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お願いレディ、愛してると言って 呪われ王子の隠された婚約者  作者: life
公女殿下の憂鬱

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-4-

「どうしてパンドラと公国の姫様が一緒にいるんだ?」

「まさかパンドラが……」

「きっとリディ様は騙されているのよ」

「そうに違いない!」

「リディ様が気の毒だわ」

「ああ、なんて傍若無人な……」

「「「「「災いを振りまく女(パンドラ)!!!!!!」」」」」」



◇◆◇◆◇



 クレマンの進言を受けて移動した先は談話室だ。ニコルは初めて入る部屋に、場違いな気分を味わった。感情が出ないように心掛けているが、内心、大勢の生徒の往来と話し声にひどく緊張していた。


「わたくしが編入した経緯を聞き及んでいるかしら?」


 隣に座るリディが問いかける。ニコルは頭を横に振る。


「あなたがスペリア魔法学院の勧誘を受けているのはご存じ?」


 今度は縦に振られるのを見て、リディは続ける。


「スペリア魔法学院、ひいてはアザン公国はあなたの入学を心待ちにしていました。にもかかわらず、一向に入学される気配がない。国王陛下に伺えば、重大な問題が発生した、と」

「重大な問題?」


 ニコルには思い当たることがない。スペリア魔法学院はアザン公国にある、世界最高峰の魔法研究機関だ。そこで学びを得られるのは魔女としてこの上ない誉れである。学院からオファーがあったと教授経由で話を聞いた時、もちろん受けると答えた。


 『パンドラ』に含まれるもう一つの意味──ニコルが国外に追い出されるという話はここからきている。デスティー王国に居場所はないと揶揄しているが、実際は大変名誉な出国なのである。


 スペリア魔法学院の話は一年生の時に既に聞いている。そこから話が進んでいない。教授に聞いても答えられる者はいなかった。ニコルは弊害となっている「重大な問題」の存在も知らなかった。


「ごめんなさい。期待させるようなことを言ってしまったけれど、私から話せることも限られていますの。重要なのは、わたくしが問題解決に来たということ。わたくしはあなたをお迎えにあがったのです。アザン公国の代表として、優秀な人材であるあなたを」


 話を聞いて、ニコルの胸は暖かくなった。本当の味方は国境の向こうにいた。スペリア魔法学院はニコルが来るのを待っている。他に取られぬように、公女を送り込むほど熱烈に歓迎している。早々に「重大な問題」とやらを解決したいものだ。


 一つ話に区切りがついて、リディは長い足を組み替えた。そこへ見計らったように十人くらいの生徒が固まりになって寄って来た。椅子に座るリディ達の傍に立っていたクレマンが、すかさず間に入る。


「殿下は取り込み中です。お引き取りを」


 クレマンの言葉は無視され、生徒達は口々に言った。


「リディ殿下、お逃げください」

「公女様、騙されてはいけません!」

「そいつに関わらない方がいいです。婚約者のいない恥知らずですから」

「誰からも愛されない人形ですよ」


 マルグリット以外から、直接悪口を浴びせられるのは初めてだ。ニコルは平静を装うために、細く深呼吸をした。どくどくと脈打つ心臓のせいで、息の音が震える。


 リディは扇を口元で開き、騒ぎ立てる生徒達の顔を一つ一つ眺めた。そして、怪訝そうに眉を歪ませる。


「わたくしにも婚約者はいなくてよ?」


 生徒の壁が波打った。隣の者と小声でやりとりし、その声が少しずつ大きくなっていく。焦りが伝播し、大きな騒ぎになる。限界を突破すると、壁の中から一人飛び出した。


「リディ様はいいんです! アザン公国の方ですし……」


 言葉につまると、次の提言者が前に出る。


「二級魔法師なので」

「ニコル様は一級魔法師ですよ?」

「血統が……」

「正九家の方は正統な魔法使いの血筋なのでしょう?」

「アザン公国の方なので……」


 生徒達がひねり出した意見を、次々リディがねじ伏せていく。結局話は振りだしに戻った。


「わたくしに都合の良い話ということはわかりましたわ」


 リディの溜息で、壁が一歩後ろに下がった。睨んだわけでも、脅しの言葉を放ったわけでもない。ただ呆れが息遣いに表れただけ。だけれども、皆、リディの一挙一動に敏感に反応した。


「一級魔法師の資格を保持していても、婚約者がいないというだけで実力を認められないということですか。デスティー王国は実に厳しい国ですのね、クレマン」

「ええ、開いた口が閉じません」

「今、しっかり閉じたわよ、クレマン」


 楽しそうなのはリディとクレマンのみ。親し気に言葉を交わして、二人して上品に笑う。押しかけて来た生徒達が緊張するのに反比例して、ニコルは肩の力を抜いていった。


 直後、空気がぴりりとひりつく。ニコルは膝の上で作った拳を近づけて、肩をきゅっと絞る。空気を変えたのはリディだ。


 リディの扇子が閉じられ、ピシッと対面にいる生徒達を指した。彼らは腰を抜かしそうになりながら、後退した。


「ここにいらっしゃるニコル様は、各国が喉から手が出るほど手に入れたいと望む逸材。わたくしどものアザン公国もその一つです。あなた方が簡単に手放すと言うのなら、願ってもない話ですわ」


 リディは言いたいことを言い終えると、立ち上がった。くるりと体を回して、ニコルの前に跪いた。握りしめられたニコルの左手を優しく開かせて取る。「ニコル様、行きましょう」と、本物のお姫様にお姫様扱いを受けて、ニコルは戸惑う。


「聞き捨てならないな」


 談話室の入口から、よく通る声が待ったをかけた。部屋の中にいる全員がその人物を見る。


 リオネルがドア枠に手をついて、肩を上下に揺らしている。ここまで走って来たのであろうことは予想がついた。


「あら、もう追いつかれてしまったの」


 リディが小声で言って、笑う。


 リオネルは少し怒っている。早歩きでニコルの座る椅子の傍まで来ると、片膝をついたままのリディに言った。






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