ようこ、走り出す
その頃、山の上から戦況を見守っていたイグラアの社長は、専務の大谷に言った。
「大谷くん。そろそろ決着がつきそうだな」
「そのようですね」
「それにしても、我がエージェントのいるチームは士気が高いな」
「はい。どうやら、元自衛官の山口さんが総司令官のようです。やはり餅は餅屋でしょうか」
「うむ。あれだけの人数を動かして戦闘するのは並大抵のことではないな」
社長は、しばらく腕を組んで戦況を見ていると、何かに気がついて大谷に尋ねた。
「ところで大谷くん。この辺りの地形はだいぶ人工的な形をしているが、エンジニアが意図的に作ったものなのか?」
「はい。実はバリードレが新マップとして追加された時に、ここにパラグライダー場を作る予定でした」
「そうか。そういえば、そのような事を会議で話していた気もするな」
「はい。しかし思ったよりもスポンサーが集まらずに、そのまま保留になっています」
それを聞いた社長はしばらく下を眺めると思いついたように言った。
「そうか、ならば野球場を作ろう」
「……なるほど! 野球場ならスポーツ用品関連のスポンサーが集まりそうですね」
「うむ。先日ピンデチを見て、もうバトルだけではないと思い知らされたのだ。ならばスポーツも取り入れなければな」
「では、我社がリリースしている『闘魂VRベースボール』の球場データを使いましょう」
「おお、それは良いではないか大谷くん! そのまま使えるのか?」
「はい、そのまま設置できます。同じゲームエンジンで制作していますので」
「よし、そうと決まれば社へ戻るぞ!」
「ええ!? 良いのですか社長?」
「うむ。エージェントたちのチームを信じよう。我々は悪い輩が集まる場所を健全なスポーツ施設にする事で溜まり場を無くすのだ」
「そうですね」
「大谷くん、球場の設置にはどのくらい時間がかかるだろうか?」
「簡単な移設作業です。私が本気を出せば明日の早朝には設置できますよ」
「流石だな。ではやるか!」
「はい!」
こうして社長と大谷はログアウトしていった。
その頃、おじいさんたちが加勢している北の通路では、おじいさんとナミが一緒に盾を持った槍の騎士たちを狙撃していた。
おじいさんとナミは攻撃力が増していたので次々と大ダメージを与えていった。
ナミはストックの矢を撃ちきり、アイテム欄から矢を補充しようとした時、
「死ねぇ!!!」
槍兵の1人が大盾を前にして突撃のスキルで走り込んできた。
おじいさんは慌てて石を投げつけたが簡単に大盾で弾かれた。
「ぅ、ぅわぁ」
ナミは矢が補充できずに焦ると、槍兵は槍を突き出して一直線にナミへと向かっていった。
その瞬間、
ツルッ……ズデーン!
「ぐわっ! な、なんだ!?」
槍兵はすっ転んだ。
「良かった、間に合った」
なんと、おじいさんが槍兵にバナナの皮を投げていたのだった。
ナミは即座に矢を補充すると、倒れている槍兵にヘッドショットを食らわせた。
ドドドッ! ドドドッ!
「ぐわぁ!」
槍兵は立ち上がれずに消滅していった。
「ぉじいさん、ぁりがとぅ」
「いえいえ。あ、また敵が来ましたよ!」
「ぅん」
その時、北の通路の味方たちが敵の槍兵たちの盾を押し退けながら、気合とともに前進してきた。
「「うおぉぉおおぉぉお!」」
敵の槍兵たちは中央を突破され、総崩れとなった。
すると突然、敵の槍兵から声が聞こえた。
「ライラさん、無理しちゃだめですよ! 朝倒されて、まだステータスが!!」
「うるさい! 不名誉は戦いで取り返す! S級武器の攻撃力だけで十分だ!」
すると敵の槍の騎士ライラは鬼神のごとく突進して味方を蹴散らしていった。
「私の名はライラ!! お前らの好きにはさせない! かかってこい!!」
するとそれを見たナミがライラの背中に矢を放った。
ヒユッ……、カカカン!
しかしライラは素早く振り返ってナミの矢を盾で防ぐと、槍を構えてナミに突進してきた。
「うおぉぉおおお!」
シャァァアア……、カン!
援護で放ったおじいさんの石も、ライラは軽く盾で跳ね返した。
そしてライラは、ナミに向かって大きく踏み込むと素早く槍を突き出した。
ビュッ!
ズザッ!
ナミは素早くステップして避けると、弓を引き絞った。
ドガッ!!
「ぅ」
ライラはナミの動きに反応して追いかけるように飛び込むと、盾でナミを叩きつけた。
シャァァアア……ガン!!
ヒユッ……カン!
慌てておじいさんが石を投げると、司令官の山口も援護した。
ライラは素早く一歩下がると、なんとナミの頭がらアルマジロがまん丸になって飛び込んできた。
「キュキュキュ!!」
バギャン!!
「なっ!? ホワイトドラゴンの盾が!!」
ライラはアルマジロを盾で防いだが、なんと盾はアルマジロの攻撃で右上1/4が完全に無くなってしまった。
アルマジロはそのまま転がってナミの所へ戻ると、ナミは抱き上げて頭にのせた。
「ぁりがとぅ」
「キュウキュウ。クンクンクン」
ナミがアルマジロを撫でると、嬉しそうにした。
ライラは壊れた盾を構えなおすと、今度は慎重にナミを狙った。しかしその時、
ヒュッ ヒュッ……、ドドッ!
イリューシュと翠が放った矢がライラにヘッドショットを決めた。
「ぐっ!」
敵の防衛隊長を倒したイリューシュ、翠、黒ちゃん、アカネがこちらに加勢に来たのだった。
ライラは槍を構えると、ナミに突進していった。
「くそっ! お前だけは道連れだ!」
その瞬間、ナミはライラに痺れ粉を投げつけた。
ブワッ!
「なっ! くっ!」
HPを減らしていたライラは、痺れ粉をまともに食らって麻痺をした。
「ぐ、ぐおお!」
ついでに偶然横を通りかかった黒ちゃんも麻痺した。
ナミは矢をつがえると、素早くライラへ放った。
ヒュッ、ドドドッ!
「お、おのれ……、ステータスさえ、ちゃんと戻っていれば……」
ライラは悔しそうな表情を浮かべながら消滅していった。
山口は戦況を見渡し、自軍が優勢な事を確認すると黒猫に言った。
「猫殿! 一緒にドラゴン殿のところへお願いします!」
「承知しました」
山口は黒猫と一緒にドラちゃんの所へ走っていった。
「ドラゴン殿、まだ飛べますでしょうか?」
「はっ……はっは……、あと少しなら飛べるでしょう」
「では、ここから飛び立って、マユ隊に合流します!」
「マユ隊……。なんと! そこは我が主人、洋子様の隊! 行きましょう!!」
ドラちゃんは尻尾を伸ばすと、山口と黒猫を乗せて飛び立った。
「ドラゴン殿、できるだけ低空で敵本陣を突っ切ってください。できれば威圧するため、大声で咆哮していただきたいのですが」
「おまかせを!」
ドラちゃんは一度高い高度に飛び上がると、そこから滑り降りるように敵本陣へ向かっていった。
山口は上空から敵本陣を観察すると呟いた。
「やはり読み通り、北や西の通路に援軍を送れるほど余裕はなさそうだな。よし、決戦だ」
ギャァァアアオオオオオオ!!
「「うわぁぁあぁぁあああ!!」」
ドラちゃんが低空飛行で咆哮をあげながら敵本陣に差し掛かると、敵の騎士たちは驚いて混乱した。
◆
その頃マユ隊は、突撃に備えて敵本陣が覗ける場所まで移動してきていた。
マユは敵本陣にベンドレを見つけて、メイに言った。
「あの立派な椅子に1人で座ってるの、敵のボスだよね」
「だね。偉そうだもんね」
「やっぱ、強いよねぇ」
「てか、弱かったらボス出来なくない?」
「あ、そっか」
マユがそう言うと、ドラちゃんがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
「あ、ドラちゃん! こっち来るよ」
それを聞いたおばあさんは岩の陰から敵本陣の空を見た。
「あ、ほんとうね! ドラちゃん、頑張ってるわ」
おばあさんがそう言うと、突然、ドラちゃんの前に無数の魔法陣が現れた。
そしてなんと、魔法陣はそれぞれ4つの属性全ての最高魔法を同時に放ってきた。
しかしその時、黒猫の作った赤い魔法陣がドラちゃんの前に現れて防御しているのが見えた。
「猫ちゃん、がんばって!」
しかし、次の瞬間、
パリン!
ズガガァァアアアンン!!
なんと、黒猫の魔法陣が破られ、最高魔法がドラちゃんの頭に直撃してしまった。
「ああ! ドラちゃん!!!」
ドラちゃんは空中でバランスを崩すとフラフラと墜落していった。
おばあさんは墜落していくドラちゃんを見て目に涙を浮かべると、突然、敵本陣に飛び出して走り出した。
「洋子ちゃん! だめ!!」
マユは急いでおばあさんを追いかけると、通路のみんなも一斉におばあさんを追いかけた。




