~34 連休(八日目〔前編〕)
縫製店S&Cの作業場は、本日も忙しい………
明日の仮装パレード。そして、明後日の連休最終日のイベント、仮装レースがあるからだ。昨日の夕方に運営本部の業務課や、参加者からの飛び込みの衣装依頼が数件、店に入って来た。しかも業務課の方は数量が多い。業務課に交渉して少し量は減らして貰ったが、それでも多い事に変わりはなかった。
GW期間中は、観光やイベントの合間に、この店を目当てに、他の地域から来店する客も多い。昨日ミスコンで店を休みにした分、今日は客足も増え、輪を掛けて忙しく、猫の手も借りたい程だ。
俺も、朝から作業場に籠もり、業務課に依頼された仮装パレードの衣装の製作をしている。
「……兄貴? シッポ終わった?」
「……ああ、後はキツネ耳作れば、終わりだ。甘子は?」
「……あと、シッポが二十本……黒猫と虎。終わったら、手伝ってよ」
甘子が、少しうんざりしながら、俺に救援を求める。
今回、運営本部に依頼されたのは、明日行われる仮装パレードの衣装だ。GW期間中のイベント上位入賞者が御披露目されるイベントで、毎回仮装レースのテーマに合わせた衣装で、駅前の大通りから市街地を路面電車でパレードする。今年のテーマは『動物』になっていて、耳付きのカチューシャや、衣装に取り付ける尻尾を作っている。
鉄球に鎖が付いた、重い足枷を両脚に付けて………
「……なあ、甘子。足枷呼んでくれ……」
「え──っ? ヤダよ。エリスさんとデート懸かってんだから! 作業場に居ればいいじゃん」
「……外に昼飯食いに行きたいんだよ」
「家で食べなよ。花月ちゃん作るって言ってたでしょ?」
「……でもなぁ……」
俺が何故、大昔の囚人スタイルになっているかと言えば、あの変装した双一朗の所為だ……
彼奴が余計な事をした所為で、ミスコン会場から逃げ出そうとしたが、運悪く、会場の出入り口でミスコン出場者をナンパしていた、斧、鉄槌、足枷の捕縛課メンバーに、俺と水林三良とのやり取りを見られていたのだ。
俺は、逃走から四十秒で、嫉妬の炎に燃える斧達に捕まり、両脚には、その時に足枷から付けられた鉄球付の足枷が、ジャラジャラゴロゴロと、嫌な音を立ている。
その後の女性陣、主に鶴ちゃんと花月の拷も……追求には、我ながらよく耐えたと思う。双一朗の事情は話せない為、追求は長時間に及び、鶴ちゃんの鉄巫女に縛り上げられ…………もう、思い出したくない……
そんな訳で、俺の行動は家と店に制限されている。この鉄球を解除出来る足枷は、課の仕事で大通りのいるので、呼べば来るのだが、携帯も通信機も花月に没収されている。『何かあれば教えますから、大丈夫ですよ』と、俺の逃亡に釘を刺し、甘子はエリスとのデートと引き換えに、俺の監視役を引き受けている。
「……そろそろ、昼飯にしょう。甘子、休憩の看板出してくれ」
「はいよ〜」
今日は一日。軟禁状態を覚悟して、鉄球を引き擦りながら、俺は裏口を開け、家に歩いて行った。
◆
◆
瞼を照らす眩しい光に目を開けると、カーテンの隙間から差し込む太陽の光が私を襲う。顔をしかめてベッドから身体を起こし、部屋の中を見回す。
此処は、奥水学園第三女子寮八号室。隣のベッドでは、ルームメイトで双子の姉、夏目三右が、長枕に抱き付いてまだ寝ている。スヤスヤと音が聞こえそうな程、よく眠っている三右に軽くムカついたが、私はベッドから起き上がり、バスルームへ向かう。
バスルームでシャワーを浴び、ドライヤーで髪を乾かしながら鏡に映る自分の顔を見て溜め息を吐く。
「……はぁ〜 めっちゃヘコむわ〜……」
私は昨日のミスコングランプリに予選落ちした……
確かにグランプリに勝ち残った三十名は女の私から見ても容姿端麗、可愛さ満点だったが、決して負けていなかった筈だ! 蟹が言うには、『……三左さん、あの殺気ならAクラスの賞金首も逃げ出しますよ! 殺気じゃなくて笑顔見せて下さいよ!』らしい……
鏡に映る自分を見ながら、口角をちょっと上げ、笑顔を作ってみる……もうちょっとかな?……こんくらいかな?……こんなもんでええんか?……
──ガチャ……──
突然ドアが開く音が聞こえ、慌てて横を向くと、枕を抱えた三右が、バスルームのドアを開けたまま私の顔を見詰めていた。
「……何をしとるんや? 三左?」
「…………ちょっと、笑顔の練習や……」
三右は、バスルームへ入って来ると、さっさと服を脱ぎ捨てて、シャワーを浴びに行ってしまう。そして、シャワーの方から、アハハハハと、大笑いする三右の声が聞こえてくる。
「笑うな! ボケーェッ!」
「アハハハハハーおもろいわぁー! めっちゃウケるでぇ!」
クソ──ッ! めっちゃ恥ずかしいわ!
私が髪を乾かすまで、三右の笑い声がバスルームに響いていた。
部屋の冷蔵庫から、ミルクの瓶を取り出して、テーブルに置き、丸パンとミルクの軽い朝食を食べていると、シャワーを終えた三右が身体にバスタオルを巻いた姿でテーブルの正面に座る。
「三左は今日も、休みやったな?」
「ええ、午前はゆっくりして、午後は合コンよ」
私の返事を聞いて、三右は少し呆れ顔をみせる。
「……なぁ、三左の好みはどんな男なんや?」
「……そうね、まず経済力ね。その次は顔かしら?」
私がそう言うと、更に呆れた顔をした三右は、囓った丸パンを顔の前で左右に振っている。
「あかん、あかん。大事なんわ愛情や、この守銭奴! 金の亡者! 姉として恥ずかしいわ」
「……酷い言われ様ね? 法律上、男も十五歳から結婚できるから、相手の将来性も重要よ?」
「そんなん、旦那のケツ叩いて、ウラァ───っと、頑張らせたらええねん。相手を想う互いの気持ちが大事なんよ!」
「ケツ叩かれる旦那の気持ちも分かってあげたら?」
「叩かんでもええ様な、ガ───ッと稼ぐ働き者の旦那見付けたらええねん」
「それだと自分、考え方が同じやろ!」
「双子なんやで! 男の好みも似るやろ! 大体、旦那どころか彼氏もおらんのに言い争ってもしゃーないわ! ……それよりどうなん? 今日のメンバー? 捕まえられそうなんか?」
強引に話題の方向を変える三右に、軽く溜め息を吐き、業務課の副課長、三日町朋子の呼び掛けに寄る業務課のメンバーとの合コンだと教えると、三右は『ウチにはそんなん話し来てへん!』と、少しムスッとする。
日頃からの女子同士の情報交換に積極的な私と無頓着な三右の差だろう……
それに、三右は世話好きな性格の所為で男子にそれなりに人気がある。合コン行かなくてもチャンスは転がっている。
今回は、連休中忙しくて休みが取れない業務課が、せめて一日位、連休を楽しく過ごしたいと思って企画された合コンなのだ。私も昨日今日と、やっと休みになったので、休日をゆっくり楽しみたい。
朝食を済ませ、三右を送り出した私は、軽めのメイクをして、フリルブラウスとマキシスカートに着替え、腰のベルトに剣を吊し、ニットボレロに袖を通すと、鏡で髪を少し直し、朋子との待ち合わせ場所、大通りの業務課テントへ向かって歩いて行った。
大通りを暫く歩くと、観光客で一際賑わっている業務課テントが見えて来る。連休中のイベント運営や、観光客の相談、案内、苦情を一手に引き受ける業務課テントは、相変わらず忙しそうだ。
その中で課の仲間に指示を出しながら相談に乗っている朋子を見つけ、手を振ると、此方に笑顔を見せ、私を手招きしている。人混みを避け、テントの裏から回り込むと、朋子が駆け寄って来る。
「三左さ〜ん。来てくれてありがとうございます。まだ、京子さんや、小雪ちゃん達来てないんですよ。引き継ぎ、もう直ぐ終わりますからちょっと、待って下さいね」
そう言うと、朋子は近くの業務課のメンバーに小型の携帯モニターを渡し、簡単な説明をしている。私が近くの椅子に座ると、業務課の男子がコーヒーを勧めてくれたので、飲みながら朋子を待つ事にした。
今回の合コンは、各課の女性副課長五人と業務課の五人の十人で駅東のお店で行われる。女性陣のメンバーは、私と業務課の三日町朋子、防災課の福田京子、情報管理課の北川小雪、救護課の伊藤静の五人。去年のGWも同じメンバーでやったのだが、私は捕縛課で出動が入り、途中退席して悔しい思いをした。
……誰も彼氏が出来ず、今年も同じメンバーと言うのも微妙な話ではあるが……
そんな事を考えていると、テントの中にベージュの巻きスカートと薄桃色のニットカーディガンを着て、頭に茶色のネコミミを着けた京子が入って来た。
「三左〜、お待たせ」
「京子、なんでネコミミ着けてるの?」
「明日からパレードやレースでしょ? 観光客とか結構着けてる人いたわよ? 可愛いでしょ〜」
確かに京子のぽわっとした感じは猫みたいだし、気分屋の京子には似合っている。ニコニコしながら私の隣りに座り、茶汲み人形と化した業務課の男子から、渡されたコーヒーを受け取っている。
「あれ? まだ小雪と静来てないのね?」
二人でコーヒーを飲みながら待っていると、引き継ぎを終えた朋子が、私達の処へやって来る。
「すみません。お待たせして……まだ、小雪ちゃんと静ちゃん来てないんですか? おかしいな〜? 今から行くってメールあったのに……」
困り顔の朋子が、携帯を取り出し電話を掛けている。
「……あっ、小雪ちゃん。どうしたの?………えっ? 盗聴されてるから、場所は言うな?…………………うん、分かった。……彼処ね? それじゃあ、頑張ってね」
何やら物騒な会話だが、朋子が笑っていて、慌てていない処をみると、何か事情を理解しているのだろう。電話を切り、此方を見た朋子が私達に頭を下げる。
「すみません。小雪ちゃん、お兄さん撒くのに時間掛かるから、先にお昼御飯食べてて欲しいそうです」
「……一馬、何してるのかしら?」
「京子さん。北川課長、小雪ちゃんが去年も合コン出るの反対して喧嘩しましたから、仕方無いですよ……」
小雪は去年、兄であり、情報管理課課長の北川一馬を撒くのに監視カメラやGPSに偽情報をバラ撒く情報戦を繰り広げ、情報管理課のサーバーをシステムダウンさせたのだった……その余波で起きた事件に私は召集を受け、出動したのだ。流石は情報管理課の課長、副課長の争い……と言うか派手な兄妹喧嘩。去年の二の舞は勘弁して欲しい。
私達が、去年の事を思い出していると、テントの中にライトブルーのワンピースにナースキャップを着けた、救護センターの制服姿の静が、入って来た。
「朋ちゃん、遅れてゴメーン! 急患入っちゃってさー、イベント会場から直で来たよー! 夏目さん、福田さん。遅れてゴメンナサイ! あれ? 雪ちゃんは? まだ来てないの? 最後じゃなくてよかったぁー! もーっ! 雪ちゃんダメだなー。意気込みが、足りないよ! 夏目さんに福田さんの服、可愛いですよ! 静も今年こそ、彼氏と海行きたいから頑張らなきゃ! くぅー! 燃えてくるぅー! イタッ! 痛いです! 福田さん!」
テントに入るなり、止まらない一方的会話に、京子が静の頭に笑顔で手刀を落とす。
「静? 貴女が最後よ。小雪はシスコン馬鹿を撒いたら合流するわ」
「えーっ?! 私、最後なんですかー? 雪ちゃん今年も北川課長に追っ掛けられてんの? うわぁ──っ、マジ、シスコン馬鹿ですねー! サイテーですね! シッツコイから情管の課長なんですか? ソッコー助けに行きましょイタッ! 痛いです! 福田さん!」
「静、それで去年は三左が途中退場したでしょ? 小雪も分かってるから、今年は慎重にやってるのよ? 分かった?」
「ハーイ…… それで、福田さん。なんか作戦あるんですか? メンドクサイから夏目さんの処(捕縛課)に依頼しましょうよー! イタッ! 痛いです! 福田さん!」
京子と静のド突き漫才は何時もの事だが、確かに北川を撒くには何か作戦が必要だ。どうしようか考えようとすると、朋子が『大丈夫ですよ』と、私達に声を掛ける。
「去年の二の舞にはなりません。こんな事もあろうかと、小雪ちゃんと作戦は立ててきました。ルートBに変更です。とりあえず、ランチにしましょう」
そう言って、朋子の案内で私達はランチのお店を目指し、業務課テントを出て、大通りを歩き始めた。途中で朋子が、小雪に電話を掛け、何やら話している。合コンのお店は駅の東側、大型量販店の多い商業地区にある筈なのに、朋子は駅に向かわず、大通りを右に曲がり、商店街のアーケードに入って行く。
「……あの、朋子? 駅東に行かないの?」
不思議に思った私が聞くと、朋子はフフンと、笑顔を見せ話し始める。
「本当の会場はこっちの商店街のレストラン&バーなんですよ。どうやっても業務課から情報漏れしますから、小雪ちゃんと色々考えたんです。一旦、落ち着ける避難場所で合流して、ランチしながら、時間潰しが出来る場所を探すのは大変でしたけど、なんとか交渉しましたから大丈夫です」
敵を騙すならまず味方から……と言う事なのだろう。ニコニコしながら商店街を歩く朋子に、京子が話し掛ける。
「でも、情管課長の一馬なら監視カメラとか色々使って探すんじゃない?」
「フフフ、京子さん。カメラで私、撮ってみて下さい」
自信満々で笑顔を見せる朋子に、不思議そうに京子は携帯のカメラで朋子の写真を撮る。
「なっ?! 何これ!!」
驚く京子の携帯を私と静が覗き込むと、携帯のモニターには、朋子サイズの猫の等身大ヌイグルミが写っている………
「動画でも大丈夫ですよ。小雪ちゃん特製、妨害ウィルス『猫さん四号』です! 今頃、情管の監視モニターは着グルミ観光客で溢れてます。効果は三十分。その後は元の写真や映像に戻る優れ物です! さあ、避難場所が見えて来ましたよ」
そう言って朋子が、指差すその先には、落ち着いた雰囲気の木造のお店、『Sugar&Cool』が見えていた………
次回 連休(八日目〔後編〕)




