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銀拳  作者: 月草 イナエ
25/45

~23 連休(四日目)

 

「志緒さん、今日の午前のは捕縛課ですか?」


 朝食を食べながら、花月が今日の予定を聞いてくる。

 俺は味噌汁を片手に去年のGW期間を思い出し、捕縛課に行こうかどうか考えていた……

 連休も三日が過ぎ、大通りのイベントは華やかさを増し、観光客も昨日から増え始めている。明日は、学園前から駅前広場までの大通りを使用する参加型イベント、[スピードフラッグ]が開催される為、参加者が参加登録所に集まり始めていたし、七日目の[ミスコン]衣装の手直しや、飛び込み依頼が入るのは参加登録が始まる明日以後になる。その為、比較的自由に動けるのは、今日と、ミスコンが終わる八日目以後だ……


「花月は、去年のGW期間はどうしてた?」


「私ですか?私は…午前は家で、お稽古や勉強をして、午後は、イベント巡りです。お母様とお菓子のイベントに行ったり、イベント観戦とかです」


「俺は、殆ど店の手伝いだった……課の当番以外は、余り外に出れなかったな〜」


 去年は、ミスコンの衣装依頼が多すぎて、朝から晩まで仕事をしていたのを思い出す。

 そう考えると、今日はイベントをゆっくり楽しんでも良い様な気がしてきた。


「花月は、午前に何処か行きたい場所は有るか?」


「えっ?…えーっと、イベントでは無いですが、家の様子を見てみたいです。一人で二日以上家を空けた事が無いので、少し心配です…」


「それじゃあ、大通りを眺めながら、花月の家に行ってみるか?」


「はい!ありがとうございます。志緒さん」


 午前の予定も決まったので、朝食を済ませて支度を整えていると、呼鈴の鳴る音が玄関から聞こえてくる。


……ピンポ〜ン……ピンポ〜ン…………ピンポンピンポンピンポ〜ン…ピンピンポンピンポ〜ン…


 朝っぱらからムカつく鳴らし方をして来る奴がいる……俺の知り合いに、こんな鳴らし方をする人物は一人しか居ない。

 玄関に向かい、ドアの越しに声を掛ける。


「米は間に合ってるぞ…」


「…志緒、助けて…」


 ドアの向こうの[佐藤米穀屋]の看板娘は、泣きそうな声で助けを求めている。慌ててドアを開けると、其処には、普段の元気な姿からは想像がつかない、うつ向きながら涙をぽろぽろ(こぼ)す、夏樹の姿があった………


「おぉっ!な、夏樹?どうしたんだよ!」


 玄関に立ち尽くし、泣いている夏樹の手を引いて家に入れ、リビングのソファーに座らせる。花月にコーヒーを入れて貰い、夏樹の前のテーブルにティッシュの箱を置くと、俺は隣に座り、ティッシュを数枚抜き取って差し出す。少し落ち着いた夏樹はティッシュを受け取り、涙を拭いて盛大に鼻をかむ。


「一体どうしたんだよ?お前がそんなになったの、婆ちゃんの葬式以来だぞ…」


「…志緒…太一が、兄貴が…犯罪者になっちゃたの…」


「犯罪者?太一(あいつ)が?まさか…一体、何をしたんだよ?喧嘩でもして傷害か?」


「…ううん…窃盗か、脅迫…最有力なのは、婦女暴行…だと、思う…」


「はぁ〜っ?婦女暴行?!太一は、女には優しい奴だ。婦女に暴行される事はあっても、する事は無いぞ?お前が一番分かってるだろ!」


「…分かってるよ!…でも…だって!太一、今朝、洗面所で血の付いたショーツ洗ってたもん!」


「…お前のパンツじゃ無いの?太一、洗濯係だろ?」


「アタシじゃ無いよ!…まだ先だし…見た事ないショーツだったもん!」


「あいつに、聞いてみたのか?」


「ドアの隙間から覗いただけで、直ぐに家から飛び出して来たから……だって、怖くて聞けないよ!ニコニコして洗ってたんだよ!」


「変態ですね…」


「…花月、はっきり言うな…確かに昨日、電話来た時からおかしかったが…」


 俺が昨日の電話を思い出し、悩んでいると、携帯が震え出す。相手を確認すると、[加藤法子]と表示されている……


『…もしもし、加藤課長。どうしました?』


『…あっ、あの、私は横手椿と言います。法子の友人です。S&Cの店員さんですか?』


『…横手?…あぁ、毎週ご来店して頂き、ありがとうございます。私は、佐藤志緒と申します。椿様』


『覚えてくれてるんですか!うおーっ、チョ〜嬉し〜い〜!』


『これからも御来店、心より御待ちして下ります。椿様、それで、加藤課長は?』


『あっ、すみません。実は、法子が、昨日帰って来てから変なんです。パンツ貰ったって自慢されて、その後、何か探して、叫び声を上げて…外まで響いてパトカーは来るし、近所の人は、事件かって集まって来るし…大変でした…店員さんなら昨日一緒だったから何か知ってるんじゃないかって……』


『加藤課長はどうしてます?』


『昨日の夜から布団被って、ブツブツ言ってます。「ハンカチと間違えた…ハンカチと間違えた…」って、一晩中…お陰で寝不足です』


『…ハンカチですか?』


『昨日、お気に入りの青いハンカチ、忘れて行ったみたいだったから…』


『……あ〜っ、青いハンカチですか?………クッ、ククク…アハハハハハハ…なるほど!そう言う訳か!アハハハハハハ…』


『…どうしたんですか?何か分かったんですか!』


『ええ、ありがとうございます。椿様、次回の御来店の時に、先日迷っていた春物のスカート、プレゼントさせて頂きます。加藤課長に代わって頂けますか?』


『えっ?いいんですか!ヤッタァ―――ッ!ちょ、ちょっと待って下さい!ほら、法子!志緒さんだよ。電話だよ!……えっ?出たく無い?放って置いて?……すみません、亀みたいに丸くなって無理みたいです…』


『…分かりました。少し時間が必要な様ですね。椿様、ありがとうございました。次回の御来店、心より御待ちして下ります。それでは、失礼します』


 通話を切り、此方を不思議そうに見ている二人に、事情を説明する。

 店での事、イベント会場の事、夜の電話の事、今の電話の事、それらを踏まえて、夏樹の目撃現場を考えると、答えは簡単に想像出来た………

 夏樹は、恥ずかしそうに、「泣いていた事は内緒にして」と言って、家に走って帰って行った。去り際の夏樹の顔は、怒りに染まっていたから、夏樹より、太一の心配をした方がいいだろう……

 思わぬ処で時間を繰ったが、俺と花月は、家を出て、大通りに向かって歩き出した。

 今日も空は快晴で、これから大通りでは、沢山の楽しいイベントが始まるのだろう。



    ◆

    ◆

    ◆

    ◆



 午前九時半から大通りの学園寄りでは、アプリコット協賛のパン食い大会が、開催されていた。

 制限時間内に食べた数を競う基本的な大食いイベントなのだが、美味いと評判の店舗イベントの為、全体のイベントから見れば、小規模なイベントの割に、参加人数が多く、杏子を先頭に従業員は、早朝からパンを焼き続け、四時間が経過していた。


「店長〜ホットドッグ用三百追加でーす」


「は〜い。取りあえず、百個焼き上がったよ〜」


「店長〜大会用五百追加で〜す」


「わかチャン、もっと早く連絡入れてって、会場に文句言って!」


「店長〜彼氏が女連れでパン買いに来たぞ〜」


「えっ?志緒君来たの!」


「やっぱ、彼氏じゃん」


「ちっ、違うよ!休憩入るから、わかチャン、丸パンの生地お願いね」


「えっ?多い方なの?ホットドッグ用がいいよ」


「さっさと手を動かす!おばさん、休憩入るね」


「ごゆっくり、杏子ちゃん。三十分だよ」


 調理作業室から店内に入ると、棚からパンを選んでいる志緒の姿が見える。


「志緒君、花月ちゃん、いらっしゃい。お昼のパン?」


「おはようございます。杏子さん」


「杏子さん、おはよう。今日も忙しそうですね」


「やっと、休憩だよ。ちょっと朝御飯付き合ってよ。裏庭だけど…」


「いいですよ。パン選びますから、ちょっと待って下さい」


 そう言ってパンを選ぶと、杏子さんについて裏庭に出る。手入れの行き届いた裏庭は、緑の芝生が綺麗で、柔らかなそよ風が気持ちいい。

 杏子さんは背伸びをして、何時もの階段に腰を下ろすと、パンを食べ始め、俺と花月は隣のベンチに座り、店で買ったジュースを飲み始める。

 ふと、加藤課長の事を思い出し、杏子さんに聞いてみたくなった…


「杏子さん、変な質問しますけど…杏子さんが、ポケットに脱いだ下着を入れてて、その事を忘れてハンカチだと勘違いして、俺が怪我をして額から血を流していたとしますね…」


「少しツッコミたくなるけど…それで?」


「杏子さんは気付かず、脱ぎたてパンツで俺の額を止血します。当然、俺もパンツだと気付きません…」


「その時点で恥ずかしいね…」


「…ええ、そして、俺は、「ハンカチ後で返します」って言います。杏子さんはハンカチだと思っていますから、「気にしないで、ハンカチはあげるよ」って言います。しかし、家に帰ってから、止血したのはパンツだと気付きます。杏子さんなら、その後どうしますか?」


「凄い質問だね…私、そこまで間抜けなの?」


「例えばです…その後の杏子さんの行動が気になります」


「…私なら…その日は部屋に籠って、モワモワ考えてから、電話して速攻返して貰うかな?」


「…ですよね…杏子さんなら、そんな感じだと思いました」


「…もしかして、そんな娘がいたの?」


「ええ、相手は俺じゃ無いですけど、真面目な性格なので、見事に落ち込んでいました…」


「多分、少し落ち着いてからじゃないと無理じゃないかな?」


「…そうするか…有難う、杏子さん」


「ううん、余り参考にならなかったかな?」


「…志緒さん、そろそろ行きませんか?」


「…ああ、そうだな…」


 花月に促され、裏庭から出て行こうとする俺に、杏子さんが声を掛ける。


「志緒君パース!」


 振り向く俺に、何時ものアンパンが飛んで来る。


「ナイスパス。杏子さん。行って来ます」


「たまには、自分の事で悩みなよ〜ハゲるぞ〜」


「…了解」



    ◆

    ◆

    ◆

    ◆



 大通りの中央付近、参加型イベントの登録所には、大きな日程表が設置され、GW期間中に参加出来る様々なイベントが表示されている。日付、場所、イベント名、賞品等が大型モニターに映し出され、参加者は、その下に設置されている小型モニターで参加したいイベントに登録をすると、イベント名が入ったナンバープレートがモニターの隣に置かれた装置から出てくる。それを付けて、会場の受付に行くと、イベントに参加が出来る。勿論、受付は時間厳守になっているので毎年、遅刻する参加者が数名いるし、競争系は参加者を見て、受付を諦める参加者もいる。

 現在、大型モニターに表示されている午前のイベントは……


 ――――――――

◆登録受付中◆

5/1AM9:30

 大通り南第8会場

[喰らえ!無限の胃袋・パンの部]

○賞品○

《優勝》市内パン屋無料パス一年分

《準優勝》市内パン屋無料パス半年分

《三位》市内パン屋無料パス一ヶ月分

受付〆切AM9:40

 ――――――――

◆登録受付中◆

5/1AM10:00

 大通り中央第4会場

[星になれ!キャベツ投げ王決定戦]

○賞品○

《優勝》キャベツ一年分

《準優勝》キャベツ一ヶ月分

《三位》旬の野菜盛り合わせ

受付〆切AM10:30

 ――――――――

◆登録受付中◆

5/1AM11:00

 大通り北第2会場

[教育学部課クイズ大会]

○賞品○

《優勝》図書館職員決定通知

《準優勝》家庭教師一年間無料パス

《三位》書籍カード十万円分

受付〆切AM10:50

 ――――――――

◆登録受付中◆

5/2AM10:00

 奥水学園ゲート前会場

[スピードフラッグ・予選・本戦]

[予選]AM10:00

[本戦]PM1:00

○予選賞品○

五十位内:駅前バイキング無料券

○本戦賞品○

《優勝》イギリスペア旅行券+賞金五十万円

《準優勝》沖縄ペア旅行券+賞金三十万円

《三位》北海道ペア旅行券+賞金十五万円

受付〆切5/2AM9:00

 ――――――――




 参加登録所の正面にある業務課テントの中で、大型モニターを眺めながら、男達はイベントの参加を考えていた…


「…フッ、フッ、フッ」


「なあ、足枷、斧、お前ら、何か出るか?」


「午前だと、無限の胃袋かな?開始まで、三十分あるし…斧はどうする?」


「…フッ、フッ、フッ」


「う〜ん。そうだな〜でも、近いのはキャベツ投げなんだよな〜パルちゃん出る筈だから、優勝は無理でも、三位なら行けそうなんだよ…」


「…フッ、フッ、フッ」


「投石機出るのか?それを言ったら、無限だって、大剣いるから、優勝は無理だろ?なあ、足枷?」


「…フッ、フッ、フッ」


「大丈夫だよ、鉄槌。大剣は、無限の胃袋出場禁止だから」


「出場禁止?何で?」


「去年、全部門制覇したから業務課に、バイキングチケット三十枚で、無限系に出ないでくれって言われたらしい…殿堂入りかな?」


「参加型イベントで、優勝決まってたら、つまんねぇからな〜」


「…フッ、フッ、フッ、フッ、フッ、フッ」


「……おい、其処の腹筋先輩!暑苦しいよ!」


「…フッ、フッ、何だ、鉄槌。フッ、フッ」


「……青槍は、イベント出んの?」


「…フッ、フッ、ああ、俺は、フッ、フッ、クイズ大会に出る。フッ、フッ」


「「「…クイズ大会!!!」」」


「……どうしたんだよ」

「……無理だろ?」

「……何で?」


「俺は、フッ、三年だし、フッ、本が、フッ、好きだから、フッ、司書になりたいのだ!フッー、フッー」


「マッチョな司書か…」


「腹筋しないでクイズ本でも読めよ!」


「駄目だ!眠くなる」


「本好きなんだろ!」


「直ぐに寝れるから好きなのだ!」



「無理だな?」

「無理だね…」

「最下位だな…」



    ◆

    ◆

    ◆

    ◆



『…只今の記録、三十七m二十cm』


 大通りの観客席から歓声と拍手が沸き起こる。今までの選手の中では、一番の記録だ。イベント開始から二時間が経過して、イベントの参加者も、あと三人を残し、本日の最高記録が飛び出した。

 投石機…春日 春(かすが はる)は、前の選手が投げるのを、待機線でキャベツを持って待っていた…


『エントリーNo.85渡辺さちちゃん、初等部三年生で〜す。お願いしまーす』


「えーい!」


…………ボグチャ……


『…只今の記録、三mです。次の方、どうぞ〜』


 私は、ゆっくりと歩き出し、投擲線の二m前に止まる。


『エントリーNo.86春日春さん、高等部一年生です』


 軽く頭を下げ、左手に持ったキャベツを肩の高さまで上げ、右手を投げる方向に向けて、四十五度に角度を合わせる。砲丸投げのフォームで前に半歩進み、そこから身体を円盤投げの様に回転させる。遠心力が十二分に乗った処で、力を溜めた下半身を一気に伸ばし、上半身に力を伝える。


「ヤァ――――ッ!」


 キャベツは大きな放物線を描き、七十五m付近に落下すると、大きな音を立て砕ける。観客席から割れんばかりの歓声が響き渡る。


『凄い記録が出ました!只今の記録、七十三mです!春日さんがトップになりました〜』


 始めと同様に、軽く頭を下げて、待機線に戻ると、最後の選手が私を見て笑みを浮かべる。

 黒髪のショートヘアに黒のライダースーツを着た女性はキャベツをバスケットボールの様に指先で回している。


「中々やるわね…正直、つまらないイベントだと思ってたけど、面白くなって来たわ…」


 その笑みに、一瞬、微かに殺気の様な鋭さを感じた私は、その女性を待機線から静かに見詰めた……


『それでは、最後の選手です。高橋花子さん観光で中央から来たそうです。それでは、どうぞ〜』


 高橋と呼ばれた女性は、投擲線から一mの距離からステップを踏み、野球のオーバースローの様に腕を振り抜くと、キャベツが真っ直ぐ勢い良く飛んで行く。

 そして、私の記録より一m程先にキャベツが落ちる。先程より、大きな歓声が辺りを包み込む。

 その歓声を気にした様子も無く、振り向く彼女の瞳は、獲物を狙う鋭さを宿す、狩人と同じ光を放っていた……



    ◆

    ◆

    ◆

    ◆



「この、変態野郎――――っ!」


 彼女のパンツを綺麗に洗い、窓際の風通しの良い場所に日陰干しをしながら、一時間程眺めていると、いきなり部屋に飛び込んで来た夏樹の右ストレートを喰らい、俺は畳に這いつくばる。

 夏樹はたまに、理不尽な攻撃をして来るので、今回も些細な事に怒っているのだろう…プルプル震える膝を堪え、立ち上がった俺は、夏樹を睨み付けると、ふと表情を緩め、夏樹の後ろに視線を向ける。


「あっ!美人なお姉さん!」


「…えっ?」


 夏樹が振り向いた瞬間に、俺は窓枠に吊るした緊急脱出用のサンダルを握り、窓から逃げ出した……

 背後で夏樹の罵声が聞こえるが、全速力で駆け抜ける。商店街のアーケードまで走って、夏樹が来ないのを確認すると、膝をついて呼吸を整える。


「…ハァハァ、一体、なんだってんだ…ハァハァ、暫く家に帰れないぜ…」


 そんな俺に、商店街のオッチャンやオバチャンは笑いながら話し掛けてくる。


「なんだ、太一。また夏樹から逃げ出したのか?」


「今度は何やったんだい?ほら、水でも飲みな!」


 まるで、何時も俺が夏樹を怒らせている様な言われ方だが、オッチャン達は間違っている。俺が怒らせているんじゃ無くて、夏樹が勝手に怒っているのだ……

 オバチャンに貰った水を飲み干し、商店街を歩き出す。

 暫く家に帰れないとなると、途端に暇になる。宛ても無く歩いて大通りに出ると、イベントの参加登録所の大型モニターが、俺の目に飛び込んで来る。


 ――――――――

◆登録受付中◆

5/2AM10:00

 奥水学園ゲート前会場

[スピードフラッグ・予選・本戦]

[予選]AM10:00

[本戦]PM1:00

○予選賞品○

五十位内:駅前バイキング無料券

○本戦賞品○

《優勝》イギリスペア旅行券+賞金五十万円

《準優勝》沖縄ペア旅行券+賞金三十万円

《三位》北海道ペア旅行券+賞金十五万円

受付〆切5/2AM9:00

 ――――――――


「スピードフラッグか…ん、ペア旅行券…予選でも、バイキング無料券か……」


 もし、怪我の御礼に食事に誘ったら、法子さんは受けてくれるかな……いや、もし上位入賞して、旅行に誘ったら笑顔で喜んでくれるかな…

 頭の中では既に、浜辺に水着姿の法子さんが笑顔で手を振っている。


「…よし、エントリーしてみるか!」


 俺は、大型モニターの下に設置されている小型モニターの前まで行き、モニターを操作して参加登録をしていると、隣で登録している男子も、仲間達と一緒に参加するみたいだ。

 …仲間がいた方が、勝率は上がるか…彼奴(あいつ)らも登録しておこう。夜に電話すればいいだろう。

 再びモニターを操作して、参加登録を済ませ、プレートをポケットに突っ込むと、駅前のバイキングに向かって歩き出した。



    ◆

    ◆

    ◆

    ◆



 駅東の線路沿いの小道を、俺と花月は駅に向かい歩いて行くと、小さな踏切が見えて来る。


「こんな踏切が在るなんて知らなかったよ。これなら、駅に行かなくて済むから花月の家まで三十分は早く行けるな…」


「前は、緊張して三右さんの後を歩いていたので、この踏切の事を忘れていたんです。この道なら狭いですけど、学園の坂の十字路から真っ直ぐですから、迷いません」


 家の様子を見に帰った花月は、笑顔で、俺の前を歩いて行く。家を余り空ける事の無いと言っていた花月は、やはり、ホームシックになっていたのだろう。武装の暴走に加え、課長会議、他人の家に泊まっていれば、多少なりともストレスは溜まっていた筈だ、家族に会いたくなるのも無理はない……


「すまない、花月。俺がもう少し気の利く奴なら、良かったんだけどな…」


「そんな事はありません!志緒さんはとても気遣ってくれています。私、毎日が凄く楽しいです」


「そう言って貰えると嬉しいよ」


 花月の家では、四日ぶりに帰った娘に父親の剛さんが泣きつく場面を目撃し、母親の花江さんが呆れていた。

 花江さんに、家の周囲を剛兵会の人達に警備してもらっている礼を言い、二時間程滞在した後、今は学園に向かって林道を歩いている。

 学園の坂道に続く道路に出て、十分程歩いていると、上り坂の十字路を学園に向かって歩いている四剣を見つけた。


「お〜い。四剣〜」


 呼び掛けた俺達に、手を振って坂の手前で待っている四剣に走り寄り、一緒に坂道を歩き始める。


「蟹達は午後は武研課か?」


「ああ、そうだけど?四剣は昼飯か?」


「ちょっと、錐に代わって貰って、占い館に行って来たんだ〜朝花さんにGW期間中のスペシャルフリーパスをプレゼントされてたから…楽しかった〜」


「へぇ〜、良かったですね…」


「また、捕縛課の宴会に呼ぶ約束しちゃったし、楽しみにだなぁ〜」


(…朝花さん、この前の飲み会の筋肉ダンスが、余程楽しかったんだろうな…)


「四剣さん、朝花さんって、[占術師]の朝花さんですか?」


「花月も占い好きなのか?」


「志緒さん!占い館の占術師と言えば、女子には大人気で、普通は予約一杯、GW期間は予約無しで占って貰えるので、朝から長蛇の列なんです。S&Cと並ぶ、女性人気スポット上位店ですよ!知らないんですか!」


 いきなりテンションが上がる花月に、四剣もウンウン頷いている。

 そう言われても友達の姉だし、遊びに行くと、美和姉が絡んで来る為、余り気にした事が無かったので、凄い人物には思えなかった……

 捕縛課に着くまで、二人の占い話が続き、盛り上がる四剣と花月の後ろを、アンパンを食べながら捕縛課に入ると、錐ちゃんと青槍達がテーブル一杯に積まれたパンを食べていた。


「あっ、蟹さん、こんにちは〜」


「おっ、蟹、丁度いい処に来たな」


「おぉ―っ!鉄槌、どうしたんだよ、そのパン?」


「無限の胃袋で、足枷が二位になったんだよ。お前らも食えよ」


「本当ですか?足枷さん?」


「ああ、花月ちゃん。大剣いないから楽勝だったぜ」


「楽勝なら優勝しなさい!足枷」


「足枷、優勝した奴は?」


「黒いライダースーツ着たデブだよ…中央からの観光客…」


「そう言えば、キャベツ投げでも優勝したの中央から来たライダースーツの女らしいな?」


「斧、投石機、負けたのか?」


「ああ、一m差で負け〜」


「確か、クイズ大会は三位だったな…」


「優勝したのはどんな奴?」


「「「………青槍」」」


「「「…ウソ――――――――ッ!!!」」」


「ホント、あり得ねぇよ…」

「全部四択だったからだよ…」

「早押し、適当に押したんだよ…」


「何を言う!俺の筋肉の動きに適当など有りはしない!勘だ!」



「………馬鹿だ」×七


 力説する青槍に、皆が呆れていると、緊急出動音が室内に鳴り響く。


『此方、警備課。大通り南、イベント第7会場で乱闘者五名。警備課に負傷二名。捕縛課に、出動を要請します。繰り返し…』


 全員が武装を確認すると、四剣が叫ぶ。


「狩りの時間だ!出動!」


「了解!」


 俺達は課を飛び出すと大通りを目指し、走り出した………






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