表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀拳  作者: 月草 イナエ
38/45

~35 連休(八日目〔後編〕)

 

 

「クソ───ッ! 何だよコレは! 小雪の奴、こんなもん仕掛けやがって!」


 奥水学園業務棟の情報管理課では、課長の俺。北川きたがわ一馬かずま、十七歳は、モニターに映るヌイグルミに悪態あくたいを吐かずにはいられなかった。妹の小雪にも困ったものだ。合コンなんかの為に変なウィルスを仕込んで行くなよ! 


「課長ーっ! 業務課から何とかしろって文句来ましたよ!」


 課のメンバーから業務課の苦情を聞くと、モニターから目を逸らさず、仮想キーボードを操作しながらメンバーに指示を与える。


「街中のモニターや端末に三十分限定のサプライズイベントだってテロップ出しとけ! 面白イベント開催中だって! 監視カメラは大丈夫か?」


「ダメです! ヌイグルミが邪魔で個人の判別出来ません!」


「小雪めーっ! やってくれるぜ! そんなに合コンしたいのかよ! 変な男に捕まったらどうすんだよ! そんな奴に『お兄さん、小雪さんをください!』なんて言われたくねぇーぞ! 誰が許すか! でも、小雪のウェディングドレス姿は見てみたいな〜……へへへ」


「ちょっと、課長ーっ! 妄想はいいですから、こっち手伝って下さいよ!」


「ウルセェー! いいとこだったのに! サッサと仕事しろ! ……此処じゃ分からねぇーな! 高橋、後は任せるぞ!」


 俺はバッグに携帯モニターや通信機を詰め込むと、メンバーに今後の指示を出し、課を飛び出した。


「ちょっと、課長ー!」

「こっち終わってから行けよ!」

「帰って来いよ! シスコン馬鹿!」

「また、小雪ちゃんに怒られますよ!」

「変態兄貴!」


 そう言われても、心配なんだから仕方ない。

 俺は小雪のGPSの反応が消えた住宅街を目指し、業務棟の廊下を走り出した。

 待ってろよ。小雪! お兄ちゃんが魔の手から助けてやるぞ!



      ◆

      ◆



 佐藤家のリビングには、五人の副課長達が花月の作った昼食を食べながら談笑していた。


「上手くいったね。小雪ちゃん」


「ありがとう。朋子のお陰よ」


「サッスガー! 雪ちゃん! あれなら、シスコン馬鹿も見つけられないよ! 凄いよね。そのウィルス! 一体、どうなってんのか分かんないよ!」


「これで皆で合コン出来るわね。三左」


「そうね。……ねぇ、朋子。どうして蟹の家なんですか?」


 疑問に思った三左さんが、三日町さんに訳を聞きたがっている。

 俺も昨日、業務課へ依頼の数量が多いので減らして欲しいと、数量の変更を交渉していた時、三日町さんが減らす代わりに、『昼食を食べさせて欲しい』と、言われて驚いたのだ。


「小雪ちゃんと、話しあって、監視カメラの配置が、少ない商店街方面で情管が油断している場所を選びました。今は及川さんの監視もしてますし、見付け易いから来ないだろうと。灯台もと暗し作戦です。案山子かかしさんも『面白いからいいよ』って、今度の業務課の飲み会に呼ぶ事で、買収済みです。今、此処の上空の監視カメラは録画映像が流れています」


 俺や花月、甘子がソファーに座り、三日町さんの話を聞いていると、どうやら、案山子もこの件に関わっている様だ。あの面白い事が大好きな奴なら情管にバレずに上手くやるだろう。俺はふと、疑問に思った事を聞いてみる。


「……あの、三日町さん。ウチに業務課の依頼が多かったのはこの為ですか?」


「佐藤君、ごめんね。ミスコンで迷惑掛けたから止めようと思ったけど、三左さんにも楽しんで欲しかったの……」


「ミスコン? 何かありました?」


 意外な話しだったので少し驚きながら三日町さんに話しの続きを待つ。


「……あのね、ミスコンの参加者増やそうと、グランプリの衣装、プレゼントにしたら、参加者倍増しちゃったの。S&Cのワンピースが、上手くいけば貰えるからって、参加する人が増え過ぎちゃったんだよ。無料タダだし、三十分の一位の確率なんだもん」


 頬を指で掻きながら、三日町さんはミスコンの参加者が増えた理由を教えてくれた。S&Cの人気を上手く使った業務課の作戦勝ちと言えるが、三日町さんが考えたのか……


「……まあ、いいですよ。疲れましたけど……来年は組合の方にも話し通して貰えれば、ブースがスムーズに回せます。それに、課長会議では皆さんに御世話になりましたし……」


「いいえ、お世話になってるのは防災課うちの方よ。花月を預かって貰って、ありがとう。志緒君」


 福田さんが、花月を見てから俺の方へ頭を下げる。


救護課ウチの課長も御世話になってるよー! GWは何時もなら、救護センターに居てウルサイけど今年は静かでラクチンだよ! 課の方に居てもムフムフ笑ってるから、怒られなくてホッとしてイタッ! 痛いです! 福田さん! バカになります!」


 救護課の伊藤さんが、福田さんに頭を小突かれて文句を言っている。


「私の方でも、迷惑掛けたわ。ごめんなさいね」


 北川さんが、俺の脚に付いた足枷を見ながら謝って来る。恐らく双一朗の事だろう……余り知られたくない筈だし、軽く此方も頭を下げる程度で誤魔化しておいた。

 それから三左さん達は、S&Cの作業場を見学したり、店の商品を試着し、数点購入してくれた。二割程、割引させられたが、これからの合コンの餞別と、顧客獲得の為の種まきだ。これで合コンも上手く行けば、また何か買ってくれるだろう。

 作業場で、合コンに出掛ける三左さん達を見送り、俺はまた作業場に籠もり、残りの依頼品を作り始めた。

 


     ◆

     ◆



 太陽が、西に傾き、静達が合コンを始める頃、学園の業務棟、捕縛課の実務室では、課長の三右と会計のきりちゃん、救護課課長の私が、御茶を楽しんでいた。主立おもだった課の副課長達が、合コンで休みを取っている為、各課の課長達がこの業務棟に待機しており、さっきまで、警備、防災、教育学部、司法、武装研究の課長達が捕縛課で茶会を楽しんでいた。

 業務の高橋と情報管理の北川の二人が出席しなかったが、業務が明日のパレード準備で忙しい事は、全員が知っていたし、情報管理のシスコン馬鹿が、今年も小雪を探しに走り回っている事を、全員が分かっているので、警備の本城が、苦笑いを見せる程度で、特に騒ぎ立てる訳でも無く。課長達は、それなりに茶会を楽しんでいた。

 もっとも、話題に上がったのは連休中の課の状況や、法子のスピードフラッグの表彰台での告白逃亡劇だったが……

 日も傾き始め、他の課長達が自分の課に戻って行ったが、私は三右に確かめておきたい事があった為、こうして捕縛課に残り、茶会の続きをしている。


「大鐘課長、紅茶のお代わりはいかがですか?」


「ありがとう。頂くわ」


 錐ちゃんが、ティーポットを温めながら聞いて来るので、軽く頷き、テーブルのクッキーを一つ頬張る。


「……なあ、千秋。課にも戻らんと、何聞きたいんや? はなさんかい?」


「……はにがへすか?」


 クッキーを頬張りながら答えると、三右は私が中々話を切り出さない為、少しムスッとしている。初等部からの付き合いだ。私が帰ろうとしない理由も分かるのだろう……

  私の確かめたい事は、例の特別大使。ディーナ・レントの三右が知る情報量だ。それに因っては、志緒さんに伝える内容を変えなくてはならない。三右と同じ情報を伝えても価値が無いのだ……

 錐ちゃんがティーカップに紅茶を注ぎ終わるのを眺め、礼を言って、私はふわりと香る紅茶を一口飲み、三右は此方を不機嫌そうに横目で見る。

 

「……SSダブル首切くびきり〕……」


 私が小さく呟くと、三右の右手が、微かに震え、ティーカップの中の紅茶が波紋を立てる。


「……千秋」


 みるみる真剣な顔付きになる三右に、話を続ける。


「……志緒さんに頼まれて、特別大使の事を中央学園の救護課課長に聞きましたわ。志緒さんにお伝えする前……」

「駄目や!!」


 私の言葉をさえぎり、明るく優しい普段の三右とは異なる。獲物を狙う虎のような、鋭い目つきの三右が私を睨む。


「千秋、蟹に教えたらあかん! あの賞金首おんなん事……もし蟹に教えるんやったら、今すぐそん口、潰さなあかん」


 三右は本気だ……本気で私の口をふさぐ気だ………そして、それは、あの特別大使の情報をかなり正確に掴んでいる事を物語っている……


「……あれは捕縛課ウチらの……捕縛課、みんなの問題や。蟹には、もうちょいしたら、ウチから話す。千秋は何も言わんと、黙っとれ……」


 有無を言わせぬ圧力を私に向ける三右は、これ以上の詮索を拒絶している。


「………分かりましたわ……志緒さんには、貴女から聞くように伝えておきます。……用も済みましたし、課に帰りますわ。錐ちゃん、御馳走様。今度は救護課こちらでお茶会しましょう」


 私と三右のやり取りを、心配そうに見ていた錐ちゃんに笑顔で手を振り、私は捕縛課を後にする。夕陽に照らされた廊下を一人で歩きながら、指先で顎を触り、先程の三右の顔を思い出す……


「……アレではデートに見合う情報は、志緒さんに教えて差し上げられませんわね……仕方ありませんわ……何か別のプレゼントでも考えないといけませんわね……」


 私は、窓の外の夕焼けに染まる景色を少し眺めると、何をプレゼントするか考えながら、救護課へゆっくりと歩き出した。

 


     ◆

     ◆



 夕陽に染まる商店街を、俺は同じ課の仲間、斧と鉄槌の三人で歩いている。本来なら、課に帰って報告書を書かなくてはならないのだか、チョットした用事がある為、目的の店を目指し歩いている。通りを二本程過ぎ、見えて来たのは、俺達には余り縁の無い店、縫製店『Sugar&Cool』 蟹の家だ。


「おーっ、足枷あしかせおの、やっと着いたな」


「結構、洒落た店だな? 女子に人気らしいから、鉄槌てっついに彼女が、出来たら来てみろよ」


「斧、テメェーに幼女の彼女が出来たら、スク水でも作って貰えよ。まっ、無理だろうけどな!」


「何言ってやがる。お前に年上の後輩彼女が出来るより、確率は高いぜ!」


 俺の後ろを歩く斧と鉄槌が、アホな事を言っている。


「オイオイ、不毛な争いはせよ。さっさと下着見に行くぞ」


「……足枷、本音が出たぞ?」


「……まさか、お前、そっちの趣味が……」


 斧と鉄槌が、あきれた顔で俺を見ている。まったく、この二人は分かっていない。女性の外見ばかり気にして、内面を見ようとしない。大切なのは気高く、強い精神なのだ。どんな状況でも力強く冷徹に振る舞える精神を持つ、王のような女性。それが俺の理想の女性なのだ。


「……女王様、ごめんなさい!」


「……斧。また、足枷の『ごめんなさい妄想』が始まったぞ?」


「変態野郎め!」


「男に言われても嬉しくないな」


「冷静にダメ出しされた!」


「斧、足枷。早く花月ちゃんに会いに行こうぜ! 先に行くぞ!」


 鉄槌が、俺達を追い越し、店に入って行く。後輩好きの変態め……まあ、いい。お前には俺の理想は分かるまい。隣の斧もヤレヤレと首を振る。恐らく、俺と同じ事を考えたに違いない。俺と斧は軽く顔を見合わせ、店の中へ入って行った。

 チリンチリンと、ドアに付けられた鈴に迎えられ、店内に入ると、レジの前で、花月ちゃんが鉄槌と話していたが、俺達に気付くと笑顔で迎えてくれた。


「斧さん、足枷さん。いらっしゃいませ。志緒さんは作業場ですよ。此方へどうぞ」


「花月ちゃん。いいの、いいの。用があるのは足枷だけで、俺と鉄槌は付き添いだから。ほれ、足枷。俺達は花月ちゃんと話してるから、ゆっくりやっていいぞ!」


 斧が俺の肩を叩き、花月ちゃんの隣へ歩いて行く。


「そうだ、足枷。ゆっくりでいいぞ!」


 鉄槌もシッ、シッっと、猫をぱらうように、俺に手を振っている。

 ……クソッ! 俺だって花月ちゃんと話したい。彼女の時折見せる冷たい視線が見たいのに!

 レジの隣のカーテンをめくり、中へ入ると、ネコミミやシッポが並べられた作業台で、蟹が二人の女性とシッポをチクチクっていた。


「おっ、足枷来たの? 遅いよ。もっと早く来てくれよ」


 俺に気付いた蟹が、いきなり文句を言ってくる。

 ……しかし、この後輩は遠慮が無いな……もっとも、捕縛課では俺より先輩だから仕方無い。俺が高等部から捕縛課に入った時には、もう大剣と捕縛課に居たからな……此処は大人の対応をみせてやるか……


「オイオイ、足枷それずっと付けたままでも俺は構わないぞ? まだ、水林みずばやしさんとの関係も聞いてないしな? 巫女ちゃん呼んで、つるしても……おっ? 何故か携帯がこんな処に?」


「やめてくれ! 鉄鎖十字アレはもう嫌だ!」


 首を振り、慌てる蟹を見ながら蟹の足首に付いた足枷に、俺の足枷を当て、『拘束解除』と言うと、蟹の足枷が、カチンと音を立て俺の足枷に吸い込まれるように消えていく。もう片方も同じように解除してやると、蟹は足首をみながら、ホッとした顔をしている。彼式あれしきの事でを上げているようでは、まだまだだな……

 足枷から解放された蟹が、俺に笑顔を向ける。


「足枷、もう帰っていいぞ」


「速攻だな! つめてーな! 茶ぐらい出せよ!」


 蟹は渋々、コーヒーを容れると、俺にカップを渡し、自分も持ってきたコーヒーを飲み始める。


「足枷、何か変わった事あった?」


「いや、今日は静かなもんだったな? 暴れる奴も十人以下だったな」


 今日の巡回を様子を話しながら、コーヒーを飲んでいると、作業場に斧と鉄槌が、慌てて入って来る。


「おい、足枷! 三左さん、合コンで商店街にいるらしいぞ!」


「行ってみようぜ!」


 鉄槌と斧が興奮気味で話す後ろのカーテンの隙間から、花月ちゃんが、申し訳なさそうに蟹に手を合わせ、蟹が渋い顔をしている処をみると、どうやら俺達に内緒にされていたようだ。全く、信用されてないな、俺達………

 いくら俺達でも、呼ばれもしない合コンに行くと思われていたのだろうか……


 そんな訳無いよ……


 うん、マジで……


「斧! 鉄槌! 直ぐ行くぞ! じゃあな! 蟹、花月ちゃん!」


「早くしろよ! 足枷!」


「三左さんのフリフリドレス見てみようぜ!」


 俺達は店を出ると、全力で商店街に走り出した。




 商店街の飲食店をしらみつぶしに探していた俺達は、一軒の洋食店の窓の前で涙を流す情管の課長を見つけた。


「足枷、あれ、情管の北川じゃねーか?」


「何してんだろうな? 鉄槌、見てこいよ」


 鉄槌が、北川の後ろに回り込み、近づいて行く。そして、鉄槌が俺達に手を振るので、北川にゆっくり近づいてみると、北川の覗く窓の向こうには、楽しく笑う情管副課長、北川小雪が見えた。奥を覗くと、三左さんや他の副課長も見えるので、恐らく此処が合コンの会場なのだろう。


「……クッ……小……小雪ぃ」


 俺達の前では、北川が妹の楽しそうな姿を見て、止めどなく、目から涙を流している。

 シスコンで知られる北川が、妹の幸せを願って涙を流していた……

 その姿を見た斧や鉄槌も貰い泣きをしている。


「……クッ、小雪……お前の為に……業務課の奴ら、ぶっ殺す!」


 北川の涙は祝福の涙ではなく、嫉妬に燃える怒り涙だった……


「鉄槌、斧。容疑者確保」


「おう。来やがれ! シスコン!」

「了解。三左さんの邪魔すんな! シスコン!」


「何だ、お前達! 捕縛課か?! 邪魔すんな! 離せ!離してくれ! 小……小雪が……小雪ぃぃ──っ!」


 両脇を斧と鉄槌に抑えられ、引き摺られて行く北川の両脚を俺が掴み、駆け足で容疑者を運んで行く。

 やれやれ、余計な仕事を増やしてくれたシスコン馬鹿にも困ったものだ。折角、三左さんが楽しみにしていた合コンだしな……

 妹の名前を必死に叫ぶ容疑者を捕まえた俺達は、業務課テント目指し、ライトアップされた夜の商店街を走り抜けて行った。



 


 

次回 連休(九日目〔前編〕)


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ