ひろし、投げ込む
細身のプレイヤーが自信満々で前に出て来るとライラと海も盾を構えながら距離を取った。
すると、お母さんは体に炎を纏わせながら細身のプレイヤーの前に歩き出た。
「ガルルルルルル」
お母さんが細身のプレイヤーを威嚇すると、細身のプレイヤーはファイティングポーズを取り、笑いながらお母さんに殴りかかった。
「はっはっはー! おらぁ!!」
「ガァァアアアア!」
ガブッ!
「くっ!」
お母さんは細身のプレイヤーのパンチをかわして腕に噛みつくと首を左右に振ってダメージを与えた。
ブンブンブンブン
「ちっ!」
細身のプレイヤーはHPを減らされて舌打ちをすると、お母さんに強烈な左ストレートを食らわせた。
ドガッ!
「ギャウッ!」
ダダッ!
お母さんは驚いて離れると、細身のプレイヤーを警戒しながら頭を低くした。
するとその時、茂雄がお母さんの所へやって来て鼻先を優しく撫でると、細身のプレイヤーに笑顔で言った。
「ボクシングですね。では、僕と戦いませんか?」
「は? じいさん、やる気か? 今の左ストレート見てなかったの?」
「見ていましたよ」
茂雄がボクシングのファイティングポーズをとると、細身のプレイヤーは大笑いしながら言った。
「おいおい、このじいさんファイティングポーズとってるぜ! 見ろよ! はっはっはっは!」
すると仲間からも大きな笑い声が上がった。
「「はははははは!!」」
細身のプレイヤーは腕を組むと、見下すように茂雄に言った。
「おい。おれはボクシング東洋太平洋ライトフライ級チャンピオンだ。アマチュアとはちがうんだよ。相手が悪かったな」
「ほう、東洋太平洋チャンピオンですか。では相手に不足はないですね」
細身のプレイヤーは茂雄の言葉を聞くと失笑しながらファイティングポーズをとった。
「ふっ。じいさん、いつでもかかって来いよ。おれに一発でも当てりゃ戦ってやっても……」
ドスッ!
「うぐ!」
細身のプレイヤーが挑発した瞬間、茂雄のボディブローが細身のプレイヤーの横腹をえぐっていた。
細身のプレイヤーは足を縺れさせながら後ろへ下がると、茂雄が体を左右に振りながら距離を詰めていった。
細身のプレイヤーは驚いて大きく目を見開くと、後ろへ下がりながら呟いた。
「な、なな、なんだこいつ……」
しかし細身のプレイヤーは足を止めてファイティングポーズをとると、茂雄を睨みつけながら叫んだ。
「ナメるなよ、じじい!!」
細身のプレイヤーは一気に前へ出ると猛然とパンチのラッシュを浴びせた。
ブンブンッ! シュッ、バン! バチバチバチッ!
しかし、茂雄は固めたガードでパンチを受け流すと、なんと焦った細身のプレイヤーは突然茂雄にタックルを食らわせた。
ゴッ!
「うっ」
一瞬、茂雄が予想外の攻撃に怯むと細身のプレイヤーはニヤリと笑った。
そして目を血走らせると、渾身の左ストレートで茂雄の顔面を狙った。
「これで終わりだ!!」
ビュッ!!
ザッ、ザザッ!
しかし茂雄は細身のプレイヤーに突っ込むように踏み込むと、左ストレートの外側から恐ろしい速さの右フックをねじ込んだ。
ズバンッ!!
「へぶっ!!」
茂雄の右フックは完璧に細身のプレイヤーの顔面を捉え、細身のプレイヤーの左ストレートは茂雄の耳だけをかすめた。
「う……、うそ……だろ。この、おれに……、クロスカウンター……?」
細身のプレイヤーはフラフラと後ろへ下がりながら呟くと、後ろへ崩れ落ちるようにダウンした。
ズシャッ……
細身のプレイヤーが倒れると、大熊笹が嬉しそうに言った。
「はっはっは! お見事ですな、茂雄さん!」
「いえいえ、ははは。お恥ずかしい」
それを見ていたライラは倒れた細身のプレイヤーの横へ行き、トドメを刺した。
「見事な噛ませ犬だったな。悪くなかったぞ」
ドスッ!
「くそっ!」
シュゥゥゥウウ……
細身のプレイヤーは悔しそうな表情のまま消滅していった。
その頃ダンジョンの外では、急いで戻ってきたアーボンと仲間たちが、黒ちゃん、イリューシュ、ゴーストと対峙していた。
アーボンは、攻撃力が高そうで余裕な表情をしているイリューシュたち3人を見ると静かに呟いた。
「あいつら、ぜってぇ強ぇえな。あの余裕感は強ぇえやつしか出さねぇ。ここはまずは交渉だ……」
アーボンは剣を収めると、イリューシュたちに交渉を仕掛けた。
「お前らが強そうなのはわかる。しかも、そいつゴーストだろ? けど、俺は急いでるんだよ。10万ずつやるから道開けてくんねぇか」
「え!? 10万?」
「10万ですか?」
「10万……」
「そうだ、10万だぞ! 喜べ!」
「10万……」
「お安いですね」
「はい」
「お、おい! 10万プクナじゃないぞ! 10万円だぞ!」
「10万円では……」
「ええ。ちょっとしたお寿司も頂けませんものね」
「はい」
なんと、黒ちゃんもイシューリュもゴーストも、超セレブな家庭で育ったので逆に驚いていた。
アーボンは3人の反応に焦ると、自分の月収を自慢して取り返えそうとした。
「お、おれは月収300万あるんだぞ! ナメるなよっ!」
「……確かに私が交通機動隊だった時の給料よりは……」
「週ではなくてですか?」
「あ、利子を月割りした金額ですか!」
「はいぃぃい!?」
アーボンはあまりの会話のかけ離れ方に驚くと、焦って仲間のほうに指示を出した。
「おい! あの3人を倒したら10万円やる! 殺れ!」
「「「おおーー!!!」」」
10万に目が眩んだアーボンの仲間と手下が一斉に3人に襲いかかった。
するとその時、アーボンの手下たちに何かが投げ込まれた。
シャァァアアアアア、ドガァン!!
シャァァアアアアア、ドガァン!!
シャァァアアアアア、ドガァン!!
「うわっ! なんだ! 爆発したぞ!」
アーボンが慌てて辺りを見回すと、追いついてきたおじいさんたちが後ろから加勢していた。
爆発したのは、おじいさんが投げた火薬玉だった。
「全てを焼き尽くす魔神よ、我に灰塵に帰す力を与えたまえ!」
ボワッ!
「うわっ、あちっ!」
「全てを焼き尽くす魔神よ、我に灰塵に帰す力を与えたまえ!」
「全てを焼き尽くす魔神よ、我に灰塵に帰す力を与えたまえ!」
ボワッ! ボワッ!
「ちょ、まって、はやっ! うそ!」
「とうっ! アカネ・キーック」
ドカッ!
シュゥゥゥウウ……
「おっしゃー!」
アカネがガッツポーズをすると、それを見た黒ちゃんは嬉しそうにイリューシュとゴーストに言った。
「みなさん、いらっしゃいましたね! 私が真ん中を突っ切るので、右と左をお願いします」
「「はい!」」
「では、行ってきます。……おぉぉおおおりゃぁぁああああ!!」
くろちゃんは盾を振りかぶってアーボンの仲間たちに突っ込むと、次々と盾と欅の棒で殴りつけていった。
ドガン! バキッ、バキッ! ガン!
「う、うわぁ!!!」
「やべぇ、原始人だ!」
「いて! いてっ!!」
バキョッ! カラン……
欅の棒が折れると黒ちゃんは呟きながら投げ捨てた。
「なるほど、敵の防具が強いと折れやすいのだな」
そしてまた欅の棒を装備すると、再び殴りかかっていった。
「うおりゃぁぁああああ!!」
ドガン、ドガン! バキ、バキッ! ガン!
ガコッ!!
「ん?」
黒ちゃんが妙な手応えに手を止めると、目の前に同じく棍棒を持ったプレイヤーが黒ちゃんの欅の棒を受けていた。
「ほう。面白い」
黒ちゃんが呟くと、棍棒のプレイヤーもニヤリと笑った。




