピンデチふれあい苑の外へ出ようとするとアカネが呼び止めた。
「おいおい、待てって! この中にそんな事する人なんか居ないよ!」
「「ははははは」」
みんながアカネの言葉に笑うと、ベンドレはみんなのほうを向いて土下座しようとした。
するとその瞬間、黒ちゃんがベンドレの腕を引っ張り上げて言った。
「ひろしさんが、あなたの話を聞きたいと言っています。わたしたちも、ひろしさんがそう言うなら、あなたの話を聞きたい」
それを聞いたベンドレは静かに涙を流して言った。
「ひろしさんは……、どうしてそんなに皆から信頼を……。どうして、私なんかを……」
すると、大熊笹がやってきてベンドレに言った。
「ベンドレさん。信頼は今からでも作れますよ。改心するんです。わたしも昔は悪かったんですから」
それを聞いたアカネは驚きながら大熊笹に言った。
「熊じぃ、昔悪かったの?」
「あぁ、毎日ケンカばっかりしていた札付きの悪だったんだ。ははは」
「え、まじで!?」
「あぁ。でもある日、ケンカを吹っかけた相手に投げ飛ばされてな。それが悔しくて柔道を始めたんだ」
「へぇぇ、そんな事があったんだな」
「お陰で、改心できたんだよ」
するとその時、おばあさんの友達のロビがやってきてベンドレに言った。
「ベンドレさん。私達はプレイヤーさんたちのクエストをクリア保証で請け負っているんです。ぜひ、一緒にやりませんか?」
「……こんな私で良いのですか?」
「ええ。噂では、近々オロチが復活するとのことで、ベンドレさんに手伝ってもらえれば最高かと」
「あ……、ありがとうございます。ぜひ……、お手伝いさせてください」
すると、それを聞いたアカネが言った。
「よかったじゃん、ベンちゃん! あたしも大変なクエストのときは手伝ってよね!」
「もちろんです」
ベンドレはアカネに頭を下げると、食堂にいる全員にフレンド申請を送って言った。
「みなさん、なにか困ったことがあったら連絡ください。必ずお役に立ちます」
「「おおー」」
みんなはフレンド申請を受理すると、おじいさんがベンドレに言った。
「突然のお誘いにも関わらす、来てくださってありがとうございます。ささ、こちらへ」
おじいさんは席を横に詰めてベンドレを隣の席に呼ぶと、ベンドレは硬い表情のままおじいさんの横に座った。
すると、ベンドレの前に座っていたイリューシュがベンドレに話しかけた。
「ベンドレさん。よかったらピンデチG区画の家に遊びに来てくださね。また一緒にプレイヤーさんたちを助けましょう」
「はい……」
ベンドレは再び涙を浮かべると、総指揮官の山口が立ち上がってみんなに言った。
「みなさん! 本日の戦いは、ひろしさんのお陰で平和解決となりました! 今一度グラスををお持ちください!」
全員が再びグラスを掲げると山口が宣言した。
「戦いの平和解決と、ベンドレさんの未来に! 今一度、乾杯!!」
「「かんぱーい!!」」
乾杯の声を聞いたベンドレは立ち上がって頭を下げながら涙を流した。
こうして夜は更けてゆき、みんなは少しずつログアウトしていった。
おじいさんがVRグラスを外すと、おばあさんは座椅子に座りながらVRグラスを外して寝ていた。
おじいさんは寝室から毛布を持ってくると、おばあさんに優しく掛けた。
「まさか、このゲームを始めたお陰でこんなに毎日楽しいなんてなぁ。明日も楽しみだなぁ」
おじいさんは居間のソファに寝転がると今日の事を思い出しながら呟いた。
「あぁ、ほんとうに幸せだなぁ」
おじいさんは笑顔で目をつむった。




