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銀拳  作者: 月草 イナエ
36/45

~33 連休(七日目〔後編〕下)

 最終審査に選ばれたエリス達の細かな衣装直しを終え、皆を送り出した俺は、ブースの中で片付けをしながら一息吐く。


「そろそろ、ブースの中の道具を運び出しますよ。二人とも邪魔ですから外のCBキャボーに乗ってて下さい」


 俺が声を掛けたのは、S&Cブースの隅で体育座りで座り込む二人。夏目三左とディーナ・レント。彼女達二人は、一次審査で落ちた……


「何時までそうしてるんですか? 仕方無いでしょ。観客席にいる友達に電話して一次審査の様子を聞きましたけど、夏樹あいつの好印象に残らないと、大抵は落ちてるんです。殺気じゃなくて笑顔見せれば良かったんですよ……」


「「女の戦いだったの!」」


 涙目になって睨まれても、こっちも困る。夏樹に電話を掛けて一次審査の様子を聞いてみたのだが、オーラが見える程の殺気を放つ出場者がいたそうだ。多分、この二人に違いない……せめて今の感じなら最終審査に残れたかもしれないのに……

 二人の事は放って置いて、片付けの終わったケースからCBに積み込んでいく。

 そして、CBの鉄巫女の隣りには撥水エプロンを着た翼が寝転がっている。翼は最終審査を棄権した。身体のラインにピッタリとしたワンピースが、翼の食欲に耐えきれず、コロッケを頬張った瞬間、肋骨の下の辺りから側面の縫い目が快音を立てて弾けた……

 やはり、市販品では伸縮性と耐久性が翼の胃袋に勝てなかった様だ。布地を切ったり折ったりして縮める事は出来ても、届かない布地を縫い合わせる事は俺にも無理だった……オマケに7カ月の妊婦みたいに見える為、ミスコンの観客への体裁もあり、翼は出場を諦めた。本人は食事がメインだったから、すんなりと棄権したのたが、その時、俺に向かって『志緒君、責任取ってね?』と言ってきたので、無言で脳天にチョップをお見舞いすると、『パパ……うっ、産まれる!』と悶絶していたが、何が産まれるのか想像したくない。

 俺達は五人でせっせと片付けをしながらケースを運び、掃除をして他のブースの人達に挨拶を済ませ、三人を連れて仕立てブースから撤収する。休憩所の六人掛けのテーブルの側にCBを停車し、俺達はテーブルに着くと、軽く飲み物を注文してモニターを眺める。モニターに映るステージでは巫女装束の女性が映っているので、今からならテーマ部門の終盤かグランプリを見ることが出来るだろう。


「やれやれ、今年も何とか終わったな。加藤さん、花月ちゃん。お疲れ様。手伝ってくれてありがとう」


「いえ、凉子さん。此方こそ貴重な体験でした」


「お疲れ様でした。凉子ちゃん」


「ねぇねぇ、凉子ちゃん。アタシ、グランプリ見に行っていいかな?  エリスさん達、生で見たいよ!」


「後は帰るだけだから行ってきな」


「うひょおぉーう! 行ってきまぁーす!」


 甘子が奇声を上げてミスコン会場へ走って行く。モニターでは、まだテーマ部門をやっているから、グランプリには十分間に合うだろう。月良ちゃんや鶴ちゃんはどうだったかな……鶴ちゃんのお母さんに関係者チケットをメールで送ったけど、夏樹に電話で聞いたら来てたみたいだし、茜も来てるらしいから応援は問題ない。

 まだ少し気になるも事はあるが、俺が心配しなくても本人が何とかするだろう。まあ、甘子ではないが、せめて表彰式位は見ておくか…‥俺がそんな事を考えていると、モニターではテーマ部門が終わり、いよいよ最後のミスコングランプリが始まる処だった。


(……さて、アイツは大丈夫かな?……)



     ◆

     ◆



 ステージの袖で銀髪を手櫛で軽く整え、ステージに歩き出す。照明のまばゆい光に照らされた明るいステージに立つと、観客席が闇に包まれ、ステージの端から切り取られた様に感じ、観客の視線が幾らか気にならなくなる。少し落ち着いてステージを見詰めると、最前列の薄暗い観客席からブンブンと音がしそうな程手を振る夏樹と甘子が見える。全く知らない人に見られるよりは安心できるが、鼻血笑顔の二人の応援では、ちょっと腰が引けてしまう……

 

『それでは、これより、ミスコングランプリ最終審査を開始致します。皆様、グランプリ最終審査出場者に盛大なる拍手をーっ!』


 司会者の声に視線を上げると、暗い観客席から拍手と歓声が沸き起こる。司会者に呼ばれ、最初にステージへ向かったのはカレンだった。カレンはステージの前に進むと、華麗なステップでダンスを踊り始めた。

 一次審査の結果が発表され、一番上にカレンの名前を見つけた時は驚いた。その後、S&Cブースに現れたカレンに理由を聞くと、盛大に文句を言われてしまった……

 カレン曰わく、『エリス様、御学友とお泊まりするのは構いませんが、連絡位してください! 前の学園より楽しいのは分かりますが、二日も無断外泊では私が困ります。志緒様から連絡があったので、事情は聞きましたが、今後は御自身で必ず連絡してください。折角作った御食事が無駄になります。あと……

 ──(中略)──

……私は本日、有給を取らせて頂いておりますから、御夕飯は作りません。適当に食べて下さい! …プン!』だった……

 後で機嫌を直さないと、今後の食事メニューが、【片手鍋】・【茹でる】・【焼く】の料理技能しか持たない私に作れるレトルト系か、卵系になってしまう。最近のレトルト食品は美味しいのだが、やはりカレンの料理には敵わない。何とかしなければ……

 次々と出場者が紹介されていく中、カレンの機嫌をどうやって直そうか考えていると、司会者の隣にぎこちない動きの杏子が立つ。


『No.24 鈴木杏子さんです。大通りのパン屋さん、アプリコットの店長さんです!』


「…はっ、はひっ!」


『それでは質問です。貴女が尊敬する人はどんな人ですか?』


『……わっ、私のパン作りの師匠の祖母と私が困った時にアドバイスをくれた人です!』


『……どんな人かと言う質問でしたが、どうやら杏子さんには尊敬する人が二人いる様です。それでは次の質問です。貴女に旦那様が出来ました。毎朝、行ってきますのチューはしてあげますか?』


「まっ、毎日・・してます!」


『……えっ?』


「あっ! …ちっ、違います! 間接…じゃなくて! 旦那様にですよね! 当然です!」


『………フリーだと信じていたのに……』


「……へっ?」


 ボソリと呟いた司会者の目元が、ライトの光でキラリと輝いていたのが見える。


『…いえ、あ、ありがとうございました……』


 少し元気の無い司会者に見送られ、杏子が列に帰ってくる。後、五人で私の出番になる。私の時にはどんな質問がくるのだろう。徐々に近づいてくる順番と共に緊張が増し、いよいよ私の出番になった。ステージの前へ進むと、観客席から大きな声援が聞こえ、それに負けない位の声で夏樹や茜、甘子が手を振りながら応援してくれている。3人に軽く手を振り、司会者の隣りへ並ぶ。

 

『それではグランプリ最後の出場者。No.30 エリス・アープさんです。それでは質問です。貴女の好きな異性のタイプはどんな人ですか?』


 いきなりこんな質問されても困る……さっきから、この手の質問ばかりだったから、ある程度は予想していたが、殆ど学園祭のノリだ……運営のメインが学園生徒の業務課だから仕方がないかもしれないが……どう言えばいいのよ……


「…あの、私を……私の事を信じて護ってくれる。強い人がタイプ……です」


『……貴女を護ってくれる強い人ですか? これは次の武闘大会が楽しみですね!』


 観客席から、『俺も出るぞー!』『優勝したら付き合ってくれー!』等と声が飛び、ステージの端から跳ねる夏樹と甘子から『『私が護るよーっ!』』と声が掛けられる。強いだけでも困るんだけど、こう言えば、四月の時の様な揉め事は起きないだろう。


『それでは次の質問です。貴女が想いを寄せる異性が行方不明になってしまいます。貴女はどうしますか?』


「………その人にとって、大切な事で居なくなったのなら、待ちます。……でも、連れ去られたり、私が待ちきれなくなったら、地の果てまでも探しに行きます」


『おおっ! 私も行方不明になってみたくなりました! ありがとうございましたー!』


 私が列に戻ると、ステージの左右の袖から男装部門とテーマ部門の出場者が現れ、最終審査の出場者がステージに勢揃いする。

 これから最終審査の結果が発表されるのだが、あの程度の質問やアピールで、その人物の、一体何が分かるのだろうか? 私は愛想が悪いので、余り良い印象は与えられなかったかもしれない。私から見ても印象の素敵な女性は何人かいた。私もあんな風に、もう少し女性らしさの向上に努力してみたい。


      ◆


 私と夏樹、甘子ちゃんが観客席から見守る中、ステージでは、最終審査の表彰式が始まろうとしていた。司会者の隣に主催者の衣料組合の会長さんが立ち、今年の参加が多い事や来年の抱負と、長ったらしい講評を語り終わると、表彰へ移っていく。


『只今より、各部門の表彰を始めます。男装部門、テーマ部門、グランプリ部門の順に行います。名前を呼ばれた方は前にお進み下さい。それでは男装部門。第三位、伊藤有さん。準優勝、佐々木楓さん。優勝、小林薫さん』


 男装部門の列から三人が前に進み、主催者からトロフィーと副賞を受け取っている。楓さんの時には、杏子さんやエリス、夏樹や甘子ちゃんが楓さんに一生懸命拍手を送っていた。私も拍手を送ったが、私の関心は次のテーマ部門で月良が何位に入るかだった……

 身内贔屓に見ても、『可愛い巫女さん』だし、現に神社での月良の御神楽は人気があるのだ。上位に入って来るのは間違い無い。そして、あの子の事だから、『茜お姉ちゃん。お義兄様と一緒に旅行に行ってきなよ』なんて言ってくれるかも……フフフ。


『テーマ部門。第三位、藤花鶴さん。準優勝、佐藤明美さん。優勝、氷馬月良さん』


「ヨッシアァ────ッ!! 優勝来たよ! 月良──! お姉ちゃんはプレゼント信じてるよ──!」


「うお──っ!! 沖縄三十万! 鶴ちゃ──ん! お母さん信じてたよ───!」


「茜さん、落ち着いて!」

「鶴ちゃんのお母さん! ステージ登らないで!」


 ステージの端に張り付いて月良に声を掛ける私の腰を掴み、甘子ちゃんが席へ戻そうとする。私の隣りでは、夏樹が同様に女性を必死に押さえつけていた。どうやら、あの人が鶴ちゃんのお母さんらしい。幾らか落ち着いたのか、写真を撮りながら鶴ちゃんへ手を振っている。真っ赤になって表彰台に立つ二人を見ながら惜しみない祝福を私は送り続けた。


「期待してるわよー! 月良ーっ!」


 興奮の冷めない私を余所に、テーマ部門の表彰も終わり、残すはグランプリの表彰となった。私が見ても、出場者の中ではカレンさんかエリスが入賞しているだろう。それだけの魅力があの二人の容姿にはある。


『グランプリ部門。第三位、エリス・アープさん。準優勝、水林三良さん。優勝、カレン・G・ルークさん。表彰台へどうぞ!』


 やっぱり、入っていた……まあ、当然だろう。隣りでは夏樹と甘子ちゃんが、一生懸命エリスとカレンさんに声を掛けていた。表彰台のエリス達に集中してる夏樹達を見ていた為、夏樹達の向こう側でステージによじ登る不審な人影に一番始めに気付く。隣りの甘子ちゃんの肩を揺すり、ステージに登った人影を指差すと、ライトに照らされた男を見た、甘子ちゃんの表情が一変する。


「……彼奴あいつ後田うしろだだ! エリスさんが危ない!」


「……後田って?」


「四月にエリスさんが│SKCうちの会長助ける為に殴った大学院生だよ!」


 そう言えば四月の始め頃に、エリスが誰かを助ける為に大学院生を殴った事を思い出す。甘子ちゃんが夏樹とステージによじ登り、表彰台に近付く男を追い掛ける。


「エリスさーん! 逃げてぇー!」


 甘子ちゃんの声がステージに響き渡った。


     ◆


 甘子の声にティアラを着けて貰う為に下げていた頭を上げると、ステージの端から刀を片手に歩いてくる長髪の男が、主催者の肩越しに見える。急いで表彰台から降り、主催者と司会者に注意を促す。慌て二人が表彰台から離れると同時に、五m程の間を空けて男が此方に刀を向ける。


「お〜っ。ヤッパリ美人だなぁ〜エリス・アープ! お前の所為で俺のプライドはボロボロだ! 俺の誘いを断りやがって! そんな女はミスコン何か出るんじゃねぇーよ! 俺に恥を掻かせた女はお仕置きが必要なんだよ! アハハハハヒャハァハハ! ぶるぶる震えて俺に従ってればいいんだよ! 糞がっ! ハヒャアハハハハハハハハ!」


 刀を軽く振りながら、私に向けて話し掛ける男をよく見ると、肌の色も悪く、瞳の焦点が定まっていない。口からは唾液を垂れ流し、とても正常な状態とは思えない。恐らく精神に作用する薬物を使っているのだろう……

 周りを巻き込む訳には行かない。ゆっくりと腰のバックに手を伸ばしてハッとする。武装は朝に志緒に預かって貰ったのでバックごと道具ケースに入れたままだった……行き場のない右手を何も無いワンピースの腰に軽く当て、左手で男を指差す。


「…何処の誰だか知りませんが、これ以上騒ぎ立てるなら容赦しません!」


「……俺を……知らないだと……ふざけるなぁ────っ! ……殺す……生きたまま! 少しずつ! 細かく! バラバラにしてやるぞぉ! エリス・アープゥ──ッ!」

  

 怒りに顔を歪ませ、刀を振り上げて来る男に、脚を僅かに引き、拳を構えると、男の後ろから夏樹の大盾が飛んで来る。盾が男の背中に当たり苦悶の表情を見せるが、それでも男は私に走り寄り、刀を振り上げた。


「クソがぁ─っ! エリシュぶひぃがぁ──っ!」


「ゴン!」

「カン!」

「メキッ!」

「ガン!」

「ドスッ!」


 鈍い音を立て、五つのミスコンのトロフィーが男の顔面へ二つ、鳩尾へ二つ、下腹部へ一つ、めり込んだ。男は踏鞴たたらを踏むと、刀を支えに片膝をつく。


「我が主に刃を向ける事は許しません!」


「クククッ……見苦しい男…」


警備課うちの奴ら減給だ!」


「ストライクですね」


「ちょっと鶴ちゃん! アソコは……」


 後ろを振り向くと、仁王立ちのカレンと口元を隠して忍び笑いをする水林、ムスッとした楓に、ニヤリと笑う鶴ちゃんと月良ちゃんがいた。


「……うっ、五月蝿い! 五月蝿い! 五月蝿いよ! 黙れよお前ら! コイツさえ! この女が! 俺の言う事に従えば良いん……うっ! うわあぁ──────! ……グフッ!」


 怒りに震え、メチャクチャに刀を振り回し、暴れだした男の動きが急に止まり、風に流れる木の葉の様に勢い良くステージの袖に引き擦り込まれて行く。男が引き込まれた幕の先にチラッと見えた腕には、見覚えのある腕輪とグローブがめられていた。


「あら? 志緒様は彼方でミスコンを御覧になっていたみたいですね?」


 カレンが男の消えた袖の方を見ながら呟いた。


「司会者さん。まだ表彰式が途中ですから、さっさと終わらせましょう」


 水林が表彰台の裏側に避難していた司会者と主催者に声を掛けると、二人は慌てて飛び出て来る。

 それから順調に表彰式は進み、水林とカレンが順番にティアラと曲がったトロフィーを苦笑いしながら受け取り、表彰を終えると、出場者全員が観客席へ手を振り、司会者がミスコンの終了を告げた。



 その後に受賞者の写真撮影やインタビュー等があったが、それらを済ませ、ミスコン会場から控え会場へと帰って来た私達を、涼子が嬉しそうに迎えてくれた。


「おっ? 帰って来たね。皆、お疲れさん。入賞おめでとう」


「…ありがとう。涼子」


「涼子さん。ありがとうございます。杏子も惜しかったね…」


「ううん。そんなことないよ、楓。私は五位だったけど…ほら、賞金五万円だぞ!」


「はぁ〜っ…茜お姉ちゃん、恥ずかしかった……」


「…私もお母さんが……」



     ◆



 ミスコン会場の通路の壁に寄り掛かり、俺が待っていると、来賓控え室からお目当ての人物が出て来た。通路にいる俺に気付くと、ゆっくりと俺の隣りにやって来て、ニッコリと微笑む。


「お待たせしてすみません。志緒」


「御時間は取らせません。立ち話もなんですから、歩きながら話しませんか? 水林さん」


 俺が待っていた相手は、ミスコングランプリ準優勝者、水林みずばやし三良みらだ。俺は通路を歩きながら、隣りを歩く水林に小声で話し掛ける。


「……全く、今年は出ないんじゃなかったのか?」


「仕方無いではないか? 衣料組合の会長からの依頼だ。出場者が多過ぎて、予算が足りなくなったと頼まれてな……」


「…なるほど、それで、賞金と副賞の回収に駆り出された訳か……」


「その通り。丁度、この新型スキンスーツの調子も試したかったしな……」


「だからってブースに一番乗りすんなよ。裾詰すそつめなんかいらねぇだろ?」


「何事も経験だ。どうだった? この脚線美は?」


「……スゲーな…本当の皮膚みたいだった。流石は情報管理課諜報部。去年より進化してんな……」


「潜入捜査仕様だからな。ボイスチェンジャーも去年より小型化してある。余程の事がない限りバレないだろう」


「……気を付けろよ。夏樹達にバレると大変だぞ。双」


「木を隠すなら森、と言う事だ。志緒、夏樹達は俺よりエリスや茜の妹に目移りしていた。まあ、大丈夫だ…」


「…俺は翼を出させない為にワンピース直さなかったのに………」


「それについては礼を言う。翼は気配とか仕草に敏感だから、最終審査では俺の事を不信に思われたろうな……」


「あのトロフィー投げた時もマズかったぞ? お前の棒術の中段突きのフォームだったしな。お陰で、誤魔化すのに俺が手を出さなきゃならなくなったんだぞ? 上手くやれよ……」


「クククッ……アレに全員の関心が集まって上手く誤魔化せた。悪かったな。次は気を付けよう」


 通路を歩きながら話す俺達に会場の出口が見えてくる。俺の話し掛けている水林三良の本当の名前は、森双一朗。俺の友人でクラスの軍師、鬱陶しい前髪のあの男だ……情報管理課の特殊部署、諜報部に所属している。主な任務がスパイ活動な為、所属等は機密扱いで普段から情報管理課の鳩羽色の制服も着ていない。双一朗が情報管理課と知っているのは極僅かな者だけだ。今回も特殊なスキンスーツで体型を誤魔化してミスコンに三年連続で出場している。


「双、報酬出るなら、後で奢れよ」


「…仕方無い……この格好でデートでもするか? グランプリ準優勝者とデート等、早々出来ないぞ?」


「却下だ! それよりもう直ぐ出口だぞ。少し離れろ。俺も余り目立ちたくない」


 そう言って少し脚を早め、ミスコン会場から出て、控え会場へ向かう。控え会場の休憩所ではCBの周りでエリス達が母さん達と何やら話しているのが見え、俺に気付いた花月が此方に手を振って俺を呼んでいる。俺が軽く手を上げた瞬間、逆の腕に双一朗が抱き付き、小声で耳元に囁く。


「クククッ…後は頼むぞ。志緒」


 そう言って俺から小走りで離れると、休憩所に聞こえるボリュームで『デート楽しみにしてますよー!』と言って、走り去って行った………

 普段は前髪に隠れて双一朗の嬉しそうに笑う顔は中々見れないが、双一朗あいつのあの目は、親猫が子猫に瀕死の鼠を与える目だ……狩りの仕方を教える為に………

 双一朗から休憩所の方へ視線を移すと、皆が俺を見ていた。




………とても怖い顔だった……



「……俺、先に帰るから後、よろしく!」


 俺は一目散にイベント会場の出口へ全力で駆け出した。双一朗のあの笑顔に恨みを込めて……




 


 

次回 連休八日目


 

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