表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀拳  作者: 月草 イナエ
28/45

~25 連休(五日目中編)


 【5/2 PM12:50】


 駅前広場のスピードフラッグのゴール付近と中間地点の参加登録所に設置されている大型モニターには、スタート地点の学園ゲート前の映像が映し出されていた。

 これからスタートする予選を勝ち抜いた百名の選手達は、スタートラインに並び、イベントの開始を緊張した表情や楽しそうな笑顔を浮かべ待っている。


『皆さん、御待たせしました。本日のメインイベント、スピードフラッグ本戦、スタート十分前です。メイン司会の業務課副課長、三日町朋子です。宜しくお願いします。解説は捕縛課副課長、夏目三左さんです』


『…宜しくお願いします』


『早速、スタート直前の学園ゲート前に中継を繋いでみます。中継の中町さ〜ん!』



 【5/2PM12:55 奥水学園ゲート前】


『ハ〜イ。中継リポーター中町恋で〜す。只今、スタートラインには予選を勝ち抜いた百名の選手が、今か今かとスタートを待っています』


『中町さんは、気になる選手はいましたか?』


『皆さん、予選を勝ち抜いた実力の持ち主でとても素晴らしいですが、中でも二年連続予選ブロックトップのゼッケン5番、佐藤志緒さんが気になりま〜す。優勝したら一体誰を誘うのでしょう?修羅場地獄です。モテない皆さん、速攻で倒しましょう』


『…四け…中町さん、キャラが変わってますが、身内の争いを楽しまないで下さい…』


『テへッ、解説の三左さん、失礼しました。あっ、シグナルが点灯しました。皆さんも御一緒に、3、2、1、GO!』



『スピードフラッグ、スタートしました。学園の下り坂から大通りに入る始めの1kmはフリーランですから脚の速い選手が有利ですが、流石、予選を勝ち抜いた皆さん。団子状態で下り坂を勢い良く走って行きますね。三左さん』


『ええ、…現在、先頭に立つのは、中町さん一押しの5番の選手ですね…その後ろに21番、36番、37番、58番、4番と続いています。先頭はもうすぐ坂を下り終え、大通りに入って来ます。そこからの抽選エリアが最初の難関でしょう』


『夏目さん、と言うと?』


『幾ら速く走っても抽選次第では最下位になりますからね…』


『…あっ、先頭が抽選エリアに入って来ましたよ!中継の中町さ〜ん!』


『ハ〜イ。中継の中町で〜す。先頭が抽選エリアに到着しました〜2mの高さに吊るされた封筒に入ったナンバーと同じフラッグを持って行く訳ですが……おーっと!5番、封筒を地面に叩きつけて戻っています。どうやら、ハズレを引いた様です!アハハハ…運が無いですねぇ〜…その間にナンバーカードを引いた選手達は同じナンバーの付いたフラッグに走って行きます。36番は、《恋人募集中!》フラッグだ!4番は《パン屋アプリコット》、21番は大型フラッグ《火鷲神社》だぁー!37番は《頑固豆腐・鉄塊》壊れ易い食品フラッグ!58番は動物フラッグのチワワを追い掛けているぞー!選手達が続々とフラッグに向かい、戦闘エリアへ走って行きます。これから相手のフラッグを破壊して失格に出来る戦闘エリアがスタートします。今年はどの様な名勝負が繰り広げられるのでしょう!楽しみです!』



    ◆

    ◆

    ◆



 俺はトップで抽選エリアに飛び込むと吊るされた封筒を掴み、走り抜ける。少しでも時間を稼ごうと、走りながら封筒を開けると……


【ハズレだ!バーカ】


 達筆な毛筆で書かれた文字が、目に飛び込む……


「ハズレかよ!」


 地面に封筒を叩きつけていると、コースを平走する中継車の上では、珍しくワンピース姿の四剣が、こっちを見ながら笑っている……

 大急ぎで封筒の吊るされた場所まで戻ってくると。封筒はハズレが入っている為、まだ沢山の封筒が風になびいている。近くの封筒をもぎ取り、封筒の中のカードを見る。


【ハ・ズ・レ】


【もう一回です】


【49歳、独身です!】


 (…神様、俺…何か悪い事しましたか?)


 五回目にやっと【89】のナンバーカードを引き当てた俺は、大急ぎでフラッグを探す。手前から番号が小さい順に並んでいるので、【89】は抽選エリアと戦闘エリアの境目の筈だ。

 視線を走らせフラッグを探すと、何処かで見た事がある台形を伸ばした様な形と、その上に座る初等部の制服を着た女の子の頭には、麦ワラ帽子の上に小さなフラッグと共に【89】のラベルが付いていた……


(…嘘だろ…《鉄巫女》かよ…重量級(百キロ+鶴ちゃん)だぞ?)


 少し迷ったが、そんな時間は無いので急いで鶴ちゃんに駆け寄ると、此方に気付いた鶴ちゃんが鉄巫女から降りて、笑顔で手を振っている。


「志緒さ〜ん。鶴をお姫様抱っこで、連れてって〜!」


「鉄巫女背負った鶴ちゃんを、お姫様抱っこなんかしたら、腕が疲れて五分も走れ無いよ!」


「…でも、コレを背負った私を更に背負うと私が志緒さんの背中で潰れます!さあ、抱っこして下さい!」


 瞳を輝かせ、身体を横に向けて抱っこ体勢を取る鶴ちゃんを、更に90度回して背中を向けると、俺の背中の長剣のベルトを外し鶴ちゃんに取り付け、そのまま鶴ちゃんの脇を両手で押さえて持ち上げると、頭を脚の間に通して肩車をする。


「キャッ!志緒さんに脚の間に頭を入れられました〜」


 頭の上でキャッキャッと(はしゃ)ぐ鶴ちゃんを無視して、鉄巫女の背負いベルトを肩に通すと、一気に立ち上がる。


「おっ〜高いです!」


「…重っ…鶴ちゃん、落ちない様に確り捕まって!」


「はい!志緒さんが死んでも放しません!」


 鶴ちゃんは俺の頭を両手で押さえ、更に首の前で胡座をかく様に脚を組むと頸動脈を締め上げる。


「…くっ、苦しい…ちょっと緩めて…そっ、それじゃあ、行くよ!」


「蟹さん号出発です〜!」


 鉄巫女を背負い、鶴ちゃんを肩車した俺は、鉄巫女の重量を身体に感じ、戦闘エリアへ出来る限りのスピード(普段の三分の一)で駆け出して行った。



    ◆

    ◆



「うぉりゃあー!」


「友一、太一の左だ!聖、俺の後ろを頼む!」


「…アレだな!」


「了解、双一朗。喰らえっ!」


 志緒から五百m前方の戦闘エリアでは、太一達が先頭争いをしながらフラッグ破壊を狙う選手との戦闘を繰り広げていた……


「クソ!邪魔だぜ、この火鷲のフラッグ!走り辛い!」


「太一のはデカイだけだろ!俺なんか、新婚なのに《求む!恋人募集中!》なんだぞ!茜に家から追い出されたらどうしてくれんだ!」


「太一〜ウチの神社のフラッグなんだから大事に扱ってよ〜…痛ッ!この犬、噛みグセついてるよ〜」


「…クソッ、志緒が遅れるとは、想定外だったな…戦力が足りん!」


「「「お前が豆腐持ってるからだろ!!!」」」


 三人に文句を言われた双一朗を見ると、背中に武装の棍を背負い、両手で豆腐の入った竹の(ざる)を持って走っている……


「仕方無いではないか!豆腐にフラッグが刺さっている以上、優しく運ばねば、崩れて失格になってしまう!」


 走るだけでも笊の隙間からプニプニ揺れる豆腐の所為で、指示は出せるが、笊を持って慎重に走る双一朗の戦闘力はゼロだった………

 先頭を走る太一と、左右を走る友一と聖の三角形の真ん中に双一朗がいるフォーメーションを四人は維持したまま、大通りを駆け抜けて行く。

 ただでさえ、先頭を走っていて他の選手に狙われ易いのに、火鷲神社の大型フラッグの所為で後ろを走る選手からは、格好の的になっていた。

 太一達は中間地点の業務課テント付近まで妨害を退け、必死に走り続けて何とか先頭は死守しているが、後方の選手に追いつかれるのも時間の問題だった。

 もうすぐ、中間地点の業務課テントを通過しようとした時、後方から迫って来る大型フラッグが、双一朗の目に飛び込んでくる。


「…皆!厄介な相手が来たぞ!気をつけろ!」


 双一朗の声に、三人は後方に視線を向けると、レザーパンツにTシャツを着たロングヘアーの女性が、後方の選手のフラッグを破壊しながら迫って来る。

 彼女の背中には太一と同じ大型フラッグが風にはためき、《奥水東宮 氷馬神社》と書かれていた……


「あ〜、来ちゃったね〜友一?」


「…そうだな、聖…」


「…頼むぞ!聖!」


「任せて〜太一、優勝したら賞金の半分は山分けだよ〜」


「聖、時間稼ぎでいいぞ、壊すと後が厄介だ、志緒もそろそろ追いつくだろう…」


「了解〜双一朗。それじゃあ行くね〜」


 聖は立ち止まると太一達に背を向け、此方に向かって来る女性とフラッグを見詰め、武装[炎翼]を構えると、フラッグのポールを狙い全力で投げつける。


「潰れろ!氷馬神社ぁ―――っ!」


 普段、友一の前では気をつかって言わないが、やはり、聖は火鷲神社の息子だった……

 聖の背後では、友一が「何言ってんだ!阿呆!」と、文句を言っているのが聞こえてくるが、聖は目前に迫って来る女性と、ポールしか見ていなかった。

 聖が投げた炎翼は、真っ直ぐにポールに向かって飛んで行ったがポールに当たる瞬間、僅かにポールが右にズレて外れてしまう。


「残念だったね。お兄さん…」


 目前に迫って来た女性は、拳を振り上げ聖の胸に抱かれているチワワの頭に付いたフラッグを掴もうと腕を伸ばす。


「まだ早いよ〜お姉さん〜」


 あと五cmでチワワに手が届く瞬間、背後から大きく弧を描いて戻って来る武装に気付いた女性は、後ろにジャンプをして身体を捻り、炎翼がポールに当たるのを素早く躱し、聖は戻ってきた炎翼を掴み取る。

 対峙する二人の様子を伺いながら後方の選手達が迂回して走り抜ける。


「あーあ、止められちゃった。やるね、君?名前は?」


「火鷲神社宮司代理、火鷲聖。氷馬の旗を壊しに推参いたしました。貴女の名は?」


「高橋花子…いえ、副司祭さん…神父に嘘は付かないわ…ディーナ・レントよ」


「参ります。レントさん!」


「行くわよ。聖」


 レントは拳を中段に、聖は炎翼を下段に構えると、ゆっくりと間合いを詰める。互いの距離が2mを切った瞬間、右足を勢い良く踏み込んだレントは、聖に突進して右ストレートを聖の顔面に叩き込む。聖はそれを逆手に持った左手の炎翼の鎬で受けると拳の勢いに任せる様に身体を捻り、右手で抱えていたチワワを左腕で抱え直し、レントの伸び切った右手首を下から右手で掴み、身体をレントの前に潜り込ませると、肩をレントの脇の下に入れて背負い投げの様に投げ飛ばす。

 しかし、レントも投げ飛ばされた瞬間に身体を捻りながら半回転させて脚から着地すると僅かに遅れてフラッグのポールが聖を襲う。聖は上体を反らし、ポールを躱す。

 大通りの周囲を埋め尽くす観客から、目紛るしく入れ替わる攻防に歓声が沸き起こるが、二人にしてみれば挨拶代わりの攻防だった……

 互いに動きを読み合い、次の一撃を打ち合う。周囲の盛り上がりも熱気を帯び、二人には観客からの声援が飛び交っていた。



    ◆

    ◆





 抽選エリアで時間をロスした俺は、太一達を追走しているが、鶴ちゃんを肩車して重量級武装[鉄巫女]を背負っている為、一向に追いつかない。1km程先に大通りをゴールに向かって走っている二本の大型フラッグが見えてはいるが、まだ太一達の姿は確認出来ない。


「志緒さん、もっと急がないと入賞出来ませんよ?蟹号スピードUPです!」


 頭の上から鶴ちゃんが発破を掛けるが、コースが決まっているので通学の様に屋根の上は走れないし、鉄巫女の重量で、何時もの半分程度の速度でしか走れない。


「これでも、全力だよ!」


「いいえ、人間が全力と思っているのは、実は二割位だそうです!残りの八割を引き出すのです!」


「なんかの漫画みたいだけど、八割引き出したら身体壊して病院送りがお約束だよ!」


「仕方ありませんね〜肩車は十分楽しかったので、御礼に必死技を使いましょう」


「…必死技?」


 鶴ちゃんは片手を離し鉄巫女に触れると何かを操作している。


「アイアンメイディン、解放四番、封鎖十字!解放二番、鉄鎖牢!解放三番、鉄針弾雨!」


 鶴ちゃんが叫ぶと、背中の鉄巫女の蓋が開き、鎖の十字架が現れる。今度は鎖が鉄巫女から飛び出し十字架に絡みつき、鉄巫女から伸びた鎖を鉄製の針が撃ち抜き、鎖を切断する。


「うわっ!」


 鉄針が撃ち出された反動で前に転びそうになるが、何とか堪えて走り続ける。


「どうです?志緒さん。軽くなったでしょう?」


 鶴ちゃんは肩車から身を乗り出し、自慢気な笑顔を向ける。さっきまで重かった鉄巫女が半分以下の重量に変わり、走る速度も上がってくる。


「おおっ!コレなら何時もの速さで走れるよ!」


「後で鎖の回収手伝って下さいね。志緒さん」


「……ああ」


 (…あの鎖…全部回収するのか?…)


 一瞬、背後に山になった鎖を見て、誰か片付けてくれないかな?とか、あんなの喰らったら必ず死んじゃうとか、必殺技じゃ無いの?と、思ったが、ゴールするまで忘れる事にした。今は直ぐにでも前を走る太一達との合流を最優先に、余計な事を考えず走るしかない。

 俺は軽くなった背中と足取りをスピードに変え、大通りを勢い良く駆け抜ける。


 暫く走り、中間地点の業務課テント付近まで来ると、氷馬神社の大型フラッグを背負った女性と聖の戦闘を視界に捉える。

 事前の打ち合わせで神社のフラッグ担当を決めた通り、聖が氷馬神社のフラッグの相手をしていた。

 肉弾戦をしているらしく、至近距離で相手の放つ拳を聖は犬を抱きながら柔術で応戦し、その度に大通りの両側にいる観客から歓声が上がっている。

 走り寄る俺を見つけた聖は、相手の拳を受け流しながら此方に叫ぶ。


「志緒〜!こっちは大丈夫!太一が火鷲神社(うち)のフラッグ持ってるから頼むよ〜!」


「任せろ!先に行くぞ」


 二人の傍を走り抜けながら拳を握って返事をすると、聖は拳の後から飛んで来た回し蹴りを喰らって吹き飛ばされる。


「あらあら、余所見は駄目よ。聖」


「…ホントに大丈夫かよ!」


「…プグッ…ぽ、ぽくに構わず、先に行け〜」


 聖は何時も茜のパンチを喰らっている所為で、意外と肉体的に打たれ強くなっていた……

 そのまま走り抜け、業務課テント前を通過しながら横目でモニターを見ると、先頭集団が映し出され、その先頭に太一達の姿が見えている。火鷲の大型フラッグを持つ太一と、《恋人募集中》のフラッグを背負った友一、竹笊に豆腐を持つ双一朗が、後続と先頭争いをしている。


(…太一と友一は頑張ってるけど、双一朗(アイツ)は豆腐持って何やってんだ?…)


 二人に指示は出している様子だが、明らかにお荷物になっている。早く助けに行かないと、大型フラッグを背負っている太一は直ぐにフラッグを壊される可能性が高いし、武装が弓の友一では接近されると手が出ない。聖が抜けてフォロー役がいない影響が徐々に見え始めていた……

 モニターから視線を外し、駅前を見詰めると1km程先に大型フラッグがゴールを目指し動いている。


「志緒さん、先頭集団が見えますよ!急ぎましょう!」


「…やっと太一達に追いつけるな…」


 先頭集団を視界に捉えた志緒は、火鷲神社のフラッグを目指し、大通りを走り続けた……






次回 連休五日目(後編)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ