~21・6連休(二日目・夜)
「お願い致ひましゅ!御泊まりひて下さい!」
全ては妹の土下座から始まった………
俺の部屋で机を漁る三右さんや、大鐘課長達を何とか止めさせて、リビングに戻り、そろそろ帰ろうかと、三右さんがリビングの棚に置いていた武装を持とうとした時、甘子がリビングのドアを塞ぐ様に正座をし、額を床に付けて懇願する。
甘子の土下座姿を久しぶりに見た翼とエリスは笑い出し、三右さん達は呆然としている……
「……あっ、あんな、甘子ちゃん。いきなし泊まってって言うても、準備もしとらんし、第一、この人数や…」
「大丈夫です!二階は四部屋あります。御泊まりに必要な下着やパジャマの衣類は、アタシと、兄貴が作った試作品を宿泊記念で、プレゼントします…」
「「試作品のプレゼント!」」
真っ先に三左さんと大山課長が喰い付いた……
「…アタシに、こんなに美人で優しいお義姉さんが出来たみたいで、凄く嬉しかった…」
「「美人な優しいお義姉さん!!」」
大鐘課長とエリスがポワ〜ンとしている…
「…それに、花月ちゃんも、指定対象になって、不安だと思います…お願いひます!」
「甘ちゃん…」
「うっ、優しい娘や…」
三右さんと花月が瞳を潤ませる。
「…朝御飯も出しますから、泊まってくだしゃい」
「朝御飯…」
翼は献立を考えている……
俺の位置から見える、土下座をする甘子の横顔は、獲物を狙う肉食獣が勝利を確信した様に、口元に笑みを浮かべている……
甘子の欲望一直線、土下座交渉に、あっと言う間に六人が宿泊に同意する。相変わらず、自分の欲求の為なら真っ直ぐに突き進む恐ろしい奴だ……
お泊まりが決まった女性陣は甘子の部屋に行き、着替えを選ぶと、順番に風呂に入った。当然、甘子は皆と背中を洗いっこすると言い出し、全員の風呂が終わる頃には逆上せたのか、興奮したのか分からないが、笑顔で鼻血を流してリビングに帰って来た。
「…神様、ありがとう……」
そう言って、甘子はリビングでぶっ倒れた………
『……って、事があったんだよ。その後、二階まで運ぶの大変だったんだぞ!太一』
『アハハハ…明日は夏樹とバイキング行く予定だから、今日じゃなくて助かったぜ。一緒だったら、また夏樹を背負って帰る処だった……しかし、甘子ちゃんは中々の策士だな?』
『策士と言うより野性動物の勘だな…』
俺は女性陣に部屋を提供(強制的に!)したので、リビングのソファーで横になりながら、妹の奇行に悩む共通点を持つ友人、佐藤太一に電話を掛けていた。太一の双子の妹、クラスメートの夏樹も甘子と似ている為、互いの不満や相談等で、よく電話をしている。
『…それで、どうだった?』
『…何がだ?』
『お前は、着替えも風呂も覗いて無いのか!』
『阿呆か?何で妹の風呂を覗いたりしなきゃなんねぇーんだよ?大体、着替えって言ったって、俺か甘子が作ったパジャマと下着だぞ?』
『馬鹿か?妹以外を見ろよ。このシスコンが!』
『…テメェーに言われたくねぇよ!』
『…えーっと、捕縛課の課長と副課長の双子と、救護課の課長に教学課の課長、エリスに翼、中等部の及川花月だっけ?…美人でスタイルが良いのに…お前はそれでも男か!?』
『…リスク高過ぎだろ?……バレたら学園の生徒全員でシングルに指定されるぞ……お前なら覗くのか?』
『覗く訳無いだろ?タイプじゃ無いし…』
『……以外だな?結構美人揃いだと思うんだが…』
『あぁ、顔は美人だけど、女は顔じゃ無い!胸だ!』
『やっぱり馬鹿だな……ん?…胸ならC〜Eカップ位は皆あるぞ?』
『俺は微乳派だ!肋骨ゴリゴリがタイプなんだよ!』
『AA以下かよ…』
『お前に、微乳の美学は分からん!』
『…構わないよ』
『阿呆が!それでも仕立て屋のデザイナーか!全ての客の要求に応じるのが職人だぞ!』
『肋骨ガリガリの客が来たら考えるよ…』
『ゴリゴリだ!もし、俺がそんな彼女出来たら連れて行くから、一着タダで作れよ!』
『期待しないで待ってるよ』
『あっ!信じてねぇ…』
『そろそろ寝るわ…』
『おっ、こんな時間か?んじゃ、おやすみ』
電話を切り、ソファーのクッションに身体を沈め、「照明オフ」と言うと、照明のボイスセンサーが反応して明かりが落ちる。
(明日は司法課から監視の視察が来るので忙しくなるだろう。丁度、三右さん達がいるから相手をしてもらえば、その間に、一着位は仕立て終わるかな…)
明日の予定日を考えながら毛布を被り、静かに眠りに就いた。
◆
◆
ふと、何かの視線で意識が覚める………粘つく、それでいて鋭い視線が、ソファーで眠る俺に向けられている。まだ目は開けていないが、確実に俺を見ているのが分かる……気配を探ると、リビングの入り口からゆっくりと何かがソファーに近づいて来る。
ソファーまで二歩の距離に近づいた瞬間、毛布を跳ね上げ、反対のソファーに押し倒す。
「キャッ!」
短い悲鳴が聞こえ、柔らかい感触と共に、シャンプーの香りが鼻を擽る。
「照明オン!」
リビングが照明に照らされると、俺の下には、タンクトップにショートパンツ姿で頬を赤らめた大鐘課長がいた……
「…大鐘さん?」
「千秋でいいです…制限時間は五分ですので優しくして下さいね」
「……千秋さん?制限時間って何ですか?」
「ミッション制限時間ですわ」
「何のミッションですか?」
「質問ばかりですね…フフフ。寝込みを襲い、リビングで制限時間内に志緒さんと親睦を深めるミッションですわ」
「初耳です…」
「私は、エリスさん、及川さんと同じ志緒さんの部屋に泊まらせて頂いてますが、あの二人との約束で、部屋を出たら五分以内に戻る決まりですの。五分を過ぎると二人が探しに来ますわ」
「早く戻って下さい!」
「押し倒されて、動けませんわ〜」
素早く立ち上がり、千秋さんに手を貸して立たせる。
「あら、あと三十秒ですね。また来ますわ。志緒さん」
千秋さんは微笑みながら、小走りで部屋へ戻って行った……
次の襲撃に備え、リビングの棚から細いロープを取り出し、天井の梁にロープを掛け、ソファーの近くにトラップを仕掛ける。照明を消し、ソファーに横になると、十分程でリビングに小さな悲鳴と、ロープに結んだ重石代わりのソファーが落ちる音がする。
照明を付けて、襲撃者を確認すると、黒いパジャマを着た銀髪が天井からぶら下がっていた……
「…エリス、早く寝ろ!」
「…志緒に縛られて動け無い…」
「五分経てば仲間が助けに来るぞ」
「それは駄目!二人に怒られる…」
「それなら後は、他の二人と部屋で大人しく寝てろ」
「うっ…分かった…」
トラップを解除してエリスを部屋へ戻らせる。念の為、またトラップをソファーの周りに、三ヶ所セットして寝る事にした。
翌朝、一泊の礼に、早めに起きて朝食を作ろうと、リビングに降りて来た三右と三左、大山の三人は、ソファーに眠る志緒の周りで、トラップに掛かり、逆さ吊りなった千秋達三人を見つけて笑い転げ、志緒はその笑い声で目が覚める。
「アハハハハハハ…朝から何やってんねん」
「アハハハ、ホラー映画みたいだね」
「ふ〜っ…文音、さっさと朝食を作りましょう」
「ん〜っ、おはようございます。三右さん。三左さん、大山さん……朝から女の子の逆さ吊りなんて絶景(絶対見たくない光景)ですね」
「「「ごめんなさい。下ろして下さい」」」
ソファーから起き上がり、カーテンを開けてリビングに朝日を入れる。軽く背伸びをしながら、ガラス越しに昨日置いたままのバーベキューの道具を見詰める。
ふと、外からリビングを見られたら、この光景はどんな風に見えるだろう……そう考えて、カーテンを閉めた………
「今日は…良い事あればいいな……」




