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銀拳  作者: 月草 イナエ
27/45

~24 連休(五日目前編)

 ――――――――


【スピードフラッグ】


 GW期間中の人気参加イベント。学園のゲートからスタートし、駅前のゴールを目指す競走イベント。全長六kmのコースをフラッグを持って駆け抜ける。

 コースは、学園から一kmのフリーランエリア、クジでフラッグを選ぶ、抽選エリア、そこから武装使用が可能な戦闘エリアがゴールまで続く。競技中にフラッグが破壊された場合は失格となり、競走相手を妨害しながら、フラッグをゴールの高さ8m程の(やぐら)の穴に早く差した者が優勝となる。




 ※業務課制作イベントパンフレットより抜粋

 ―――――――― 


 連休五日目、学園ゲート前会場ではのスピードフラッグ予選が始まっていた。

 予選は、ゲートから4kmの地点にある業務課テント迄のフリーランで行われる。予選は五ブロックに分けられ、上位二十名が予選通過となる。今回の参加人数は、約一千三百人、各ブロックは約二百六十人に分けられ、予選通過を争う。

 本戦は百名で行われるので、競争率は十三倍程になるが、実際は自分の前に二十人いれば、それだけで予選落ちが確定してしまうので、少しでも良いポジションを取ろうと、スタートライン付近はギュウギュウのすし詰め状態だ……


『…こっちは全員、予選通過したぞ。チョット聖が危なかったけど、後は志緒だけだ。楽勝だろうけどな。業務課テントの傍で待ってるぞ』


 太一からの予選通過を知らせる電話を聞きながら、志緒は、予選第3ブロックのスタートを先頭から少し離れた位置で待っていた。


『了解…直ぐに行くから待ってろ』


 通話を切り、周囲を見渡しながら昨日の三人組が居ないか視線を走らせる……

 今朝の仮想モニターによる、捕縛課の緊急会議でイベント参加を伝え、俺の他に数名がイベントに参加しているし、予選の映像から情報管理課と案山子の合同チームが参加者を調べている筈だ…

 まだ連絡が来ない処をみると、見つからないか、変装している可能性や、本戦に乱入の可能性も考えられる。


「あんまり考え過ぎると、いざと言うとき動けないぞ。蟹」


 周囲に視線を向ける俺に、隣で準備運動をする足枷が声を掛ける。


「…別に予選は気にして無いから、丁度いいんですよ」


「なんだ…本戦に出る気じゃ無いのか?」


「出ますよ?何位にしようか考えてたんです」


「はあ〜?優勝狙うんじゃないのか?」


「優勝は狙いますけど、今回は友人の依頼が優先なので余り目立ちたく無いんですよ」


「流石、去年の予選最速男は言う事が違うよ…」


「去年は家の仕事が忙しくて予選だけだし、本戦は棄権したんです…」


 そんな事を話している内に、スタートを知らせるシグナルが鳴り、5カウントダウンを開始する。


「足枷、お先!」


「おおっ?置いてくなよ!」


 慌てて走り出す足枷を置き去りに、後方から一気に先頭を目指して走り出して行く。

 号砲が鳴り響き、すし詰めの先頭集団がバラけながら走り始めるのを、後方から既に駆け出してスピードに乗っている俺は、先頭集団がトップスピードに乗る前に隙間から抜き去り、下り坂を駆け抜ける。


「おっ!上手くいったな、蟹」


 後ろを振り向くと、足枷が僅かに遅れて俺の後ろを走っていた。


「付いて来るなよ!」


「お前が俺の前を走っているだけだ!気にするな、露払い!」


 足枷は俺を利用して密集した集団を上手く躱した様子だ……ニコニコしながら走る足枷の後ろには、俺達を睨み、必死の表情で走る集団がいる。


 (…取りあえず、さっさとゴールするか…)


 捕縛課に追われる賞金首の気持ちをちょっと理解しながら、大通りを一気に走り抜けて行った。



    ◆

    ◆



「ここだぞ、志緒!」

「志緒〜お疲れ〜」

「余裕だったな」

「当然だな」


 予選を無事に通過した俺は、待ち合わせ場所の業務課テントに行くと、太一達が迎えてくれる。


「今年も予選ブロックトップだったね〜」


「本戦は譲るかもしれないから、取りあえず、無料券くらいは貰いたいしな」


「任せておけ、絶対上位に入ってやるぜ!」


「…ククッ、そんな事を言って、フラッグを壊されん様にな…」


「あのくじ引きも、曲者なんだよね〜」


「大抵は、フラッグが軽いか重いかだろ?双一朗」


「…まあ、大別すればそうなのだがな…」


「去年、猫とか犬に小さなフラッグ付いてたよね〜」


「運も大事なんだよなぁー」


「友一は嫁で運使い切ったから無理だろ?」


「何だと!太一!」


「…ククッ、友一には苦労が良く似合う。楽勝ではつまらん」


「…双一朗、あんまりいじめるなよ…それより飯にしよう」


「そうだね〜」


 俺達が互いにからかい合っていると、業務課テントから、三右さんと千秋さんが姿を現す。


「おーっ、蟹。ぶっちぎりやったな〜」


「志緒さん、本戦、優勝して私とイギリスに行きましょう」


「三右さんに、千秋課長。待機、ご苦労様です。…獲物見つかりました?」


「…いいんや、見つからん。どないしよ?…蟹は昼ご飯か?」


「ええ、これから仲間と一緒に…」


「それなら私達もご一緒して良いですか?ねぇ、三右」


 後ろの友一達に視線を向けると、みんな笑顔で頷いているので、テント近くの洋食屋に入る。まだ、昼飯には早い時間なのだが、本戦が始まる前に、ミーティングを兼ねて早めに取る事にしていたのだ。



    ◆

    ◆



「「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ…」」


 洋食屋の奥の長テーブルで、俺達のイベント参加理由を聞いた三右さんと千秋さんの笑い声が、店内に響いていた……


 太一は赤くなって照れているが、三右さん達は笑うのを堪え切れず、クスクス笑っていたのだか、今は腹を抱えて笑っていた…


「…ハハハハ…ククッ…そうか…女神やて…プフッ…」


「…プフフ…女神…駄目です…堪え切れません…アハハハハハハ」


 笑いっぱなし二人を放って置いて、俺達はメニューを開き食事をを注文する。二人の為にランチを二つ注文して、午後の本戦についてミーティングを始めた。


「まず、最初のくじ引きがポイントだな?」


「そうだよね〜軽いフラッグなら問題無しだけど〜重いフラッグなら妨害役になって数を減らして確率上げていくしか無いね〜」


「五人の内、一人だけだと不安があるから二人は軽いの引きたいな…」


「取りあえず、メインの太一と遠距離をカバー出来る友一のコンビ。近距離専門の俺と志緒のコンビ。二つのコンビのフォローに遠近両方を使える聖が入るフォーメーションが良いだろう。三角形を二つ付けた様な8の字を横にした型だ。底辺に太一と友一、頂点に聖、もう一つの底辺に志緒と俺が入れば、問題無い」


「俺が別件で戦闘に入った時の事も考えて、太一と友一の左右に双一朗と聖が入った菱形の陣形も頭に入れてくれ」


「オッケ〜」

「了解した」


 そうして大体の作戦が決まる頃には、三右さんと千秋さんの笑いも収まってきた。


「ふ〜っ、お腹痛いわ」


「…フフフ…久しぶりに大笑いしましたわ」


「なあ、蟹。折角、太一君が頑張るんやから、法子も呼ぶか?」


「えっ?良いんですか?」


「最後の表彰式では、私達は課長として来賓扱いで参加しますから、そこに、司法課の課長が居ても問題無いでしょう?」


「夏目先輩、大鐘先輩お願いします。俺も法子さんに見て欲しいです!」


 太一は、二人に頭を下げてお願いしている。そんな太一に二人は笑顔で了承する。

 二人の笑顔の質が、加藤課長をからかいたくて、ウズウズしている様にしか見えないが、引き込もり中の彼女を連れ出すには丁度いいかもしれない。

 食事を終えて、お茶を飲みながら軽い雑談をしていると、店内に人が増え始める。


「そろそろ、ゲートに行くか?」


「そうだな、今ならフラッグの準備も始まった筈だし、種類も確認しながら行けるな…」


「どんなフラッグでも上位狙うから気にしないぜ!」


「そうや、頑張って法子に良い処見せんとな!…女神やし…プフッ」


「…浸食女神…プフフフフッ!」


 三右さん達と別れて俺達は、スタート地点の学園ゲートへ歩き出した。本戦のコースを眺めながら歩いて行くと、戦闘エリアはコースの両側に特製の高さ三mのクリアボードが設置され、観戦客の安全対策が取られていた。

 それから暫く進むと、通りには大小様々なフラッグがナンバーと共に準備され、運ばれて行く。見渡す限りでは、一番大型なフラッグは、高さ六m、小型の物は、ヘルメットに三十cmのフラッグが付いている。大抵は背中に背負う二mタイプが主流だか、ポールの太さが微妙に異なっている。

 そして、全てのフラッグには、このイベントに協賛した店や企業のスポンサーのロゴや商品名が描かれている。中には個人の夢が書かれている物もあり、七夕の短冊の様に優勝すると、願い事が叶うと言う噂も広まっている。


「今年も沢山のスポンサーだね〜」


「おおっ、諏訪屋のフラッグあるぜ!」


「あっちのは駅東の百貨店だな…デカいな…」


「……おい、友一、聖。あの二本あるデカいヤツ、お前達の神社(いえ)のじゃないか?」


「「………えっ?」」


「…あれを壊すのは勇気がいるな……」


「どうしよう…友一…」


「…アレはマズイな…」


「…壊したら春美さんと茜に殺されるぜ…」


 抽選エリアに見える氷馬神社と火鷲神社の大型フラッグを見詰める俺達は、新たな難題を見つけて途方に暮れていた……





 学園ゲート前に到着した俺達は、額を合わせて円陣を組んでいた……


「…三位以上を目指すのはいいが、問題はあの二つのフラッグだな…」


「この際、火鷲は諦めて、氷馬をどうする?春美さん容赦無いぜ!」


火鷲(うち)はどうでもいいって、どう言う事だよ!」


「おじさんは分かってくれるが、春美さんは怒るって事だよ!」


「…担当制にするか?」


「…担当?」


「俺達にあのフラッグを持った奴が仕掛けて来た場合、氷馬なら聖、火鷲なら友一が攻撃すれば、体裁は取れる」


「そうだな…春美さん達も納得するか…」


「おお、それなら何とかイケるんじゃないか?」


「俺だけ、春美さんと茜に殺られちゃうよ〜」


「……もしもの時は皆で謝りに行こう…」


「……そうだな…そうしよう」


「それでは、上位目指して頑張るか」


「おっし!皆、頼むぜ!」


 フラッグ対策の方針も決まり、後は本戦のスタートを待つばかりとなった俺達は、係りの誘導に従いスタートラインに並び、スタートの合図を待つ。

 周囲を見渡すと、右側に足枷と罠の姿が見え、左側には鉄槌の姿が見える。通信機を取り出し装着すると、捕縛課のメンバーに話し掛ける。


『此方、蟹。獲物は見つけたか?』


『罠です。…いませんね』


『鉄槌だ。いねぇな…』


『始まれば、出てくるさ。それまでは、レースを楽しむ!』


『足枷、容赦しないぞ』


『俺もだ!』


『僕もですよ。下剋上です!』


『『『返り討ちだ!』』』


『……嘘です。すみません!』


『此方、投石機。四剣と中継車両に待機。獲物を発見次第、援護します。皆さん頑張って下さい』



『『『『了解!』』』』





 5カウントダウンのシグナルが灯り、選手達は張り詰めた空気の中でシグナルを見詰める。いよいよスピードフラッグ本戦が始まろうとしていた。

 カウントがゼロになり、イベント開始の花火が打ち上がる。選手達は抽選エリアを目指し、勢い良く坂を駆け下りて行った……





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