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銀拳  作者: 月草 イナエ
29/45

~26 連休(五日目後編(上)

4ヶ月も休みました。ごめんなさい。詳しくは活動報告に書いてます。    月草イナエ

 スピードフラッグのゴール、駅前広場の│やぐらの周囲には櫓が見易い様に路面から5m程の高さに特設観戦席が設置されていた。その観戦席の一角、来賓席に、捕縛課課長夏目三右、救護課課長大鐘千秋、司法課課長加藤法子の三人の姿があった。

 メインイベントのスピードフラッグも終盤に差し掛かり、駅前の大型モニターでは先頭を争う集団が映し出され、もう直ぐ大通りを走る選手達がこの観戦席からも見える筈だ。


「おっ?二人共、先頭そろそろ来るでぇ」


「あらっ?志緒さん、先頭集団にいませんわ!」


 モニターを見ながら三右と千秋が騒いでいるのを法子はどんよりした表情で眺めていた…

 そんな法子の様子などお構い無しで、周囲はざわめき始め、先頭が見えた大通りの観客からの歓声が徐々に此方の来賓席にゆっくりと近づいてくる。


「おおっ!太一君先頭で来たでぇ!」


「トップで来るとは中々やりますわね…志緒さんはまだですか?」


「もうちょいしたら来るやろ?それよか、太一君や!法子の為に頑張ってるんやで!」


「……私の為?…」


「そうですわ…貴女の笑顔が見たいそうですから…」


「……私の笑顔?…」


 法子は大通りを大型フラッグを背負って此方に走って来る青年を見詰めながら呟いた……





 スピードフラッグが始まる少し前、昼過ぎの第五女子寮五号室の私の部屋に夏目(姉)と大鐘が突然やって来ると、ベッドで亀の様に丸まっていた私のパジャマを夏目が無理矢理剥ぎ取り、クローゼットから箪笥(たんす)の肥やしになっているヒラヒラのスカートやレースの付いたブラウスを着せられた私は、大鐘に軽くメイクをされ、二人に両腕を押さえられて来賓席まで連行された。

 歩きながら聞いた話によると、バイキング会場で私がハンカチと間違えパンツで止血した彼(佐藤太一と言う名前らしい…)が、あの時の治療の御礼にスピードフラッグの上位入賞の副賞を狙っているらしい……

 彼…太一君には脱いだパンツで止血と言う大変失礼な事をしているのに、そんな私に御礼を考えていると聞いて罪悪感を感じてしまう。

 彼は私の事をどう思っているのだろう…変な女と思われているのだろうか…あんな止血を何時もしているとは思われたくなかった。

 私がそんな事を考えていると、突然、甲高い金属が周囲に響き、櫓の近くに丸い物体が飛び上がる。


…バガアァ━━━ン……ガン…ガラガラガアァ━━ン……


 周囲の観客が視線を向けると、其処には直径二m程のマンホールの蓋が路面に転がっていた………


      ◆

      ◆



 周囲の観客が見詰める中、マンホールの穴からライダースーツを着たヒョロリとした長身の男と太った男が這い出して来る。男達は立ち上がると背伸びをして周囲を見渡す。


「…ふう〜、やっと地上に出れたな…」


「…スミス、レントいないよ?どうしよう?」


 周囲を見渡す太った男の言葉に、痩せた男も周囲に視線を向けると太った男に質問を投げ掛ける。


「なあ、ボル?今日のメインストリートのイベントは何だ?」


「…食べ物系のイベントは無いよ。確か大通りを全部使った走るイベントだよ。レントが出るって言ってた」 


「…マズいな、どうやらそのイベントに乱入したみたいだな?レントの邪魔をすると後が大変だ…」


「昨日も騒いでいたレントに警備員が注意したら大騒ぎになって大変だったもんね…」


「お陰で、一晩中下水道に隠れる羽目になったしな…」


「それはスミスが迷った所為だろ?」


「お前だって迷ったろ!」


 言い争いを始める二人の周りを付近にいた五人の警備課のメンバーが走り寄る。


「動くな!お前達、何者だ!」


 乱入者を捕まえようと警備課のメンバーが二人を取り囲む。周囲に聞こえない様にスミスはボルに話し掛ける。


「…ボル、逃げるぞ」


「…そうだね…これ以上騒ぎが大きくなると、レントに迷惑が掛かるしね…」


 二人は包囲の薄い背後の警備課メンバーに体当たりを喰らわせ、包囲網を抜け出すと、競技の邪魔にならない様に櫓から離れ、大通りの端を走り出す。

  スミスとボルが警備課のメンバーに追い掛けられながらクリアーボードで仕切られた大通りの端を走っていると、正面から中継車が物凄いスピードで此方に向かって来る。二人の前を塞ぐ様に横滑りしながら停車した中継車の中から、左右の腰に剣を二本づつ吊しているワンピース姿のリポーターと、両腕に武装を装備した捕縛課の制服姿の眼鏡を掛けた女子が降り、スミスとボルの前に立ち塞がる。


「…遂に見つけたぞ!昨日はよくも逃げてくれたな!お陰でお前らを探す為に放送部に『もっと可愛く喋らないと中継車に乗せない』何て言われてこんな恥ずかしい目に……絶対捕まえてやる!」


「…ちょっとノリノリだったクセに……」


「五月蝿い!さっさと捕まえるぞ!投石機」


「…了解、四剣」


 軽くため息を│いて武装を構える投石機と呼ばれた女と、殺る気満々の表情で自分達を睨む四剣と呼ばれた女を前にスミスとボルは顔を見合わせると、│うなづき合い、両手を上げる。


「…降参だ。事情を話すからアンタらの上司と話しをさせてくれないか?」


「…事情だと?」


 今にも斬りつけそうな表情で四剣が二人を睨みつける。スミスは片手を下ろし、胸のポケットから一通の封筒を取り出す。


「中央学園より参りました。メル・スミスと申します。彼は伊東ノボル。中央学園特別大使ディーナ・レントの護衛として奥水学園にやって来ました。どうぞヨロシク」



    ◆

    ◆




 大通りを走り抜けながら、太一達三人は櫓まで三百m程の処で遂に後続の選手達に追いつかれてしまった。

 太一達を後ろから囲む様に走り寄る選手達に友一が弓矢を放ち、太一は刀を振り、フラッグポールを破壊して何とか先頭をキープしているが、追い抜かれるのは時間の問題だった。

 友一が太一のフラッグを狙う選手のポールを撃ち抜き、後続を確認すると、五人程の集団の中に二人、志緒と同じ鳶色の制服を着た捕縛課の生徒の姿が目に映る。


「太一、双一朗。俺が足留めするから、さっさとゴールしろよ!」


 選手の足元に連続して弓矢を放ち、後続の動きを止めると、友一は立ち止まり後続を迎え撃つ。


「了解した。友一」

「頼むぞ!友一!」


 二人の声を背中で聞き、友一は矢を│つがえながら五人の選手達を見据える。

 中等部らしき二人の男子が左右に広がり、友一の両脇を通り抜けた瞬間に、二人の背中のポールが矢に撃ち抜かれ砕け散る。


「「……えっ!?」」


 路面に軽い音を響かせて落ちたフラッグを茫然と見詰める二人に友一は僅かに振り向き声をかける。


「…先に進むなら俺のフラッグを壊してからにしろ…」



フラッグを破壊された2人の男子はガックリと肩を落とし、その場に座り込む。

 残りの三人を見据え、友一は弓を構えながら矢筒に手を添える。


「中々骨がありそうな奴だな?鉄槌」


「足枷、公衆の面前で恋人を募集する様な奴だ、骨が無くてどうする!腕は良さそうだし、相手にとって不足無し!」


 残りの三人の内、捕縛課の制服を着た二人は友一を見ながら満足そうに笑みを浮かべる。

 志緒に捕縛課のメンバーの話を何度か聞いた友一は、二人の会話と武装から大型ハンマーの使い手と、両足に鎖で繋がれた鉄球の使い手の話を思い出し、二人の対抗策を思案する。


「志緒から話は聞いてますよ。鉄槌さんと足枷さん。暫くお相手願います。それと、このフラッグは俺が募集している訳じゃ無いですよ。俺には可愛い妻が居ますから……」


「「なぁにぃぃ!!」」


「可愛い妻が居るのに恋人募集中なんて許せんぞ!女の敵め!殺るぞ!足枷!」


「OK!鉄槌!蟹の知り合いみたいだし恨むなら蟹を恨め!男の敵め!羨ましいぞ!」


 嫉妬の炎を瞳に燃やし、二人は武装を構えると友一に突進して来た。

 適当な会話をしながら時間を稼ごうと考えていた友一だが、二人の予想外の反応は足止めが目的なので好都合だ。

 捕縛課二人相手では数分が限界だが、それだけ時間を稼げば太一と双一朗がゴールするには十分だろう。迫り来る二人を迎え撃つ為、友一は矢筒から矢を二本抜き取り、鉄槌と足枷のフラッグに矢を放った。




     ◆

     ◆



 スピードフラッグゴールの駅前広場に太一と双一朗が姿を現すと、広場の観客から大歓声が沸き上がる。ゴールの櫓を目指して走る二人に、声援や拍手が浴びせられ、太一の顔に笑みがこぼれる。



「やったな!双一朗」


「ゴールするまで油断禁物だ。太一のフラッグでは櫓に登るのに時間がかかる。幾ら友一でも後続全てを止めるのは不可能だ。今の内にゴールするぞ!」


 太一は双一朗に頷き、表情を引き締める。


「俺が後続を見張ってやるから太一はさっさと櫓に登れ!」


「おう、任せとけ!」



 二人は櫓に走り寄り、双一朗は櫓の5m程前で後続を確認する。櫓にたどり着いた太一が上を見上げると、高さ8mの櫓がもっと高く感じられる。丸太に手を掛け登ろうとした瞬間、後方にいた双一朗の叫び声が響く。

 慌てて振り向くと、双一朗の身体が蓋の外されたマンホールに消えて行った。


「双一朗!」


 慌てて太一がマンホールを覗き込むと、5m程の底に双一朗の姿が見える。


「大丈夫か〜?双一朗!」


「スマ〜ン!油断した〜!俺に構わず登ってくれ〜!」


「自分が油断すんなよ!阿呆!」


 急いで櫓に戻って登り始めると、広場の観客から新たな歓声が沸き起こる。

 視線を向けると、百m程先に三人の選手が駅前広場に近づいていた。

 急いで櫓を登る太一だが、大型フラッグの所為で思う様に登れず、半分程登った処で三人の選手が櫓に登り始めた。

 励まし合いながら登って来る三人は友達同士のようで、フラッグは2mの一般的なフラッグ、6mの大型フラッグの太一より速いスピードで櫓を登って来る。

 必死に登る太一だが、櫓の頂上まで残り2mの処で、選手の一人が投げつけた鎖の武装に足を絡め取られ、引きずり落とされそうになる。櫓の丸太にしがみつき、何とか落とされるのを耐えていると、左右から残りの二人が剣の武装を片手に太一のフラッグを狙い登って来る。

 丸太にしがみつくのに精一杯の太一に追いついた一人が、ポール目掛けて剣を振り下ろす。

 金属がぶつかり合う音が耳元で響き、反射的に太一は目を閉じる。

 

「なっ!?」


 僅かに息を呑む声に太一が目を開けると、太一のしがみつく丸太に長剣が突き刺さり、選手の振り下ろした剣が弾かれて櫓の下に落ちていく。

 剣を弾かれた選手と太一が茫然と落下していく剣を見詰めていると、地面に剣が突き刺さり、そこには大きな箱を背負い、麦わら帽子の女の子を肩車している志緒の姿があった。



「太一、待たせたな。さっさとゴールしろよ」


「遅いんだよ!志緒!」


「クジが悪いんだよ!」


 そう言って志緒が腕を振ると、太一の両側にいた選手が、悲鳴をあげて何かに引っ張られる様に櫓の下に落ちていく。


「後は自分で何とかしろよ!」


 志緒はそう言って下に落ちた選手二人のフラッグポールを短剣で両断する。

 太一は片手で丸太にしがみつくと、鞘から太刀を抜き取り、足に絡む鎖を断ち切って櫓を登り始める。

 残りの2mを一気に登る太一を見上げていた志緒に、マンホールから這い出した双一朗が声を掛ける。


「やれやれ、酷い目に遭った…随分遅かったな?志緒」


「…仕方無いだろ。入賞諦めた奴が十人位、記念に闘いたいって向かって来たんだよ…」


「流石、│SSSトリプル捕縛者。大人気だな?」


「志緒さん!のん気に話してる場合じゃ無いです。早くゴールしないと入賞できませんよ!」


 志緒の頭の上で鶴ちゃんが櫓を指差して騒ぎ立てる。双一朗と顔を見合わせ、軽く笑う。


「太一の依頼は完了だが、氷馬に土産を持って行くか?志緒」


「そうだな…聖と友一の為に春美さんに渡すか?」


 そう言って志緒と双一朗が登り始めた櫓の上では、大きな歓声と、太一の優勝を告げるアナウンスが駅前広場に響き渡った。





    ◆

    ◆



 レースが終わり、駅前広場では表彰式が始まろうとしていた。三本の旗がなびく櫓の前に表彰台が準備され、俺と志緒、準優勝の選手は来賓席の前に立っている。周囲には選手や観客が表彰式を見ようと大勢集まっていた。


「只今より、スピードフラッグ表彰式を行います。それでは、優勝、佐藤太一さん。準優勝、古川成二さん。第三位、佐藤志緒さん。壇上にお上がり下さい」


 表彰台に上がった俺達に観客から歓声と拍手が贈られる。

 俺は少し緊張しながら中央の台に立つ。


「それでは、メダルと記念品の贈呈に移ります。第三位、佐藤志緒さん」


 表彰台の志緒の処へ救護課の課長が進み、頭を下げた志緒にメダルを掛けた瞬間、両手で志緒の顔を抑えると、ホッペにチューをしていた。

 来賓席では志緒が肩車していた女の子が激怒して救護課の課長に暴言を吐いている。

 次の準優勝の選手には普通にメダルを掛けていたので、どうやら志緒だけ特別だったらしい。準優勝の選手は少し残念そうな顔だった。


「スピードフラッグ優勝。佐藤太一さん!」


 大きな拍手の中、俺の前に歩いて来たのは、ちょっと可愛い感じのブラウスとスカートを着た、私服姿の司法課課長、加藤法子さんだった!

 捕縛課の課長さんが連れて来ると言っていたが、こうして目の前に立たれると緊張する。思えば、まだ一回しか会った事が無いのだ!

 一目惚れだったし、今、目の前の彼女を見て、二目惚れだ!

 メダルを俺の首に掛けて、少し恥ずかしそうに「おめでとう」と言ってくれた。

 観客から割れんばかりの拍手が鳴り響いたが、俺の耳には届かなかった……

 来賓席に帰る彼女の後ろ姿を見て表彰台を降り、彼女の手を掴んでいた。

 吃驚して振り向いた彼女を正面から見詰める……


 広場の観客も俺の突然の行動に、何かあったのかと俺に視線を集め始める。

 そして俺は、彼女の手を優しく握り、真っ直ぐに彼女を見詰めて声を出した…





「法子さん、俺は…佐藤太一は、貴女の事が好きです。俺の彼女になって下さい!」





 広場の観客が静まり返って、俺と法子さんを見詰めている。


 法子さんは、ぼーっとしていたが、俺の握った手を見て、それから俺の顔を見ると、ボンッと、顔が音を立てた様に真っ赤に染まり、周囲をキョロキョロ見渡して│うつむくと、少し後退り、一目散に住宅街の方へ走って消えてしまった……


 法子さんが走り去って行った方角を見ていた俺の肩を、志緒が叩く。


「男前な奴だな…やっぱりお前は、おばさんの子だよ。みんなで祝勝会するぞ!」


 そう言って来賓席の救護課の課長さんの処へ行って何か話すと、此方に戻って来る。


「それじゃ、友一達の処へ行くか!」


 そう言って駅前広場を歩き始めた。表彰式の司会者が、慌てて閉会を告げている。観客からは、拍手や「頑張れよ」「格好良いぞ!」「振られても落ち込むなよ」等と、冷やかしや、励ましの声が掛けられる。

 駅前広場の端のベンチに座っていた友一達の処へ行くと、ニヤニヤとした笑顔で俺達を待っていた。


「おっ、勇者が帰ってきたぞ。少しは脈が有りそうだな?」


「ちょ〜格好良かったよ〜太一」


「恥ずかしい奴だな…アレでは返事がし│にくいだろう?…追撃はしないのか?太一」


「緊張して今日はもう無理だ…」


「救護課課長の千秋さんに偵察を頼んだよ。夕方に教えてくれるさ…取りあえず、今回の主役の祝勝会でもやるか?」


「賛成〜何処でやるの〜」


「友一の│氷馬神社うちでいいだろう?その為に俺と志緒が三位の賞品を取ったのだ。春美さんと茜にフラッグの言い訳も必要だしな…」


「「「……気が重いな…」」」


「…取りあえず、友一、電話してみろ…」


「…えっ?嫌だよ…双がしろよ!」


「自分の家に電話するの嫌がるな!」


「志緒が掛けろよ!俺より春美さんの評価高いから!」


「俺も嫌だよ!婿より評価高くなりたくない!」


 そんな言い争いをしていると、志緒の携帯に電話が掛かって来る。電話の相手を確認した志緒はため息を吐き、通話ボタンを押す。


「…もしもし、志緒です。春美さん、どうかしました?……えっ?友一が出るから家族で…テレビ見てた?……スタート前から?アレって放送してるの?……動画の実況サイト?……ヘェ〜………氷馬のフラッグ?…俺は分かりませんよ……あの…太一の優勝祝い、そっちでやって良いでか?……………火鷲のフラッグなんか背負った奴なんて知らない?……ウチのフラッグを攻撃した馬鹿なんか見たくない?……いや……そこを何とか…折角……俺と双一朗がお詫びに副賞の北海道旅行、奉納しますから……えっ?酒も二升?……それなら良い?…食材は買って来たら春美さん作ってくれるんですね?…茜?…│美和姉みわねえにお願いできます?………もう一升?…│月良つきよがアイスほしい?……分かりました。それでお願いします。……友一に代わります…」


 交渉を終えた志緒が友一に携帯を差し出し、電話を代わる。


「もしもし、友一です。義母さん………はい…えっ?…違いますよ!あのフラッグは偶然です!……分かりました。ご心配お掛けしてすみません。一時間程で帰ります」


 友一が減なりして志緒に携帯を返している。どうやら氷馬家では、一家でスピードフラッグをネット観戦していたみたいだ。

 志緒の交渉で会場を確保した俺達は、商店街を歩きながら買い出しを始めたのだが、商店街のオッチャンやオバチャン達も、店をやりながらネット観戦していたらしく、通りを歩く先々で表彰式の冷やかしを受けたり、優勝祝いに買い物にオマケをしてくれたので、五人が氷馬神社に着く頃には、結構な荷物になっていた。

 神社の隣の母屋に着くと、志緒と友一が食材を台所に運び、美和姉さんと月良ちゃんが志緒達と献立を決めている。残りの俺達は、居間にいる秀元おじさんと春美さんの前に三人並んで酒と副賞の旅行券を渡して会場のお礼とスピードフラッグの報告をしていた。


「……まあ、今回は太一の優勝祝いにウチのフラッグの事は目を瞑ってやるよ…火鷲のフラッグで優勝したのは気に入らないけどね!」


「余り責めないであげよう。春美。彼等だって神社の事を考えてくれたんだから…森君、奉納の品、有り難く頂くよ」


「秀元おじさん、ありがとうございます。お酒は春美さんのリクエストですけれど、旅行券の方はおじさん達か友一達に使って貰えれば、此方としても嬉しいです。俺達は太一の依頼を受けただけですから…」


「フフッ…見てたよ。太一君の告白シーン。見ている方が恥ずかしくなる程の真っ直ぐさだったね」


「照れるな〜おじさん」


「相手は逃げ出した様だけど、アレならアンタの事は嫌いじゃなさそうだね?」


「…そっ、そうかな?」


「なに、弱気になってんだい!後は押して押して、押し倒すんだよ!」


「女の子押し倒したら駄目だよ〜春美さん」


「アハハ…それ位で行けって言う事さ!」


 俺達がそんな事を話していると、居間に志緒がやって来て、おじさん達に頭を下げている。


「志緒君、お疲れ様。旅行券有り難く頂くよ」


「太一のオマケで貰った品で、すみません。次は友一が取ってくれますよ」


「志緒〜友一は?」


「あのフラッグで、ご機嫌斜めのお姫様の相手で忙しそうにしていたから置いて来た…」


 志緒の言葉で、居間にいた全員が、不機嫌な茜に友一が必死に謝る姿を想像して笑い声を上げていた。





    ◆

    ◆





 「…ねえ、志緒?あと何人位来るの?」


 台所で美和姉に唐揚げの味見

頼まれた俺は、熱々の唐揚げを頬張りながら美和姉の質問の意味を考えていた……


 (……そう言えば、会場から俺達だけで買い出しして来たから誰も誘ってないな……)


「ん〜その顔は誰も誘ってないわね?」


 そんな俺に、隣でサラダを作っている月良ちゃんが、追い討ちを掛ける。


「志緒っち、さっき鶴ちゃんに志緒っちが│氷馬神社ウチに居るってメールしたら何か怒ってたよ?祝勝会の準備してるからおいでよ。って、送ったけど?」


「……美和姉、ちょっと料理お願い…」


「フフッ、私は志緒がいれば楽しいから良いけど、御祝いは大勢の方がもっと楽しいわよ」


 俺は台所を後にすると、居間に行って、太一達に祝勝会に誰か呼んだか聞いてみる。


「俺は誘ってないぞ?志緒は?」


「…呼んでない」


「太一も志緒も、夏っちや、エリスちゃん誘ってないの〜」


「……夏樹にレース出るの教えてねぇし……」


「今日はレース出るから、エリスと翼に花月の監視頼んでた……」


「…それは呼ばないとマズいんじゃ無いの〜?」


「野郎だけの祝勝会だと言えば良いのではないか?」


「双一朗、│氷馬家ここでやる時点で野郎だけじゃ無いだろ?茜も居るし、第一、祝勝会って聞いたら食い物目当ての翼が来ない訳無いだろ!」


「ならば、最初から誘った方が無難だな?他にも誰か呼ぶか?」


「う〜ん…月良ちゃんが鶴ちゃんにメールしたって言ってたけど、ちゃんと誘った方が良いよな〜後は救護課課長の千秋さんに加藤課長の偵察お願いしたから千秋さんもかな?太一も聞きだいだろう?」


「そうだな、まだ返事聞いてないから、大鐘課長の話しを聞いてから明日どうするか考えるか…」


「双一朗と聖は誰か呼ぶ?」


「特にいないな…余り増えても大変だろう」


「そうだね〜」


「美和姉に6人増えるって言って来る。俺はエリス達に連絡するから、太一は夏樹に連絡しろよ」


 そう言って俺は、美和姉に人数を教えると、勝手口から出てエリス達に電話を掛け始めた。

 エリスに電話を掛けると、武研課で花月の訓練を見学しながら翼とネット観戦していたそうだ。俺と太一の入賞を凄く喜んでくれ、訓練が終わったら三人で神社に来ると言った。

 次に鶴ちゃんに電話を掛けると、通話になった途端に文句を言い始める。

 俺が[鉄巫女]の鎖を回収する約束をすっぽかし、会場から帰った事を怒っている。十分程謝り続け、何とか│なだめ、祝勝会に誘うと、もう神社に向かって歩いていると教えてくれた。

 通話を切ってため息を吐き、首筋を軽く伸ばして千秋さんに電話を掛ける。

 

「はい!千秋です。志緒さん、デートのお誘いですか?何時でも良いですわよ!」


「デートではないですが、氷馬神社の友人の家でスピードフラッグの祝勝会をします。宜しければ、いらっしゃいませんか?加藤課長の様子もその時に教えて頂ければ助かります」


「法子なら隣りにいますわ。代わりますか?」


「加藤課長が大丈夫ならばお願いします」


 

「……もしもし、加藤です」


「加藤課長ですか?佐藤志緒です。落ち着きましたか?」


「………無理だ…」


「…そうですか、もう少し落ち着いて太一の話を聞く気は有りますか?」


「……あっ、あるぞ!…きっ、聞く位なら……」


「それなら、今から千秋課長と氷馬神社にいらして下さい。お待ちしています」


「…わっ、わかった!」


 通話を終え、勝手口の扉に寄り掛かると、微かな笑い声が喉から漏れる。


「…ククッ…脈ありだ…」


 携帯を胸のポケットにしまい、勝手口から台所へ戻ると、美和姉と月良ちゃんが呆れた顔で此方を見ている。


「志緒っち、その笑顔は悪人だよぉ〜」


「フフッ…兎を罠に追い込む狼みたいね?」


「…酷いな〜二人とも。捕縛課は捕まえるのが仕事だよ…」


 そう言って、ニヤニヤ笑う二人の料理の手伝いを再開した。




















次回 連休(五日目後編(下))

   11/25pm1:00 

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