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銀拳  作者: 月草 イナエ
22/45

~21 連休(二日目)

 GW期間、十日間の初日は、オープニングイベントや、記念式典、安全祈願など堅苦しいイベントが多く、二日目から、飲食店イベントや参加型のイベントが始まり、五日目のスピードフラッグ、七日目のミスコン、最終日の大通り仮装レースや花火大会まで賑わいを増して行く。



 そんなGW期間、二日目の午前十時過ぎ、大通りの、和菓子屋&洋菓子店イベント会場には、夏目三右と三左、大鐘千秋、大山文音の救護課と教育学部課の課長以下、女性メンバーが集まっていた。


「皆、集まってくれてありがと〜今日は、思う存分、食べてってや〜」


 挨拶が終わるや否や、女性達は、テーブルに置かれた色取り取りのスイーツに群がって行く。

 課長会議で、救護課と教育学部課に、取引の案が浮かばなかった三右は、二日目に開かれる、菓子店イベントに、二つの課を呼び、飲食費を持つ事で、御礼と取引の対価にする事にした。


「思いっきり食べても何も、スイーツバイキングで取引されるとは、思いませんでしたわ…」


「美味しいし、良いじゃないか、千秋。私達は賛成した。それだけでも十分な報酬だよ」


「そうかもね、文音。それで、あの娘はどうしてるの?三右」


捕縛課(ウチ)SSS(トリプル)捕縛者が、面倒見てるで。昨日は、午前に捕縛課、午後は武研課でデータ収集や」


「えっ!あのゴミ溜めに行ったの?木嶋も片付ければ良いのに…」


「お茶会やったって、言うてたわ」


「私の[青鳥(あおどり)]時は、水も出ませんでしたわ!」


「まあまあ、千秋。ほら、このチーズケーキ美味しいよ」


 ……モグモグ……


「…それにしても、随分自由にさせてますのね」


「蟹は確り者やからね、でも、今日は急な仕事が入ったとかで、家に居るって言うてたわ。なぁ、三左?」


「ええ、彼は、七日目近辺は忙しいでしょうから…」


「七日目?七日目ってミスコンだよね?そいつ、男でしょ?」


「蟹の家は、縫製店なので、ミスコンや、仮装の製作依頼が、飛び込みで来るそうなんです」


「へぇ〜それじゃあ、忙しいね…」


「それより、文音。さっきのチーズケーキは何処にあるの?取りに行かなきゃ!」


 大鐘は、ケーキの場所を聞くと、バイキングテーブルに行ってしまった。そんな大鐘を、三右達は笑いながらゆっくりと追いかける。三人はケーキを選びながら、大鐘を探すと、バイキングテーブルに座ってケーキを食べている女性客に、怒って、大声で文句を言っている大鐘が視界に入る。慌てて大鐘を止めて、女性客に頭を下げる。


「…モグモグ…三右さん、…モグ…頭を上げて…モグ…下さい…モグ」


 聞き慣れた声に頭を上げると、其処には、ケーキを勢い良く食べている大剣(佐々木翼)がいた……


「大剣?何してるん?」


「…モグ…ケーキ…モグ…食べてます…モグモグ…」


 三左と大山に抑えられた大鐘が、二人を振り払い、大剣に指を突き付ける。


「この女、一テーブル食い尽くしましたわ!チーズケーキも!」


 見れば、大剣の前には、ケーキ皿が山脈を築いている。バイキング開始四十分弱で、一つのテーブルを食い尽くす、大剣の食欲に驚きながら、三右は、ある疑問を口にする。


「今日は蟹に、銀拳と二人で、花月ちゃんの監視頼まれたんやなかった?」


「…モグ…一緒…モグ…でふ…」


 大剣がフォークで正面の皿の山を差す…

 テーブルを回り込んで皿の反対へ行くと、皿の山に囲まれた、エリスと及川が、ケーキにフォークを差したまま、テーブルに倒れている……


「……まだ…負け…て……」(ガクッ)

「…もう…ダメ…」(ガクッ)


「何しとんねん!」


「…モグ…今晩の志緒君の…モグ…晩御飯係を賭けて勝負し…モグ…てました…モグ…」


 皿の向こうから、大剣の声が聞こえて来る。


「何やってんねん…」


「其処の貴女!いい加減にしなさい!幾ら食べれば気が済むの!」


 ペースを落とさず、ケーキを食べ続ける大剣に、大鐘が詰め寄り、止めさせ様としたが、大剣がフォークを軽く振って立ち上がり、ジーンズのウエストを広げて見せる。


「S&C特製のマタニティジーンズですから、お腹が苦しくなる事はありません。心配無用です」


 ウエストの倍に広がるジーンズを見せ、またケーキを食べようと、椅子に座る大剣の肩を大鐘が掴む。


「S&C製?そんな筈ありません!あのお店は、マタニティ系は売ってません!」


特製(・・)と言ったでしょう?嫌がるデザイナーに無理矢理作らせました。このTシャツも一緒に…」


「そんな白Tシャツ作らせたのですか?」


「ええ、「そこらで買えよ!」と言われましたが、作らせました」


「お値段は?」


無料(タダ)です」


 大鐘はS&Cに、二度程行った事があるので、服の平均価格も、オーダーメード価格も知っている為、大剣の言葉に、「信じられ無い…」と、首を振る。そんな大鐘を見て、三左が呆れた様に、大剣に質問する。


「蟹に、無理矢理作らせたのですか?大剣…」


「前に作って貰ったパンツでランチバイキングしたら、ボタンが飛んだので、クレーム付けて、作らせました」


「……ボタン…飛んだの?……蟹が不憫(ふびん)です…」


 折角のS&C製パンツも、大剣によって、不良品扱いにされた蟹に、三左は同情を隠せなかった……

 その会話に一番驚いていたのは、大鐘だった。直ぐに、三右に詰め寄り、質問する。


「さっき話してたSSSの蟹って、S&Cのデザイナーなの!」


「…そっ、そうやけど…どうしたん?」


「分からないのですか?S&Cと言えば、この地域に(とど)まらない有名店!しかも、そのデザイナーですのよ!オマケに、SSS捕縛者。最有力で、旦那様候補、No.1ですわ!」


 大鐘は大興奮して、目を輝かせている…… 蟹は、自分がS&Cのデザイナーだと、自分に親しい人にしか教えていない。確かに、学園に知れ渡れば、大鐘の様な女性が現れる可能性は高いが、三右達は捕縛課で何時も会っているので、デザイナーとして、蟹を意識的に見た事が無かった………が、改めて考えてみると、優良株には違い無かった……


「…迂濶でした…」


 隣の三左が小さく漏らした言葉を、三右は聞き逃さなかった……


「…そう言われても、なんか、弟みたいな感じやしな〜」


「千秋はともかく、まだ、三右と三左は彼氏さえ、いないでしょう?生徒同士の結婚なんて、今時、珍しくも無いよ?どんどん周りの友達に、彼氏や旦那が出来てからじゃ、遅いよ?」


「何や、文音は、彼氏おるんかい?」


「うん。乃木 和人(のぎ かずと)さん…キャッ、言っちゃった!」


「今、放送しとるアニメの主人公やろ!」


「愛は、次元を超えるのよ!」


「文音、そんなヒロインみたいな事言わないで…」


「こんなんが、教育学部課の課長でいいんか?」


「三右!文音は放って置いて、その蟹様を見に行きましょう!」


「蟹様って…いきなり、神様みたくなってるやん?」


 大鐘は三右の手を掴み、イベント会場を歩き出す。二人の後を三左と大山が、慌てて、追いかけて行く。


 ……志緒君も大変だ……


 会場を去って行く四人の姿を、ケーキを食べながら見送った大剣は、皿を置くと、腕時計で時間を確認して、和菓子コーナーに歩いて行った……





 賑わいを見せる大通りから、商店街の通りを何本か抜けると、落ち着いた雰囲気のS&Cの建物が見えて来る。三右達四人は、入り口のオープンカフェの様なテーブルに座ると、ガラス越しに、店内を覗いている……


「…店の中に入ればいいやろ?」


「…蟹様を確認してからです。タイプじゃ無ければ、帰れば良いだけです」


「千秋は意外と、乙女ちゃんだから、直接会うのが恥ずかしいのだよ〜」


「店内の商品見たいのですが…」


 そんな事を話していると、店の奥から、白のYシャツに茶色のパンツ、黒のエプロンを着けて、髪を上げた志緒が、姿を見せる。

 接客をしながら、採寸、修繕、デザインの相談と、真剣な顔や笑顔でテキパキと働いている。


「店では、髪上げてるんやな〜」


「客に不快感を与え無い、見事な営業スマイルです」


「ヘェ〜仕事の出来る男だね。顔は普通だけど…」


「ストライクですわ!」


「「「……えっ?」」」


 ショーウィンドウに張り付いた大鐘が、店内の志緒を、食い入る様に見詰めている。

 その異様な視線に気付いたのか、志緒が、店の外から覗いている三右達を見て、嫌そうな顔をする。レジにいる女性に、何か言って、此方にやって来た。


「…三右さん、営業妨害ですか?」


「ちゃうわ!菓子イベントで大剣達に会ったから様子見に来たんや!」


「そちらの御二人は、救護の大鐘課長と教学の大山課長ですね。捕縛課の佐藤 志緒です。今、お茶をお持ちしますから、御掛けになって、お待ち下さい」


「……あっ、あの…」


「はい。なんでしょう?」


「私の名前、御存知なのですか?」


「ええ、大鐘 千秋様ですよね。救護センターの伊勢さんから、とても綺麗な武装だと良く聞かせて頂きます。それでは、少しお待ち下さい」


「そっ、そんな!恥ずかしいです…」


 志緒がお茶を準備する為、店に戻っていく姿を大鐘はずっと見詰めている。


「…なんや、あの紳士ぶり……」


「営業用ですね…」


「……千秋?どうした?」


「……綺麗って言われちゃった……フフフ…」


「…あかん…頭やられた…」


「三右、この場合は骨抜きよ…」


「魂じゃないの?…」


 乙女な妄想に入った大鐘を、三人は呆れた表情で見詰めていたが、普段見慣れた男子の違う一面を見た事に変わりは無く、志緒に対する好感度は上がっていた……






「フフフ…そうなんですか?」


「ええ、店の仕事の時はこんな感じですが、何時もは違うので、余り気にしないで下さい」


「今度、学園で御一緒にランチしませんか?」


「御誘い頂けるなら是非…」


 お茶を運んで来た志緒に、大鐘はベッタリ付き纏い、三右達は店内の服を物色していた。三左は展示してあるフリフリドレスに目を奪われ、三右と大山はスカートや下着に目移りしている。


「う〜欲っしいわ〜このデニムスカート!」


「やっぱり此方のブラがいいかな?…うっ、高い…」


「なんだい?あんたら志緒の知り合いか?」


 後ろから声を掛けられ、三右が振り向くとエプロン姿の女性が、此方を見て首を傾ける。


「そうや、ウチは捕縛課や」


「それなら、その棚の商品一つプレゼントしようか?」


「ホンマか!お姉さん」


「あの愚息は、毎年卒業式前に同じ課の先輩に作ってるみたいだけど……どうする?」


「…毎年?今年も作ったんか?」


「ああ…ちゃんと渡したよ…」


「……そんなら、ウチは楽しみに待って、卒業式に貰います」


「…そうか?なら、今の話しは志緒に内緒だ。いいな?」


「分かりました。ありがとうございます」


 三右はレジに戻る女性に頭を下げて、外にいる志緒を見詰める。不思議に思った大山が、三右に小声で聞いて来る。


「捕縛課で今年卒業した先輩って…あの人だよね………志緒君…中々いい男だね?」


「…そやな…いい奴や…」


 ショーウィンドウの向こうでは、笑顔で大鐘の相手をしている志緒の姿が、さっきより優しく笑っている様に見えていた……




 一時間程過ぎ、昼食を取る事にした三右達は、志緒から全く離れる気配の無い大鐘を引き離し、商店街を大通りに向かって歩いていた。


「…フフフッ、番号とアドレス交換しちゃった…」


「なんや、聞けば、教えたで?」


「分かってませんね?相手から、教えて貰う事に意味があるんです」


「相手の反応で脈の有り無しを判断するのですね?参考になります」


「めんどいな〜」


「三右には合わないよ…ストレートだから」


「そんな事ないで、文音。ウチかて駆け引き位は分かっとる。使わんだけや」


「真っ直ぐだね…」

「ストレートね…」

「おバカですわ…」


「失礼なやっちゃな〜早く、ランチバイキングいくで!」


「また、バイキングですの?」


「私はかまわないよ〜」


「三右は、好き嫌い多いから…」


 大通りに出ると昼時と言う事もあり、周囲から食べ物の香りが漂ってくる。ランチの会場は駅前の近くにあり、駅から来た観光客を集め大勢の人達で溢れかえり、座るスペースが全く無い。四人は、周囲を見渡して空席を探していると、バイキングコーナーの近くに皿の山が見え、その周りだけ空席が見える。


「三右、彼処の皿の山に行きましょうか?」


「…ああ、ええよ」


「もしかして、彼処って…」


「嫌な予感しかしませんわ!」


 人混みを掻き分け目的地に着くと、大量の皿の山を前に物凄い勢いでカレーを食べている大剣と、テーブルに倒れ込む銀拳と及川がいた………

 三右と三左は大剣の隣の空席に座り大鐘と大山は対面の銀拳の隣に座る。


「いや〜座る場所あって良かったわ〜」


「お邪魔しますね、大剣」


「また会ったね。大剣さん」


「この女と、また会うとは…最悪ですわ」


 テーブルを確保した四人は、思い思いの料理を持って来ては舌鼓を打っている。相変わらずカレーを勢い良く食べる大剣の底無しの胃袋に驚きながらも、全く食べていない銀拳達二人に心配になった大鐘が話し掛ける


「御二人共、大丈夫ですか?」


「……カレーの香りで胸一杯…」


「…モンブランが出そうです…」


 テーブルにうつ伏せになったまま動こうとしない二人に、ピコンと、ある考えが浮かんだ大鐘が動けない二人を眺めて提案をする。


「そう言えば、御二人は志緒様の夕食を賭けて勝負をして、其処のカレー馬鹿に負けたのでしたね…そんな姿で夕食の場に居られても志緒様も喜びませんわ。代わりに私が夕食に御誘いします。貴女達はそこに寝転んで、カピバラにでも成りなさい!…オホホホホ」


「……カピバラ?」

「…志緒…様?」



「…オホホって、どっかの継母みたいになっとるで…」


「ちょっと恥ずかしいですね…」


「千秋は集中すると周りが見えなくなるからね……気にしないで食べよう」


 他人のふりをして料理を食べる三右達に気付かず、動けない二人を前に、志緒との夕食を妄想して大鐘は頬を染め、自分の世界に浸って行く。そんな大鐘に鋭い視線を向けて、銀拳と及川はプルプルと震えながら立ち上がる。


「「……勝負よ!」」


「…フフフ、勝負になるかしら?」


 大鐘は二人の体調を考慮して、勝負を大剣が次の三皿を何を食べるかを当てる、予想勝負にした。紙ナプキンに三人は大剣の次の三皿を書き留め、テーブルの上に並べる。


 ―――――――

千秋

 1カレー

 2カレー

 3カツカレー

エリス

 1カレー

 2カレー

 3麻婆丼

花月

 1カレー

 2カレー

 3ハヤシライス

 ―――――――


「殆ど、カレーやないか?」


「三品目だけ違うね…全部ご飯物だけど…」


「大剣ならば、有りでしょう」


 三人の勝負など全く気に留めない大剣は皿のカレーを平らげると、次の料理を取りに行く…………持って来たのは両手にカレー皿だった……


「二品目までは正解ですわね…」


「……中々やる」


「次で終わりです」


 三人は互いを睨み合い、不敵な笑みを浮かべている。大剣がカレーを食べ終わるの待ちながら、銀拳と及川は大鐘に殺気立つ視線を向け、大鐘は落ち着いて、その視線を受け流している。大剣がカレーを食べ終わり席を立とうとした瞬間、大剣の頭に、手刀が落とされる。


「何やってんだ、翼!木嶋さん達、花月が来ないって電話掛けて来たぞ!」


 大剣が振り向いた先には、ホットドッグを食べながら睨んでいる志緒の姿があった…… 慌てて、腕時計で時間を確認する大剣だが、彼女の時計は十二時で止まっていた。


「…まだ、十二時?」


 再び、大剣の頭に手刀が振り落とされる。


「んな訳あるか!一時過ぎだ!エリスも花月もさっさと行け!」


「まだ、デザートが……」


「コレやるからさっさと行け!」


 バイキングコーナーを見詰め悲しそうな表情の大剣に、志緒は持っていたホットドッグの紙袋を大剣に渡して席を立たせる。銀拳と及川も慌てて志緒の処にやって来る。


「……行ってきます」


「志緒さん、すみません。直ぐに行きます」


 三人は少しふらつきながら人混みを掻き分け、学園に向かって走って行った。ため息を吐きながら三人を見送った志緒は、大鐘達に頭を下げる。


「翼が御迷惑をお掛けしてすみません。後は大丈夫ですから、折角のお休みなんですから楽しんで下さい。それじゃあ」


 立ち去ろうとした志緒を大鐘が呼び止める。


「志緒さん、すまないと思うなら、今晩、夕食にお付き合いしてくれませんか?」


「今晩は仕上げなければならない仕事がありますので、俺の家で家族と一緒で良ければ、皆さんをご招待します」


「デートも未だなのに、いきなり家族に紹介して頂いて、いいのですか?!」


「…デート?」


「いっ、いえ。是非、伺いますわ!」


「いきなりやな〜」


「急展開だよ…」


「…私達もですか?」


「その方が、都合がいいですから…夕方迄にに店の方に来て下さい」


 そう告げると、志緒は商店街の方へ行ってしまった。その背中を見送り、大鐘は握り締めた拳を突き上げる。


「ダァ―――――ッ!」


「そこはダァ―ッ!じゃないやろ!」


「乙女が戦士になったよ!」


「魂の雄叫びですね…」


 皿の山の前で拳を突き上げる大鐘の姿は、何かを成し遂げた自信に満ち溢れ、映画のワンシーンの様だった。周囲の観光客も拍手を送り、傍目(はため)に見ると皿の山を背後に大鐘が大食いを達成して喜びを表している様にしか見えなかった……





 その日の夕食は、とても賑やかな場となった。母親の涼子と甘子、花月に翼とエリスに加え、三右達四人がリビングに集まり普段より華やかさが増していた……志緒は三右と前庭でバーベキューを焼いて、花月と大鐘は互いに牽制し合う。甘子はエリスと大山を両脇に座らせ、大興奮している。台所では、翼がカレーを作り、三左がサラダを作っていた。ソファーでビールを呑む涼子が、「お前は男友達がいないのか?」と笑い声を上げている。



「…翼?またカレーなのですか?それに、量が少ない気がします…」


「昼間に、食べたカレーが美味しかったので…この人数なら丁度いいと思いますけど…少ないですか?」


「…貴女の食べる量が…です…」


「わたしは、一九時以降は食べないので余り必要無いです。太りますから…」


「……………そうですか…」



「いや〜兄貴!アタシ幸せだよ〜エリスさんだけじゃなく美人さんがこんなに!お母さん、写真撮って!これから毎日来て下さい!おにゃがいしましゅ!」


「面白い妹さんだね」


「……甘子、鼻血出てる」



「あら、大鐘さん、まだいるのですか?さっさと帰ればいいのに…」


「私は志緒様に招待されたのです。仕方無―――く、家に置かれている貴女とは違いますのよ…フフフ」


「…ムッ…また、仕方無〜く、お目覚めチューしようかな〜」


「なっ、何ですって!」



「賑やかやね、志緒…」


「無理に誘ってすみません。三右さん」


「気にせんでええよ。たまにはいいんちゃう?」


「明日は三右さんが課に待機ですか?」


「そうや、三日目やから司法課からも誰か来るやろ?一応な……」


「明日は、司法から課長が、来るそうです」


「えっ?そうなん?」


「直々にどんな監視か見たいそうです…午前は店に居て、午後は捕縛課に行ってから武研課に行こうと思います。加藤課長は店がメインの様ですから…」


「監視より買い物か……ある程度は信用してもろうてる様やね…」


 バーベキューを焼きながら、明日の予定を話していると、翼がカレーが出来たと呼びに来るが、視線がバーベキューに釘付けだ…焼き上がった串を皿に乗せ、家に入ると皆で挨拶をして食べ始める。賑やかな食卓を囲み、今日の出来事や明日の楽しみを話し合う、笑顔が溢れる時間は瞬く間に過ぎていった………


 そろそろ、お開きにしようかと、志緒は軽く食器を片付けて洗っていると、リビングには酔い潰れた母さんとお茶を飲む翼しかいなかった。


「…翼、皆は何処行ったんだ?」


「甘子ちゃんが連れて行ったよ…」


「ふ〜ん…」


「…志緒君の部屋に」


「止めろよ!」


「だってあの部屋、布と本しか無いからツマラナイ…」


「他にもあるよ!」


 慌てて二階に上がって部屋に入ると、三左さんと大山さんは作業机のデザインや作りかけの服を興味深く見て、ベッドではエリスと花月、大鐘さんが布団を奪い合っている…そして勉強机を三右さんと甘子が(あさ)っている……


 (…パニックになると逆に冷静になるって本当だな…取りあえず、証拠写真を撮るか…)


 デジカメを取り出して一枚撮ると、皆を止める決意を込めて声を出す。


「ちょっと待ったぁ―――っ!!」


 待ってくれたのは、三左さんと大山さんだけで、後は誰も待ってはくれなかった……






次回 連休(三日目)




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