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銀拳  作者: 月草 イナエ
15/45

~14 炎

    ◆

    ◆

    ◆

    ◆



(………………………………………………………………なん…で……わた…し……此処は…眩…い……皆が…い…い……温か……体に…………動いて……………た…け……志…さ………おね…い…………や…て……………)


    ◆

    ◆

    ◆

    ◆



「アッハハハァ……お腹…痛い…フウッ…大変やったな、蟹。モテモテやん。アッハハハハハ…」


「…三右、いい加減にしたら?蟹が可哀想よ…フフッ…」


「…………………………なぁ、もういいか?」


「……だめ」


「蟹さん、銀拳さんの次は鉄巫女(わたし)ですから…たっぷり揉んで頂きます」


「………」


「……蟹、頸の付け根」


「………はい」



 今、俺はエリスの肩を揉んでいる……


 昼休み(今朝)からの花月のキスマークの件や大剣(バカ)の所為で、怒り狂った鉄巫女や、狂ってはいないが怒りの視線をレーザーの様に貫通攻撃して来る銀拳に、お願い(強制)されて二人の肩揉みをする事になった……

 そんな状況を不思議に思った三右さん達が鉄巫女に事情を聞き、三右さんが大笑いしていた……


「…そんで、その防災課の娘は悩み事が解決したっちゅー事なん?」


「ええ、少し気になる事はありますが…」


「……黙って揉む」


「………」


「アハハハハァ……頑張ってや、蟹」




 暫くすると、他のメンバーも現れ始め、今度は鉄巫女の肩を揉む俺の様子を三右さんに聞き、女性陣は苦笑いを見せ、男性陣は嫉妬していた。


「しかし蟹の奴、何とも羨まし……破廉恥だな」


「斧、本音が漏れたぞ」


「俺もそんな後輩が欲しい!銀拳、巫女ちゃん、どうだい?」


「すみません。鉄槌さんはタイプじゃないので、お断りです」


「……却下」


「鉄槌、何気なく酷い事言われてるね」


「足枷、可哀想だろ!俺なら生きて行けない!」


「ハッハハハ…そう言うな、斧。そんな時は腹筋で嫌な事を忘れるのだ!」


「そんなの貴方だけよ青槍…」


「蟹の兄ちゃん、スゲーよ。俺もやって貰おう」


「円盾、彼女いるの?」


「四剣のねーちゃん…今時、彼女の一人や二人、当然だろ?」


「……そう…なの?」


「クソッ!蟹!俺の肩も揉め!」



「……もう…腕パンパン…」


「蟹さん、手が止まってます。もっと右です」


「………」



「…そろそろ集まって来たから始めましょうか?三右」


「そやね。皆〜始めるでぇ〜」


 三右さんの合図でメンバーは思い思いの席に着き、ミーティングが始まる。

 今日から捕縛課では大型連休(GW)を目前にして、祭りや各種行事の準備や観光で、人口増加に伴う不審者の発見、犯罪防止等の理由から警備課、防災課と合同で、学園近辺、商業地域、住宅街の巡回をする事になり、商業地域が捕縛課の担当に割当てられた。

 商業地域は学園の大通りから東側の商店街等の駅前商業地域と駅を挟んで国道までの商業企業密集地帯を言い、茜の氷馬神社や杏子さんのパン屋、俺の家は駅前商業地域にある。

 主に駅前は古くからの個人商店や、特殊なな店が多く、駅の向こうの東側は新規の大型量販店などが多い。住民も買い物の種類によって色々使い分けている。



「…それで、うちらは駅前と駅東の二班に分かれて巡回。班長は駅前が四剣、駅東は三左や。まだ来ていないメンバーと、錐ちゃんとうちは課で待機しながら通常業務。巡回方法は班長に任せるわ。十七時まで巡回後、班長が連絡いれたら解散してええよ」


 三左さんと四剣が班分けの相談をしている間、俺は腕の筋肉を解(ほぐ)しながら、去年のGWを思い出していた……


 十年前の武装法以降大きな変化をもたらす改革は無いが、多くの法律は年単位で細かな変更があり、現行の法律では、GWは十日間と決まっている。

 去年は母親に騙され、休みの八日間を店の仕事場に監禁状態で朝から深夜まで依頼品の縫製作業に追われ、最終日の朝まで作業をしていた…

 …今年は何とか三日以内に抑えたい……


 そう考えている内に班分けが決まったのか、三左さんが名前を呼び始める。


「…それでは鉄槌、斧、足枷、案山子、鉄巫女、銀拳、爪、以上が私と駅東を担当。残りの投石機、大剣、蟹、青槍、罠、円盾、以上が四剣と駅前を担当。何か質問はありますか?」


「何故、そちらに飽食チュー女が蟹さんといるのでしょう?」


 黒オーラを放ちながら鉄巫女が手を上げる。隣の銀拳も目付きがちょっと怖い…


「…バランスと効率です。今の状況で貴女達と組ませると蟹が下僕状態で広範囲偵察出来ません。反論がなければ、以上です」


「……くッ…流石、三左さん…正確な状況判断です……」


 苦虫を噛み潰す表情で渋々了承する鉄巫女だが、俺が下僕状態って…三左さん……一体何を想像していたの?それに鉄巫女は俺に何をさせる気だろう?考えたく無かった…………



 学園から路面電車で商店街停車場ヘ到着すると車内の駅東班に手を振り、駅前班は停車場に集合して巡回方法を話し合う。

 停車場から駅へ走り去って行く電車を横目で見ると、鉄巫女が車窓にへばり付き、俺を見ているので胸の前で小さく手を振って電車を見送った…

 

 駅前班は大通りから駅に抜ける横道を二人組二組と三人組に分け、学園側から駅前へ三本づつ巡回し、最後に駅の南口で巡回報告をする事にした。

 

「それでは、右を大剣と円盾。左を青槍、投石機、中を罠、蟹、そして私が巡回する。左右どちらかで拘束者や異常があった場合は、罠か蟹がフォロー、駅前までの横道は九本だから三回回れば駅前だ。通信機は装着、異常があれば直ぐに報告。以上だ。行くぞ!」


 四剣がきびきびと指示をだし、俺達は横道へ入って行く。

 この付近は学園に近く、登園にも使う事があるが、時間帯が違う為、何だか新鮮な気がする。

 周囲をキョロキョロ見ていると、罠が不思議そうに話し掛ける。


「蟹さんの家は、商店街の近くでしたよね?なんで不審者みたいに周囲を見ているんですか?」


「不審者って言うな!…何時もならこの時間帯は通らないから、何だか新鮮な感じがしたんだよ」


「確かにそうですね…早めに閉める店もあるし…初等部とか帰る時間帯ですよね…変質者さん」


「おい!ランクが上がってるぞ!俺は変質者じゃない!」


「…だって蟹さん…中等部の評判悪いですよ。男子にですけど……多分銀拳さんの件だと思いますけど…」


「……やっぱり?銀拳目立つからな〜」


「ええ…後はまだ中等部全体には広まってないですけど…今朝の負(お)んぶとか、電車の前でアレは目立ちますよ。ゲート通過して正面玄関見ると嫌でも視界に入ります」


「あ〜アレね……罠、電車乗ってたんだ…」


「し・か・も・和風美人で中等部女子人気ランキング上位の及川ですよ!俺も思わず武装を作動させる処でした…」


「………タイプなの?」


「………はい…」


 真っ赤になりながら罠が頷く、確かに花月は美人だし男子としては気になるだろう…

 隣を見ると四剣もクスクス笑っている。


「中々大変だな。蟹?」


「余り茶化すなよ。四剣」


「…折角同じクラスになったから話しとかしたいんですけど…何時も隣に佐藤さんって可愛い友人の娘がいて同じクラスでも近寄りがたい空気なんですよ…」


「………へぇ〜」


「及川さんも良いですけど佐藤さんも活発で可愛いからどうし…ガハァ!」


 蟹のグローブが罠の喉に食い込み、身体には銀糸が絡み付いている。

 蟹は冷徹な視線を罠に向ける…


「…罠…甘子に色目を向けるなよ〜」


「……ぐッ…か、甘子?」


「…お兄ちゃんは大変だな?蟹?」


「……フン!」


 グローブと銀糸の拘束が解かれ、路上に尻餅を付いている罠は俺を見上げて混乱している様だ。


「…お、お兄…ちゃん!?…佐藤?…あっ!」


 此方を見上げ驚いている罠に手を貸して立たせてやる。


「佐藤さんの言ってたデザイナーの兄貴って、蟹さんの事ですか!大学院の人かと思ってました…」


 甘子の奴、一体どんな風に俺の事をクラスメイトに話していたのだろう…


「…手を触れなくても女性の身体ならミリ単位で測定可能な変態兄貴だっ……グハァ!」


 肝臓打ちで罠を黙らせる…碌(ろく)な事言わねぇな…甘子の奴。

 ため息を吐き、四剣と目が合うと、顔が赤くなり、身体を腕で隠そうとしている…


「…そっ、そんなに見るな!最近ちょっと…いや、見るな!見ないでくれ!」


 罠の所為で有らぬ疑いを掛けられてしまった……少し傷つくなぁ………

 赤面でプルプル震える四剣と、路上に転がる罠…近所の人に明日からどんな噂が広まるか心配だ……





……………ウゥ――ウゥ――…ピ―ポ―ピ―ポ―………………………………


 巡回開始から二時間程経過して時刻は午後四時を過ぎた頃、消防と救急のサイレンの音が聞こえてきた。


「蟹、上から確認してくれ!」


 四剣が叫ぶと同時に近くの塀から民家の屋根に飛び上がり、更に隣の二階建てのベランダへ飛ぶ。屋根に手を掛け、逆上がりで屋根に上がる。

 周囲を見回すと、大通りの西側、住宅街の方から黒煙が見える。


『住宅街で火災ですね…此方に連絡来てます?』


『…いや、来てないな…放火等の犯罪では無いのだろう…幸い、住宅街は防災課の巡回担当だ。彼方で対処出来るから此方に連絡が来てないのだろう…降りていいぞ、蟹』


『…了解』


 路上の四剣に合図を送り、屋根を降りようとした時、視界の隅にに黒煙がもう一つ立ち上(のぼ)る。

 慌てて視線を向けると、最初の煙の右に少し離れて新たな黒煙が立ち上っている


『四剣!黒煙がもう一つ上がった!何かおかしいぞ!三右さんに連絡してくれ!』


『了解した。蟹はそのまま監視。駅前班、聞こえるか?此方に集合しろ!』


 住宅街の監視を続け、少しすると横道から縦に延びる狭い路地から、大剣や青槍の姿が見え、四剣の処へ集まっている。

 全員が集合すると、四剣が皆の前に立ち説明を始めた……



『状況を説明する…現在、住宅街の西区二ヶ所で火災が発生している。最初の火災は民家で調理中に発生し、民家を全焼。巡回中の防災課によって消火された…しかし、消火活動に参加した防災課の一人の武装が制御不能に陥り、三百m離れた民家に火炎攻撃を行い二軒が延焼し、現在も消火活動中だ……蟹、聞こえているか?』


『…ああ、聞こえている。それと訂正…もう一つ黒煙が上がった…全部で三ヶ所だ…詳しく方向は分からないが、西に移動している…』


『……そうか…三右からの報告で、制御不能になった武装の回収と装備者、及川花月の救助の依頼が防災課から捕縛課に入った…状況がこれ以上悪化すると捕縛対象に指定される可能性もある…その前に助けだす。蟹は先行して対象を追跡しろ!』


『了解』


 四剣に合図を送り、住宅街を目指して屋根の上を走り出す。

 遠くに見える赤く燃える炎は、黒煙を吐き出し空を覆い、傾き始めた太陽を隠している。


 ………花月、無事でいてくれ……………


 疾走する蟹は、武装を操作していた花月の真剣な瞳を思い出し、拳を握り締めていた…………





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