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銀拳  作者: 月草 イナエ
31/45

 ~28連休(六日目〔上〕)

 障子の隙間から差し込む朝日の眩しさで目が覚めると、俺の目の前には聖の顔が迫っていた。


「…ん〜楓さ〜ん〜」


「うおぉらぁぁーっ!」(メキッ!)


「ぐはぁーっ!」


「…ハア…ハア〜あぶねぇ…」


「…朝から五月蝿いぞ、志緒」


「痛いよ〜」


「お前が寝ぼけてキスしようとすんのが悪いんだよ!」


「それは目覚めが悪いな…」


「お前あっちの布団だったろ?寝相悪過ぎだ!」


「寝てるからわからないよ〜」


 何故、朝からこんな事になっているかと言うと、昨日の祝勝会が告白おめでとう会に変わり、一時間が経過した頃、お祝いだからと春美さんに御神酒(買ってきた酒)を勧められたからだ……

 現在の法律上、十五歳から成人扱いなので婚姻や飲酒喫煙などは認められているが、飲酒は学業優先なので休日のみになっているし、外を歩けば全員が武器を装備しているのだ。緊急時に動けないと話にならない為、花見や特別なイベントで無い限り、殆どの人はプライベートエリアでしか飲酒はしない。その所為もあって、春美さんは、お祝いだからと勧めてくれたのだ。

 まあ、このメンバー相手に家に乱入して喧嘩を吹っ掛ける猛者が居るとは思えなかったので安心して飲み始めたのだが………




    ◆




「…志緒、油断しすぎよ!全然駄目よ!隙をみせるから、チューチューチューチューキスされるのよ!分かってるの?…黙ってれば良いんじゃないの!ねぇ、聞いてるの?志緒は優しいけど相手を寄せ付けない強さも必要なの!ちょっと、聞いてる?もう、しょうがないな〜」


 エリスが居間の五月人形に説教をしていた……




「…ねぇ、志緒?エリスちゃん何か変だよ〜」


「…確かに何時もより喋っているな?」


「私とクラスに居る時より滑らかに喋ってるかな?」


「翼、そうなのか?普段は人見知りで緊張してるから、余り喋らない分、酒の力で│饒舌じょうぜつになったのか?俺と間違えて人形に愚痴ってるから、絡まれそうで近寄りたくないなぁ……暫くあのままで良いんじゃないか?」


「…まあ、あっちよりはマシだな?」


 そう言って双一朗と聖が視線を向ける先には、春美さんと茜が、秀元おじさんと友一にお説教中だった……

 二人とも並んで正座させられ、修行の成果や妻に対する扱いについて、お叱りを受けている。

 その二次被害を回避する為、俺達は座敷の奥から最も離れた居間のテーブルに座り、御神酒を四人でチビチビ飲んでいた。

 そして、座敷の真ん中では太一と加藤課長を千秋さんと花月、杏子さん達が囲み、朝花さんの占いが始まっている。笑顔の二人を周りが喜んでいる処を見ると、中々良い結果が出ているらしい。

 俺達は、そんな太一を眺めながら│御猪口おちょこを空けていると、居間にパジャマ姿の月良ちゃんと鶴ちゃんが入って来る。


「はぁ〜広いお風呂でした」


「志緒っち、ジュース頂戴!」


「あれっ?鶴ちゃんは今日、泊まっていくの?」


 ジュースを二つグラスに注ぎテーブルに置くと、二人は並んで座り、軽く一口飲む。



「ええ、月ちゃんに、『もう遅いし折角だから泊まってってよ〜』と、誘われたので…」

 

 少し恥ずかしそうに答える鶴ちゃんに月良ちゃんが笑顔を向ける。


「だって、四月から同じクラスになったんだから、友達ならパジャマパーティーは基本だよ?志緒っち達も、泊まってけば?前は皆で泊まったのに、茜お姉ちゃんと友一│義兄にいさまが結婚してから泊まってないでしょ?」


「俺達だって、新婚さんには気を使うもんね〜双」


「邪魔すると、茜が怖いからな……」


「…前に友一の晩ご飯食べたら怒られた……」


「…う〜ん、今日くらいは泊まっていくか?……あっ、でも、俺は花月がいるから無理かな?」


「監視対象の花月さんも泊まるなら、問題無いですよね?志緒さん、私が聞いてみますよ」


 そう言って鶴ちゃんは花月の処へ歩いて行く。


「花月がいいなら、泊まるけど…」


「そうしなよ。鶴ちゃんなら手段選ばないから大丈夫だよ。気絶させても泊めるよ。朝御飯出すよ〜食材余ってるし」


「私、朝御飯食べる!」


「…翼、この前みたいに人の分まで食うなよ?」


 そうして、花月に交渉する鶴ちゃんを見ていると、他の女性陣も頷いて此方を見ている。戻って来た鶴ちゃんは笑顔で親指と人差し指で丸を作る。


「皆さん、泊まるそうですよ」


「皆さん?花月だけじゃなくて全員なの!?月良ちゃん大丈夫?」


「毎月集会とか色々あるから慣れてるし、│居間ここと│座敷あっちに布団敷けば大丈夫だよ。寝ない人もいるだろうし、隅に準備しとけば問題無いよ〜」


「月良ちゃんしっかり者だね〜」


「そんな事ないよ〜聖さん、お布団運ぶの手伝って下さいね?」


「うん。いいよ〜」


 そう言って、聖と月良ちゃんが座敷の押し入れに歩いて行く姿を見た双一朗が感心している。


「中々優秀な人材だな?流石、氷馬の末っ子。見事な人心掌握術だ」


「あれは聖だからだろ?」


「一番動かし易い人間を即座に見抜くのも才能だ。聖は普段『聖さん』なんて呼ばれた事など無いからな?」


「確かに無いな…」

「無いね…」


 月良ちゃんの指示で布団を運ぶ聖を見ながら、俺達はまた御猪口を空けていった。

 その後は占いの終わった太一と女性陣を交えて飲み始め、俺が眠りに就いたのは深夜を過ぎた頃だった……




     ◆



「はぁ〜眠いな…」


「…あれっ?太一が居ないよ〜?」


「太一なら縁側だ。朝方まで起きていたようだが…」


 俺と聖は先に寝たが、双一朗と太一は朝方まで起きていたようだ、眠い目を擦りなから障子を引くと、縁側に座り境内を眺めている太一がいた。


「何だ?寝てないのか?」


「…ああ、志緒…嬉しくて寝れなかった……」


 頬を緩ませ、境内を眺めていた太一は、立ち上がり身体を伸ばすと、空を見上げる。


「…良かったな、太一」


「ありがとう。志緒」


 二人で笑みを浮かべ、軽く拳を合わせる。

 俺は朝食の準備をしようと、台所へ歩いて行くと、既に月良ちゃんと春美さんが、台所に並んで味噌汁や玉子焼を作り、翼が食器を準備している。


「春美さん、おはようございます。翼、月良ちゃん。おはよう。手伝うよ」


「おはよう!志緒っち」


「志緒君、おはよう」


「全く、ウチの娘達は起きて来ないねぇ〜?それじゃあ…そこのお浸し頼むよ」


 そうして四人で朝食の準備をしていると、鶴ちゃんが台所へやって来たので、翼と皆を起こしてテーブルの準備をするようにお願いして、俺は春美さんの手伝いをする。

 暫くすると、支度を終えた花月が翼と台所へやって来て挨拶をすると惣菜を運び始める。

 俺も調理を終えて、味噌汁の鍋を座敷へ運ぶと、まだ眠そうに、ぼーっとしている女性陣が、目に映る。



「…大鐘?大丈夫か?」


「…ちょっと飲み過ぎましたわ……」


「あ〜〜っ、頭痛〜い。志緒〜お味噌汁ちょうだぁ〜い」


「朝にゆっくり起きるの久しぶり〜何時もパンだけど和食も、いいよねぇ〜」


「私もゲートの仕事があるから、朝はほとんど杏子の処で済ますからな…」


「…アンタら朝早いもんね、私は何時もより早いから、まだ眠いわ……」



「………気持ち悪い…」



 杏子さんと楓さん、加藤課長は普段と変わらないが、他は本調子ではなさそうだ。そんなに飲んでいない筈のエリスが一番辛そうだ。


「エリス、大丈夫か?」


「……うん。ありがとう、志緒…もう少しすれば大丈夫」


 惣菜を並べながらエリスに声を掛けると、弱々しく返事を返してくる。


「ご飯は無理でも、味噌汁くらい飲めば、幾らか楽になるぞ」


「……うん」


(…この調子じゃ、午前中は余り動けないな……午後になれば大丈夫かな?)


 そう思いながら、惣菜を運び終えると、ご飯や味噌汁も配り終えたようで、皆で朝食を食べ始めた。

 


 昨日は賑やかだったメンバーが二日酔いや睡眠不足の所為で、比較的静かに朝食は始まっていったのだが、俺が玉子焼きを頬張り、味噌汁に手を伸ばした時、胸のポケットから突然、『妹だよ!妹だよ!妹だよ!甘子だよ!』と変な声が聞こえてくる。


「うわっ!?なんだコレ?」


「…志緒?随分、変わった着信だね〜?」


「こんな着信音知らないよ!」


「甘ちゃん、この前、志緒さんの携帯│いじってましたよ?」


 鳴り響く着信音に、俺が携帯を見詰めていると、花月が│甘子かんこの仕業だと教えてくれる。

 …相変わらず│ろくな事をしない妹だ……


「取り敢えず、出てみたらどうだ?」


 『妹だよ!』と、連呼する携帯を渋い顔で見詰め、出るか出ないか悩んでいる俺に双一朗が声を掛ける。

 その顔はどう見ても面白がっているので、余計に出たくなくなったが、このままにしておく訳にもいかず、渋々通話ボタンを押す。


「…あ〜、俺だ…」


『あっ、出た!兄貴、すぐに帰って来てよ!依頼が入ったの!今年は去年程忙しくないからホッとしてたけど、やっぱり飛び込み依頼が入ったの!ミスコンの│衣装ヤツが三点!私と涼子ちゃんで一点と二点目のデザインまでやるから、兄貴に二点目の縫製と、三点目作って欲しいの!』


「何で断らないんだよ、今からデザインやってたら明日のコンテストに間に合う訳無いだろ?」


『私達のは男装部門だから、簡単なスーツなの!兄貴の分のテーマ部門も簡単な衣装だから涼子ちゃんが引き受けたって言ってたよ?』


「…甘子、今年のテーマ部門のテーマ知ってるだろ?」


『当たり前だよ、知ってるよ![可愛い巫女さん]だよ!』


「そうだよ![可愛い巫女さん]だよ!巫女は和装なんだよ!S&Cは基本的に洋装なんだ!だから、今年は依頼が少なかったんだよ。俺だって巫女装束や和装は毎年数着製作しているけど、意外と時間掛かって大変なんだよ!」


『それは兄貴が、帯とか袖口にする刺繍に凝ってるからでしょ?毎年氷馬神社に納品してるし、今回は、刺繍無しだから、楽勝だよ!』


「阿呆!シンプルなのは誤魔化しが効かないんだよ!布の選別から袖の長さ、袴の丈まできっちり採寸しないと、ぴったり収まらないし、歩き方とか慣れてないと違和感がどうしても出て来るんだよ!」


『兄貴が、巫女さんマニアなのは分かったから、依頼人八時半に来るからよろしくね!』

(…ブツッ!……ツーツー)


「誰が巫女さんマニアだ!……クソッ、甘子の奴、切りやがった……」


 通話の切れた携帯に文句を言い、顔を上げると、女性陣が此方を見ている。


「…皆…どうしたの?」


「ねぇ、志緒っち?今年のミスコン、巫女装束なの?」


「…志緒さん、巫女マニアとは本当ですか?」


「…志緒?何でミスコンの事言わなかったの?」


「おい、志緒?今年のミスコンの内情言ってみろ。知ってんだろ?」


 俺を見る女性陣から月良ちゃんと鶴ちゃん、茜と春美さんが少し威圧感を感じさせる声で疑問を聞いてくる。千秋さんや杏子さん達も興味があるのか此方を見ながら頷いている。


「…まず、俺は巫女マニアじゃ無いからね。鶴ちゃん、変な目で見ないで……」


 そう言ってから、ミスコンの状況を話し始める。


「…GW七日目のイベント、[奥水ミス・コンテスト]は毎年開かれ、スピードフラッグと並ぶ、GW期間中の人気イベントだよね?今まで目立たない女の子がコレに出場して、観光客の男性に見初められて結婚した。なんて話が結構あるから、一種の花婿募集イベントなのは知ってるでしょ?」


 俺の問い掛けに、学園に転校して来て、このイベントを詳しく知らないエリス以外の女性陣が頷く。


「そうなると、沢山の男性に見て貰うにはコンテストに出場して目立つか、上位入賞すれば簡単だから、この時期はこの街の美容院や服を扱う店が大忙しなんだけど…イベント内容に因って売り上げに差がでるから、どの店もある程度儲かるようにミスコンの部門を割り振りする事に衣料組合で決まっているんだ。メインのミスコングランプリは、ワンピースで統一してるし、男装部門は人に因って和装、洋装と似合う衣装が違うから、どちらか決められない。だけど、テーマ部門は違う。去年はテーマ部門が洋装系の舞踏会だったから、今年は和装で巫女装束なんだよ。衣装は時間的余裕がないと数が準備出来ないから、四月の始め頃から衣料系の店のポスターとかモニターCMでミスコンの広報やってたよ?知らなかったの?」


 俺の言葉に朝花さん以外の女性陣が目を逸らした……


「…当然だよ。皆、知ってたよね?ウチの占い館に来る女子達なんか、『どれに出場すれば上位に入れますか?』なんて、占いに来る│も居たよ〜アハハハ………あれっ?何で皆、静かなの?」


「…もっ、もちろん知ってたよ〜パン屋のお客さんも話してたよ」(…知らなかったーっ!)


「ゲートの職員も話してたな…」(…興味なかったし)


「でも、何で私達に教えなかったの?」


「茜、神事を行う本職に失礼だろ?それに、今回のテーマ部門は[可愛い巫女さん]なんだぞ?第一、茜と春美さんは無理だよ……ミスコンだから結婚してる人は出場出来ないし、美和姉や朝花さんは[可愛い]って感じより[綺麗]な方だからテーマに合わないだろ?」


「…フフッ、分かってるわね。志緒」


「おおっ!綺麗って言われたの初めて!志緒君、鮭食べる?」


「確かにそうだねぇ、なら│氷馬神社うちからは月良が出るかい?年齢制限は無かったよね?志緒」


「年齢制限は無いです。月良ちゃんの巫女装束なら、納品前のがあるから、手直しすれば大丈夫ですけど…月良ちゃん、出てみる?」


「う〜ん、一人だと恥ずかしいな〜」


「わっ、私も出ます!月ちゃん、一緒に賞品取りましょう!」


「鶴ちゃんとなら良いかな?」


「志緒、決まりだね!鶴ちゃんのは月良の使えば大丈夫だね?」


「ええ、それなら二人とも大通りでイベントの受付済ませたら、店に寄ってね。少し直すかもしれないから……あっ、もう八時かよ!花月、準備してくれ。八時半に依頼人が来るらしい」


 慌ててご飯をかき込み味噌汁を飲み干すと、居間の棚に置いてある武装を装備する。花月は秀元おじさんと春美さんに宿泊の御礼を言い、玄関に向かう。

 俺も装備を整えると、「行って来ます!」と頭を下げる。座敷にいる皆が笑顔で「いってらっしゃい!」と手を振り、送り出してくれた。

 玄関で待つ花月と、境内に出て、鳥居から石畳の参道を歩き出す。

 朝の澄み渡る空を見ていると、前を歩く花月が振り向き笑顔を向ける。


「フフフ…昨日は楽しかったですね。ほら、志緒さん。急がないと甘ちゃんが怒りますよ?」


 急かす花月に笑顔を向け、俺達は少し早足で、家に歩いて行った………

 


    ◆

    ◆



 慌ただしく家に帰った志緒と花月を見送り、私達は朝食を再開したが、私は余り食べられなかった……

 昨日、美和に勧められて日本のお酒、日本酒を初めて飲んでみたら、色が白く、香りが良くて、口当たりも柔らかく飲み易かった。美和に美味しいと言ったら、雪姫と言う名前らしく、女性に人気のお酒らしい。

 確か志緒も救護センターの女性に同じような名前を言っていた気がする……

 グラスとは違う陶器の小さな器も一口で飲める可愛い物で、私が飲む度に美和と夏樹が│いでくれたのだが、途中から記憶が無い……

 志緒と話していたのは朧気に覚えているが何を話したかは覚えていない……

 朝に起きたら、頭が痛かった……

 夏樹に聞いたら、二日酔いだと教えてくれたが、今度から余り飲み過ぎないようにしよう……



 私の頭痛を溶かすように、湯呑みの、じんわりとした温かさを指先で感じながら、皆で食後のお茶を飲んでいると、春美が私達を見渡しながら話し始めた。


「志緒には月良と鶴ちゃんがテーマ部門に出場すると言ったが、アンタ等は出ないのかい?」


「私は出場するより見る方が好きだから、出ないよ!この日の為に最前列の関係者チケット、志緒から特等米10キロと交換してるから!」


「お前かよ!米が無くなって俺がお袋に怒られたんだぞ!店の商品使うなよ!」


 笑顔の夏樹が拳を握り締め、それを聞いた太一が文句を言っている。


「志緒も中々商売上手だな…」


「ちゃんと売る相手選んでるよね〜」


 双一朗と聖が関心していると、翼がミスコンの賞品を聞いてくる。

 友一が、仮想モニターを操作してコンテストの概要を表示して皆に見せてくれた。


 ーーーーーーーーーー

  ◆[参加受付中]◆


 大通り中央第五会場


5/4 AM10:00〜


[│奥水おくすいミス・コンテスト]


《ミスコングランプリ》


[賞品]

○優勝 〔ギリシャ・ペア旅行券+賞金百万〕

○準優勝〔エジプト・ペア旅行券+賞金七十万〕

○三位 〔アメリカ・・ペア旅行券+賞金五十万〕


《ミスコン男装部門》


[賞品]

○優勝 〔アメリカ・ペア旅行券+賞金七十万〕

○準優勝〔ノルウェー・ペア旅行券+賞金五十万〕

○三位 〔マレーシア・ペア旅行券+賞金三十万〕


《ミスコンテーマ部門》


『今年のテーマ:[可愛い巫女さん]』


[賞品]

○優勝 〔オランダ・ペア旅行券+賞金七十万〕

○準優勝〔中国・ペア旅行券+賞金五十万〕

○三位 〔沖縄・ペア旅行券+賞金三十万〕


[参加受付]


○5/3 18:00まで


 ーーーーーーーーーー


 豪華な賞品に、皆がじっとモニターを見詰めている。


「…なあ、双一朗。スピードフラッグの優勝より賞品良くないか?」


「興味が無かったから余り気に留めなかったが、確かに質が上だな……」


「双、出たいのか?ヒゲ位は剃っていけよ」


「友一?何を考えてるんだ?」


「双のワンピース姿、見てみたいよね〜」


「聖、殺すぞ!」


「……旅行券ばっかりだね…」


 男子達が冗談を言い合っている隣で、翼がガッカリしていた。

 そして、私の周囲では真剣な表情の女性陣の姿があった……


「ねぇ、楓。ミスコンって毎年こんな凄い賞品なの?」


「毎年ミスコンは警備で裏方ばかりだったから賞品までは気にしなかったな?」


「……アンタ等、知らなかったわね?ミスコンの賞品は毎年レベルが高いの!女子なら知って当然!今までのGW何やってたの?一般常識よ!」


「……パン焼いてたし…」

「……警備してたし…」


 杏子と楓が、ミスコンの事を殆ど知らなかったのが朝花にバレていた……



 私もこの街のイベントは初めてだったが、此処へ転校するまで半年間過ごした中央学園よりイベントの質は高いと思う。

 何より、GW期間を楽しもうとする街の人達の協力的な印象が強く感じられて、観光客も安心して観光やイベントに多くの人達が参加している。



「ねぇ、ねぇ、鶴ちゃん。賞品ペア旅行券だよ!志緒っち誘ったら?」


「……志緒さん、行ってくれるかな?」


 ……既に二人の頭の中では三位以内は確定しているらしい……


 大鐘がモニターを眺めて考え込んでいるのに気付いた加藤が、首を傾げながら質問する。


「大鐘は出たいのか?」


「…どうしましょう?グランプリは大勢にワンピース姿を見られるのですよね?……恥ずかしいですわ…」


「恥ずかしいの?」


「好きな方以外に肌を見せるのは駄目ですわ!」


「…変な処が古風ね?美和さんは出ますか?」


「……私、飛行機とか空飛ぶの駄目なの……旅行券、船でもいいのかな?」


「美和お姉ちゃん、高い所が駄目なのです……」



「エリスはグランプリに出ないの?優勝出来るかもよ?」


 モニターを見ていた私に茜が話し掛けてくる。


 私は人見知りなので、大勢の視線が集まる処は苦手で、緊張してしまう。

 ひと月経ってクラスには慣れてきたが、普通に話せるのは茜達だけだ。


「…緊張して無理」


「ただ、立ってるだけなら大丈夫じゃない?美人なのに勿体ないよ?」


「……う〜ん」


「茜、無理に今決めなくていいんだよ。夕方までエリスちゃんが考えて出るかどうか決めれば良いんだけなんだからね。ミスしか出れないんじゃ、アタシとアンタは出れないんだし、本人にヤル気がないと入賞なんかしないもんさ……さて、片付けるか?」


 晴美の一言で茜も納得したのか、テーブルの食器を片付け始めた。

 私達も食器を台所へ運ぶと、居間のテーブルでは鶴ちゃんと月良ちゃんがニコニコと出掛ける準備をしている。

 これから大通りの受付登録所へ行くのだろう。私と翼は捕縛課の仕事は非番なので、今日は二人でゆっくりすると決めていた。


「…翼、今日はどうする?」


「う〜ん?和食の次は洋食かな?」


「…お昼ご飯じゃなくて、イベントとか何か見て来る?」


「それじゃあ、太一の家に行こう!今なら昨日の優勝で、おばさんから何か貰えるかもしれないし、太一に彼女出来たから絶対何か貰えるよ!」


「翼、ナイスアイデアだよ〜!」


「確かに結果ぐらい報告したほうが面白いな!」


「双一朗、本音が漏れたぞ!法子さんの都合もあるだろう?」


「わっ、私は大丈夫だ!御両親への御挨拶は是非お願いしたい!午前中なら空いてるし、午後は花月さんの視察があるから…」


「それなら私もご一緒しますわ。法子のお目付役として…」


「私達も途中まで一緒に行くよ。お店に一回顔出さないといけないからね」


 どうやら大鐘と杏子達も一緒に出掛けるようだ。

 私達も準備を整えると、氷馬家の人達に一泊の御礼を言って玄関を出ると、玄関先で茜と友一が仲良く手を振って私達を送ってくれた。


     ◆

     ◆


 



 俺と花月が家に着くと、八時二十分だった……

 急いで部屋に上がり、シャツとズボンを着替えてエプロンを着け、髪を上げて何時もの売り子姿になると、深呼吸をして一階へ降りていく。

裏の勝手口を開けると、後ろから制服姿に俺と同じエプロンを着けた花月が慌てて階段を降りてくる。


「花月、そんなに慌てなくても大丈夫だよ」


 そう言って勝手口から庭を歩いて、店の裏口から作業場へ入ると、作業台では母親がスーツの仮縫いをしていた。


「おっ、帰ってきたね。三位おめでとう。太一は上手くいったのかい?」


「ああ、上手くいったよ。それより、なんで仮縫いまで行ってるの?午前中に本縫いまで終わりそうなんだけど?」


「依頼入ったのが昨日の午前中だったからだ。志緒はレース出てたから甘子が連絡しなかったんだろ?テーマ部門の依頼は昨日の夕方だけどな…」


「……甘子は?」


「レジで二着目のデザインやってるよ」


 俺は店と作業場を仕切るカーテンを捲ると、レジカウンターの椅子に座り、スケッチブックを睨んでいる甘子の姿があった。


「甘子、依頼人は?」


 声を掛けられ、俺達が帰ってきたのに気付いた甘子は、鉛筆を振りながら笑顔を向ける。


「おっ?兄貴、花月ちゃん、お帰り〜依頼人はまだだよ?」


「…そうか。おい、甘子。ヒトの携帯勝手に弄るなよ!」


「え〜っ?気に入らなかった?折角作ったのに〜他にも花月ちゃんとか、この前泊まったエリスさんや課長さん達のも色々作ったから聴いてみてよ!兄貴専用ボイスだよ?通常版もあるから後で売ってみようと思ってるの!」


「えっ?甘ちゃん!私のもあるの?!」


「面白いから、後で鳴らしてみなよ!」


 …どうやら甘子だけではないらしい……隣の花月を見ると、少し顔が赤い…一体どんな着信音が聞こえるのだろう?

 少し気になったが、依頼人が来る前に、開店の準備と鶴ちゃん達の衣装の準備をする事にした。花月に店内の掃除を頼むと、俺は作業場に戻り、完成品の棚から氷馬神社に納品予定の月良ちゃんの巫女装束の箱を取り出し、和紙に包まれた衣装を確認する。

 

「兄貴、依頼人来たよ」


 カーテンを軽く捲り、甘子が声を掛ける。

 俺は衣装を箱に戻し、机に置くと、作業場から店内へ歩いていく。

 レジカウンターの隣のテーブルには細身の女性がソファーに座り、背後に二人の男が護衛の様に立っていた。

 俺は甘子にお茶を頼むと、女性の正面に立ち、軽く頭を下げる。


「お待たせして申し訳ありません。私は当店のデザインと縫製を担当しております。佐藤と申します。失礼ですが、貴女方の御名前をお伺いしても宜しいですか?レントさん」


 正面のソファーに座り、笑顔を向けると、彼女は少し驚いてから軽く微笑み、ソファーに身体を預ける。


「……折角偽名を準備してたのに、無駄になったわ……確かレースで会ったわね……聖の友人…」


「ええ、その前日にも会ってますけどね?」


 そこへ甘子が紅茶を運んで来る。

 後ろの二人に椅子を勧め、お茶を配り終えた甘子がレジへ戻ると、レントさんが紅茶を一口飲み、俺を見ながら話し始める。



「…まずは、自己紹介から始めましょうか?」



 

 


 次回 連休(六日目〔下〕)


 

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