ひろし、フレンドリクエストを送る
その頃、敵本陣では美咲と翠はベンドレと一進一退の戦いをしていた。
ベンドレは少しずつHPを削ってくる美咲と翠に苛立ちを隠せずにいた。
「くそっ! おれの剣が少しでも当たれば、お前ら即死なのに!!」
それを聞いた翠が言った。
「そんな事は知ってるわ。あなた攻撃力が5万もあるんでしょう?」
「今は6万だ!」
「確かに剣先に触れただけでも死んじゃうわね」
ヒュッ……、ドッ!
翠の矢は正確にヘッドショットを決めた。
「くそぉぉおお!」
ガン!
ベンドレは翠の矢を受けると怒り狂ったように突進してきた。
「おぉぉおおお!」
それを見た美咲と翠は素早くステップして避けると、
ヒュッ、ドッ!
ドスッ!
翠の矢と美咲のレイピアがベンドレの背中に刺さった。
「くそっ!」
ベンドレは振り向きざまに水平斬りを放った。
ブンッ!
ドッ!
しかしその瞬間、低い体勢から突きを放った美咲が、ベンドレ剣をかわして腹を突いた。
「くっ!」
美咲は素早くステップして後へ下がると、
ヒュッ、ドッ!
翠が背後からベンドレにヘッドショットを決めた。
「こ、こいつらぁ! ……え?」
ベンドレが振り返ると、なんと目の前に大熊笹が笑顔で立っていた。
「何だお前は!」
「こんばんは。大熊笹と申します。失礼しますね」
ブワッ……、ドガン!
大熊笹は一瞬でベンドレを投げ捨てた。
「「おおーー」」
パチパチパチ
美咲と翠は大熊笹の技のキレに拍手した。
「あぁ、ありがとうございます」
大熊笹は頭を下げると、ベンドレは即座に起き上がって叫んだ。
「ナメるのもいい加減に……」
シャァァアアアア……、ドガン!
「うっ! 今度はなんだ!」
そこへ、おじいさんが放った石がベンドレの頭に命中した。
すると大熊笹はベンドレに言った。
「ベンドレさん、周りを見てください。あなたのお友達が次々と倒されています。降参してくれませんか」
「何を言ってるんだ! ここまで来て降参なんてできるわけ無いだろう!」
ヒュゥゥゥ……、ドドドドドドドドッ!
そこへイリューシュが放ったオロチの矢がすべてヘッドショットを決め、ベンドレは吹き飛んだ。
ズザァァア!
「こ、こいつら……、調子に乗りやがって……」
「ぬぅぅおおおおお!」
ガキン!!
そこへ黒ちゃんが大きく踏み込んで渾身の袈裟斬りを放った。
しかし、それを剣で受けたベンドレは大声で叫んだ。
「剣で勝てると思うなよ!!」
カシャン!
「くっ!」
ベンドレは黒ちゃんの剣を空高く弾き飛ばすと、上段から一気に剣を振り下ろした。
「死ねぇぇ!」
ズザッ!
その瞬間、一瞬にして黒ちゃんはベンドレの懐に入り、ベンドレの腕を両腕で掴んだ。
「ぬぉぉおおお!」
ブワッ!
ズバン!!
黒ちゃんは荒々しい一本背負いを決め、ベンドレの体は地面に叩きつけられた。
「ぐわっ!」
ベンドレは慌てて立ち上がると、目の前にはおじいさんが立っていた。
おじいさんは笑顔になるとベンドレに言った。
「ベンドレさん、フレンド交換しませんか?」
「はっ?」
「「ええ!!??」」
「ひ、ひろしさん?」
「じぃちゃん、あいつ敵の大将だぜ!?」
「おじいちゃん!」
「はっはっは、それは良いかもしれませんな」
みんながザワつく中、大熊笹だけが笑顔で賛同すると、おじいさんはベンドレにフレンド申請を送った。
ベンドレは意味がわからず動揺していると、おじいさんが話しかけた。
「イリューシュさんから聞いたのですが、あなたは昔人助けをしていたとか」
「あ、ああ、そうだ。だから何だ」
「また、人助けをしませんか?」
「な! 何を今さら!」
すると翠がベンドレに弓を引きながら言った。
「ベンドレ、わたしもプレイヤー殺しをしてきたから、お前を責められない。だが、わたしは改心するチャンスを貰った。だから、改心させてくれた方たちに報いるため、お前を倒す」
「チャンス……。くそ……。なんで……、なんでおれは、いつもチャンスを貰えないんだ……」
「何言ってるんだ。今チャンスをもらっただろう?」
ヒュッ、ドッ!
ドスッ ドスッ!
翠の矢と美咲のレイピアが突き刺さると、ベンドレは大きく後へ下がった。
すると突然ベンドレは自らの剣を自分の首に当てると、翠と美咲に言った。
「もうHPはわずかだ。大勢の仲間も無くした。悔しいが、おれの負けだ」
ズバッ!
……ドシャッ
ベンドレは自らの首を斬りつけるとそのまま前に倒れて静かに消滅していった。
「くっ、痛いっ……。うぐぐ!」
リスポーンしたベンドレは力なく立ち上がるとVRグラスを外してログアウトした。
現実世界に戻ったベンドレはVR-GigBoxの上部にある液晶画面の文字を見つめた。
『ひろしさんからフレンド申請が届いています』
◆
ゲームの中では乱戦が続く中、山口にボイスチャットが入った。
「ベンドレが自害しました」
「なんと! 了解しました!」
山口は分隊長と副隊長にボイスチャットを繋いだ。
「みなさん、敵大将ベンドレが倒れました!」
「ええ!?」
「おお!」
「あと少し!」
「まじか!」
「素晴らしい!」
「みなさん、作戦変更です! 本陣中央へ急いで集まってください!!」
「「はい!!」」
山口はボイスチャットを切るとツーリと一緒に山を降りていった。
全分隊は走って本陣の中央に集まると、敵の騎士たちも集まってきた。
しかし、敵の騎士たちは十数名しか残っておらず、まだ多く残っている分隊たちに恐れをなした。
しばらくすると、そこへ山口が走ってきて敵の騎士たちの前へ出た。
そして、腕を腰に当てると大きな声で言った。
「敵兵の皆さん! ベンドレは自害しました。降伏しますか!?」
すると敵の騎士たちは一瞬躊躇したものの、次々と武器を納めていった。
それを見た山口は敵の騎士たちに言った。
「あなたたちの降伏を受け入れます。ここから立ち去ってください」
ダダダ、ダダダダ、ダダ……
敵の騎士たちは一斉に西の通路から逃げていった。
敵の騎士たちが全員いなくなると、そこへマユ隊が合流してきた。
「マユ隊、戻りまし……、あれ?」
すると山口が笑顔で迎えた。
「マユ隊のみなさん、おかえりなさい! 素晴らしい功績でした! さあ、みなさんこちらへ」
おばあさんのいるマユ隊は、みんなと一緒に並んだ。
山口は大きく息を吸うと、大きな声で宣言した。
「敵本陣の制圧完了!! 我らの勝利です!!」
「「おおーーーー!!!!」」
そこにいた全員が歓喜に湧き、抱き合い、涙し、お互いを称え合った。
すると山口が、もう一度大きな声で言った。
「みなさん! ピンデチにいらっしゃいませんか? ピンデチふれあい苑で祝賀パーティーの準備が出来ています!」
「「おおーー!!!」」
なんと、先にピンデチに戻った大槻と木下が、勝っても負けても戦いが終わった後に皆さんを労おうと、管理人と交渉して食堂で準備していたのだった。
すると翠が前に出て山口に一礼すると全員に言った。
「転移できる者たちは、そのままピンデチに転移してくれ! リスポーンしたメンバーは私が連れて行く!」
「「はい!」」
転移できるプレイヤーたちは次々とピンデチに転移した。
イリューシュと黒ちゃんはおじいさんたちと残り、その場には、おじいさんたちと、おばあさんのお店の仲間たちだけが残った。
翠はそれを見て驚いた。
「マユ隊は……、転移が使えないのですか?」
するとマユが答えた。
「ははは、わたしたちメンバーがほとんどメインクエスト2章までしかやってないんで……」
「ええ!?」
翠は驚いて美咲に聞いた。
「本当なの?」
「うん。おじいちゃんとおばあちゃんも、やっと船に乗れたんだ」
「そんなメンバーで……。あっ、そう言えば、おじいちゃんは?」
「おじいちゃんは、1人で魔法使いと戦って倒された……」
それを聞いたナミが翠に言った。
「哲夫さん、すごかった。哲夫さんがいなかったら、みんなやられてた」
それを聞いた翠はジワリと目に涙を浮かべた。
「そう。おじいちゃん頑張ったんだね」
「ぅん」
翠はゆっくりと涙を拭いた。
おじいさんとマユは移動するためにモービルを出そうとすると、山口がみんなに言った。
「みなさん。一度VRグラスを外して、5分経ってから再びVRグラスをかけてください。戦闘中でなければ拠点のピンデチへ戻ります」
「え、そうなんですか?」
おじいさんが驚くと、山口が笑顔で答えた。
「はい、私はこのゲームのマニュアル合計3085ページを全て読みました」
「おお、すごいですね山口さん」
「ははは、こういうのは慣れていますので。ではみなさん、VRグラスをグラスを外して、5分後にお会いしましょう!」
「「はい!」」
みんなは一度VRグラスを外した。




