ひろし、極振りする
山口は弓部隊を集めるためにドラちゃんに乗っておじいさんたちの通路へやってきた。
そして、イリューシュと遠距離攻撃のできるおじいさんを乗せると北通路の援護へと出発した。
山口はドラちゃんを出発させると、おじいさんに少し申し訳無さそうに言った。
「ひろしさん、参加させてしまって申し訳ないです。弓部隊が数を減らしていまして……」
「いえいえ、とんでも無いです。是非ともご協力させてください」
すると、イリューシュも隣に座るおじいさんに言った。
「ひろしさん、今ステータスポイントはどのくらいありますか?」
「あ、いま見てみます」
おじいさんはステータスポイントを確認すると、とても驚いた。
「イリューシュさん、すごい数のステータスポイントがあります!」
「今日はたくさん強いプレイヤーを倒しましたからね。今のうちに変換したほうが良いかもしれません」
「そうですね。ありがとうございます、変換します」
おじいさんは視界の左上のSPボタンを押して小窓を表示させた。
[残り 3632p(97%換算済)][変換]
物理攻撃力 3252
魔法攻撃力 なし
物理防御力 800(ウールのジャージ■)
魔法防御力 0
素早さ 0
器用さ 0
おじいさんは少しだけ悩んだが、やはり全て攻撃力に変換した。
[残り 0p]
物理攻撃力 6884
魔法攻撃力 なし
物理防御力 800(ウールのジャージ■)
魔法防御力 0
素早さ 0
器用さ 0
イリューシュは一緒に乗っていたナミにもステータスポイントの事を話すと、ナミも攻撃力を強化した。
そしてナミはメッセージでおばあさんたちにステータスポイントの事を教えると、おばあさんたちも自分たちを強化した。
ドラちゃんは敵本陣の上空を横切り、再び全ての通路が見渡せる北西の山の山頂付近に着陸した。
山口はドラちゃんから降りると、翠とナミとイリューシュ、そして、おじいさんと黒猫に指示を出した。
「これよりこの下にある北の通路を山の上より奇襲します。猫殿、敵の攻撃がありましたら防御をお願いします」
「承知しました」
「敵は本陣への侵攻を恐れて北の通路へ応援は出せないでしょう。みなさん、崖沿いに並んで準備をお願いします」
「「はい」」
おじいさんたちは北の通路が真下に見える崖に並んだ。
「北の通路の敵は大盾を持った槍兵の集団です。我が隊は大盾に阻まれ進むことが出来ません。上からダメージを与えます!」
「「はい!」」
「通路後方で大柄な槍兵と戦っている柔道着のプレイヤーと炎の剣のプレイヤーは味方です。気をつけてください!」
「「はい!」」
「では、撃ち方用意!!」
すると、全員弓を引き絞り、おじいさんは大きな石を握りしめた。
「撃てぇー!」
ヒュッヒュッヒュッシャァッヒュッヒュッヒュッヒュッシャァッヒュッ……
ヒュゥゥウウ
ドドドガンドドドドガンドドドド……
「うわぁぁあぁぁああ! 矢が降ってきたぞ!」
ヒュッヒュッヒュッシャァッヒュッヒュッヒュッヒュッシャァッヒュッ……
ドドドガンドドドドガンドドドド……
「「うわぁぁああ!」」
北の通路の敵がパニックになると、それに乗じて味方のプレイヤーたちが一気に攻め込んだ。
「今だ! 味方の援軍が来たぞ! 突撃だー!」
「「おおーーー!!」」
山口は味方のプレイヤーたちが攻め込んでいくのを見て、おじいさんたちに再び指示を出した。
「みなさん、ドラゴンに乗ってください! 挟み撃ちに行きます!」
「「はい!」」
おじいさんたちは急いでドラちゃんに乗ると、人気のない敵兵の後方へと降りていった。
バサッ バサッ バサッ
ズゥウウン!
ドラちゃんが着地すると山口は一番乗りで降りて、大きく手を上げた。
「全員降りたら、こちらへ!」
おじいさんたちはドラちゃんから降りると山口の所へ走っていった。
「遠距離の精密射撃が出来る方はいらっしゃいますか?」
「はい」
「はい」
イリューシュと翠が手を上げた。
すると山口は、アカネと黒ちゃんが戦っている大柄な槍兵を指差した。
「では、あの大柄な槍兵をお願いします。恐らく、この通路の大将ですが、味方が近くいて……」
山口が途中まで話すと、イリューシュと翠は競うように答えた。
「大丈夫です。味方を避けて射抜きます」
「問題ありません。味方には当てません」
「おお、これは心強い! 宜しくお願いします!」
「「はい」」
イリューシュと翠は即座に弓を構えた。
山口はそれを見ると、おじいさんたちに言った。
「少々遠いですが、我々は敵の後方から味方を援護します!」
「「はい!」」
おじいさんたちは盾の槍兵たちを後から狙った。
その時、弓を構えたイリューシュは翠に勝負を持ちかけた。
「翠さん、勝負しませんか? この間は愛用の弓では無かったので、引きが遅くて……。今日は本気でいけますので」
「イリューシュさん、それは面白い。ではその弓なら本気ということですね」
「ええ、本気です。ヘッドショットの数で勝負しましょう」
「その勝負乗った! 本気と言った以上これは優劣を決める勝負ですね。負けません」
「翠さん、わたしも負けませんよ」
イリューシュと翠は弓を構えると、真剣勝負に出た。
ヒュッヒュッヒュッヒュッ……
ドッ
「1」
ドッ ドッ
「1、2」
ドッ!
「2」
ドッ、カン!
「くっ! 外した! 3」
ドッ ドッ
「3、4、よし!」
ドッ ドッ ドッ
「はっ! 見たか! 4、5、6」
ドッ カッ! ドッ
「負けませんよ! 5、6!」
大柄な槍兵の頭に次々と矢が刺さる姿を見て、アカネはチョット引き気味に言った。
「なぁ、黒ちゃん。この人の頭にガンガン矢が刺さってるんだけど……。いいの、これ?」
「あ、ああ。しかしアカネ、それよりも、あの2人を見てみてくれ」
アカネが黒ちゃんが指差す方を見ると、イリューシュと翠が殺気に満ちた目で次々と矢を放っていた。
「うわ、目がこわい!」
「と、とにかくこの槍兵を早く倒したほうが良さそうだな」
その時、イリューシュと翠の矢がほぼ同時に飛んで行った。
ヒュッ ヒュッ …… ドッ!
ドガッ!!
「「あ!」」
矢が刺さった瞬間、なんと黒ちゃんが大柄な槍兵へタックルを食らわせて吹き飛ばした。
吹き飛ばされた大柄な槍兵は消滅すると、イリューシュと翠が殺気に満ちた目のまま黒ちゃんの所へやって来た。
ザッザッザッザッ……
そして二人は黒ちゃんの前にやってくると、イリューシュが尋ねた。
「黒ちゃんさん、最後の矢は、どちらの矢でしたか? 刺さった音が1回しか聞こえなくて」
「え、あ? どち、どち……、どちらの、と言いますと……」
「わたしの矢か、翠さんの矢か、どちらが刺さっていましたか? 黒ちゃんさんが吹き飛ばしてしまったものですから見えなくて。ふふふふふ」
イリューシュは上品に笑った、が、目は笑ってなかった。
「え、あ、す、す、すみません。わた、わたしは早く倒そうと……、し、しかし矢はわからな……」
イリューシュと翠は矢を1本づつ出して説明した。
「黒ちゃんさん、わたしの矢は金色で羽が黒です。翠さんのは銀色で羽が白です。どちらでしたか?」
黒ちゃんはイリューシュと翠の凄まじい圧に押され、緊張が最高潮に達した。
「す、すす、すみません。よ、よ、夜ですし……く、くく、暗くて……」
するとアカネがひょっこり出てきてイリューシュと翠に言った。
「あ、それなら同時に刺さってましたよ。もう、ほんとピッタリ同時っす」
それを聞いたイリューシュと翠は急に笑顔になって、翠がイリューシュに言った。
「イリューシュさん、今回は引き分けですね」
「そのようですね、翠さん。ふふふ」
2人は笑い合うと、そのまま山口たちの援護へ向かった。
ズゥウウン
黒ちゃんは、恐ろしいほどの緊張から解放され、正面からうつ伏せに倒れた。
「お、おい、黒ちゃん!」
アカネが黒ちゃんに駆け寄ると、黒ちゃんは大汗をかきながら焦点の合わない目でアカネに言った。
「アカネ、本当に助かった……。今回ばかりは緊張で死ぬかと……」
「え、あぁ。はは。ウチは勝負好きの姉ちゃんが2人もいるからさぁ、ああいうの慣れてんだ」
「今日ほどアカネが頼もしいと思ったことはないぞ……。こんどスイーツパラライズを奢らせてくれ」
「え、まじで!? サンキュー黒ちゃん!」
黒ちゃんは、生まれたての子鹿のように立ち上がると、嬉しそうに走っていくアカネを追って山口たちの援護に向かった。




