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銀拳  作者: 月草 イナエ
40/45

~37 連休(九日目〔中編〕)

 御読み頂き有り難う御座います。

 月草イナエです。


 今回の更新で『銀拳』初投稿から一周年で御座います。(休業中の四カ月を含む)

 初投稿から御読み頂いた読者様。この小説を偶然見つけて御読み頂いた読者様。皆様に支えられ、何とか一年執筆を続けられました。心より感謝を申し上げます。

 最初は視点や表現も安定しない稚拙な作品も徐々に安定してきた……かな? 

 更新ペースは安定してないですね。

 そんな『銀拳』にお付き合い頂き、有り難う御座います。

 これからも宜しくお願い致します。


 月草イナエ 2013•3•26



「ねぇ、鶴ちゃん。志緒っち居ないね?」


「そうだね。月ちゃん。今日はパレードあるから来てると思ったんだけど……」


「誰かに聞いてみようよ。鶴ちゃん」


 私が月ちゃんと捕縛課に行って見ると、花月さんは居るのに志緒さんは居なかった。『おはようございます〜』と挨拶をしながら二人で課の中へ入って行くと、情報管理課の副課長さんと、課の皆がお茶をしながら談笑していて、私達に真っ先に気付いた斧さんが勢い良く走り寄って来る。


「うおーっ! 狐耳と尻尾付けた巫女ちゃん達キタ──────ッ! ゴフゥアッ!!」


 私達にせまって来た斧さんが、三右さんの武装。〔弾弓だんきゅう〕から発射された野球ボールを脇腹わきばらに喰らい、真横に弾き飛ばされる。


「あーっ、すまんな〜斧。手ぇすべったわ〜」


 明らかに狙ったのが、バレバレだが、本来は鉄球が発射される代わりに、三右さんの優しさの分。野球ボールが使われていた。白眼しろめいてピクピクする斧さんを無視して、三右さん達の処へ行き、月ちゃんが挨拶する。


「捕縛課の皆さん、氷馬ひうま月良つきよです。先日は御苦労様でした。今日はパレードに出るので、鶴ちゃんにお願いして、パレードまでの時間、捕縛課を見学にきました。宜しくお願い致します」


 しっかりとした挨拶に、三右さん達もニコニコとしてソファーを勧め、鉄槌さん達も月ちゃんに優しく話し掛けている。私は花月さんの処へ行って、志緒さんが何処に居るか聞いてみる事にした。


「花月さん。蟹さんはドコですか?」


「私の監視かんし警備の方を迎えに出掛けましたよ」


「……迎え?」


「ええ。折角、武研課で志緒さ……蟹さんと手合わせする予定だったのに……」


 少しガッカリしながら、花月さんが教えてくれた。……志緒さんがわざわざ迎えに行く程の人物が、捕縛課に居ただろうか? 私が疑問に思っていると、課の入口の方で『戻りましたー』と志緒さんの声が聞こえてくる。振り返って入口を見ると、先が二つに割れた赤いニットキャップを被り、中等部の緑色のネクタイと、鳶色とびいろのベストの上に緑のダッフルコートを羽織はおった出刃でばが、志緒さんに肩車されながら入口で『ひさしぶり〜』と手を振っている。

 ……ナルホド……あの男か……

 あの三分さんぷんマンなら志緒さんが迎えに行くのもうなづける。暫く来ないので油断していた。

 肩車をされたまま、此方こちらにやって来た出刃は、三右さんの前で志緒さんの肩からゆっくりと滑るように降りる。


「やあ、三右さん。ひさしぶり〜 筋肉痛で暫く動けなかったんだ〜 出れなくてゴメンね〜」


 笑顔で手を合わせながら、三右さんに謝る出刃に、三右さんは『気にせんで、ええ。今日は頼むで〜』と言い。志緒さんが花月さんを出刃に紹介している。

 出刃の身長は小柄で花月さんよりちょっと低く。普段から赤いニットキャップとダッフルコートを着ている所為せいと、甘い容姿も手伝い。妖精みたいだと高等部や大学院生の女子に人気があるらしい。私には妖精より道化師ジョーカーにしか思えない。

 ……あんなののドコがいいのだろう?

 二人の挨拶を済ませた志緒さんは、私と月ちゃんの処へ来ると、狐耳や衣装の着付けを誉めてくれたり、着崩れを直してくれた。このちょっとした気遣いが嬉しくて、ニヤニヤしてしまう。 しかし、そんな他人の気分を読まない奴は何処にでもいるものだ……


「おや? 何処どこ悪戯イタズラきつねかと思ったら、鉄巫女おチビか? 人間に化けていないで、サッサと山に帰ったら?」


 志緒さんの後ろから覗き込む様に、出刃が小姑みたいに嫌みを言ってくる。


「う〜ん? 性悪しょうワル妖精ようせいの声がしますけど、姿が見えませんね……あらっ? 其処そこに居たのですか? チューリップかと思ってました。……クスクス」


「……ハア〜ッ?! 何だと、チビ!」

「……ナンデスカ? 豆もやし!」


 牙をき出し、互いの鼻がぶつかりそうな程、にらう私と出刃の頭を掴み、志緒さんが笑顔を見せる。


「……おい。もう少し仲良くしろ」


 志緒さんの頭を抑える指に圧力が加わってくる。


「……はい」

「……はいです」


 志緒さんを困らせたくないと言う事だけに関しては、私と出刃の意見は共通しているので素直すなおに従うが、やっぱり出刃もやしは気に入らない! これは直感。女の直感なのだ! 出刃の方でも恐らくそう思っているのか、一瞬、視線が合うと『フン!』と勢い良く顔を逸らしている。

 志緒さんが軽くため息をき、掴んだ手を離して頭を撫でてくれる。

 優しく撫でるその手は暖かくて、自然と笑みがこぼれてしまった。


「そんなら、今日の予定、確認しとくでぇ─」


 一段落した私と出刃のやり取りを見ていた三右さんが、手を叩きながら立ち上がると、三左さんが午後の予定を話し始める。


「イベント会場には、私と大剣が待機しています。緊急時の連絡は私に。三右は出刃と花月さんの監視で武研課へ。パレードに出場するメンバーは、ついでに自分の乗車する路面電車の警備と、見物客を見ながら不審者の発見をお願いします。通信機は一応、装着していて下さい。此処にいない、イベント出場メンバーへの連絡もお願いします。よろしいですか? それではお願いしますね」


「皆~、しっかり頼むでぇ~」


 三右さんの言葉にメンバーが頷くと、三左さんは情報管理課の副課長さんと一緒に課を出て行った。


「花月。少し早いけど昼飯にしよう。鉄巫女と月良ちゃんはお昼どうするの?」


 志緒さんが、手に持った紙袋を花月さんに見せながら、私達に聞いてくる。学食で食べようかと思っていたので、月ちゃんと顔を見合わせていると、足枷あしかせさんが、私達に大きな紙袋を見せながら声を掛ける。


「巫女ちゃん達。良かったら一緒にパン食べるかい? 無限イベント二位の俺のおごりだ!」


「そうそう。ミスコンのお祝いもしてないし! 無料パンで悪いけどな」


 鉄槌さんもソファーの前のテーブルに、ジュースを置きながら、声を掛けてくる。


「鉄槌、俺の奢りなのに自分の事みたいに言うな!」


「いーじゃねーか? ほらほら座って! 花月ちゃんも!」


「それじゃあ、花月、ご馳走になるか?」


「「蟹! お前は自分の食えよ!」」


「俺も奢りじゃないの?!」


 どうやら、足枷さんと鉄槌さんの奢りなのは私達と花月さんで、志緒さんは違うらしい……


「お前は自分のあるだろう? なあ、足枷」


「そうそう。これは俺達のミスコンのお祝いなんだよ。水林さんのアドレス教えてくれたら、混ぜてやるよ」


 志緒さんは渋い顔をして、近くの椅子に座ると、袋からホットドッグを取り出して食べ始める。


「なんだよ。教えてくれねーのか? まあ、いいや。さあ、花月ちゃんに巫女ちゃん達。一緒に食べようぜ」


 足枷さんの言葉に、私達はソファーに座り、御礼を言ってパンを食べ始める。

 ……ふ〜ん。志緒さん。あの女のアドレス、知ってるみたいですね……



     ◆

     ◆


 

 

 俺は椅子に座り、ホットドッグを食べながら足枷あしかせ達の様子をうかがっていた。双一朗の変装した水林みずばやし三良みらの事情は情報管理課の機密扱いなので、下手に教える事は出来ないし、今日のパレードにも現れるはずなので、厄介やっかいごとは遠慮したい。全く、面倒めんどうな奴らに目を付けられてしまった……


「ねぇねぇ、蟹。そのホットドッグ、僕にも頂戴ちょうだい!」


 俺の隣で出刃がニコニコしながら手を差し出している。袋からパンを一つ取り出して、渡そうとすると、出刃はパンの真ん中に指を突っ込み、マスタードとケチャップをパンで拭き取りながら、ソーセージだけモシャモシャ食べ始める。


「……オイ! メインだけ持ってくなよ!」


「え──っ?! だって僕、野菜嫌いだもん」


「パンも食えよ!」


「だってそれ、小麦だよ〜」


 うっかりしていた…… 出刃コイツは野菜と名の付く物が見えると、全く食べない。それなら、ソーセージの中に胡椒コショウとか入っているだろ? って思うかもしれないが、見えなければ、香辛料は問題無いらしい。ただの喰わず嫌いかもしれないが、出刃はがんとして譲らない。前にも捕縛課のメンバーで、野菜嫌いを直そうと食べさせてみた事があるが、この世の終わりみたいに大泣きしたので諦めた。その時、青槍あおやりと斧が出刃を押さえつけ様として、暴れた出刃に二階の窓から叩き落とされたのを思い出す。

 足枷達の処へ行って、今度はサンドイッチのハムを抜き取る出刃を見て、俺は軽くため息をき、主役不在のケチャップパンを頬張ほおばった。


 

 昼食を終えた俺は、三右さんと出刃に花月を頼み、課にいた月良つきよちゃんや、鉄巫女達、パレード出場者と集合場所のゲート前に歩いて行く。

 ゲート前では、綺麗に飾り付けられた路面電車が数台並び。業務課のイベント担当者数人が、出場者の受付や対応をしていた。俺達が受付に並ぶと、乗車車両のナンバーカードと、見覚えのあるネコミミのカチューシャと尻尾が渡される。

 ……何か複雑な心境だな……苦労して朝に業務課テントに納品した製品が、二時間程で、また手元に戻って来るとは……


「あっ、いたいた。おーい。志緒ーっ!」


 聞き覚えのある声に、手にした尻尾から顔を上げると、ヒョウ柄のカチューシャとヒョロンと長い尻尾を付けた太一が、加藤課長カノジョと歩いて来る。


「よお、太一。デートか?」


「おお。いいだろ〜」


「ちょっ! ちっ、違うぞ! 太一君の出発を見送ろうとか、一緒に待ち合わせして来たとかじゃないんだ。及川さんの視察の為に私は此処に来たのだ!」


 笑顔で答える太一の後ろで、加藤課長は真っ赤になりながら弁明しているが、どうみても視察より、見送りの方がメインだ。


「花月は三右さんと武研課にいますから、見送ってからでも大丈夫ですよ。折角の彼氏の晴れ姿ですからね」


 太一の後ろに隠れる加藤課長にそう言うと『それなら、太一君を見送ってから視察に行くか』と照れながら返事を返す。

 俺と太一が顔を見合わせ笑っていると、ゲート付近の出場者からどよめきが聞こえ、其方そちらを見ると、白いワンピース姿の三人が、此方に歩いて来る。それぞれの髪の色と同じ金髪や銀髪、ライトブラウンのネコミミと尻尾を付けた三人は、俺達の前にやって来ると、軽く膝を折り、うやうやしく挨拶をする。


「志緒様、先日のイベントで危ない処、お助け頂き有り難う御座います。本日は宜しくお願い致します」


「カレンさん。エリス。何してるの? 水林さんまで……凄く目立つんだけど?」


「……気にしないで、志緒。ただの嫌がらせよ」


「サラッと嫌がらせって言ったな!」


 エリスは隣りの水林をチラッと見ながら言い。水林(双一朗)もニコニコ笑みを浮かべて『面白そうなのでやってみました』と言っている。相変わらず人が嫌がる事をするのが好きな奴だ。

 ミスコングランプリの上位三人に挨拶されて、目立たない訳はない。周囲の出場者もチラチラと此方を覗き見ているし、受付を終えた足枷達もやって来たので、面倒な事になる前に、集まる視線を無視してエリスに近寄り、課の伝達事項を伝えると、逃げる様に太一達と指定された車両へ向かった。

 路面電車は幾つかのイベント入賞者が相乗りしてパレードをする。スピードフラッグやミスコンの様な大きなイベントだけでなく、大通りのイベントや商店街のイベント等、沢山のイベントを知って貰う為に業務課が乗車メンバーを割り振りしている。事実、パレードを見て初めて知るイベントもあるので、来年の参加者を増やす為にも、必要なイベントなのだろう。

 俺達が指定された車両へ行くと、赤髪に白いウサギ耳を付けたディーナ・レントが路面電車の上で仁王立ちしていた。


「あっ? 志緒! スピードフラッグは一緒の電車なの?」


「ああ。ディトが居るって事は……」


「キャベツ投げよ」


 俺の後ろから少し不機嫌そうに、れたイヌミミを付けた投石機がナンバーカードを見せながら歩いて来る。

 ……そう言えばディトと投石機って、イベントや出動の時に結構やりあっていたな……せめて、パレードの時位、大人しくして欲しい……

 俺の願いも気にせず。ディトは路面電車から飛び降りると、軽やかなステップで此方にやって来る。


「今日はヨロシク。そっちの眼鏡先輩もね。また勝負する?」


「良いわよ。課の歓迎会で相手になるわ」


「うわっ! 楽しみぃ〜! 期待してるよ」


 ニコニコしているディトと対象的に、投石機の方は静かな闘志を燃やす。連休明けの歓迎会は荒れそうな予感がするな……投石機に小声で『手加減してやれよ』と言うと、ニヤリと笑い、『相手次第』と言っているので、手加減する気は無い様だ。



『御案内しまーす! パレードに出場される皆様。本日はお集まり頂き有り難う御座います。これより、出場者確認と説明を致しますので、車両へ御乗車してお待ち下さーい! ……繰り返しまーす!』


 俺がネコミミと尻尾を付けながらディトや太一達と雑談をしていると、業務課の担当者が拡声器で案内を始めたので、加藤課長に見送られながら路面電車に乗り込み始める。

 業務課が人員確認をしているのを眺めていると、俺達の他には菓子作りコンテストの入賞者と、大辞典早めくりコンテストなんて、初めて知るコンテストの入賞者も乗っていた。軽く挨拶をして、路面電車の中にある梯子はしごから屋根に上がると展望台の様な、腰くらいの高さのさくが設置された空間が屋根の上に作られていた。柵の側から下を見ると、加藤課長が此方を見上げ、太一に手を振っている。こんな感じで街中をパレードするのか……


『お待たせしました。それでは花火の合図で出発します』


 業務課の担当者が合図を送ると、先頭の車両から花火が打ち上がり、上空でポンポンと白い煙が青空に漂う。プォーッと警笛が鳴り、チリンチリンとベルの音を響かせながら先頭車両が進み始める。


「法子さん、行ってきまーす!」


 俺達の乗った車両もゆっくりと動き出し、加藤課長に太一が柵から身を乗り出し手を振っている。


「まるで戦地に赴く恋人の別れだな……」


「……そして彼は帰ってこなかった?」


「おい! 勝手に殺すなよ! どんなパレードなんだよ!」


 俺や投石機が段々と小さくなる加藤課長を見ながら話していると、太一が文句を言ってくる。他の出場者も太一のスピードフラッグでの告白劇を知っていた様で、坂道を下る路面電車は笑い声に包まれていた。




  


 

 次回 連休(九日目〔後編〕)

 

 

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