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銀拳  作者: 月草 イナエ
32/45

 ~29連休(六日目〔下〕)

 縫製店Sugar&Coolの作業場で、俺は型紙と布地を合わせると小刀を滑らせ、細かな場所は鋏を入れて布地を裁断して行く。洋裁と和裁では扱う布も異なり反物の扱いはちょっと神経を使う。

 着物は外見は同じに見えても季節によって柄や布地を変えたり、裏地を付けたりと色々ある。大まかに四季に合わせて変えるが、俺が今作っているのはミスコン用の朱袴なので布は単色、厚手か薄手の二種類に分けられる。

 依頼人の性格を考慮して、厚手の布を選んではいるが、破れない事を祈るばかりだ……


 黙々と作業を続けていると、店と作業場の仕切りカーテンが捲られ、花月が顔を覗かせる。


「志緒さん、鶴さんと月良ちゃんが来ましたよ」


「ああ、│作業場こっちに通して、衣装合わせて見るか…」


 俺が言い終わる前にカーテンから月良ちゃんが顔を覗かせ、その上に鶴ちゃんの武装、鉄巫女の角がチラリと見えた。

 二人は棚の布地やマネキンなど周囲をキョロキョロ見ながら作業場に入って来る。


「ヤッホ〜志緒っち。作業場に入るの久しぶりだー!」


「お邪魔します。志緒さん」


「いらっしゃい。月良ちゃん、鶴ちゃん。何時もは神社に行って衣装合わせてしてるから作業場には久しぶりだね。鶴ちゃん、鉄巫女はそこの入り口に置いていいよ。ミスコンの受付は大丈夫だった?」


「大丈夫だったよ。以外と受付する人が多かったから時間掛かっちゃったよ!」


「ヘェ〜……ちょっと登録ナンバー見せてくれない?」


 そう言って月良ちゃんからレシートのような登録完了用紙とナンバープレートを受け取ると………



ーーーーーーーーーー

【5/3登録受付】

 020845m001182


○ミスコン登録完了控え○


 ミスコンテーマ部門

 〔可愛い巫女さん〕


登録No.000378


〔コンテスト衣装〕

 持ち込み ○

 レンタル ー


○氏名 氷馬 月良

○年齢 10

○職業 学生


【コンテスト会場】

 大通り中央第五会場


【コンテスト出場受付時間】

5/4 AM7:30〜9:00まで

【コンテスト開始時間】

5/4 AM10:00〜


*MGPコンテストの衣装は出場記念品として差し上げます。


*当日は大変混雑が予想されます。開始時間の30分前には受付を済ませ会場の控え室でお待ち下さい。


ーーーーーーーーーー



 「……千…百八十二の三…百七十八番!?そんなにいるのか!」


 受け取った登録控えを見て思わず声を上げる。作業場でスーツを縫っていた母さんも俺の声を聞いて針を指に刺している。


「…痛たっ!……ホントか志緒?!去年の五割増しだぞ!」


「…間違い無いよ!テーマ部門だけでも四百近いよ!去年は二百人位だったのに……」


 俺達の驚く声を聞いて月良ちゃんと鶴ちゃんが首を傾げる。


「志緒っち、そんなに吃驚してるけど、どうしたの?」


「そんなに多いの?志緒さん」


 俺と母さんは顔を見合わせ二人に驚いた理由を説明する。


「…あー…あのね、この紙の上に数字があるだろ?これがGW中にイベントに参加した人数なんだ。約二万人がこの六日目午前までのイベント参加者の総数でアルファベットがイベントの種類、その後ろの数字がイベントに参加する人数なんだ。コレを見ると、ミスコンの参加総数は約千二百人。テーマ部門は約四百人が受付してるのが分かるんだ」


「…去年は約八百人。グランプリが四百人、男装やテーマ部門が大体二百人ずつだったのに今年は既に千人超えてんのかよ!去年もサイズの修正や調整で忙しかったのに、あれ以上の人数なのか?そんなに美人がいる訳ねぇーだろ?」


「……母さん、明日の会場入り…何時にする?道具も去年より多く持って行かないと、途中で糸とか無くなるぞ?……」


「…う〜ん?…おい!甘子!甘子っ!」


 母親の呼ぶ声にカーテンから顔を覗かせて甘子が此方を見ている。


「なに〜涼子ちゃん?」


「今すぐ問屋街行って、いつもの縫い糸と仕上げ用の糸三箱仕入れて来な!」


「ハーイ!全力で行ってくるよ!花月ちゃん、レジお願い〜」


 甘子はカーテンから腕を伸ばし敬礼をすると、直ぐにカーテンの向こうに消えバタバタと走り出す音が響く。


「…やれやれ、明日は大変そうだね?…」


「…まあ、早く手が打てたから良いんじゃないかな?…月良ちゃん有り難う。お陰で明日の会場で慌てなくて済んだよ」


「気にしなくて良いよ〜志緒っち。それより早く鶴ちゃんの衣装合わせしようよ」


「そうだね。鶴ちゃん、月良ちゃんと着付け一緒にやりながら覚えれば大丈夫だね?」


「はい。よろしくお願いします」


 二人に衣装の箱を渡し、作業場の更衣室で衣装の説明をしながら着付けを始める。

 普段から神社の手伝いで巫女装束を着慣れている月良ちゃんの指導の元、スムーズに着付けは進み、二十分程で可愛い巫女さんが出来上がる。


「どうだい?志緒っち」


「二人共良く似合ってるよ。鶴ちゃん、襟とかお腹はキツくない?…袴の丈は大丈夫みたいだね」


「はい。でも、ちょっと着慣れてないから少し苦しいです…」


 少し照れながら初めて着る巫女装束に、姿見の前をクルクルと回る鶴ちゃんに着付けの具合を確認していると、母さんも仕事の手を休め、二人の巫女姿を眺めている。


「中々似合うじゃないか?今の内に記念写真でも撮ったらどうだい?明日は忙しいからそんな暇無いからね」


「おーっ!良いねー志緒っち、頼むよ!」


「お、お願いします!」


 甘子が店の試着撮影用に使っているカメラを使い、二人の写真を撮る。俺や母さんとの写真も撮っていると、甘子が箱を抱えて帰って来たので、│ついでに両手に巫女で御満悦の甘子の写真も撮ってやった。


 その後二人は着替えて普段着に戻ると、衣装箱を作業場の棚に戻す。明日は此処から着替えて俺達と会場入りするそうだ。俺達家族は会場の着付けや、手直しをするブースに朝一の受付時間から待機する予定にしているので、参加者が受付をする前に二人の着崩れや手直し位は出来るだろう……


 俺は袴の製作に集中し、鶴ちゃんと月良ちゃんは作業場の隅で俺と母親の作業を興味津々で見詰めている。まるで初等部の社会見学みたいで、見られながら作業するのも意外と緊張して、普段通りに作業をしているつもりでも、何だか肩が凝る。それを誤魔化す為に軽く肩を回しながら二人に話し掛ける。


「そう言えば、俺達が帰った後、皆はどうしたの?」


「大剣の提案で太一さんの家に行きましたよ。『何か貰えるかもしれない』と、言ってました」


「ハハハ…確かにそうだな。おばさんなら喜んで何か貰えるかもね?」


「志緒っちの方は依頼人どうだったの?」


「ちょっと変わった依頼人だったけどね………」


 そう言って、袴の仮縫いをしながら二人が来る前に帰った依頼人の事を話し始める……



     ◆

     ◆


 

 赤毛のポニーテールに大きめの瞳、細身の身体にブルーのボーダーシャツとレザーパンツ姿でテーブルの正面にふんぞり返ってソファーに座る彼女は、少し嫌そうに喋りだす。


「私の名前はディーナ・レント。中央学園救護課、中等部三年。五月から、第十種特別大使として奥水学園へやって来た。任期は二年。この二人は護衛のメル・スミスと伊藤ノボル、警備課の高等部二年だ」


「メル・スミスです」

「伊藤ノボルです」


 レントに紹介された二人は揃って頭を下げる。


(……第十種特別大使…大使とは名ばかりの学園で問題行動が多い奴に付けられる業務課の島流しの称号だったよな?……本人に意味は知らされていない筈だ……)


 俺の彼女を見る視線に気付いたスミスと名乗った長身の男が、レントに気付かれないように口に軽く人差し指を当てる。 


(……黙ってろって事か……彼が監視役だな?…)


「改めまして、奥水学園捕縛課、高等部一年の佐藤志緒と申します。派手に暴れたようですが、今回の御用件は?」


 俺の言葉に『フンッ』っと鼻を鳴らしてそっぽを向きながらレントは視線だけを此方に向けて話し始める。


「まあ、観光だよ。色々見たり、聞いたりね…それに、この店は中央学園でも人気が高いんだよ。噂通りか来てみたの……昨日、数点買ってみたけど、噂通りだったよ…折角だから明日の衣装も頼もうと来たんだよ」


 俺を見る彼女の態度は鼻っ柱が高く、不機嫌そうにしているが、声の感じが嬉しそうなので褒め言葉と受け取る事にした。


「今後とも、│御贔屓ごひいきに……それで、ミスコンテーマ部門の衣装の御依頼でしたね?」


 レントはソファーに身体を預けたまま、顔を此方に向けて俺を見ると、ニヤリと笑みを浮かべる。


「ああ…でも、その前に軽く手合わせしないか?私は実力の無い奴は信用しないんだ」


「……先程、認めて頂いたような気がしますが?」


「それは店の事で、アンタ個人じゃないからな?」


「…貴女の服を作るデザイナーは大変ですね……」


 護衛の二人が『またか…』と困った表情を浮かべる処をみると、いつもの事なのだろう?この性格で救護課では、治療より先に相手に闘いを挑みそうだ……


「…分かりました。仕事も押していますから採寸も済ませますが、宜しいですか?」


「随分、余裕だな?そんな暇なんか与えるかよ!」


 彼女は俺の言葉に苛ついた表情で勢い良くソファーから立ち上がると、腕を組んで此方を睨んでくる。


「それでは、此方へ」


 俺は席を立ち、三人を連れて作業場を通り勝手口から中庭に出る。

 一軒家が半分程建つスペースの中庭の中央に俺とレントが五m程離れて向かい合い、護衛の二人は勝手口の側に立ち、此方を値踏みするかの様に見詰めている。


「それでは始めましょうか?」


「おい!武装は装備しないのか?」


 グローブ型の武装を両手に着けた彼女は、店の売り子姿のままの俺に驚いて口を開く。


「貴女も見た処、丸腰に見えますから…対等にしなければ信頼関係も築けませんし、個人として信用して欲しいので…」


「…フンッ、負けた時の言い訳にすんなよ?……いくぞ!」


 猛然と飛び出し、一瞬で俺との距離を詰めると、滑るようにしゃがみ込み、右回し蹴りで俺の脚を狙う。

 軽く飛び上がり回し蹴りを│かわすと、彼女はそのまま一回転し、宙に浮く俺に、蹴りの回転力を利用した下段から上段に変化させた右回し蹴りを打ち込んでくる。

 空中で身体を捻り何とか蹴りを躱すと、今度は左の後ろ回し蹴りが飛んで来る。

 まるで│独楽こまの様に回転しながら打ち出される連続蹴りから一m程跳び│退しさる。


「ふーっ!中々やりますね?」


「ケッ!今の躱しといて良く言うぜ!」


 両腕を軽く構え、次の攻撃に備える俺に彼女は闘争心剥き出しの笑顔を見せる。


「今度は此方から行きますよ?」


 そう言って俺はゆっくりと彼女に歩き出し、二mまで近づくと素早く右の拳を突き出しながら彼女の顔前で│てのひらを開き、視界を半分遮った瞬間、左右に身体を大きく振ってしゃがみ込む。

 視界を遮られ、掌の隙間から見える俺に左右のフェイントを掛けられた彼女は俺の姿を見失い、慌てて後ろを振り返る。

 素速く立ち上がり彼女の無防備な首に人差し指と中指を軽く押し当てる……


「動けば斬る……」


 ビクッと僅かに震えた感触と肩の緊張が、首に触れた指先から彼女の体温と共に伝わる……




「………│まいった…」


 僅かな間を置いてレントは声を絞り出す。

 その声を聞き、首から指先を離すと、彼女の深い深呼吸と一緒に肩の緊張も解けて行く。


「……強いね」


 ムスッとした顔で振り向き、俺の触れた首の辺りを軽く揉みながらレントが呟く。


「貴女も強かったですよ?ミスコン前に綺麗な肌に傷を付ける訳にはいかないので│如何様イカサマ使ったんですよ?お陰で採寸が出来ませんでした。早く店に戻りましょう」


 歩き出す俺を見ていたレントは、肌を誉められた事か、採寸まで終わらせなかった事に│自尊心プライドも少しは満足したのか、表情が幾分和らぐ。


「…チッ、仕方ねーな…認めてやるよ。採寸でも何でも好きにしていいぞ」


 そう言って俺を追い越し勝手口にスタスタと歩いて行く。護衛の二人が俺に向けて軽く頭を下げている処を見ると、どうやら此方の評価も合格点を貰えたようだ。


 その後は作業場で、採寸を行い。巫女装束を見せながらデザインの確認をする。

 大まかな変更は特に無く。丁度、茜の巫女装束と寸法が同じだったのだが、袴の丈が足りない為、袴だけは新しく作る事になった。

 明日の会場で最終調整をする事と、着付けもあるので早めに会場に来るように伝えると、三人は店を後にした。


   ◆

   ◆



「…へぇーそんな事があったんだー志緒っち」


「スピードフラッグで聖さんがボコボコ殴られてた相手ですね?志緒さん」


「…ボコボコって……│あいつは太一と同じで女性に手を上げない主義なんだよ。鶴ちゃん…」


 今朝、店にやって来た依頼人、ディーナ・レントの話を二人に聞かせながら袴の仮縫いを終わらせると、軽く持ち上げ全体のバランスを確認し、修正を入れていく。

 この調子なら夕方までに袴は仕上がりそうだ。甘子のデザインしたスーツの縫製もあるが、母さんもスーツを順調に製作しているから、何とか今日中に依頼を終わらせる事が出来るだろう。

 しかし、今年のミスコンは随分参加者が多い……メインのミスコングランプリも参加者が多い筈だ。グランプリ用のワンピースは衣料組合で五百着は準備していたが、恐らく足りなくなる。組合の決まりで大型量販店には│かなわないが、S&Cでもグランプリ用にワンピースを二十五着納品している。それが三人で製作依頼期間中に店の仕事の合間に製作できた精一杯の納品量だった。

 グランプリのワンピース配布は会場受付の後だったから、イベント運営の業務課が、今頃大慌てしながら時間までに不足分を何とかするだろう。



「あの〜志緒さん。お昼ご飯一緒に食べませんか?」


 俺の作業を見ながら鶴ちゃんが昼飯の提案をしてくる。作業台から視線を上げ柱時計を見ると、十一時半を少し過ぎた処だ。そのまま顔を横へ向けると、二人は此方に笑顔を向けている……

 

「…あ〜鶴ちゃん。甘子に休憩中の看板出して、昼飯準備してくれって言ってくれない?勿論、二人の分もね?俺も、もう少し縫ったら家に行くから…」


「はい!伝えてきます!」


 鶴ちゃんが笑顔でカーテンの向こうへ消えて行くのを見送り、俺は再び作業へ戻る。


「…ぷぷっ、志緒っち、そこはキメ顔で『二人で食べに行くかい?』だよ〜」


「…女心が分からん奴だな?」


 月良ちゃんと母さんにダメ出しされるが、花月の護衛もあるし、この面子で誰かを置いて行くと、後で文句を言われるのは確定している。

『スピードフラッグで入賞したから、外じゃ絡まれて落ち着いて食べれないよ』と、言い訳を言って作業を進めるが、クスクスと笑う二人の笑い声が作業場に響いていた……




 月良ちゃんと鶴ちゃん、花月と佐藤家の三人でリビングに集まり昼食を取りながら、明日の集合時間や去年のミスコンの話をしていると、テーブルに置いた俺の携帯から『志緒さ〜ん。千秋ですよ〜出て下さ〜い』と、千秋さんの声が聞こえてくる。


「……何ですか?ソレ?」


 鶴ちゃんが冷たい視線を俺の携帯に向けている……


「…今朝、氷馬で朝飯の時に花月が話してたろ?甘子が俺の携帯│いじってたって…」


 そう言いながら携帯を掴み通話ボタンを押す。


『もしもし、千秋です。差し入れをお持ちしてお店に来ましたが、休憩中で閉まっています。御自宅ですか?』


「ええ、家の方にい……」

『直ぐに向かいますわ!』


 返事をする前に通話が切れ、玄関のチャイムが鳴り出した……

 リビングを出て玄関を開ける

と、重箱を抱えた千秋さんが笑顔で立っていた。


「早いですね…」


「志緒さんの家の前で電話を掛けましたから!太一さんのお店の前でお祝いのお餅を│きましたので、おば様から、お裾分けだそうです」


 千秋さんを家に入れリビングへ通すと、千秋さんは母さんに三つ指をついて挨拶をし、俺の隣に座りテーブルへ重箱を広げる。

 重箱の中には餡餅、枝豆をすり潰したずんだ餅、沼エビを│まぶした海老餅が重箱に入っている。


「搗き立てですから、柔らかいですよ?」


 そう言いながら餡餅を一つ箸で摘まみ、手を添えて俺の口に近づける。


「早くしないと餡が垂れてしまいますわ……あ〜ん…」


((…バキッ!!))


 正面に座る鶴ちゃんと花月の箸が折れた音が俺の耳に響くが、太一の家からの振る舞い餅では喰わない訳にはいかない……差し出される餡餅を頬張り千秋さんの満足そうな笑みを見ながら咀嚼していると、正面から二人の声がする。


「「志緒さん、私もお餅食べたいですけど箸が折れました。食べさせて下さい!」」


 俺の正面ではテーブルから身を乗り出し、目を閉じ口を開けて待っている花月と鶴ちゃんの姿があった……




 千秋さんが加わり、ちょっと賑やかになった昼食も終わり、俺は再び店の作業場で縫製作業に追われていた。

 鶴ちゃん達は大通りのイベントを見に行き、甘子と花月は店番。作業場の隅には椅子に座り、俺と母さんの作業を見学する千秋さんが興味深く此方を見詰めている。

 

 俺は袴を縫いながら千秋さんに話し始める。


「千秋さん、太一の家はどうでした?」


「…フフフッ…楽しかったですよ。太一さんの家は穀物店なのですね?色々な種類のお米や麦の穀物があって驚きました。おば様は太一さんの優勝より告白の方を誉めていましたわ。昨日はご近所の商店の方達と宴会を開いたそうです。私たちが来た時はお餅を搗く準備をしていて、子ども達がいっぱい来ていたので太一さんと法子がからかわれていましたわ…フフフ」


 子ども達にからかわれる太一と加藤課長が困る姿が目に浮かぶ。袴の縫い目を確かめながら俺は少し気になる質問をする。


「……千秋さんは中央学園の救護課課長をご存知ですか?」


「…ええ、昨年、三学園合同課長会議で会ったことはありますが……」


「朝に依頼が入ったのは中央学園救護課の学生なんです。第十種特別大使として奥水学園に飛ばされたみたいですが……」


「…内情がお知りになりたいのですね?……救護課に連絡は無かったので此方で救護課に所属する事は無いと思いますわ。……第十種…気になりますわね…」


「すみませんが、お願いします」


「志緒さんのお願いなら、引き受けますわ。何でも良いのですよ?デートでも……フフフ」


「…ほぉ〜中々積極的なお嬢さんだな?ギブアンドテイクで受けたらどうだ?志緒」


「あら、涼子ちゃんのお許しがでましたわ!それでお引受けしますわ。志緒さん」


「…クククッ…女に恥を掻かすなよ。志緒」


「……………」


「それでは早速調べて来ませんと!失礼します。涼子ちゃん…志緒さん、楽しみにしていますわ」


 そう言って千秋さんは嬉しそうに作業場から店の外へ出て行った。



「……母さん、余計な事言うなよ…」


「お前は考えが固いんだよ……変に女を惹きつけるのはアイツにそっくりだけど、もう少し柔らかくなんないかね〜……まだ引き摺ってんのかい?」




「………………」



「………やれやれ…」





 母親のため息が零れ、作業場には布に糸を通す静かな音だけが響いていた……………


 

 

 

 

 依頼品の製作を黙々と続けた俺は十六時には袴を作り上げ、母親と甘子の三人で残りのスーツも一気に縫い上げると、二十時を少し過ぎた頃に依頼された三点を完成させる事が出来た。

 それから、明日の準備を整え、花月の作ってくれた夕食を食べて風呂に入り部屋に帰ると二十二時を過ぎていた。

 明日は六時半に鶴ちゃん達が来るし、七時には会場に出発する予定なので早めに寝ようとしたが、目が冴えて眠れなかった。

 どうせ寝れないならと、部屋の窓を開け、星でも見ようと夜空を見上げると、机の方から俺を呼ぶ声がする。


 『…志緒…志緒…志緒…志緒…志緒…』



 それは携帯から聞こえるエリスの声だった………




 


 


次回 連休(七日目〔前編〕)


 

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