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銀拳  作者: 月草 イナエ
20/45

~19 連休(前日)

「…あの、何か立派な門構えだね…」


「でっかい門やな〜」


「そうですか?駅東の南側のこの地区は、古くからの日本家屋が多いですから、余り気にしませんでした。北の商業地域と比べれば、静かで良い処ですよ。志緒さん」


 俺は今、三右さんと花月の家の前に居る。

 今日と、明日からのGW期間、俺の家に宿泊する準備を整える為、花月の家に宿泊道具等を取りに、付き添い(監視)を三右さんに頼まれたからだ。

 花月の家族に課長会議の決定を伝える為に、課長の三右さんも一緒に来ていたのだが、家の回りを囲む立派な塀と、門を見て、ため息を吐く………



    ◆

    ◆

    ◆

    ◆



 捕縛課の実務室では、鉄巫女と罠が、三右さんに詰め寄っていた…


「「課長!どぉお言うつもりですか!」」


「どおって?」


「「何で、蛇女(及川)が、蟹さんの家に泊まらないといけないんですか!?」」


 (いき)り立つ二人に、三右は顔を引き()らせ、落ち着け様とするが、二人は全く聞く耳を持っていない。


 …ガスッ…ガスッ……


「痛ッ!」「痛テッ!」


 鉄巫女達の後ろから三左さんが、手刀を脳天に御見舞いする。


「鉄巫女、罠、座りなさい……」


「「…ハイ」」


「…説明がまだでしたね…通常、Aクラス指定対象の警備、及び、監視は、単独でのBクラス捕縛経験者なら6名、Aクラスなら3〜4名、Sクラス1〜2名必要です。しかし、SSクラス以上の捕縛経験者なら1名で、制約無しの時間無制限、旅行にも行けます。捕縛課(ウチ)の主なメンバーの場合ですと…」


 ――――――――

◇SSS

◇S

銀拳、四剣、大剣

◇A

三右、三左、足枷、青槍

◇B

斧、鉄槌、鉄巫女、投石機、罠

◇C

円盾、爪、案山子、錐


 ―――――――


「…と、この様になります。」


「それならS〜Bクラスで対応できますわ!ねぇ、罠さん」


「そうですよ!」


「…無理です。GW期間中の待機組、巡回や、出動を考えると、私や三右、四剣は、学園に一名は待機していなければなりませんし、巡回等の班に、銀拳や大剣、青槍達をバランス良く割り振りしなければ、不測の事態に対応出来ません。二日位なら何とかなりますが、GW期間中、夜間も含めて毎日は無理です。それに、折角のお休みですから、旅行やデート、合コン位したいでしょう?…お相手がいれば、ですが……」


「…何気なく酷い事言われてますね?」


「…そう言えば三左、去年合コン中に出動掛かって、駄目になったって言ってたな…」


「三左も、お年頃だからな…彼氏いないのかな?」


「去年は確か、フリフリのワンピースだったよね…」


「えっ?見てみたい!」


「三左さん、性格はクール系なのに私服はフリル系なんですよね…」


「マジ見てみてぇー!」


「うっさいわ!黙れや!…………………ゴホン…わかりましたか?鉄巫女、罠」


「「…ハイ」」


 大人しくなった鉄巫女達を横目に三右さんは、花月の家に課長会議の報告をする為、これから出掛けると言って、俺を連れて三人で、花月の家に行く事になった……



    ◆

    ◆

    ◆

    ◆



 門扉の前でキョロキョロしている三右さんが、表札に気付いて、俺の肩を突っ突く。

 三右さんの指差す表札を見ると、[及川家]…の下に、[剛兵会]と書かれた看板が掲げられている……


 「…剛兵会(ごうへいかい)って、確か傭兵派遣会社やったよね?」


「基本的には、警備メインの護衛屋ですが、傭兵派遣の方が、有名ですね…」


 俺と三右さんが、ひそひそ話している傍で、花月が、門の監視カメラに手を振っていると、門の向こうで(かんぬき)が外れた音が聞こえ、重い音を立て、ゆっくりと門が開く。

 門の向こうは、立派な庭と、御屋敷が見え、背広姿の男が、頭を下げている。


「お嬢、お帰りなさい!お疲れ様でした!」


「ただいま。竹さん、お父様はいますか?」


「はい。西の離れにいらっしゃいます。…此方の方は?」


「学園の捕縛課課長の三右さんと志緒さんです。今日から暫く、志緒さんのお宅に御厄介になります」


「…えっ?…たっ、大変だあぁ――っ!」


 竹さんは、大慌てで屋敷に走って行く…

 不思議そうに首を傾げる花月を見て、三右さんと俺は、面倒事に巻き込まれる予感しかしなかった…



 花月の案内で屋敷の広間に通されると、花月は「準備をして来ますから、此方でお待ち下さいね」と言って、広間を後にすると、旅館の仲居さんみたいな人にお茶を出され、俺と三右さんは、ぼーっとしていた……


「ごっつい家やな~」


「三右さん、暢気(のんき)ですね…俺は嫌な予感しか、しませんよ…」


「頑張ってや~」


 さっきから、広間の回りを囲む様に、微かな足音と、人の気配が増えている…

 ベルトのバッグから、腕輪とグローブを取り出し、身に付けると、指を動かし、下準備を済ませておく。


「蟹は心配性やな~」


「二日連続で吊るされるのは、御免です」


 そんな事を話していると、障子を開けて広間に和装に身を包んだ男性が入って来る。

 歳は、三十後半から四十前半、目付きが鋭く、着物の上からでも筋肉質な身体だと分かる。

 男性は、俺達の向かいのテーブルに座ると、俺を睨み、右手を上げると、俺を指差す。


「……殺れ!」



「最悪だ…」

「アハハハハハハ」


 大笑いする三右さんを余所に、男の合図で広間の(ふすま)が開かれ、武装を手にした男達が罵声を上げ、十人程雪崩れ込んで来た。

 広間の畳の上に準備しておいた銀糸を指で操り、襲いかかる男達の身体に巻き付け、全員の動きを止める。

 広間に雪崩れ込んだ男達は、何とか動こうとするが、その度に糸が締め上げ、苦悶の表情を見せる。


「…くっ、き…貴様!」


 ゆびを指したまま、動きを止められた和装の男が、鬼の形相で此方を睨んでいる…


「…剛兵会の及川 (つよし)様ですね…私は、佐藤 志緒と申します。学園で捕縛課に所属しております。此方で大笑いしているのが、捕縛課課長の夏目 三右です。…課長」


「夏目 三右や、よろしゅう」


 一応、剛兵会の頭で、花月の父親なので、俺は、礼儀正しく挨拶をする。


「花月さんが昨日、救護センターに泊まったのは、御存知ですね。その理由を御説明に本日は参りました」


「…せっ…説明だと…」


「はい」


 そう話している内に、騒ぎに気付いた花月が、慌てて広間にやって来る。


「お父様、これは一体何事ですか!此方に居る三右さんと、志緒さんは、私の恩人です。御無礼は止めて下さい!」


 和服姿で現れた花月は、母親らしき女性と広間に入って、父親を止めているが、俺の銀糸で動きを止められている為、父親は顔しか動かせない。


「花月、ちょっと離れてくれ」


 父親を揺する花月を止め、銀糸を解除すると、俺の周囲を囲んでいた男達が、崩れる様に座り込む…


「あらあら、御強い方なのね。剛さん達が手加減されるなんて…」


「別に、闘いに来た訳では無いですから…」


「御用件は、先ほど、花月から聞いて下ります。昨日は、花月を助けて頂き、有難うございます。私は、母親の花江(はなえ)と申します」


 花江さんは俺達の前に座ると、三つ指をついて深々と頭を下げる。


「まずは、皆さんに昨日の、映像ファイルを見ながら説明したいと思います。そうしなければ、納得して頂け無いでしょうから…宜しいですか?」


「わかりました。モニターを準備させますので、少しお待ち下さい」


 花江さんが目で合図を送ると、周りで座り込んでいた男達が一斉に動き始め、広間にモニターを準備し始める。

 三右さんがモニターにデータを送り、映像が始まると、両親と男達が、モニターに釘付けになって映像を見ている……

 時偶(ときたま)、両親や男達の視線が、花月の帯に挿してある短刀と、映像の蛇と見比べて表情を曇らせる。

 音声が無い為、映像の合間に大まかな説明をしながら、花月がどの様に救出されたかを話し、その後の課長会議の決定を、両親に伝える。


「……それで、花月はGW期間、貴方が警護して下さるのですか?」


「建前的には、監視ですが、期間中は花月さんに行動を共にして頂きます。期間終了後、御自宅にお送りしますので、ご安心を…」


「御迷惑をお掛けします。志緒さん、花月をよろしくお願いします。ほら、剛さん…」


「……フン。ウチで警護した方がいいのによぉ〜…おいっ!志緒って言ったな、花月に手をだしたら、ぶっ殺すぞ!」


「もう!お父様ったら、手ならもう…私が出しました…キャッ!」


「なっ?!ナニッ!」


「「「お嬢ぉ!」」」


 …余計な事、言うなよ…父親と男達の視線が怒りに変わったよ…


「…フフフッ、志緒さん。花月をよろしく(・・・・)お願いしますね」


 母親の意味合いが、さっきと微妙に違うが、気にしないでさっさと帰ろうと思い、花月の準備を待ってから、門の前で、竹さんに見送られ、及川邸を後にする。

 俺は、花月の大きめのキャリーケースを押しながら、三右さんに話し掛ける。


「何とか、花月の家族に納得して貰いましたね」


「アハハ…いきなり、「殺れ!」には、笑ってもうた…」


「お父様はそんな事を言ったのですか?」


「…ああ、後は、俺の家か…三右さん?親にどんな説明したんですか?」


「…ん〜とやな〜、家に電話したら、出ぇへんから、店の方に掛けてな…「息子さん、女の子連れて行くんで、GW期間預かって欲しい」言うて、理由話したら、「家でず〜っと、監視の為、保護するのですね…逃げられない様に仕事増やせば、大丈夫です。……やったわ…これで製作依頼が(さば)けるわ!」って、喜んで言うてたわ…」


「最悪だ…また、家に缶詰かよ…」


「うふふっ、私も何かお手伝いしますよ。志緒さん」


 去年のGW期間中、一日しか外に出なかった事を思い出し、今年こそ、友一達と遊ぶ予定でいた俺は、三右さんの話しを聞いて、肩を落とす…


 …何とか早めに仕上げないと、去年の二の舞だ…


 ガックリしながら駅に向かう坂道を下りる俺と、三右さん達の影が、早く行こうと先を歩いていた……



 駅前に着くと、学園から帰って来る生徒や、仕事帰りのサラリーマンで、駅前の通りは混雑していたが、淡い桜の柄の着物が夕陽に染まり、艶やかな雰囲気の花月が、道行く人達の視線を集めている。

 三右さんは、一度、学園に戻ってから帰ると言って、路面電車で学園に帰るのを停車場で見送った俺達は、商店街を通り、家に向かう。


「飲み物とか、買って行くか?」


「そうですね、少し疲れました…この先に、公園がありましたから、其所で、一休みしてから志緒さんのお宅に行きましょう」


 そう言って、近くの青果店の店先で、フルーツジュースを売っているおばちゃんに近づき、何を飲むか選んでいる。


「おやっ?志緒じゃないか?美人さん連れてどうしたんだい?」


「ちょっと預かる事になったんだ」


「そうかい、それじゃオマケしなきゃね。お嬢さん、なんにする?」


「えーっと、ミックスジュースをお願いします」


 おばちゃんは、手際良く果物を刻み、機械に放り込むと、出来上がったジュースを花月に手渡し、何かを耳打ちすると、顔を真っ赤にした花月は、お礼を言って戻って来る。


「おばちゃんに何言われたんだ?」


「…なっ、内緒です」


 おばちゃんに、笑顔で手を振って、先に歩き出す花月の後ろに付いて、商店街を抜け、公園に着くと、近くのベンチに座り休憩する。




「…何だか緊張します…甘ちゃんの家に、たまに遊びに行った事はあるけれど、私の家、門限が厳しくて、友達の家に、泊まった事は無いんです。だから、嬉しいのと、緊張するのとで……あの〜志緒さん、お先にどうぞ!」


 そう言って花月は、ジュースカップを差し出す。何でも、おばちゃんに、新作だから感想を聞いて欲しいと、頼まれたそうだ…

 差し出されたカップのストローをすすると、オレンジや苺の軽い酸味と香りが鼻を抜けていく…


「結構、美味いな〜、彼処(あそこ)の店、朝とか、昼過ぎは行列できるんだよ。夕方が狙い目なんだ…」


「ヘェ〜そうなんですか〜……あっ、美味しいです!」


 顔を赤くしながら、ジュースを一気にストローで半分程飲んだ花月が嬉しそうに、笑顔で感想を言っている。

 これから、先に店に行って、母親に会わせてから家に行く事を花月に伝えると、少し緊張しているのが伝わって来る。


「そんなに、緊張しなくていいよ。それじゃ、行こうか」


 ベンチを立ち上がり、公園を通って、小さな通りを歩いて行くと、木造の落ち着いた雰囲気の店舗が見えて来る。

 店先には、椅子とテーブルが二組置かれ、小さなカフェテラスの様になっていて、左側の硝子張りには、映像が主流の現在では珍しい、マネキンが二体、スーツを着て立っている。

 右側の入り口の扉の上には、[Sugar&Cool]と彫られた看板が掲げられ、木製の扉を開けると、扉に付いた呼び鈴が揺れ、来客を知らせる。


「いらっしゃいませ〜」


 様々な衣類が飾れた店内の奥から、ロングヘアを束ね、ジーンズのベルトに裁縫道具をぶら下げて、腕捲りをしたシャツに、エプロン姿の母親、佐藤 涼子(りょうこ)が、笑顔で姿を現す。


「…何だ…志緒か?客かと思ったろ…表から来るんじゃ無いよ…」


 此方の顔を見た途端に無愛想になり、奥に引っ込もうとする母親を呼び止め、花月を紹介する。


「おい、母さん。話しは聞いてるだろ!今日から家に泊まる事になった、花月だ」


「及川 花月と、申します。御母様、よろしくお願いします」


「あっ〜?御母様?痒いねぇ…私の事は、涼子ちゃんと呼びなさい!貴女、美人だね!モデルにならない?」


「母さん!ちゃん付けは止めてくれ!先に家に行ってるぞ!」


「あっ、志緒。ちょっ……」


 呼び止める母親を無視して、花月の手を引いて店を出ると、クスクスと花月が笑い出す。


「…フフフッ、面白い御母…涼子ちゃんですね?凄く甘ちゃんに似てます。甘ちゃんもあんな感じの時がありますよ」


「甘子は母親似だからな…」


 少し減なりしながら通りを回って、裏手にある家に向かう。俺の家は二本の通りの間に裏庭を挟んで、店と家が背中合わせにある。本当は店の裏口から庭に出て、家に入った方が早いのだが、母親のあの態度が恥ずかしくて、店内を通らず、路地を抜け、手前の通りに出て家に着くと、玄関の鍵を開け、花月を家に招き入れる。


「これからGW中、よろしくな。花月」


「此方こそ、よろしくお願いします」


 花月をリビングに行かせ、荷物を二階の空き部屋へ運んでおく。たまに掃除をしていたので綺麗だが、一応自動掃除機をセットして、一階へ降りて行くと、ドア越しに話し声が聞こえ、リビングに入ると、部屋には目付きの悪い鶴ちゃんとエリスに、笑顔で答える花月がいた……


「あら、随分とお綺麗な着物ですね?」


「ええ、御母様…涼子ちゃんに、失礼があってはいけませんから、当然です」


「…エリスに鶴ちゃん、何でいるの?」


「……涼子ちゃんが、入れてくれた」


「…いや、そうじゃなくて…」


「志緒さん、私とエリスさんは遊びに来ただけです。ねぇ、エリスさん」


「……そう」


「…そうか…」


 ミーティングの後に三左さんに何か話していたみたいだったから、俺の様子を見に来たのかと思い、視線を二人の後ろに向けると、壁際にバッグが二つ並んでいる……


「…なあ、あのバッグはなんだ?」


「お泊まりセットです」

「…お泊まりセット」


「二人とも、帰れよ!カレンさんや、お母さんが心配するだろ!」


「…カレンはGW期間出張なの…」


「お母さんは奥様会で温泉に行きました…」


「「ご飯作って下さい!」」


 必死な目を向ける二人を無視して、携帯を取り出し操作する。


『もしもし、志緒ですけど…』


『志緒様ですか!私はどうすればいいのでしょう!?エリス様に、御暇を出されてしまいました!何か落ち度があったのでしょうか?それとも、私の事がお嫌いに……ううぅぅ…グスッ…』


『…心配要りません。今すぐ、帰らせますから安心して下さい』


 通話を切り、エリスを見ると………目を逸らされた……続けてもう一人に電話を掛ける。


『もしもし、志緒ですが…』


『あっ、志緒さんですか?鶴がいきなり、「今日から近所の奥さん達と行って来て」と、温泉の宿泊券渡して、いなくなりました!私、まだお友達いないのに!新手の嫌がらせでしょうか?朝御飯にピーマン入れたのが嫌だったのでしょうか?』


『大丈夫です。鶴ちゃんは、お母さんが大好きです。今、家に来てますから、もうすぐ帰らせます。感謝の気持ちにを伝えるのが、恥ずかしかったと、思いますから、安心して下さい』


 電話を切り、鶴ちゃんを見詰めると……目を逸らされる。

 ため息を吐いて、台所へ向かい、晩飯を作り始める。野菜を切り、鍋でお湯を沸かし、固形スープを溶かす。フライパンで肉を炒めながら野菜を入れ、塩と胡椒で濃い目に味付け、スープを注ぎ、煮立った処で水溶き片栗粉で、とろみを付ける。

 ご飯の上に掛けて、テーブルに並べると、皆が驚いて、此方を見ている。


「志緒さん、手際が良いですね…」


「私より上手です…」


「……主夫?」


「いいから、食ったら帰るんだぞ!」


「「……はい」」


 晩飯を食べ終わって、直ぐに二人は、バッグを担いで帰って行った…



 食後のお茶を飲みながら、花月はカップを見詰めて俺に頭を下げる。


「…志緒さん、私の所為で御迷惑をお掛けします」


「別に、迷惑とは思っていないよ。あの二人は、ああ見えて、花月を心配しているんだよ」


「心配しているのは志緒さんの事だと思います」


「…まあ、それもあるけど…鶴ちゃんは春休みに事件に巻き込まれたし、エリスは中央学園で色々あって、此方の学園に転校して来たからね…まだ不安な処があるんだよ。これから色々話せば、いい奴だって、分かるから…」


 そんな話しをしていると、店の片付けが終わった母さんと、部活帰りの甘子が帰って来た。


「ただいま〜って、花月ちゃんどうしたの?着物だよ!何なの?!」


「何だ?二人は帰ったのか?」


「ああ、さっき帰ったよ」


「兄貴、二人って?」


「…さっきまで鶴ちゃんとエリスが居たんだよ…」


「えーっ!何で、泊まっていかないの!私が帰るまで引き止めてよ!一緒にご飯食べたかったよ!お風呂入りたかったよ!」


「それが嫌だから帰したんだ!それより、今日から花月が、GWの間、家に泊まるからな仲良くな!」


「花月ちゃんとは仲良いよ〜でも何で?もしかして昨日の朝に、チュー以上の事しちゃって、兄貴が責任とるの!私にお姉ちゃんが出来るの?」


「そうなのか、志緒?…御母様って言われたし……美容院予約しなきゃ!」


「涼子ちゃん、甘ちゃん、よろしくお願い致します」


「違うよ!誤解だ!花月も今のタイミングで挨拶しないでくれ!」


 誤解を解いて、疲れ果てた俺は、部屋に布団を運び、花月を案内した後、リビングのソファーに転がり、ぼーっとしていた。今、花月は甘子と風呂に入っていて、騒がしい声が、此方まで聞こえて来る。


「志緒、GWはどうするんだい?」


 台所から母さんが、コーヒーを飲みながらGWの予定を聞いてくる。今回は、花月の監視があるから、抑えて欲しいと伝えると、仕方が無さそうに、「何も無ければ、手伝いは五日間でいい」と言って、リビングを出て行った。

 明日からの予定を頭の中で組み立てていると、いつの間にか寝てしまい、花月に肩を揺すられて、目が覚める。湯上がりの石鹸の香りが、鼻を(くすぐ)る。


「志緒さん、お風呂どうぞ。お待たせしてすみません」


「あぁ、ありがとう、花月」


「それでは、おやすみなさい。志緒さん」


 水色のパジャマ姿の花月が、笑顔でリビングを出て行くのを見送り、風呂に入って部屋へ行くと、武装の手入れと、衣装デザインのラフを二枚書いて、ベッドに入る。

 明日から始まるGW期間を、無事に過ごせる様に、淡い期待を胸に(いだ)き、眠りに就いた。






 夜の暗闇に染まる住宅の屋根の上から、志緒の家を見詰めていた人影が、部屋の照明が消えたのを確認すると、立ち上がり通信機を取り出す。


『…5より2へ…兎は眠りに就いた…』


『2、了解。5は9とチェンジ、箱へ戻れ』


 屋根の人影が闇に紛れ、姿を消す。

 夜空を彩る星達だけが、走り去る影を見詰めていた………




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