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銀拳  作者: 月草 イナエ
19/45

~18 監視


「ふふ〜ん〜ふふふ〜ふふふふ〜ふふんふ〜」


 翌日、志緒は花月の様子を見ようと、何時もより四十分程早く家を出て、学園へ向かって行った。

 屋根を走り、塀に飛び降り、塀を走り抜けていると、時折、後ろから驚いた声や、短い悲鳴が聞こえる……


 …何時もより早いから、結構、学園の生徒とすれ違うな…


 無音走行で、足音が殆ど聞こえ無い志緒が、視界の端から塀やフェンスを走り抜けて行くのに吃驚した生徒が、驚きの声を上げているのを無視して、学園に向かって志緒は走って行く。

 アプリコットの裏庭に差し掛かると、何時もより早い時間の為、通勤や登園前の書き入れ時の慌ただしい時間帯で、裏庭に杏子の姿は見えなかった…

 そのまま走り抜け様としたが、何となく昨日の負んぶの事も有り、何時も通り、パンを貰ってから行こうと決めると、塀を飛び降り、久しぶりに裏庭を歩く。

 杏子が何時も座っている階段の、右側にある横長のベンチに腰を降ろし、裏庭を眺めていた…

 朝の光を浴びて、裏庭の芝生がエメラルドに輝き、柔らかな風が髪を揺らす。


 …なんか…良い眺めだな…


 そんな事を考えていると、扉が開き、杏子がパンを片手に姿を見せると、両手を伸ばし背伸びをする。


「…う〜ん。気持ち良い〜っ!…今日はどうしようかな〜?朝花から、昨日は頑張ってたって聞いたけど…負んぶに、チューだし、メールで、朝花のあ~ん写真見たしなぁ~いいな~…よし!今日は餡子抜きだ!早く来ないかな~志緒君…」


「…餡子抜きは勘弁して、杏子さん」


「うわぁっ!!志緒君何でいるの!?…今の聞いてた!?」


 突然声を掛けられて、驚いた杏子は、ベンチに座る志緒の姿を見つけ、動揺している。


「…救護課に用があって、ちょっと早く出ただけだよ…」


「ふっ、ふ~ん。そうなんだ……はい、アンパン(いつもの)


 杏子は顔を少し赤くしながら、志緒の隣に来ると、そっぽを向いてパンを差し出す。


「有難う、杏子さん。」


 礼を言って、アンパンを受け取ると、立ち上がり、杏子の顔にアンパンを近づける。


「杏子さん、あ~ん…」


「うっ…やっぱり聞いてた……すっごい恥ずかしいよ!」


「今日は(かじ)って無いよ?いつものは食べ掛けパンだよ?」


「…う〜っ……パクッ」


 真っ赤になってアンパンを頬張る杏子を見て、志緒は笑いながら裏庭を走って塀に飛び移ると手を振る。


「ナイスあ〜ん。杏子さん、行ってきま〜す!」


 塀の上を走り出す志緒の後ろから、杏子の声が響いて来る。


「くそぉ〜!恥ずかしいぞー!志緒くーん!」



 志緒は、拳を突き上げる杏子さんを想像しながら、学園までの道を一気に駆け抜けて行った。





…キーンコ―ンー

  カラン―コーン…


 午前の授業が終わり、昼休みになると、何時も通り志緒は友一達と昼食を取っていた…

 今朝、早めに学園に登園して、救護課に寄ったのだが、花月は検査があって会う事は出来無かった…

 あれから花月が映像を見て、どの様な答えを出したか、聞いてみたかったからだ。

 課長会が終われば、三右さんが教えてくれるだろう……




「いや〜昨日は凄かったね〜志緒」


「ああ、昨日は本当に色々あって疲れが取れない…」


「友一は昨日、来なかったけど〜志緒達、頑張って中等部の娘、助けたんだよ〜」


「昨日、うちで晩飯食って行ったから、その時、聞いたよ」


「え〜っ!そうなの〜」


「そう言えば、あーちゃんまだ来ないな?友一」


「あーちゃんって誰?友一」


「…くっ…」


 そんな事を話していると、あーちゃんとエリスがやって来た。


「あなた〜ご飯よーっ!」


「…お待たせ」


 茜とエリスが座り、昼食を始めると、自然と昨日助けた花月の話題になる。


「そう言えば、志緒、昨日の花月ちゃんは、どうなったの?」


「朝は会ってないけど、午後から開かれる課長会で処分が決まる筈だ…」


「氷馬の巫女が祈祷したんだから、大丈夫よ」


火鷲(うち)だってやったから大丈夫だよ〜」


「二人共、ありがとう。後は、課長会次第だ…さあ、飯にしよう」


「…フフッ…今日はラーパン、二個」


「エリス、一個は違うパンにしろよ…」


「醤油と豚骨」


「味違うの!」


「ううん、醤油は海苔だし、豚骨は紅生姜」


「「「「具だけかよ!」」」」


「…違いの分かる女よ」


「…騙され易いから気を付けろよ」


「…志緒も騙され易いわ…心配」


「アハハハ…確かにね〜」


「昨日も双に騙されたしな」


「……くそッ…アレは皆で黙ってたからだろ…」


 昨日のキスマークのお陰で、騙され易い志緒の性格がクラスに広まり、朝からクラスメートにからかわれていた……



 『……ピン・ポン・パン・ポ〜ン……本日、午後一時より、課長会議を行います。各課の課長、副課長は業務棟五階の第2会議室に集合して下さい。…繰り返しお伝えします…………』



 スピーカーから、花月の処分を決める課長会のアナウンスが流れる……

 志緒は自然と肩に力が入り、目付きが悪くなってくる。


「志緒が緊張しても仕方無いよ〜」


「心配なのは、皆一緒よ…課長に任せなさい」


「…目付き悪い」


「…分かったよ」


「やっぱり、志緒は苦労人だな」


「お前に言われたく無いよ。友一」


「そうだね〜アハハハハハ…グフッ!」


 笑い出す聖を茜が床に沈め、友一がムスッとするのを眺めていると、エリスが此方を見て微笑みを浮かべる。


「…大丈夫よ。きっと良い結果がでるわ…志緒が、助けたんだから…」



    ◆

    ◆

    ◆

    ◆



 業務棟の五階、第2会議室では各課の課長達が集まり、部屋の隅では花月が、緊張した面持ちで椅子に座っている。

 会議室に集まった課長や副課長達が、花月を値踏みでもする様に見詰める中、三右と三左が花月に近寄って行く…


「花月さん、そんなに緊張しなくとも、大丈夫ですよ。これから始まるのは、貴女を利用した学園内の勢力争いですから。」


「そうや、せやからド〜ンと、座っとればいいんや」


 花月は、志緒と同じ鳶色のベストを身に付けた二人に話し掛けられると、映像ファイルに映っていた人だと思い出し、捕縛課の課長と、副課長だと判断した…


「捕縛課の課長さんと、副課長さんですね。昨日は、本当にご迷惑を御掛けしました。助けて頂き、ありがとうございます。メッセージファイルもありがとうございました。嬉しかったです」


 椅子から立ち上がり、三右達に深々と頭を下げて礼を言う花月に二人は、「ウチらが助けたかっただけや」、「頑張ったのは蟹ですよ」と、言って席に戻って行く。

 椅子に座り直し視線を上げると、幾分緊張が解けたのか、さっきまで見えなかった課長達の表情も見える様になっていた…


 …これからこの会議でどんな処分が下されても…私は、それを受け止める…今はそれしか出来ないから…




『…それでは席に着いて下さい。これより、課長会議を始めます』


 花月は椅子から立ち上がると、指定された課長達が座るコの字型のテーブルの間に置かれた席に座り、開始を待つ…

 花月の左手前のテーブルから、救護、防災、捕縛、正面に警備、業務、司法、右手奥から武装研究、情報管理、教育学部課の順に並び、花月を囲む様に、各課の課長達が座っている。

 課長達の僅かに張り詰めた表情が、落ち着きを取り戻した花月に、再び緊張を感じさせる。


『進行をさせて頂きます。業務課副課長の三日町(みっかまち) 朋子です。これより、課長会議を始めます。今回の議題は、昨日(さくじつ)の住宅街の火災による防災課、及川花月の処分に付いてです。まずは、武装研究課、情報管理課、捕縛課から、この件の映像の提供がありましたので、それを見てから始めます』


 照明が絞られ、室内が薄暗くなると、花月の正面の大型モニターに、昨日の武装修練の映像が映し出される。

 そこには、初めて蛇の姿をした小演の映像や、嬉しそうに小演を操る花月の姿があった…


 …昨日の事なのに、何だか懐かしい気がする…



 あの時の嬉しさが花月の胸に甦る…

 それから、火災現場に出動し、消火活動や救助した映像、小演が制御不能になり、花月を取り込んで住宅を火球で燃やした映像が映し出され、その後は昨日、救護センターで見せて貰った映像ファイルの映像が映し出された…

 話しには聞いていたが、実際の映像を見た課長達からは、驚きの声が上がる。

 そして、小演が氷の華の様になって砕け散ると、映像も終わり、室内が明るさを取り戻す。


『以上が昨日の映像になります。捕縛課、防災課の皆様には、被害を最小限に抑えて頂き、感謝致します。ご苦労様でした』


 三右と柳町が軽く頷いているのが見える。


『この件の被害は住宅街で、住宅一軒と空き家五軒、その内、全焼四軒半焼二軒。西通りの路面約五km、火鷲神社の鳥居の一部、火災による焼失は約五万一千平方mです。一般の負傷者が四名確認されています。』


「面積の割には負傷者が少なかったな…」


「捕縛課の誘導の所為だろう?」


「空き家で助かったな…」


 被害報告を受けた課長達が、感想を洩らし、チラチラと捕縛課の二人に視線を向けるが、三右達はそんな視線を軽く受け流し、進行役に続きを促す。


『…司法課からこの件に関して、指定対象の申請を受けています。…加藤課長どうぞ』


 指名を受けた司法課課長の加藤 法子(ほうこ)は、ゆっくりと立ち上がり周囲を見回すと、花月に視線を向けて話し始める…



「司法課では今回の件に関して、被害の規模、武装の危険性を考慮し、及川 花月をAクラス指定対象とし、司法課に引渡しを要求します」


 ショートヘアの前髪から、獲物を狙う豹の様な視線が花月に向けられると、花月は身を(すく)ませる。


「ちょっと待て、加藤。防災課のメンバーが、出動中に起こした事なら、防災課で処分を決定させろ」


「あら、柳町課長。身内贔屓(びいき)に為らない様に公平に判断するのが、司法の役目よ」


「贔屓なんかするか、公平に判断してやるよ」


「それに、一人でこれ程の被害を出すなら、通常のケースに当て()めてもAクラス指定は当然よ〜」


「…ん…だと、コラァ」


「落ち着ついて柳町。三日町、いい?」


「はい、大鐘(おおがね)課長」


「法子、今回の被害だけど、負傷者は最初の火災の住人で、後は映像を見る限りでは避難しようとして、転倒した人や消火活動で怪我をした人ね…住宅火災も全て空き家…アレだけ住宅があったのにピンポイントで空き家が燃えているのは、武装使用者が無意識に制御していたからだと思うわ…」


「それがどうかしたのか?あくまで推測だ…」


「だから、意識が無い状態…無意識の行動には使用者の心理が反映されるのよ。本当に制御不能なら手当たり次第に燃やして、蛇がもっと大きくなっても不思議では無いでしょう?武研ではどう見ますか?」


「…そうですね、本当に制御不能ならば住宅街は火の海になった筈ですし、通りを進む理由も無い。映像では、温度を感知する能力が有るようですね…人に攻撃しない様に制御されている…そう思わせる行動です。自我を持つ武装は貴重ですから、実際に調べてみたいですね」


「だが、木嶋。アレは捕縛課の連中に攻撃していたぞ!」


「自我があるなら、攻撃される主人を護るのは当然だと思いますが?」


「しっかりと修練すれば制御出来るのではなくて?」


 木嶋と大鐘の反論に加藤は苦虫を噛み潰した様な顔をするが、それを見た警備課の課長が(おもむろ)に手を上げる。


「あっ、本城課長。どうぞ…」


「木嶋も大鐘も、加藤が言っているのは、未来の希望では無い。現時点での危険性に付いてだ…制御不能な危険な武装を、

警備課としてGWの忙しい時期に野放しには出来ぬ…賞金首に狙われる可能性もある。司法課に管理して貰った方が楽で良い」


 本城の野太い声に、木嶋は沈黙し、大鐘はムスッとする。援護を貰った加藤は胸を張り、頷いている。


「…無い胸張っても(むな)しいわ……」


 …プッ……クスクス………クスクス………

 ………(ギロッ!)…………

 ……………………し――――ん……


 大鐘の呟きと、失笑する女性陣に対し、怒りの炎を瞳に灯した加藤が睨む……


『…ゴホッ、…他に、ご意見のある方はいらっしゃいますか?』


 険悪な雰囲気を何とかしようとする三日町に、教育学部課の課長、大山 文音(あやね)が手を上げる。


『大山課長!お願いします!』


「…其処のグランドキャニオンの様に、浸食された胸の話しはどうでも良いわ。折角、当事者が居るのだから、話しを聞いてみたいわ…」


「…浸食って!どんだけ(えぐ)れてんのよ?!フザケんなよ!グルグル眼鏡!」


「眼鏡っ娘属性も解らない浸食胸は放置して…及川 花月さん、貴女はこのままだと、Aクラス指定対象になりますが、構いませんか?貴女の考えを御聞かせ願えませんか?」


 怒り狂う加藤を無視して、真っ直ぐに花月を見詰める大山の質問に、課長達の視線が花月に集中する。

 緊張した表情の花月は、椅子から立ち上がり、柳町や福田、三右達の顔を一瞬見てから、頭を下げると、大山の顔を真っ直ぐに見て話し始める。


「……私は、昨日まで自分の武装がどの様な能力なのか知りませんでした…でも、捕縛課の志緒さんや、研究棟の真木さんに協力して頂いて、やっと本当の能力を知り、これから修練して防災課で頑張ってやって行こうと決めたのに、このんな事になって、柳町課長や福田さんに御迷惑をお掛けして申し訳ありません。…私は救助され、ベッドで目を覚まし、映像を見て…何をしたか知り、自分が悪い事をして、誰にも助けを求められないと考えていました……ある人に質問しました……「何故、全員助けるのか?悪い人まで助ける必要があるのか?私には理解出来ない」…そう言った私に、その人は、「自分は許す事を選んだ…これからも悩んで行く」と、答えてくれました…その時の私には理解出来なかった…でも、昨日…ベッドで泣いていた私が思っていた事は、「凄く不安で、誰かに助けて欲しかった」…悪い事をした人も、誰かに助けを求めていた………それに私は気が付きました。だから、この会議でどの様な処分が決まっても、受け止めようと決めました。これから私も、誰かを助けて行きたいから……」


 頬を流れる涙を気に止めず、大山を見詰める花月の瞳は、強い意思を感じさせた。

 大山はニコニコと微笑み、手を叩く。


「うん。教育学部課の課長として貴女の様な生徒がいる事は嬉しい限りです。でもね…貴女はAクラス指定対象と言う事を、理解していません。柳町課長が捕縛課に依頼してまで、夏目課長がAクラスに決定する前に、誰よりも先に貴女を助け様としたかを……Aクラスになると言う事は、武装剥奪、二十四時間の監視、又は特別施設に強制収容、場合によっては、極刑です。誰かを助ける事も出来ません。……それでは、もう一度質問です。貴女はAクラス指定対象になっても構いませんか?」


 花月はAクラス指定対象になる事がどういう意味を持つか、ハッキリと理解した……花月は真っ直ぐに大山を見詰めて、答えを出す。


「私は、武装…小演を手放したくありません。昨日、初めて能力を知って、一緒に頑張って行くと決めました。それに私は大切な人達を護りたい。その為に小演の力は必要だから、Aクラス指定対象にはなりたくありません」


「うん。正直な意見、ありがとう。二十年前ならいざ知らず、今の世の中、武装無しでは生きていけ無い。話せば分かる時代じゃない。力がないと、身も護れなきゃ正義も語れない。嫌な世の中だよね〜……今はね、強くないと誰も助けられない悲しい時代なのよ………ほんと、嫌な世界…だから、強くなりなさい。貴女が護りたい人達を何時でも護れるように…」


「…はい。有難うございます」


 さっきまで怒り狂っていた加藤も、大山の話しを聞いて、鼻を鳴らして席に着く。


「ウチからも、ちょっと良い?」


 皆が落ち着いたのを見計らい、三右は課長達を見ながら話しを始める。


『夏目課長、どうぞ…』


「ちょっと確認なんやケド…司法課では、花月をAクラス指定対象にしたいんやな?」


「ええ、そうです」


「警備課も同じなん?」


「…そうだ。GW期間にAクラスに彷徨(うろつ)かれては厄介なのでな」


「武装研究課は、武装のデータが欲しいんやね?」


「当然だ!貴重なサンプルだからな司法に渡す義理は無い!」


「防災課と救護課は、指定対象に反対やったね」


「ああ、防災課は反対だ」


「私も、反対です」



「教育学部課はどうなん?」


「彼女の未来に期待する。…反対よ」


「業務課と情報管理課は?」


「業務課は、武装登録時の能力評価を怠った事実は有るが、被害の現状を考慮すれば指定対象には賛成だ」


「情報管理課はどっちでもいいぜ。賞金首にしても、しなくても、チョチョっと情報操作してやっから、安心しろ」


 三右の質問により、捕縛課以外は、花月の指定対象に賛成三、反対四、中立一と、なっている。


「予想より割れたみたいやね…皆に提案があるんや。聞いて欲しいんよ…」


 課長達の視線が三右に集まり、耳を澄ましている…何時もの柔らかな笑顔が影を潜め、真剣な眼差しの三右は花月を見て、課長達に話し始めた……



    ◆

    ◆

    ◆

    ◆



 午後の武装修練が終わり、着替えを手早く済ませた俺は、足早に、捕縛課へ向かっていた…

 午後から始まっている課長会議は、公課修練の頃には大抵終了し、課のミーティングで報告されるからだ。

 入り口を通り、実務室に入ると、四剣と錐ちゃんがお茶を飲んでいる。


「二人共、早いですね」


「人の事言えないだろ。気になるか?蟹」


「気になるに決まってますよ…」


「昨日は大変でしたね、色々と…中等部で噂になってますよ。違うクラスですけど、男子が朝から「俺達の花月ちゃんを、負んぶ登園した高等部の野郎をぶっ殺す!」って、息巻いていました…ほっぺたに、キスマークがあったと怒りMAXでした。……本当ですか?」


「……あぁ、本当デス…」


「…うわ〜っ。帰りは治療費と物損請求が、捕縛課に来ない様に気を付けて下さいね。蟹さん」


 笑顔を向ける錐ちゃんから目を逸らし、四剣が入れてくれたお茶を(すす)っていると、罠が勢い良く入って来る。


「…ハァハァ…課長来ました?」


「…フフッ、まだよ。落ち着きなさい、罠」


 四剣はそう言って、立ち上がり、罠のお茶を用意する。

 そうしている内に、ゾロゾロとメンバーが集まり始めると、課長会議の内容が、どの様になったか臆測が飛び交う。


「やっぱり、処分撤回じゃないか?」


「一週間位の謹慎じゃないか?GW中になるし…」


「そうだよ。その後は、お疲れ会だよ」


「甘いですね…あんな蛇女、施設直行です」


「……封印」


 メンバーが、思い思いに話していると、会議を終えた三右さんが帰って来た…


「皆、待たせたわ〜ミーティング始めるで〜」


 三右さんが課長席に座ると、メンバーも思い思いの椅子に座り、ミーティングが開始される。

 しかし、ミーティング開始、五分もしない内に罠が大声を上げる。


「課長!どおぉ言う事ですか!?何で、及川がAクラス指定対象なんですか!?」


「罠、落ち着け。三右さんはまだ、「今回の課長会議で花月がAクラス指定対象になった」としか、言ってない続きを聞け」


「でも、蟹さん…」


「確りと状況を確認するのも俺達には大事な事だ。座れ…」


 三右さんに詰め寄る罠の腕を握り、ソファーに座らせると、三右さんに目を向けて、続きを促す。


「…蟹。ありがとさん。そんなら、続きやね……えーっと、会議で各課の意思を確認したんよ。そんでな……………」







「………皆に提案があるんや。聞いて欲しいんよ……ウチら捕縛課は昨日の緊急会議でも言った通り、Aクラス指定するのは反対や、ただ捕縛課として、捕まえた相手が、余程の相手やない限り、一からやり直して欲しいと思っとる。()してや、公課修練で防災課に入れる人材や、柳町や京子が、面接で選んだんや、間違い無い。せやから、各課と取引…司法取引したいんや。どうやろ?」


 各課の課長達は顔を見合わせ、三右の提案を了承する。


「…三右、それで具体的にどの様に私達と、取引するの?」


 加藤が、腕を組ながら、三右を見詰める。


「そやね、まず司法課には、花月をAクラス指定対象にしてええよ。但し、GW期間中十日間だけ。武装剥奪無しの二十四時間監視や、警備課には、GW期間中の花月の監視は捕縛課がやったる。武装研究課には、武装修練時間の、花月の武装のデータ収集を期限無しで。防災課には、花月を捕縛課に、出向って形で預けて貰うわ。情報管理課には、GW期間中、他所に情報漏洩の防止を頼むわ。業務課は登録時のミスを黙っといたる。……こんなんでどうや?」


救護課(うち)と教育学部課が抜けてるわよ」


「…思いつかんかった…」


「…後で何か奢って貰いましょう。文音…」


「…フフッ、そうね。期待してるわ」



情報管理課(こっち)は、仕事が増えてるぜ……まぁ、いいか?新人の練習に丁度良い」


「おおきに、北川」


「なるほど、各課の面子を潰さず、本来なら業務課や防災課にも処罰がある処だが、捕縛課が全て引き受けるのだな?防災にいるより、捕縛にいた方が監視し易いからな…ただ、Aクラス指定対象の監視は、一人に対し通常三、四人必要だが…」


「大丈夫や、此方にはSSS捕縛者やS捕縛者がおるんやで、通常じゃ無いんやで〜」


「よろしいですわ。司法課は、その提案、受け入れましょう。但し、三日に一度、司法課から一人派遣して、様子を見させて頂きます」


「警備課も了承した」


「業務課も提案を受け入れる」


「武装研究課は、データ収集、明日からお願いしたいよ」


「情報管理課もOKだ」


「何を奢って貰うかな?大鐘」


「楽しみね!」


「及川をよろしく頼む。夏目」


「任せとき!」


『それでは、及川花月さんの処分は、捕縛課にお任せします。他に何かありますか?無ければ、課長会議を終了します』







「……って事になったんや…」


 三右さんの話しが終わるとメンバーから驚きの声が上がる。


「凄いよ課長!」


「三右さん、最高です」


「中々、策士ですのね三右さん…」


「…うっ、良かった…及川…」


 メンバーからの賞賛を受ける三右さんは笑顔になって喜んでいる。


「いや〜照れるやん。課長やから当然やん。……あっ、そや、もう入ってええよ。三左」


 三右さんが、入り口の処にいる三左さんに手を振って合図を送ると、三左さんは部屋を出て、入り口の近くで待っていた花月を連れて、入って来る。




「さあ、新人を連れて来ましたよ」


 背中を押されて、前に押し出された花月は、少し恥ずかしそうにしながら、捕縛課のメンバーを見回して頭を下げる。


「本日から、捕縛課に配属されました。中等部二年、及川 花月です。皆さん、よろしくお願いします」


 綺麗な黒髪が流れ、笑顔を向ける花月は、昨日の()色のベストでは無く、鳶色のベストを身に付けていた。

 メンバーに声を掛けられながら、三左さんと、此方に歩いて来た花月は、俺の前で立ち止まる。


「鳶色のベスト、良く似合っているよ。花月」


「ありがとうございます。あっ、あの、志緒さん。きょ、今日から(・・・・)よろしくお願いします!」


 少し赤くなって、緊張気味に笑顔で答えた花月は、三右さんの隣に歩いて行き、此方を向いて、頭を下げてから椅子に座ると、三右さんが、メンバーに話し掛ける。


「さてと、これから花月は、明日からのGW期間中Aクラス指定対象や、取りあえず二十四時間の監視が、捕縛課のGW期間の通常作業に追加されるんやが……花月には、十日間、蟹の家で寝泊まりして貰うわ…蟹の親には、許可を貰っとる。よろしく頼むで!」


 ……………………………………………………………えっ?


「えっ?」「なっ?」「…ブチッ!」「…何故?」(ギロッ!)「ハァ~」「キャッ!」

「「「なぁにぃぃ――――――――っ!!!」」」


 静まり返っていた室内が、メンバーの疑問と、驚きの声で、動き出す……

 三左さんがため息を吐き、銀拳と鉄巫女、罠が、俺を睨んでいる…後ろでは鉄槌達が騒いでいる中、三右さんだけが、笑顔で笑っていた………



…三右さん、何考えてんだよ?……


 蟹は、そう思わずには、いられなかった…………

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