~20 連休(初日)
「……って……起き……起きて下さい、志緒さん…」
「……うっ、う〜ん………ん!」
誰かに身体を揺すられて、薄目を開けると、視界には、水色のパジャマの胸元が飛び込んで来た。身体を揺する度に、ふるふる揺れる谷間に視線が釘付けになって、慌てて飛び退くと、バランスを崩して俺の上に伸し掛かって来る。
「…おわっ!」
「キャッ!」
ベッドの上で花月が腰に手を回し、腹の上に顔を乗せて、此方を見て、笑っている……
「…フフフッ…何だか、あの日みたいです」
「…そっ、そうだな?…取りあえず、柔らか…じゃない!…避けてくれ」
…胸が当たるんだよ…とは言える訳ないよ……朝だから色々あるし…
花月は起き上がり、指を口にあて、笑いながら此方を見る。
「おはようございます。起こしに来ました、志緒さん。」
「ああ、おはよう、花月」
二人で笑い合い、花月は朝食の準備をすると言って、部屋を出て行った。ベッドから降りて、軽く背伸びをして時計を見ると、午前五時五分………
「早ッ!まだ早いよ!」
何時もは、七時頃に起きる俺にとっては、この時間は未知の時間だった……もう一度寝ようかと、思ったが、起こしに来た花月に悪い気がするので、下に降りて、顔でも洗って、テレビでも見る事にした。
「…この時間のテレビって、一体どんな番組やってるんだろ?」
洗顔をして目を覚まし、リビングに行くと、当然ながら誰もいなかった……
家では早起きの甘子も、普段、起きて来るのは、六時だし、母親は通勤徒歩二分の為、八時半以降だ…しかも、GW期間で学園は休み。イベントやバイト、公課修練に出掛ける者以外は、ゆっくりしている筈だ……
テレビのニュースを見ながら、事件やGW期間のイベント情報が紹介されているのを眺めていると、ジャージにハーフパンツ姿の甘子がリビングに入って来て、俺の姿を見て、驚いている。
「うわっ!兄貴が起きてる!どうしたの?」
「花月に起こされたんだ…」
「えっ!起こされたの?私もチューで、起こして欲しかったよ!」
「普通に起こして貰ったよ!」
「つまんないな〜明日は期待してよ!色々試すから!」
「さっさと朝練行け!」
甘子はリビングから台所へ行って、花月と何か話している。時たま、笑い声が聞こえて、楽しそうな雰囲気が伝わる。三人で朝食を食べ、甘子は朝練に出掛けて行くのを、花月が見送り、リビングに戻って来る。
「志緒さん、今日はどうするのですか?」
「捕縛課に行くよ。その後は、武装研究課に寄る事になると思うよ。花月も準備してくれ」
「わかりました」
「折角のGWだし、大通りに屋台とか出るけど、時間帯が合わないからな〜…今日は、杏子さんの処で何か買って行こう」
「それなら、明日は私がお弁当を作りますから、一緒に食べましょう」
「ああ、分かった。九時迄に着けば良いから、八時頃に出る準備しておいてくれ」
パジャマ姿の花月は「それでは、シャワーお借りしますね」と、リビングを出て行った。
どうやら花月は、通園までの時間、家ではパジャマ派の様だ……ちなみに甘子はTシャツに下着姿で、彷徨いている。母さんはパジャマ(上)のみだ………我が家の女性は、慎ましさが不足している……
春休みに、エリスが泊まった時は、母親と甘子を見て、家の決まりだと勘違いして、リビングで脱ぎ始め、慌てて止めたのを思い出す。
部屋に戻って、着替えを済ませ、長剣のベルトを肩から回し、胸に止め、短剣のバッグ付きのベルトを腰に回し、装備を整え、リビングへ降りて行く。
ソファーに座り、暫くすると、花月がリビングへやって来る。中等部の制服は変わらないが、ベストが丹色から鳶色に変わって、落ち着いた雰囲気になった気がする。
「志緒さん、どうかしましたか?」
「防災課の制服と、捕縛課の制服じゃ、印象が違うなぁって、思ったんだ。落ち着いた雰囲気がする…似合ってるよ」
「フフッ、ありがとうございます。そろそろ行きましょう。志緒さん」
ソファーから立ち上がり、玄関に向かうと、後ろから、寝ぼけた声が掛けられる。
「志緒、花月ちゃん。行ってらっしゃ〜い」
「涼子ちゃん、行って来ます」
「珍しいな!雨降るよ……行って来ます」
「たまにはね…」
パジャマ(上)で彷徨く母親に、見送られ、久しぶりに朝の挨拶を交わすと、俺と花月は玄関を出て行った。
通りに出て、見上げる空は、GW期間の初日に相応しい、真っ青な晴天が広がっていた。
花月が一緒なので、久しぶりに徒歩で学園に向かって歩いて行くと、GW期間らしく、通りや店舗が飾り付けられ、普段とは違う、華やかな雰囲気を感じさせる。商店街の店主達も、和やかに笑い、商売の繁盛を期待しているし、この期間を楽しもうとしている。
「何だか、皆さん楽しそうですね?」
「商店街は特に、イベントや観光は、商売になるし、お祭り好きの人達が多いからね」
「お父様もこの時期は、街に出て、余り家にいないんですよ」
「剛兵会も稼ぎ時だろうしね…」
普段より人通りの多い商店街を歩きながら大通りに出ると、更に人が増え、賑やかさを増している。大通りの中央には、イベントに合わせ、特設ステージや、出店が軒を並べて九時半からのオープニングセレモニーの準備に追われている。
大通りの様子を眺めながら、アプリコットに着くと、店の前では、ホットドッグの屋台で忙しそうに準備している杏子さんがいる。近寄って声を掛けると、歩いて来る俺に、吃驚している……
「…志緒君が朝に歩いている!!」
「…吸血鬼や幽霊みたいに言わないでくれ、杏子さん。妹にも似た様な事、言われたよ…」
「アハハハ…結構、レアだと思うんだけど…どうしたの?」
「GW期間中、花月を護衛する事になって、昨日から家に泊めて、今から捕縛課に行く処、暫くは歩きだよ…」
「へぇ〜、暫くは歩く志緒君が、見れるんだ〜……泊めてっ!?」
「はい!暫く、志緒さんのお宅にご厄介になります」
「ふっ、ふ〜ん。そうなんだ……」
笑顔で答える花月を見る、杏子さんの視線が鋭くなった気がするが、二人はニコニコと、笑顔を交わしている。
「杏子さん、昼飯にパン買いたいんだけど…今、大丈夫?」
「大丈夫だよ!何個?」
「五〜六個かな?お任せで」
「うん。お任せされた」
杏子さんは店に戻って少しすると、片手に紙袋を二つ持って来る。
「はい。お昼パンといつもの」
力強く渡す紙袋を受け取り、中身を見ると惣菜パンや菓子パンの入った袋と、食い掛けアンパンの小さな袋だった……
「…何故、別に?」
「恥ずかしいよ〜志緒君。さぁ、行ってらっしゃい!頑張ってね」
杏子さんは、俺の背中をグイグイ押して、学園に進ませ、歩き出した俺達に手を振って送り出した。
「…志緒さん、…杏子さんでしたか?彼女が渡した袋の中身は?」
「アンパンだけど?」
「アン…パン?…アンパンって、恥ずかしいのですか?」
「杏子さんは、恥ずかしいんじゃない?(食べ掛けだから…)」
納得しない様子の花月と、学園に向けて、坂道を登り始める。坂道の途中でアンパンを食べ始めた俺を、驚愕の表情で花月が見詰め、小声で何か、呟いていた。
「……いつも…の…そんな手が…」
捕縛課に着いて、室内を見渡すと、四剣が案山子と真剣な表情で何やら話している。その隣には、鳩羽色の制服を着た、情報管理課副課長、北川 小雪も真剣な表情で二人の会話を聞いていた。
「おはようございます。どうしたんですか?三人で?」
「おや?蟹は、彼女の警護と監視が任務だから、GW期間のシフトに入れて無いぞ?」
「あっ!蟹。いい処にきたね。昨日の夜、部屋の照明消す前に、何か感じなかった?」
「何かあったのか?案山子」
「一応、三右さんに頼まれて、昨日、情管課と花月ちゃんを監視してたんだ。そうしたら……まぁ、見た方が早いよ…」
仮想モニターを操作した案山子は、俺の前にモニターを映す。すると、佐藤家が上空から映し出され、家の屋根から通りを挟んだ反対の家の屋根に、人影が見える。暫くすると、人影は去って行き、屋根の上には新たな人影が見える……
「どう言う事だ?」
「…始めは、花月ちゃんを監視していると、思ったんだ…でも、蟹の部屋の照明が消えたのを見計らって交代している…」
「そうなんです。新人の監視、情報管理の練習台に、二十四時間体制でローテ組んだ初日に、コレです。良い訓練になります。志緒君」
「顔の画像出せるか?」
「う〜ん、上からだから、ちょっと無理だよ。だけど、相手を追跡して、割り出した…剛兵会だよ。余程、気に入られたみたいだね?」
「お父様ですか?直ぐに止めさせます。志緒さんに失礼です!」
「…いや、そのままで良いよ。心配だろうし、小雪さん、夜間の監視範囲、ちょっと変えて貰って、いいですか?」
「どの様に?」
「家の周囲は剛兵会にお願いして、その周囲、ドーナツ状にお願いします」
「二重にするの?確かに、その様な訓練も、必要だね。内と外の情報管理の正確さ、連係、良い訓練だ…」
「何かあるとすれば、外側で遮断出来ますし、空から監視と…下水道はどうですか?あの近辺は二本ありますから…」
「…フフフッ…志緒君が逃げたら、捕まえるのが大変だ…面白そうだね?早速、手配しよう」
「小雪、余り新人を虐めるなよ」
ニコニコと笑顔で答える小雪さんに、四剣が少し呆れながら、注意をする。今後の監視体制を確認した小雪さんは、案山子と一緒に情報管理課に戻って行った。案山子はGW期間中、監視や、情報管理の得意な武装[案山子]の能力から、情報管理課に出向している。各課の連係や、理解を深め、軋轢を生じない様に協力体制を作り上げる役目を担っている。
それから俺と花月は、四剣とお茶を飲み、雑談をしていると、九時前には、待機組が集まって来た。
今日のメンバーは、銀拳と投石機、罠の三人の様だ。GW期間は警備課が主役で、捕縛課は何か事件が無い限り、学園か、大通りの業務課テントで待機する事になっている。罠は、花月の姿を見つけると、笑顔で走り寄り、花月の体調等を聞いて、安心している。
「いやぁ〜及川が捕縛課に入ってくれて、嬉しいよ!」
「そんな、これからよろしくね。明君」
「名前で良かったな、明君」
「蟹さん!からかわないで下さいよ〜」
「そう言えば、皆さん本名では呼び合わないのですね?」
「ええ、捕縛課では勤務中、基本的に武装名や戦闘方法等で呼びます。私は四本の剣を扱うので四剣ですし、投石機は投石機械の武装です。蟹は武装が[蟹鋏]ですし、構えや動きが似ているからです」
「蟹さん、及川のも考えましょうよ」
「……赤海鼠」
「…蛇ですね」
「銀拳さん、投石機さん、もっと良いのにしましょうよ」
「四剣、アレって、課の歓迎会(対戦)で決めなかった?」
「確かに……でも、候補位は考えても良いんじゃない?」
「……火海鼠」
「海鼠しか無いのかよ…」
名前のアイデアを皆で話している内に、九時半になり、大通りから、セレモニー開始を知らせる花火が打ち上がる音が、聞こえて来る。
「あっ、GW初日のスタートですね…」
「俺達は休みじゃ無いけどね…」
「……見に行く?」
「私達は待機です!」
午前中は何事も無く、捕縛課に呼び出しが掛かる事は無かった。俺と花月はコーヒーを入れ、パンを分け合い、昼食を取っている。午後は武装研究課に行く予定で、[小演]の能力測定や、実験をして貰い、花月には小演を使いこなして貰う為に、GW期間中は通ってみようと考えていた。
「四剣、午後は武研課に行って来るから、何かあったら呼んでくれ」
「彼女のトレーニングか?分かった。暇な時か、緊急時に呼ぶよ」
「……蟹だけズルい」
「蟹さんだけ及川と…」
「待機なら見学OK?」
「………まあ、良いでしょう。何かあったら呼ぶから、通信機はセットしておいて」
「四剣、悪いな…出動だったら俺も出るよ」
「警護はどうするんだ?」
「捕縛課は実戦も大事な経験だよ」
「…フフッ…確かに」
昼食を終えた俺達は、武装研究課に行くため、練武研究棟へ向かって行った。武研課は二階のフロア全てを使い、様々な研究を行なっているが、資料や、本が積み重なり、図書館と、工場を混ぜたその場景は、魔術師の工房の様だ。
「うわぁ―っ、汚い!」
「……燃やしていい?」
「私がやります!」
「酷い有り様ですね…」
「何処にいるかな~課長ぉーっ!木嶋さぁーん!」
「……お~い。ここだよ~」
本の山と器材の奥から声が聞こえ、ローブの様な黒色の白衣を着た、痩せ型の男が姿を現す。武装研究課の制服は黒色で、課長がそんな格好をしている為、他のメンバーも、黒白衣を愛用しているか、学生服タイプの制服を改造して、神父みたいな格好にしている。他から見れば、黒魔術師と神父の怪しい集団にしか見えない。
本と器材の山を避けながら、此方に歩いて来る木嶋課長が、俺の隣の花月を見て、目の色を変えて叫んで来る。
「炎の蛇キタ―――ッ!!」
木嶋課長が叫び声を上げ、本の山を崩して走って来ると、周囲の本や器材の隙間から武研課のメンバーが、次々と顔を出し、砂糖に群がる蟻の様に、目を輝かせて此方に集まって来る。
「キャ―――ッ!」
「怖いです!蟹さん!」
「壁役よろしく」
「……蟹バリア!」
「俺を前に押し出すな!」
俺達の周囲は、あっと、言う間に黒山の人だかりになって、壁際に追い込まれる。その黒山からボロボロになって這い出して来た、木嶋課長が、メンバーを少し下がらせ、挨拶をする。
「痛ぁ…ようこしょ、武装研究課へ。課長の木嶋 照です。直ぐに来てくれると思わなかったから、皆、嬉しくて…驚かせてすみません」
謝る木嶋に、集まったメンバーも頭を下げて俺達に謝罪をする。木嶋に案内され、本の山を避けながらフロアの端にある談話スペースに移動をして、話をする事になった。大型モニターの前に椅子が並べられ、木嶋課長に向かい合う様に俺達は座り、話し始めた…
「大まかな説明やデータは、昨日、真木教授の方から頂きました。及川さん、課長会議ではお疲れ様でした。中々良いお話でした。私達も出来る限り、協力…まあ、ギブ&テイクですが、やらせて頂きます。当面の目標は、武装、[小演]の制御。自我を持つ武装を自分の支配下、主人に従う様にする事をメインに、実け…訓練したいと思います。現時点で確認されている、自我を持つ武装は、救護課、大鐘課長の[青鳥]と、SS賞金首の[水馬]とS賞金首の[雷針]の三例しかありません。ですから、武装のデータも余り無い、自我を持つ攻撃系の強い武装は、一発目の大暴れで指定対象になるのです。今回は、捕縛課で上手くやってくれたので、こうして、お話できますが、本来なら施設行きです。その事を確りと、胸に留めて下さい」
「木嶋さん、話し長いよ…」
「一応、僕も課長だから、実験したいの我慢して話してるの!それじゃあ、早速始めようか?プランAから始めよう!楽しみだな〜」
木嶋課長の指示でメンバーが実験班、データ班に別れ、前回使用した四階のモニター室にやって来た。三階の闘技室で実験班が準備をするのを待つ間に花月は簡単な説明を受ける。
「まず、及川さんにはコレを着て貰う。」
そう言って取り出されたのは、分厚い全身を覆うウェットスーツみたいな服とヘルメットだった……
実験班から実験の説明を受け、花月が女性メンバーと、着替えに行ったのを見計らって、木嶋課長に話し掛ける。
「何、アレ?」
「耐冷防護服だよ。これで、まず、現時点での制御不能になる熱量を調べて、制御可能な数値を調べるのさ。あと、脳波とか、この前の映像ファイルでは、炎は家一軒分だったかな?」
「耐熱じゃ無いの?」
「彼女はこの前、火傷してないよね。それは、武装が彼女を傷付け無い様にしているから…膜みたいなので、熱から護っているからだよ。あの服も、彼女を護る為にある」
『課長〜準備完了しました〜』
闘技室で準備をしていた実験班に声を掛けられ、室内を見渡すと、室内の天井や床、壁が液体の入ったパネルに覆われて、防護服を装着した実験班が、背中にボンベを背負っている。少し待つと、闘技室に防護服で身を包んだ花月がやって来て、更に説明を受けている。
『それじゃ、始めるよ〜実験班、火の準備が終わったら離れてね。及川さん、よろしくお願いします』
花月は此方に手を振ってから、部屋の中央に準備された炎の傍に行くと、小演を鞘から抜き、刀身を炎に翳す。赤い火の膜が伸び、炎の周りを畝り始め、蛇の頭部が威嚇の声を上げ、姿を現す。鎌首を擡げ、炎を喰う蛇に周囲から驚きと、歓喜の声が漏れる……
「心拍数78に上昇。脳波正常です。熱量増加、表面温度は千五百」
「データ班、計測数値の乱れを見逃すなよ」
木嶋課長とデータ班がモニターを見詰めて、花月と小演を観察している。徐々に熱を帯び、蛇の身体が赤からオレンジに輝きを増して、更に輝きが強くなった時、データ班が声を上げる。
「表面温度二千五百、脳波にトランス異常確認!」
『炎の供給中止!液体窒素噴射!』
「液体窒素!?」
慌てる罠が、ガラスに張り付いて下を見ると、小演と花月に実験班がボンベから液体窒素を噴射したり、小演に液体窒素の球を投げつけ、辺り一面、白い靄に包まれる……
「脳波、正常に戻りました。表面温度は、二千です」
『及川さん、聞こえますか?応答お願いします』
『…はい。聞こえます』
『今、自分がどうなったか、分かりますか?』
『……小演を見ていたら…頭が、ボーっとして来ました…』
『その感覚を覚えて下さい。それが武装の制御可能限界です。少し休憩しましょう』
木嶋課長は、先程のデータをメンバーと、整理して解析をするようだ。データ班が慌ただしく動き出し、映像と各データを比較して、意見交換しているし、実験班は、次の実験に備えて、器材を設置している。
三階を見下ろす俺に、罠が近寄って、耳打ちをする。
「蟹さん、今の実験、危ないんじゃないですか?」
「…危ないよ…だけど、武装は何時も危険があるよ。俺の銀糸や、罠のトラップだって、一歩間違えれば、指定対象だ…武研課だって、危険な事は理解しているよ」
「…そうですね…及川なら、武装の制御が出来る様になるって信じます」
二人は闘技室で実験班と次のと打ち合わせをしている花月を見下ろし、心の中で声援を送っていた…
「男二人が、怪しい視線で覗いてるよ。銀拳」
「……キモい」
「「キモいって言うな!!」」
「……気持ち悪い」
「「同じだよ!!」」
モニター室で、騒ぎ合う四人に、武研課のメンバーから「クソ、俺も女子と話したい!」「エリスちゃん可愛いな〜」と冷たい視線と熱い視線が向けられて、静かに小声で言い合う俺達に、苦笑いの木嶋課長が提案をする。
「…折角だし、及川さんの実験終わったら、皆でお茶でもしよう」
喜ぶメンバーに、俺達は、頷いて答えるしか、道は残っていなかった……
それから、花月の実験が二回程行われ、制御可能温度、攻撃時の熱量、小演との意思の疎通などの実験をした後、メンバーとお茶会をして、捕縛課へ帰って来た。
「…ケーキ美味しかったです。皆さん親切で、面白い人達でしたね」
「及川達、女子だけだよ。男はコーヒーだけ…」
「液体窒素弾貰っちゃった…後で投げてみよ」
「……運ぶの疲れた」
「そんなの貰ったのか?」
「笑顔の戦利品〜」
「……一回、一ダースで十ダース」
「笑顔、高いよ!」
「お前達は悪徳商人か?…此方は特に異常無しだ。私も行けば良かった…」
四剣の笑顔も見てみたいが、一体何を要求するのか、考えるのも怖い気がする。
それから、まだ待機時間のあるエリス達と別れて、帰宅する事にした。実験で疲れた花月が、ソファーでうたた寝を始めたからだ。
「花月、帰るぞ」
「……もう…動けますよ…スゥ〜」
起きない花月を背負って帰ろうと、背中を向けてしゃがんだ両肩を、銀拳と罠が抑え込む……
「なっ、何だよ、二人共?」
「それは此方の台詞です!」
「…何する気?蟹?」
「…背負って帰るんだよ」
「駄目です!」
「…駄目よ!」
両側から二人に、しゃがんだまま肩を掴まれ、動きを止められた俺は、首だけを動かし抗議するが、二人は肩を離そうとしない。仕方無く、背負うのは諦めて、立ち上がり、両手で抱えて運ぼうとしたら、銀拳に殴られた。
「痛いよ!」
「…私の拳も痛いわ…」
「エリスは、銀拳填めてるから痛く無いだろ!」
「蟹さん、及川を起こせばいいでしょ!」
「…いや、女の子起こすの、恥ずかしいだろ?」
「そんな訳無いでしょ!俺が起こしますよ!」
そう言って、罠が花月の肩に触れると、声を掛け様として、動きが止まり、口だけパクパクしている…
「…恥ずかしいだろ?」
「……くっ、コレは何と言うか……照れますね…」
そんな二人に呆れた四剣が、後ろから花月の肩を揺すると、ゆっくりと目を覚まし、小さな欠伸をする。回りを四人に囲まれ、目覚めた花月は、吃驚して四人を見渡すと、真っ赤になってうつ向いてしまう。
「女の子の寝顔は、見ないのがルールです」
投石機が冷静にツッコミを入れると、花月は耳まで赤くなり、帰り道や、家に着いても、暫く話しをしてくれなかった………




