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銀拳  作者: 月草 イナエ
16/45

~15 協力者

 商店街を走り抜け、大通りを越え、住宅街へ差し掛かる頃には、黒煙がもう一つ増えていた……


 ……派手に暴れてるな…あの武装……真木さんの心配が当たっちまったか……


 住宅街のなだらかな屋根を走りながら、モニター室の真木さんとの会話を思い出していた………



    ◆

    ◆

    ◆

    ◆




「なぁ、真木さん。モニターって幾ら位?」


 大型モニターの机に座る真木さんは、コーヒーを飲みながら先ほどの花月のデータを眺めている。


「別に、本当に払ってくれても構わないが…志緒を呼んだのは別の理由さ…」


「…何となく察してるよ」


「志緒は〔飼い犬に手を噛まれる〕って(ことわざ)、知ってるかい?」


「ああ…部下とか自分より下の奴に優しくしてたら裏切られたって管理能力の無い奴の話しだろ?」


「……酷い例えだな…まあ、〔志緒も鶴ちゃんに吊るされる〕みたいな感じだよ」


「そっちの方が酷いぞ!」


「同じ事が起きる可能性があると言う事さ…武装と使用者でね…志緒はアレをどう思う?」


「……花月は…あの娘の瞳は危うい…力を求めて、力に呑み込まれている。強さしか求めていない……防災課には向かないよ…それにあの武装…自我があるのなら、おそらく…花月には…現時点では完全な制御は出来ない」


「…うん。流石、志緒。僕も同意見だ…」



 真木さんはモニターを操作して[小演]が蛇になった映像を映す。


「ご覧…最初のシッポみたいな形状から蛇になるまで約二分…その後は自分から火を食べている。操作の訓練の最後には簡単な言葉は話せる様になっている。それだけの知能はある。そして、能力は大きさに比例している…三m以内なら彼女にも制御出来るだろう。焚き火位の炎なら良いが、火災等の炎では確実に十mは超える蛇が出来上がる。防災課の彼女は火災現場に出ない訳にはいかないだろう……」


「確かにそうだ…でも花月の力を…強さを求める意思の強さは本物だ…ちょっと向きを変えてやればいい。現状で制御出来ないなら現状を変えてやればいい……だろ?」


「…志緒、僕の説明が途中なのに結論を先に言われると立つ瀬がない…やっぱり、嫌な奴だな……」


「それで、プランは?」


「明日から彼女にはペットの(しつけ)をしてもらうよ。絶対の信頼を得るか…絶対の服従を誓わせるか…ご主人の強い気持ちが大切さ…」


「真木さん、有難う…」


「素直な御礼は気持ち悪い。研究者の楽しみだよ…躾の方法も色々試してみたいしな………プフッ!」


「…大丈夫だろうな?ちょっと心配だ…」


「まぁまぁ、任せてくれ」



    ◆

    ◆

    ◆

    ◆



「………全く…何が、任せてくれだ!明日からじゃなく、今から躾が必要だ!頼りねぇな真木さん!」


 モニター室で笑っていた研究者を思い出し毒突(どくづ)くと、屋根の上を疾走する蟹の目に火災現場が飛び込んでくる。

 二軒は鎮火しているが、通りの奥はまだ炎を上げて家屋が燃えている。

 そちらへ走り、目を凝らして燃え盛る家屋の周囲を探したが、花月の姿は見当たら無かった……

 路上を見下ろし、救護班に治療を受けている防災課の丹色(にいろ)の制服を見つけ、事情を聞くと、一軒目の消火の際に逃げ遅れた女性を助ける為、短刀を抜き、蛇に炎を喰わせてその間に女性を救出したが、一軒分の炎を吸収した蛇は花月の命令を無視して炎の弾を民家に打ち込み、暴れ始めた……

 その後、制御を外れた蛇は花月を捕らえ、通りを移動して行ったそうだ…

 四剣に防災課から聞いた情報を伝え、蛇が移動した方角に視線を向ける。


 ……蛇…花月は南西に移動しながら炎を撒き散らしている……何か目的があるのか?………あっちに在るのは……聖の神社か?


 急いで塀に飛び、屋根に駆け上がり、屋根から火鷲神社の小山を見詰めると、夕陽に照らされた山の中腹の広場で大きな篝火(かがりび)が見える。


「…あれが…目的か?」


 篝火を見詰めながら携帯を取り出し、電話を掛けると相手は直ぐに出てくれた。


『もしもし〜志緒〜どうしたの〜』


『聖、お前の神社(いえ)で大きな篝火が見えるけど、どうしたんだ?』


『あ〜今、防火祭の参拝期間だから広場で大規模な篝火焚いているんだ〜もう、汗だくだよ〜』


『篝火の傍にいるのか?』


『うん。いるよ〜』


『其処から住宅街見えるか?』


『ちょっと待ってね〜…………うわっ!火事だよ!防火祭なのに!ウチの神社御利益薄いよ〜』


『…それはいいから、住宅街からそっちに何か向かってないか?蛇みたいな奴!』


『も〜大事な事だよ〜志緒!また茜に笑われるよ〜』


『いいから!さっさと見ろよ!』


『う〜なんだよ〜見るよ〜………………うわあぁーっ!赤く光る蛇みたいのがいるよ!西通りを此方に向かってるよ!どうして!?』


『どれ位の速さで進んでる?』


『えーっと〜あれだと〜大体四十分から五十分位で広場にくるかな?』


 …蛇の狙いはおそらく篝火だな…火を喰う蛇……神社の御利益がある方が美味いのか?


『聖、参拝客や神社の人を本殿に避難させてくれ!それとおじさんに、広場での戦闘許可と祈祷許可、祈祷協力を捕縛課と防災課から要求する。急いでくれ!』


『了解〜志緒、訳は後で教えてね〜』


『ああ、分かった』


 通話を切ると直ぐ様他の番号に掛ける。

 短いコールで相手は直ぐに電話に出て営業ボイスを響かせる。


『お電話、御待たせしました。奥水東宮(おくすいとうぐう)氷馬神社です。御用件は?』


『美和姉、志緒だけど祈祷依頼![四方障壁神楽舞・氷華]大至急お願い!』


『あら、志緒。電話なんてどうしたの?最近来てくれないから、つまらないわ…』


『ごめん美和姉、急ぎなんだよ。皆帰ってきてる?』


『ええ、茜と月良(つきよ)はいるわ…朝花はまだだけど、母さんがいるから大丈夫よ』


『それじゃあ、直ぐに迎えに行くから準備して!』


『せっかちね、女は準備に時間が掛かるのよ』


『綺麗な女性は何を着ても綺麗だから大丈夫だよ!』


『あら、志緒も口が巧くなったわね。それで場所は?』


『火鷲神社の広場!』


『あらあら、他所様(よそさま)で御祈祷なんて、母さんが喜びそう…面白そうね…フフフ』


『それじゃあ、頼んだよ!美和姉』


『ご依頼、承りました』


 電話を切り、また掛ける


『はい。ルークです。(あるじ)はまだ帰宅しておりませんよ。志緒様』


『カレンさん、お久しぶりです。エリスでは無く、貴女にお願いがあります。[瞬門]を使って、人を運んで欲しいのです』


『お急ぎの様ですね…エリス様に何かありましたか?』


『いえ、人助けですよ。氷馬神社から火鷲神社へ人を運んで欲しいのですが?』


『地域の宗教に貢献するのも住民の義務。承知致しました。今すぐ氷馬神社に向かわせて頂きます。…それと、次はエリス様を通してご連絡頂けると、主の機嫌を直す手間が省けます』


『…気を付けます。神社の人達をお願いします』


 通話を切り、火鷲神社から住宅街の火災に目を向ける。

 これで何とか、蛇の被害を最小限に抑えて花月を助ける事が出来そうだ。

 四剣に連絡を入れようとすると、通信機から声が響く。


『中々手際が良いいですね。蟹?』


『三左さん?駅東班も此方に着いたんですか?』


『駅の近くで三右から連絡を受けたので、もうすぐ火災現場に着きます。蟹は先行して蛇を巧く誘導して下さい。…それと、通信機を装着したまま女性に電話はしない方が良いですよ……銀拳達ががムクれてますから…』


『……了解。先行します』


 …後で謝ろう…そう思いながら屋根の上を走り、火鷲神社へ向かう蛇を追い始めた…


 屋根の上から西通りを並走すると二十分程で赤い身体をくねらせ火鷲神社へ向かう蛇を発見した。

 体長が二十mを越え、屋根の上から赤く燃える頭部が見える。通りを回り込み、蛇の前に出ると、数軒分の炎を呑み込んだ蛇の大きさに圧倒される。

 長い胴体は赤く燃える鉄棒の様に熱を発し、アスファルトを溶かしている。

 尻尾には花月が薄い膜の様な球体に捕らわれ、気を失っている。 焼ける様な熱に顔を背け、見上げると蛇の舌がチロチロ動き、此方の動きを探っている。

 神社に道なりに巧く誘導しないと家が燃えて火の道が出来上がるのが容易に想像出来る。


 …一撃離脱で蛇の意識を自分に向けながら広場の準備が終わるまでゆっくり誘導するしかないか…


 蛇の前に立ち塞がり、背中の長剣を右手、腰の短剣を左手で逆手に抜き、左足を引き、右を上段、左を下段にゆっくり構える。

 鎌首を擡げてよく見える頭部か腹部を攻撃しながら誘導するつもりで踏み込もうとした瞬間、腹部から突起の様な物が飛び出して来る。 咄嗟に身体を捻り、突起を躱すが一本躱し損ねる…焼ける鉄棒を押し当てられた様な痛みと熱が肩に残る。


 …ぐっ!…まるで針鼠かハリセンボンだ…近寄り難いな…


 体制を立て直し、後ろに僅かに距離を取る。出来る限り通りの中央を蛇が進む様に誘導しながら攻撃を仕掛ける。左右に動き、住宅に近付けないように回り込んでは下がり、下がっては切り込んでいく。

 神社の入り口の鳥居まで百mを切った時、蛇の腹が膨らみ頭部へ上がって行く……


 …シヤャャアァ――――ッ…ボオッ!…


 甲高い咆哮と共に口の周りから炎が溢れ、赤く輝く火球が此方に向け吐き出される。


 …クッ!…ドラゴンかよ!…


 躱せないと判断した蟹は短剣を鞘に戻し、長剣を両手に持ち変えると身体を回転させ、下段から一気に切り上げる。


「…ぐうぅおぉらぁぁ―――ッ!」


 火球の熱風に耐え、力の限り腕を振り抜くと、僅かな抵抗の後に二つに割れた火球が蟹の両側を飛び去り、参道の石鳥居に当たると石の鳥居が炎に包まれる。


「…おおッ!?切れた?………」


 火球に吹き飛ばされるのを覚悟していた蟹は、驚きの声を上げる。


 …手応えが軽かった……火だもんな……岩とかじゃ無いし……


 初めて経験する意外な手応えにそんな事を考えていると、此方の隙を付いて突進してきた蛇に参道の階段まで吹き飛ばされる。


「…グハァ!…痛…熱ッ!」


 階段に背中を預ける様に倒れ込む蟹に、赤く燃える蛇が近づいていた……



    ◆

    ◆

    ◆

    ◆



 氷馬神社の境内では巫女装束に身を包む四人を心配そうに見詰める宮司と婿の姿があった。


「…友一君、他所の神社で祈祷なんかして大丈夫かな?」


「義父さん、さっき聖に確認しましたから大丈夫です。何でも、火の蛇が神社に向かっているので、その進行を広場で止める為、志緒から祈祷依頼があったそうです」


「…でも、大丈夫かな?春美さん、ヤル気(・・・)満々なんだよ?美和とか茜なんて、「次いでに神社ぶっ壊して来るわ!」何て言ってるんだよ!」


 凛々しい外見とは裏腹に心配症の義父はオロオロしている。

 そんな父親を安心させる様に、末っ子の月良(つきよ)が声を掛ける。


「お父様、義兄様。御心配しなくても大丈夫です。GW前に火鷲の無能さが知れ渡れば、此方の参拝客は倍増間違い無し!氷馬月良は必ずや、火鷲の息の根、止めてきます!」


「「止めないで!!」」


 成長が心配な末っ子だ……父親と友一はそう思わずにはいられなかった。







 ……ガキンッ……ガン…ガン…ガキン…ガキン……


 二人がそんな心配をしていると、境内の石畳に金属が擦れ合う音が響く。


 全員が音の響く方に目を向けると、境内には不釣り合いな鉄柱が空中に姿を現し始め、十秒後には石畳に高さ四m幅三mの鉄扉が完全に姿を現す。

 錠が外れる音が響き重々しい音を立て扉が開かれると、金髪を結い上げたメイドさんがスカートを摘まみ、一礼する。


「皆様、御初に御目に掛かります。私、アープ様に御仕えするカレン・G・ルークと申します。本日は志緒様の御依頼で皆様を火鷲神社までお送り致します」


 突然現れた扉とメイドさんに男性陣は言葉を失っていたが、女性陣は大燥(おおはしゃ)ぎだ。


「アッハハハ…車か何かで行くのかと思ったら、志緒も中々やるもんだね!」


「フフフッ…やっぱり志緒は面白いわ」


「アハッ、茜お姉ちゃん…凄いです!金髪メイド破壊力抜群です!」


「…メイド?…平屋だったよね?…エリスの家…」


 カレンは一度、鉄扉を閉めるとポケットから三十Cm程の鍵を取り出し、扉の右にある鍵穴へ差し込むと、鉄扉が重々しい音を立て、開き始める。

 扉の向こうには石畳は無く、土の広場が見え、大きな篝火と腰を抜かして此方を見る聖と火鷲神社の宮司の姿が見える。


「皆様、お急ぎを…」


 扉の横へ移動して頭を下げるメイドに巫女達が一礼して扉を通って行く。

 巫女達を見送り、鉄扉を見詰める宮司と婿にメイドは扉を背後に一礼する。


「御騒がせ致しました。依頼が終了次第、お送り致しますので、ご安心を…失礼致します」


 ゆっくりと閉まる扉に入り、扉の向こう側から再び一礼をするメイドが、閉まる扉で見えなくなると、鉄扉は分解しながら縮み消えてしまった。


「友一君は行かなくて良かったのかい?」


 秀元(ひでもと)は鉄扉を見詰めていた娘婿に問い掛ける。

 友一は視線を落とし、残念そうに答えた。


「俺はまだ祈祷も神楽も覚え始めたばかりです。役には立てません…それに今回は氷馬への依頼です。火鷲に失礼があってはなりません。志緒も分かっていたから気を使って、俺にでは無く氷馬に依頼してきたんです。だから俺は早く一人前に…あいつが何時でも頼れる様に早く…」


「成れるさ…いや、成って貰わねば困るな…妻と娘達に鍛え方が悪いと怒られてしまうからな…アッハハハ」


「…頑張ります」



 二人は鉄扉が消えて夕陽が差し込む境内を母屋に向かい歩きだした。






「…処で友一君、さっきの外国人さん。綺麗だったね…」


「……そっ、そうですね…」



    ◆

    ◆

    ◆

    ◆




 志緒の目前には赤く輝き、熱を発する蛇が近づいて来る。

 背中を打ち付けた痛みを堪えて剣を地面に突き刺し立ち上がり、蛇に向き合うと、蛇の後方から円形の物体が音を立て飛んで来るのが見える。

 目を凝らして良く見ると丸い盾から足が生えていた……



「うわぁぁ―――――ッ!兄ちゃん避けてぇ――ッ!!」



 慌てて横へ飛び去ると、盾を構えた円盾が、蛇の頭部を貫いて階段に激突する。

 更に上から雄叫びが聞こえ、円盾から視線を移すと、穴が空いた蛇の頭部に、槍を抱き着く様に突き刺している青槍がいる。


「うおっ!…熱ッ、熱いぞ!コイツ!」


 蛇の熱に驚き、青槍は慌てて槍を抜いて地面に離れる。


「…ちゃんと熱いって教えたのに…筋肉バカは話し聞いて無いですね…」


 振り返ると、住宅街の小路から、三左さんと四剣、汗だくの罠に背負われた鉄巫女が現れ、俺の隣では銀拳が円盾を引っこ抜いている。


「……抜けた」


「…ぷあっ!…投石機の姉ちゃん!酷いよ!」


 …どうやら円盾と青槍は通りから投石機に投げ飛ばされたみたいだな…


 蛇の後ろを見ると投石機と斧達が走って来るのが見える。


「…来るの遅いよ…」


 やっと蛇に追いついた課の仲間に、服の汚れを払いながら文句を言うと


「蟹さんが、速すぎるのです。私も走ってヘトヘトです」


「てっ、鉄巫女…降りて…」


 重量級の武装[鉄巫女](約百kg)と、鶴ちゃんを負んぶしている罠はヘトヘトになっている。


 …罠より鉄巫女の方が体力あるな…


 二人を見ながらそんな事を考えていると蛇の頭部の穴が塞がり始め、ビクビク震え出した。

 蛇が動き出すのを察知した三左さんはメンバーに指示を飛ばす。


『それでは、皆さん。蛇を広場まで誘導します。蟹、銀拳、四剣は蛇を引き付けながら後退。青槍、爪、大剣は右側から、罠、鉄巫女は私と左側。残りは後ろから追い立てなさい。』


『了解!』×14




 …さっきまでは一人で誘導していたけど、今は協力して一緒にやってくれる仲間達がいる………花月、必ず助け出してやるぞ…


 夕陽に照らされ赤く燃える蛇の身体は紅玉の様に輝きを増し、広場へと続く参道の階段を捕縛課に囲まれ、ゆっくりと登り始めていた……





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