表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀拳  作者: 月草 イナエ
42/45

~39 連休(十日目〔前編〕)


 ………こ……此処は……病…室……あれは……



 ……あの人は………





『……ねえ、蟹? お願いがあるの……聞いてくれるかな? 二つなんだけど……私の腕、無くなったから一つ貰ってくれるかな? それと、志緒。これもね…………』




 ……まっ、待ってくれ……メグさ……





「……メグさぁ……」


 ームニッー


「キャッ! 志緒さん!」


「……えっ?」


 小さな悲鳴と俺を呼ぶ声に薄目を開けると、俺の目の前には頬を赤らめた花月の顔があり、視線を下に向けると、花月の胸には俺の手があった………手? 手?! 


「……手ーっ!! ぐあっ!」


 俺は慌てて花月から退しさり、頭を何かにぶつけ、沼田打ぬたうち回る。痛みを堪えて辺りを見回すと、薄暗い室内に布地や縫製の資料が積み重なっている作業机が見える。見覚えのある、俺の部屋のベッドの上だった……


「……志緒さんを起こそうとしたら、突然……ウフッ!」


 花月が手で顔を抑えながらクネクネ動いている。俺もさっきの感触を思いだ………いや、何か夢を見ていた気がしたが、頭をぶつけて思い出せない。

 とりあえず、花月に謝り、起こしてくれた礼を言って身仕度みじたくを整え始める。

 カーテンを開け、服を着替えながら薄暗い外の景色を眺めると、東の空から朝日に照らされた街並みが、徐々に明るくなっていく。

 今日はGWの最終日。長かった連休も今日で終わってしまうが、GWの締めのイベント。仮装レースと花火大会がある。仮装レースと言ってもスピードフラッグの様な速さを競うレースではなく。昨日のパレードの様な街中を仮装しながら練り歩く、散歩感覚のマラソンレースだ。普通にマラソンとして走る者もいれば、パフォーマンスをしながらゆっくりと歩く者もいる。観光客や街に住む住人が家族や友人と最終日の記念として楽しむイベントだ。

 最終日位ゆっくりしたい俺は、レースは参加しないが、花火大会は火鷲ひわし神社の裏手にある北下川きたしもがわで打ち上げるので、毎年、友一達と聖の家のから見せて貰っている。

 神社の敷地と言う事もあり、余り人が来ない穴場なので、この時は氷馬ひうま神社とのイガミ合いよりも、花火見物が優先らしく、茜は勿論、晴美さん達も火鷲神社へ花火見物へやって来る。エリスやカレンさんも昨日のパレードの後で太一と話しながら誘ったら、必ず行くと喜んでいた。

 鳶色のコートを羽織り、腰の短剣のベルトを締め、短剣を軽く鍔鳴りさせると、長剣を持ってリビングへ降りて行く。

 既にテーブルに着いていた甘子と花月に挨拶をして、三人で朝食を食べ、その後はソファーでニュースを見ながらコーヒーを飲む。

 ニュースでは昨日のパレードの映像や今日のレースや花火大会の見所等を紹介しているのだが、パレードの映像にエリスが映る後ろに、甘子がチラチラと映っているので、身内として恥ずかしい。もっと早くに退場させるんだったと、キッチンで洗い物をする甘子を見て少し後悔した。

 花火大会は例年並みの見物客を見込めそうだし、コレと言った事件も無い。何とか連休を無事に過ごせてホッとしていると、キッチンで洗い物をしていた花月が、紅茶の入ったカップを持ってソファーへやって来る。


「今日で連休も終わりですね……」


 少し寂しそうな顔をしてカップに口を付ける。

 花月の監視と言う名目でウチに泊まるのも今日で最後になる訳だ……連休中は家事をして貰ったり、店の手伝いもしてくれた。朝に起こしてくれたのは早い時間帯で困ったけど、慣れない環境で随分無理をさせたかもしれない。


「何時もの連休と違って大変だったかい?」

 

「いえ、そんな事ありません。本当はもっと厳しい罰があった筈なのに、三右さんや志緒さんに助けて貰って、毎日楽しく過ごさせて貰いました。とても感謝しています! 甘ちゃんとも前よりもっと仲良くなれました……でも、今日で終わりなんですね……」


「少し寂しくなるけど、今度は監視も無いから、ゆっくり出来るし、家から学園に通える。何時でも遊びにおいで。甘子の相手して貰えると嬉しいよ」


 笑顔でそう答えると、花月も『はい!』と、元気に笑顔を見せてくれた。

 それから甘子は昨日の反省会だとか言って出掛けてしまい。俺と花月は今日も武装研究課に行く為、家を出て学園に向かう。


 商店街を抜け、大通りに出ると、今日のレースに出場するのか、昨日のパレードの時より多くの人達が仮装をして歩いている。簡単な耳やシッポを着けている人やグルミを着て子供達に囲まれている人。露出の多めな仮装で店の宣伝をしている売り子等、通りの色合いをはなやかに染めている。

 何時も通り杏子さんの店に寄って昼飯のパンを買おうとすると、ネコミミの浴衣姿に襷掛たすきがけでホットドッグを売っている杏子さんがいた。


「おーっ! 志緒くん。待ってたよ〜!」


 俺達に気付いた杏子さんは、にこやかな笑顔で俺に近づき、袖から何か輪の様な物を取り出すと、俺の首に『カチリ』とめる。


「えっ?」


 杏子さんの両腕が首に回されて、驚いた俺は反応が遅れ、慌てて首を触ると、生暖かい硬質な金属の感触が指先に伝わる。手を巡らせ確認すると、首をスッポリと覆う金属の輪……首輪が俺の首に付けられていた。


「……杏子さん、何コレ?」


朝花あさかに頼まれたんだよ。今日、火鷲神社で花火見るんでしょ? 朝花、占い館で遅くなるから、美和さんに頼まれたお酒買って来て欲しいって」


「なんで、首輪なんですか?」


「分からないけど、美和さんが鍵持ってるって。後、コレもね」


 そう言って袖から鎖を取り出し、首輪の穴に鎖を付ける……犬が散歩する時に使うリードみたいな感じで、俺の首から鎖がぶら下がる。


「それだけだと変だから、コレもければいいよ」


 杏子さんが頭のネコミミを外し、俺の頭にネコミミを付けてくれる。


「うん。似合ってるぞ。志緒くん。花月ちゃん。朝花に首輪の写真頼まれてるから、携帯で写真お願い出来るかな?」


 杏子さんが花月に携帯を渡し、首輪に繋がれた俺とその鎖を持つ杏子さんのツーショット写真を花月が撮る。


「私もお願いします!」


 目を輝かせた花月が杏子さんと入れ替わり、今度は花月が鎖を持って杏子さんが写真を撮る。

 ……何だよコレ?

 杏子さんと花月は互いに写真を見せ合い笑っている。訳が分から無いが、美和姉が絡んでいるなら、後で直接聞いた方がいいだろう。首輪を触りながら溜め息をくと、杏子さんにホットドッグを二つとパンを幾つか選び、紙袋を貰うと、手を振る杏子さんに見送られ店を後にした。



「……なあ、花月……鎖、離してくれないか?」


 通りを歩きながら隣の花月に話し掛ける。写真を撮ってから鎖を離そうとしない花月に鎖を渡してくれる様に頼むが、がんとして譲らない。


「志緒さんを繋いでおかないと、女性の胸を触るかもしれません」


「あれは寝ぼけてたんだよ!」


「言い訳無用です。フフフ……さあ、行きますよ。志緒さん」


 少し嬉しそうに先を歩きながら鎖を引く花月に誘導され、俺は学園に続く坂道を上り始めた。 



 学園の業務棟に到着した俺達が二階への階段をのぼっていると、視線の先に大きなグルミを背負って階段を上っている一人の女生徒が目に映る。ゆらゆらと揺れる水色の着グルミの足の隙間から覗く、赤いチェックのスカートと、左右の腰に二本ずつ吊り下げられた剣のさやが、階段を上がる動きに合わせ上下に揺れている。


「おーい。四剣。何だよそれ?」


「ああ、蟹に花月。おはぉ……何だ? その首輪?」

 

 俺の声で振り向いた四剣が此方を見て少し驚くと、俺の首を見ながら質問を返す。


「……俺の事は気にしないでくれ。それより、そんなのかついで何かあるのか?」


「ああ、コレは……ちょっと頼まれたんだ。課に行ってから話す」


 少し緊張気味な表情を見せ、四剣は階段を上がって行く。俺と花月は顔を見合わせると、四剣の後を追い、捕縛課に向かって歩いて行った。


 課に着いて四剣がソファーの上に着グルミを置き、その隣に座ると、花月はその対面のソファーに、俺は椅子の背持たれに腕を置き、またぐ様に座る。


「それで? どんな話しなんだよ?」


 俺の質問を待っていたかの様に、四剣が着グルミをチラリと見てから話し始めた。


「昨日の休みにクラスの知り合いに頼まれてしまったのだ……何でも福祉のバイトで大通りの風船配りをやる事になっていたらしいのだが、昨日怪我をしてしまったらしく、その代わりを頼まれたのだが……」


 四剣の話を聞いていると、そのクラスメイトは昨日のパレードを見ていて怪我をし、業務課のテントに運び込まれ救護課の治療を受けている時、テントに待機していた四剣を見つけて代役を頼んだらしい。

 福祉系の商業実技はバイト代は低いが、そちら方面に就職希望の生徒にとっては、職員に覚えて貰え、コネも出来ると意外に人気のバイトだったりする。

 そのクラスメイトも福祉系の職業に進みたいらしく、競争率の高い面接を勝ち取り、バイトメンバーに入ったそうだ。


「私は課の仕事があるから無理だと言ったのだが、最後は断りきれなくて……」


「それにしても、それって本人じゃないとダメなんじゃないのか?」


「登録はもうしているから、後は本人自筆の委任状いにんじょうがあれば問題無いそうだ。人数が揃わない方が問題らしい。何かと大変だからな」


たかが風船配りだろ? そんなに難しい仕事じゃないだろ?」


 そう言った俺を四剣が呆れた顔で首を振る。


「私も一度やった事があるが、コレはやったヤツだけに分かる苦労がある。何なら蟹。バイト代渡すからやってみるか? 花月の監視は私がやるから」


 確かに家の仕事ばかりだったので、この手のバイトはやった事が無い。多少興味はあるのだが、やる暇が無かったのだ。


「……志緒さん。武研課の方はいいですから、四剣さんのお手伝いをしてください」


 四剣と俺の話を聞いていた花月が、諦め顔で溜め息をきながら声を掛けてくる。


「花月、いいのか? 武研課で手合わせする約束だったのに……」


「志緒さんが頼まれたら嫌って言えないのは、連休中で分かってます」


 少しねながらそっぽを向く花月に苦笑いを返し、着グルミの頭をポンポン叩く四剣に急かされて、その場で着グルミに着替え始める。

 可愛らしい水色の熊の着グルミで、頭部が喉のあたりで胴体につながっている。頭部の中や胴体の内部をファスナーを下ろして覗くと、頭部の中にモニターが付いていて、そこからコードが胴体の内側を通り、腰の辺りのケースに延びている。恐らく電池かバッテリーケースなのだろう。


 ……意外に金が掛かっているな……


 サイズも余裕があり、ちょっと長剣の位置をずらせば、武装をけたままでも着れそうだ。

 ただ、ファスナーを閉めれば剣を抜けないので、一応、銀糸の腕輪とグローブを着けておく。風船配りだから、手の部分だけは普通の手袋なので、このグローブでも問題ないだろう。

 背中を広げて足を入れ、腕を通して、背中のファスナーを花月に上げて貰う。首にぶら下がる頭部を持ち上げて被ると、首の後ろで『カチッ』と音がして、暗闇にモニターの形が明るく浮かび上がり、此方を見る四剣の顔が映っている。


「熊の首から鎖が出てるけど、まあいいか? ……どうだ? 蟹」


「意外に鮮明に映ってるな? 視界がちょっと狭いけど、大丈夫だ」


「鼻の処がカメラになってるから、少し違和感があるかもしれんが慣れてくれ。あと、目の辺りにエアコンのスイッチがあるからな」


 言われた通り頭部の目を触るとモニターの上の辺りから涼しい風が流れて来る。これなら汗ダクになる事もないだろう。


「トイレに行く時はチャックが前と尻の処にあるからな」


「そんなのこれ脱げばいいんじゃないのか?」


「……脱げないんだよ……バイト終わるまで首のロックが外れない。解除出来るのはバイトの雇い主だけだ。まあ、盗難防止の為だな」


「はぁ?! ……おい、それ先に言えよ!」


「ほら、これが委任状だ。集合場所は大通りの業務課テントに十時だ。急げよ」


 封筒を渡した四剣の口角が微かに上がるのが、モニターに映っている。


 ……コイツ知ってて先に着替えさせたな……


「……おい。あと十分しかねぇぞ? 四剣」


「お前なら間に合うだろ? 遅刻すると、時給減らされるぞ」


「クソッ! そん時はバイト料上乗せしろよ」


「頼んだぞ。蟹」


「志緒さん。頑張ってくださいね」


 四剣と花月に見送られ、俺は首から下がる鎖をシャラシャラと響かせ業務課の廊下を駆け出していった。


 


     ◆

     ◆




 三人目の客が部屋を出て行くと、スカートのポケットの中で携帯が震え出す。

 ディスプレイに表示された相手は、私が仕事を頼んだ後輩だ。


『もっ、もしもし。中町なかまちです。御依頼された件、完了しました』


「……ありがとう。れんちゃん。VIPカードは次に来た時に渡すよ」


『いっ、いえ。ありがとうございます。それでは、失礼します』


 私は通話を終えた携帯のディスプレイを見詰め、深く息を吐き出す。


 ……私に出来る事は、あと一つだけ……私の目に映る人達を守る為。姉や妹達の為なら私はどんな事でもすると、あの日決めたのだ。

 

  例え、その為に卑怯者と言われようとも………




 



 次回 連休(十日目〔中編〕)

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ