~17 選択
カーテンの隙間から暗い室内に、柔らかな光が差し込み、それが月明かりだと気付くのに、暫く時間が掛かった……
…此処は何処だろう?…
自分がベッドに寝ている以外、何処に居るのか、さっぱり解らなかった。
月明かりで照らされた室内を、ベッドに横になりながら顔だけを動かして見回すと、左側の窓の傍に、二人の人影が見える。
「……あっ、あの…」
「気が付きましたか?花月」
「ん…あぁ、起きたか、及川」
「…福田さん…課長?私はどうして……」
「火災の消火活動中に及川の武装が、制御不能になって、お前は捕縛課に救出された。学園の救護課の医療ベッドに運ばれて一時間程…一九時半を過ぎた処だ………何か覚えているか?」
照明が付き、室内の明るい光に目を細めると、ぼやけた頭で課長の話しを聞き、巡回中に起きた火災を思い出す……
……逃げ遅れた人がいて、助けようと小演を抜いて…小演が炎を食べ始めて………………………………………………思い…出せない…
「…消火活動の…途中から覚えていません……」
記憶が無く、自分が何をしたか分からない不安から、小さく答えると、課長は仮想モニターを操作して、三種類のファイルを表示する。
「捕縛課の課長から今回の映像を、防災課とお前宛てに預かった…防災課に送られたファイルは二つ、火災後からお前が救出されるまでの無修正版と約三十分程のダイジェスト版だ。さっき、俺と福田で無修正の方を見た…正直、変な映画でも見た気分で信じられ無いが、防災課のメンバーにも、ダイジェスト版だけでも見せないと今後に活かせんし、納得しないだろう。当然、お前も何が起きたか知る権利がある」
そう言って、花月に三つのファイルを送ると、花月の仮想モニターの隅にファイル名が表示される。
【映像ファイル】
◇捕縛課204504No.21
◇捕縛課204504No.22
◇捕縛課救出メンバーより花月さんへ
「花月、今日は一晩、このまま救護課で治療を受けて下さいね。疲労と脱水症状で体調が十分では無いですから…今、食事を頼んで来ます」
「詳しい事は明日、課の方で説明する。ゆっくり休め」
そう言って二人は部屋を出て行った。
部屋に独りになった花月は仮想モニターの隅を見詰め、一番上のファイルに指で触れると、モニターに火災現場が映し出される。
…あっ…一緒に巡回した笹木さん達だ…無事で良かった…松さん…怪我してる…羽藤君も……通りに火災が起きてる……何があったの……
映像には音声が無く、監視か偵察カメラの映像なのだろう。
二十m程上空から静かに映し出されるモニターを、花月はずっと見詰めている。
西通りを神社に向かう映像の先に、赤く輝く塊が見えて来る
………あっ…アレは小演?…大きい!何mあるの?……凄いよ!小演!………あっ、小演の前に誰か居る……志緒…さん!どうして志緒さんが……何か叫んでいる…音聞こえないよ……尻尾の丸い処に手を伸ばしてる……尻尾………わた…し…?……丸い処に私が居る!…寝てるの?………あっ、志緒さん危ない!…何…あの火の玉…あんなの知らない!………志緒さん燃えちゃう!……………………………………あっ、小演……私が…やった…の……通りの火災も………志緒さんに攻撃してるのも……う…そ……うそ、うそ、ウソ、嘘、嘘だ!そんな事する訳無い!……
モニターを止め、花月はベッドの上で膝を抱えて踞る。
不安と疑問が頭の中で渦巻いている。
自分が何をやったのか?もしかすると多くの負傷者や死者が出てしまったのか?そう思うと不安で涙が溢れてくる。
「…花月、入るわよ」
控え目なノックと共に、福田課長代理が食事を小さなカートに載せて入って来る。
福田は、ベッドの上に、仮想モニターを開いたまま踞る花月を見て、ベッドの端に座りモニターを眺める。
「あっ、志緒君が蛇を誘導してる処だね……決意の目、良いな〜格好良いよね〜」
「……グスッ…はい」
福田は花月の頭に手を乗せ、優しく撫でている。
「…花月、本当はね、貴女は指定対象にされたの…[Aクラス]都市の治安を脅かす存在…それを三右…捕縛課の課長が否定したのよ。「あの娘は今日、自分の武装を理解したばっかりや、確り武装の能力や特徴を伝えんかった業務課の、ウチら先輩の怠慢や!せやから…ウチらが何とかしたる!そんでダメなら好きにせい」って言って、他の課長達を黙らせたわ…でも、会議をやる前から捕縛課は、貴女の救出行動をしていたの…指定対象に付いては捕縛課の方が詳しいから、どの程度やると指定対象にされるか知っていた…志緒君は貴女を助ける為にね、火鷲と氷馬神社に依頼をして、特別な方法まで使ったのよ…」
花月は涙で濡れた顔を上げて、福田を見詰める。
「…特別な方法?」
「ええ、もう少し映像を見れば判るわ…ちょっと信じられ無いけどね。さぁ、お腹空いてるでしょ?続きはご飯の後にしましょう」
福田はそう言ってベッドから簡易テーブルを引き出し、カートから皿を載せている。
野菜のたっぷり入ったスープとパンが二つ置かれ、福田は椅子に座り、カートをテーブル代わりに一緒に食事を取る様だ。
二人は「いただきます」と、挨拶をして夕食を取り始め、花月はモニターに映る志緒の真剣な眼差しを見詰めてから、スープを飲み始めた…
「…フフッ、独りだと寂しいかと思ったけど…志緒君見ながら食べれば、私が居なくても良かったかな?…」
「…ブッホォッ!…ゴホッ!…」
盛大にスープを吹き出し蒸せている花月を見て、福田は笑いながら背中を擦り、謝罪する。
「…フフッ、ごめんね。女の子が食事中に吹き出すの見るの、楽しみなの〜」
「……えっふ…ふきゅ、福田さん…酷いです…」
蒸せながら、顔を真っ赤にして睨む花月を見て、福田は少し元気になった後輩の背中を優しく擦っていた。
◆
◆
◆
◆
月明かりに照らされた氷馬神社の境内の端にある母屋で、氷馬家の人達と志緒は夕飯を囲んでいた。
茜と月良に神楽舞の治癒を施され、火傷や軽い怪我をしていたメンバーの傷は、直ぐに治り、花月の搬送や、広場の片付け等の後始末を終え、学園に戻る予定だったのだが、美和姉が背中から降りるのを拒否し、祈祷依頼の一部前払いとして、俺の貸出しが、三左さんと春美さんの話し合いで成立し、一九時まで氷馬神社へのレンタルが決定された。
カレンさんの[瞬門]で巫女達と送ってもらうと、何故か隣に、エリスも一緒に来ていて、春美さんの好意で、エリスとカレンさんも夕飯に招かれている。 和室にテーブルが置かれ、秀元さんや友一、帰って来た朝花さんと、普段着に着替えた春美さん達とテーブルを囲んで賑やかな食卓になっていた……
「ほら、志緒。この漬物、私が作ったのよ。あ〜ん」
「……志緒、口開けて…」
「…自分で食えるよ…」
俺の右側に美和姉が座り、左側に、エリス、カレンさん、正面には朝花さん、友一、茜、月良、上座に秀元さん、下座に春美さんが座っている布陣で、美和姉にエリスが対抗していた……
正面では、此方にチラチラ視線を送る真っ赤な顔の友一が、茜に、食べさせて貰っている。
……式挙げてから二人の邪魔しない様に、飯時まで居たこと無いけど…何時もこうなのか?…朝花さん、見せつけられるって、言ってたよなぁー……
そんな事を考えていると、美和姉が腕を絡ませて来る。
「最近、来てくれないし、折角レンタル中なんだから依頼者の命令は絶対よ。ほら、あ〜ん」
「…分かったよ。美和姉…あ〜ん」
「……志緒、こっちも」
「…此方も依頼料の一部前払いですから確りと、遂行して下さいね。志緒様」
「……カレンさん?そうなんですか?」
「はい、三左様に了承済みです」
「……本当」
「志緒っち、鶴ちゃんに、あ〜ん写真撮って送ったから、安心してね!」
「安心出来ないよ!」
「アハハハハ…志緒も大変だね〜よし、秀元もあ〜んって、やるかい?」
春美さんが笑いながらビールを呑んでいる正面では、秀元おじさんが味噌汁を吹き出している…
「うおぉ――っ!何なのこの状況!姉ちゃん志緒君にベッタリだし!皆であ〜んやって、志緒君!私にもあ〜んやって!やらないと杏子に言い付けるんだから!」
「…朝花さん、勘弁して……ほら、あ〜ん」
「…パクッ!キャ―――ッ!し・あ・わ・せ!」
「志緒っち、今のも撮っておいたから安心して!」
「月良、後で私にデータ送って!記念に杏子達に見せるから!」
「朝花さん!お願いだからやめてくれ!」
「アハハハ…やっぱり志緒がいると賑やかになるね。私や美和達が友一に絡むと茜が怒るんだよ」
「お母さん、当たり前でしょ。姉さん達も早く自分の旦那様見つけたら〜」
「お、おい、あーちゃん!」
「…あーちゃん?友一、茜の事、あーちゃんって呼んでんの?」
「あっ、いや、…ちが…」
「そうよ!クラス違うんだから、家でラブラブして何が悪いの?」
「学園でも言ってやれば?」
「……あーちゃん」
「恥ずかしいだろ!」
「きゃっ、友一ったら独占欲強いんだから〜(バシッ!)」
「痛ッテェ―ッ!」
「フフフッ…本当、志緒がいると面白いわ…」
騒がしい食卓のお陰で、今日の疲れが癒されていく……
笑顔を見せる人達との楽しい食事は、志緒の心を優しく包み込むが、救護班に搬送されて行った少女を思い出し、僅かに胸に痛みが走る……
……花月は今日の事を覚えているのだろうか?自分がした事と向き合えるだろうか?朝に相談された答えを…自分の答えを出せるだろうか?……
「……どうしたの?」
エリスが覗き込む様に顔を向け、銀色の髪が流れて行く。
…こう言う処は以外と鋭いんだよな…
「何でもないよ…」
「……そう…」
少しムスッとしてご飯を頬張るエリスを見て心配してくれたと気付き、「ありがと」と、短く礼を言っておくと、カレンさんは「まだまだですね」と、首を横に振っていた…………
賑やかな夕飯も終わり、一九時を僅かに過ぎた頃、友一達に玄関で見送られ、夕飯の礼を言って、氷馬神社を後にする。カレンさんは、明日の準備があると先に瞬門で帰って行った。
月明かりに照らされた参道をエリスと二人、学園に歩いて行く……
ふと、隣のエリスに視線を移すと、月明かりに照らされた銀髪が、輝きながら揺れている。
「…どうしたの?」
「…月明かりで、エリスの髪がキラキラして、綺麗だなぁ〜って思ったんだよ」
「……フフッ…ありがと、志緒。…初めて会った時も言ってたね…」
「…一ヶ月位前か…あん時は、死ぬかと思った……変な音がして振り向いたら、カレンさんの瞬門から鎧バージョンのエリスが飛び出して来て、てっきり、怪物か幽霊だと思った…」
「…酷いよ…志緒だって、いきなり銀糸で攻撃して来たもん」
「誰でもアレは攻撃するって!」
「あれから一ヶ月か………早いね…志緒と出会ってから、毎日が楽しくて…茜や友一達とも友達になれて、ずっと追っていた死角も捕まえたし、今は凄く、毎日が新鮮なの……前の学園とは全然違う毎日…」
エリスは手を後ろに組みながら、月を見上げて微笑みを浮かべる。
「エリスも最初に比べて、良く喋ってくれる様になって嬉しいよ。最初なんか、何時も緊張してて、中々喋ってくれなくて……まだ、俺以外は緊張して長く喋れない?」
「…うん。人がいっぱい居るとまだ無理…茜や翼は慣れてきたから、大丈夫。捕縛課の人達も慣れてきたよ」
「良かったな…」
「うん。ありがとう。志緒」
本当はお喋りなのに、人見知りで、緊張して上手く話せない彼女は、この街に来て、少しずつ変わってきた……自分も少しは変わったかな?そう思いながら、月明かりに照らされた学園までの道を、エリスと並んで歩いて行った………
◆
◆
◆
◆
夕食を食べ終わり、福田さんは、捕縛課の課長と会う約束があって病室を出て行った……
私は、映像の続きを見るため、ベッドに座りモニターを見詰める……深く深呼吸をしてモニターに触れると、映像が動き始めた。
…捕縛課の人達で蛇を誘導して神社の階段を上がってる…志緒さん飛ばされて…大丈夫かな?………何?……巫女?………氷の壁が……………………………………………凄い…小演が…………………………志緒さん凍ってる!……………あっ、小演が花みたいに……………………あれ?巫女に吹き飛ばされてる?……………………………負んぶしてる…………………綺麗………………………あっ、私の髪…触って…笑ってる………………
一つ目の映像ファイルが終わり、花月は自分の意識が無い時に、小演と何をしたか理解した……仲間を傷付け、住宅を燃やし、捕縛課の人達に助けられた……福田さんが、指定対象にされたと言った意味が、ジワジワと身体を伝わり、その一方で、志緒や捕縛課の人達が自分を指定対象と見ずに、助けてくれた事に嬉しくて、涙が流れた。
患者服の袖で涙を拭い、二つ目のダイジェスト版を見ようとしたが、三つ目の自分宛てのファイルが気になり、モニターにそっと指を伸ばしていた……
捕縛課の客間では三右と三左、四剣、防災課課長の柳町三郎と課長代理の福田京子、救護課課長、大鐘千秋が、花月の処分について話し合っていた……
「どうだ、福田?及川は落ち着いていたか?」
「今の処はね…まだ映像ファイルが途中だから…最後まで見ればきっと、分かってくれるわ…」
「京子、お疲れさん」
「此方こそ、花月を助けてくれて、ありがとう。三右、三左」
「いいのよ、京子。しかし、困ったわね…課長会では三右が上手く丸め込んだから反論は無かったけど、業務課と司法課がAクラス指定した人物を早々解除する筈無いわ…少なくとも、明日の課長会で他の課長達を納得させる必要があるわ」
「ねぇ、三右。情管と武研の課長を味方にすれば良いんじゃない?」
「千秋、あの二人は大丈夫や、武装研究課は特殊系のデータ、喉から手が出る程欲しがっとるし、GW前で観光客の減少を止める為なら、情報管理課も協力するやろ。そう言う意味では業務課もGWのイベント中止は避けたいから、問題無い。問題なんは、司法課と警備課の方なんや…」
「アイツら頭堅いからな…」
「司法課にしてみればAクラスの裁判は、学園の評価も高く、学園の地位を固める絶好の機会、警備課にとってAクラスの放置は、警備の安全性や他のクラスを呼び寄せる、危険な要因にしかなりません…」
「Aクラスはどの学園でも、Sクラスに次ぐ重要な捕縛対象…野放しには出来ませんね…」
「GW期間中だけでも司法と警備を納得させれば、後は、どうにか花月さんをを指定対象から外せると思うの」
「だが大鐘、納得させるだけの材料が、明日の会議までに見つからないと、及川は司法に連行されて、監獄行きだ…」
六人の沈黙が客間を埋め、重苦しい時間だけが流れて行く…
三右が口を開き掛けたその時、隣の実務室に誰かが入って来た。
「…ただいま」
「三右さん、戻りました〜あれ?誰も居ないな…エリスどうする?」
「報告書提出して帰ろう。志緒」
「そうするか…帰りに救護課寄って、花月の様子も聞いてみるか」
「うん。志緒は女の子に優しいもんね」
「自分では冷たい方だと思うけど…」
「優しくして、冷たくして優しくする。プロの手口…」
「さっさと報告書書けよ」
「…冷たいわ」
三右は蟹達が帰って来たのに気付き、客間から声を掛け様として振り向くと、ピコーンと名案が浮かぶ。
……そうや!Aクラスなんか目でもない、ウチらにはSSS捕縛者がおるやないか!……
蟹の声を聞いた三右の顔が、みるみる悪巧みをする時の顔に変わって行くのに気付いた三左は、ため息を吐くと、隣の四剣や千秋と京子も気付いたらしくクスクスと笑っている。三右の考えは分からないが、あの後輩が巻き込まれる事は確定したと、皆の意見は共通した様だ…
「…蟹には苦労を掛けますね…」
三左はそう呟くと、此方に気付かず帰って行く蟹達を、ブラインド越しに見送り、隣で目を輝かせている三右を見て、また、ため息を吐いていた……
救護課は、業務棟の一階南側の救護センターと併設しており、救護課の入り口の隣にある救護センター、通称[エンジェル・ガーデン]の受付に、志緒はエリスと並んで、固定モニターに面会申請をしていた。普通は顔パスなのだか、見舞い相手が事件や事故等の関係者、隔離患者となると、正式に申請しないと罰則を受けるからだ。
「ごめんね、志緒君。何時もは顔パスなのに……」
受付にいる薄いブルーのワンピースを着た、救護課で顔馴染みの大学院生に笑顔で謝られる。
「気にしないで、伊勢さん。それより当直お疲れ様。伊勢さんの笑顔で眠気も吹き飛ぶよ」
「もぅ〜志緒君、ヒドイな〜次は差し入れ持って来ないと入れてあげないぞ」
「…[雪姫]でいい?」
「ん〜さっすが〜期待しちゃう。及川さんは八号室だよ」
軽い挨拶を交わした後、十分程で帰ると伝え、病室に向かうと、後ろでエリスが睨んでいる。
「……いつも来るんだ?」
「…たまに…な…勘違いするなよ。あの人は翼の道場の門下生で、たまに手合わせするんだよ」
「……ふ〜ん」
冷たい視線を送るエリスを無視して病室の前に来ると、軽くノックをして部屋に入る。 飾り気の無い病室のベッドには、仮想モニターを見ながら涙を流している花月の姿が見える。
「こんばんわ、花月」
「…しっ、志緒さん!」
モニターに集中して此方に気付いていない花月に優しく声を掛けると、慌てて袖で涙を拭い、ベッドの上で正座をして患者服の襟を抑えている。
椅子をベッドの傍に置いて座り、花月を見ると顔色は良いが目の回りが真っ赤になって、ずっと泣いていたのが理解出来た……
「映像ファイル見たの?」
「…はい。街の火災…小演が…私がやったんですね…」
「…ああ」
「折角、志緒さんや真木さん、皆さんに協力して頂いて、小演の事、分かってきたのに…私は街の人達や皆さんを傷付けてしまいました。私は誰かを護りたかったのに!……私…指定対象になったんです!もう…志緒さん達と一緒に居れません…」
ポタポタと花月の瞳から涙が溢れて、患者服を濡らしていく…
志緒は立ち上がり花月に近寄ると、額にデコピンを打ち付ける。
「痛いっ!」
「…お前、ファイル全部見たのか?」
額を抑えて志緒を見詰める花月は涙を流しながら小さく頷く。
「アレを見てどう思った?皆がお前を助けたくて、必死に頑張って、熱い攻撃食らっても、弾き飛ばされても頑張って、お前を助けようとしているのを見て、どう思ったんだよ!」
「……………嬉しかった…嬉しかったです!でも、私は皆を傷付けたんです……」
「どうやら、ちゃんと見てないみたいだな……三つのファイル全部見たのか?」
「……………最後の…私宛てのファイルは見てません……怖くて…怖くて見れませんでした…」
「……全く、アレが大事なんだよ…いいか、花月。そのファイルを見て、皆の顔を良く見ろ!そうすれば、皆がどう思っているか分かる筈だ…それと、今朝のお前の質問も思い出してみろ…」
志緒はそう言って、花月の頭に手を乗せると、優しく「大丈夫だよ」と言って、病室を出て行った。
花月は病室を出て行く志緒の後ろ姿を見詰め、扉が閉まると、モニターに視線を移し、ファイルにそっと指を伸ばす……
「大丈夫だよ…」志緒の残した言葉を思い出し、ファイルに指が触れ映像が再生される。それは他のファイルと違い、映像だけではなく、音声も入っていた………
映像には前のファイルで見た広場が写され、捕縛課の人達や宮司、巫女が地面に座り、その前には三十Cm程の小さな案山子が浮かんでいた。
志緒さんは、狼の面を付けていた巫女さんを背負ったまま、案山子の足を握り、マイクの様に持つと、此方に向けて喋り出す。
『あ〜花月、皆がお前に言いたい事が有るそうだ。三左さん…』
『捕縛課副課長の夏目三左です。今回の街の被害は、全焼四軒半焼二軒、いずれも、空き家です。負傷者は軽傷四名、最初の火災で救助した女性は無事ですから、安心して下さいね。それと貴女には目覚めた翌日の課長会に出席して頂きます。早ければ明日にも連絡が行きますのでよろしくお願いします。…………以上です。次の方……』
『おう!俺は鉄槌!』
『俺は青槍!』
『斧だ…』
『『『今度、合コンお願いします!』』』
『先輩!何してるんですか!……罠…同じクラスの近藤だ…元気になったら飯でも奢るから、今は確り休めよ…』
『アラアラ、罠もちゃっかり誘っていますね…鉄巫女です。蟹さんは年下でも、ちっちゃい女性が好みなんです!今度何かしたら吊るします!』
『……銀拳…蟹、焼いちゃダメ』
『火鷲の宮司、清人です。此方で修練すれば貴女の武装も、制御出来るかもしれません。何時でもいらっしゃい』
『御利益無いから、こっちの氷馬にしときな。いつでも障壁敷いてやるよ』
『俺は、円盾!今度は俺が、火の玉止めてやるぜ!』
モニターでは、広場にいた全員が、順々に自分にメッセージを伝えていた……
明日も必ず逢えると信じている…また、助けるから安心しろと、自分を許してくれる人達がいた…励ましてくれる人がいた…誰も諦めさせてくれなかった……
私なら大丈夫だと信じてくれていた…
志緒さんは、今朝、話した事を思い出せと言っていた……
…私はあの時、全ての人をなぜ助けるのか?悪い人をなぜ助けるのかと聞いた…
志緒さんは許す事を選んだ…
あの時、私には分からないと思っていた……悪い人を助ける必要があるのか………でも…今は、私が悪い人になった…………
…誰にも…助けて貰えない……
あの時の私には助けて貰えない……励ましも、約束も、笑顔で笑って貰う事も……
「…志緒さん、やっぱり凄いよ…」
だから私は、選ぶ事にした……これから私に、どんな事が起きるか分からないけれど、昔の私には気付けなかった気持ちに、気付いたから……
悪い人も誰かに、助けて欲しいと願う事があると、知ってしまったから……
翌日の課長会で、私のAクラス指定対象が正式に決定した……




