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銀拳  作者: 月草 イナエ
14/45

~13 火刀

「…あの…志緒さん、お身体は大丈夫ですか?」


「ああ、何とか動ける。問題ないよ。それじゃあ花月さん、始めようか?真木さんデータよろしく」


『了解。可愛い娘と一緒だからって手ぇ抜くなよ。志緒』


 天井のスピーカーから声が響き、吹き抜けの四階にあるモニター室のガラス張りから白衣を着た長身の男が見下ろす。

 その隣にはエリス達が此方に手を振っているのが見える。


「いいから、仕事しろよ。始めるぞ」


 花月さんと俺は研究棟の三階にあるデータ採取専用の闘技室に居た。

 武装修練の時間を使い、研究棟で花月さんの武装、[小演(こえん)]の能力測定をする必要があったからだ………



    ◆

    ◆

    ◆

    ◆



「えっ?操作系?」


「…はい。私の武装は特殊操作系です」


 昼休みの騒動が一段落して、皆でパンを食べながら花月さんの相談を聞く事になった………………



 花月さんは自分の武装を使いこなす事が出来ず、防災課に入ってからも修練はしていたものの、出動しても仲間の足を引っ張ってばかりで悩んでいたらしい。其処へ甘子から俺の話しを聞き、相談に来た。

 お陰で皆に誤解され死にそうな目にあったし、翼はまだ天井に吊るされている………



「私の武装は短刀ですが、刀身に炎が宿ってます。刀身の周囲一Cmに炎の膜が覆い、二倍程度の長さまで伸びて自在に動かせます」


「武装は大抵、武器其の物の形状ですし、私の[鉄巫女]や志緒さんの[銀糸]は操作系でも形の決まっている物を動かす点では共通していますが、自然現象…火や水、空気等の特殊操作系は形が安定していないので難しいのです」


「……はい。私も動かせるのは御覧になれば分かりますが、刀身の長さ、二十五Cm迄です……」


 そう言って短刀を鞘から抜くと、三十Cm位の刀身の周りに火の膜が見える。

 紅く光る刀身がちょっとカッコイイ…

 花月さんが構えると、刀身を覆う火の膜が、みょ〜んと伸びて猫のシッポみたいにクニクニ動いている……


「……可愛い」


「…猫みたいで、和むね…志緒君」


「なあ、及川さん。その短刀、火の部分で攻撃すると対象は切れたり、燃えるの?」


「…いいえ…氷馬さん。熱いですけど燃えません。焦げる程度で………切断能力は……無いです……」


「………無いの?」


「……ありません」


 花月さんはしょんぼりしている。炎の短刀で格好良く、一刀両断!とか、燃えたりするのを期待していたんだろう…………少し可哀想だな………


「う〜ん、そうなると〜防御系の能力かな〜志緒〜試しに切ってみたら?」


「そうだな…花月さん、火の部分伸ばしててね」


 棚に置かれている短剣を持って、教室の中程で花月さんと対峙する。

 クラスメイトも興味深く見詰め、短刀から伸びた火の部分に短剣を振り下ろす。


 …………ボタッ……………ピクピク……


 火の部分が何の抵抗も無く切れると、鈍い音を立て、床に落ちてピクピクしている。


「……気持ち悪い!」


「…なんか、生物みたいだね……」


「……海鼠(ナマコ)?」


「この後、どうなるんだろ?」


 クラス中が床に落ちた生物?を見ていると、ピクピク痙攣していた状態からビョ~ンと伸びて、短刀の切断面にくっ付くと元のシッポに戻ってしまった……


「……気持ち悪い!!」


「……これだけ?」


「……はい。細かくしても、同様に戻ります……」


 悲しそうに短刀を見る花月さんに周囲のクラスメイトが憐れみの視線を向けている。




「……後は研究棟で実戦データ取って、色々試してみるしか無いか?」


「そうだな。教室ではシッポか、海鼠の輪切りが出来るだけだろう……」


「花月さん、研究棟の真木さんの処で調べるから午後の武装修練が始まったら一緒に行くよ」


「はい。わかりました。有難うございます。志緒さん」


「花月さん、俺達も見学して良いか?興味がある」


「有難うございます。ご意見を聞きたいです」


「それなら後、二十分で昼休み終わるから、残ってるパン食べちゃおうよ」



「そうだな。折角、杏子さんに作って貰ったんだし、残すのもったいないよな」


「エヘヘ…有難う、志緒君。嬉しいぞ!」


 笑顔の杏子さんは皆にパンを渡して感想をメモしている。

 俺もまだ一つしか食べていないので、テーブルのパンに手を伸ばすと、手の甲に水滴が落ちる………


「……じゅるッ…志緒君…私に…食べさ……あっ…ああぁ―ッ!!」


「…失礼。鎖が滑りました…」


「…鶴ちゃん…もう、許してやれよ……」


「流石、チューした女の子には優しいですね~志緒さんは!」



「……………」



    ◆

    ◆

    ◆

    ◆



「花月さん、始めの五分は攻撃。次は防御。それを二回繰り返すよ」


「分かりました。行きます!」


 フェイント入れ接近した花月さんは短刀を下段から切り上げると、袈裟切りへ繋げ、突きを放つ。

 防災課に入っているだけあり、ある程度の基本的な動作は確りしている。

 …これ位動けるなら大丈夫だと思うけど…防災課は戦闘じゃ無いんだよな……

 斬撃を躱し、突きを短剣で弾きながら、赤い残光が消えていく……

 何度か剣を交えると花月さんは落ち着いてきたのか、動きの固さが取れ、攻撃が、滑らかになって来た。

 それでも、それは普通の斬撃で、操作系の物体を動かす攻撃では無かった…………



 一回目が終了し、二分間の休憩時間になると、花月さんは額から流れる汗をタオルで拭いていた。


「花月さん、今度は火を伸ばした状態でやってみて。さっきのデータと比較するデータが欲しいから」


「はい。分かりました………やっぱり…志緒さんは凄いです。私は全力で攻撃してたのに、全然当たらないし……志緒さんの攻撃は速くて防御が間に合いません……」


「そんな事は無いよ、落ち着いて相手の動きに合わせてやれば自然に攻撃も防御も出来る様になるから」


「志緒さんみたいに闘える様に頑張ります!」


「……ああ、二回目、始めようか…」


「はい!」


 笑顔で立ち上がると、部屋の中央へ走って短刀を構える。

 それから二回目のデータを取ったのだが………




「…熱ッ!熱い!」


「だッ、大丈夫ですか!志緒さん!」


「……ああ、吃驚しただけ…いきなり砕けたから……次は気を付けるよ……」


 花月さんが赤く伸びた短刀を右上段から袈裟切りに振り下ろし、俺が短剣で受け流そうとした瞬間、短剣に当たったシッポが床に落としたゼリーの様に砕けて俺に降り注ぐ、何とか躱すが、二、三個当たってしまった………


「結構…熱いんだな…それ………うわっ!」


俺の周りに散らばったシッポの塊が此方に向かって飛んでくる。

 花月さんを庇い、横へ跳びながら塊の軌道を目で追う。

 すると、此方の動きに合わせ弧を描くと短刀に吸い込まれる様にくっ付き、シッポの状態へ戻ってしまった。


「……離れたから戻ろうとしたのか?」


「……あっ、あの…志緒さん!」


 花月さんを抱きしめる様に庇った為、腕の中の花月さんは真っ赤になっている。


『お〜い、志緒君〜モニター室にいる僕の後ろの娘達が怖いから離れて!計器が壊されちゃうよ!』


 スピーカーから聞こえる真木さんの声に慌てて花月さんから離れて距離を取る。

 上のモニター室のガラス張りを見ると鶴ちゃんとエリス、杏子さんが睨んでいた………



「今のは庇っただけだ!真木さん!」


『僕もそう見えたけど…あの娘達には違って見える様だよ……大体のデータは取れたから、此方に上がって来なよ』


「…了解。花月さん、モニター室に行こう……」


 ため息を吐き、短剣を鞘に収めると、まだ顔の赤い花月さんと闘技室を出て四階のモニター室に向かった…


 モニター室のドアを開けると、様々な器材がテーブルに置かれ、奥には、大型モニターが二つと本棚が見える。

 エリス達に冷やかな視線を向けられるが、気付かないふりをしてモニターの前で作業をしている真木さんの処へ行く。


「今、映像とデータの処理が終わったから、適当に座ってくれ。モニター見ながら説明するから」


 真木さんに促され、大型モニターの前に皆が座ると照明が暗くなり、さっきの闘技室の映像が映し出される。


「まず、最初の撃ち合いだけど、花月ちゃんの攻撃は志緒に当たっていない。実力の差だね。手加減すればいいのに、冷たい奴だよ。」


「俺の事はいいだろ!」


「まあ、花月ちゃん可愛いからね。…それで、この攻撃は赤い火を纏っているが通常の斬撃だ…残念ながら志緒は燃えたりしない。花月ちゃんは萌えるけどね。」


「…真木さん、真面目にやってくれ…」


「…冷たい奴だな…えーっと、次は…火が伸びた状態での攻撃だけど、火の部分で攻撃すると、短剣に弾かれバラバラになって、破片が志緒に当たる訳だ…格好悪いね。今の映像を短剣に当たる瞬間から拡大して見てみると………よく見てね…ほら、短剣に当たる瞬間…火の方が自分から砕けていくだろ?」


 俺達はモニターを見詰めてシッポが自ら砕けていくの確認した。…どうして砕けたんだろう?

 隣に座る花月さんも同じ事を思ったのか、不思議そうにモニターを見詰める。


「これは砕けたのでは無く、短剣を避けたのだと、僕はみている。最初の映像も拡大すると、花月ちゃんの攻撃と防御の時に志緒の短剣が当たる瞬間に火の膜が避けて、刀身に短剣が当たっている。」


 真木さんは仮想ディスプレイを操作して、もう一つの大型モニターに映像を映す。


「此方は闘技室の温度を測定した物だ。温度が高いほど赤く、低いと青く表示される。これを見ると、人体は緑、花月ちゃんの刀は赤く、志緒の短剣は青く表示されている。しかし、志緒の攻撃が当たる瞬間に花月ちゃんの刀身に青い部分が表示される。短剣が当たる瞬間、火の膜が動き、膜の内側の刀身温度が表示されたと言う事だ。そして、二回目の火の膜がバラバラになった件も温度を調べると、面白い事が分かったぞ。」


 真木さんは二つのモニターにシッポが砕けた瞬間からの映像を同時に映し出す。


「火の膜が短剣を避けて分裂した後、志緒と床に付着するが……此処だな、この刀に戻る瞬間だ!床に付着していた場所の温度を見ると赤く表示されるだろう?しかし、志緒の腕を見ると、二ヶ所青く表示されている。そして刀の赤い色が僅かに明るくなっている。つまり、温度が上がったと言う事だ。火の膜の伸びも僅かに長くなっている。面白いなぁーアハハハハハ…」


 映像の説明をした真木さんは笑いだし、俺達は呆然としている。


「…真木さん、それで?」


「えっ?分かんない?分かるよね?」


「…説明長くて飽きた…簡単にしてくれ」


「簡単にねぇ〜それじゃあ、データの結果から分かる事は、花月ちゃんの武装は自我があり、現状では武装としての各能力は低い。と、言う結果かな?」


「弱いのですか…」


真木さんの説明に短刀を握り締め、落ち込む花月さんを真木さんは笑い飛ばす。


「アハハハハハ…何を落ち込むのですか?ちゃんと言った筈です。現状ではと、ならば現状を変えれば良いだけの事です。闘技室にいきますよ」






 そう言ってモニター室を出て行く真木さんを皆で追いかけ、闘技室に入って行くと、部屋の中央にキャンプ用のカセットコンロを置いて、花月さんを呼ぶ。


「花月ちゃん、刀を伸ばしてコンロの火に近づけて下さい」


「……はい」


 花月さんは緊張しながら短刀を抜き、火の膜を伸ばすと、コンロに近寄って行く……

 二mの距離までコンロに近寄るとシッポが突然伸び、コンロの火を撫でる様に動いている。


「なっ、何でこんなに伸びるの!?」


「熱に反応しているからだよ。花月ちゃんの刀は熱を感知し、吸収して成長している。さっき、志緒の熱を奪い、ちょっと伸びたみたいに、普通は温度の高い物体と低い物体をくっ付けると物体間で温度の移動が起きる。同じ温度になろうとしてね。でもさっきの映像では志緒の体温が一方的に奪われていた……火の膜の方が温度は高いのにね……今はコンロの火の熱を吸収しているのさ。徐々に火の膜も色が赤黒い色から赤くなっている。鉄を熱したみたいにね。反応する温度は志緒の体温から考えると、花月ちゃんの体温より高い物に反応して吸収しようとしている様子だ…そろそろ、変化するかな?」


 真木さんは刀を見詰めて呟く、膜の色はオレンジ色に輝き、明るさを増している。

 シッポの先が僅かに膨らみプルプル震え出す。

 皆が注目する中、震えが止まったシッポの先が二つに割れる。


「…シャアァァァ――――――ッ」


 鎌首を(もた)げ、割れた間からチロチロと舌を出す… オレンジに光る蛇が此方を威嚇している。


「ほぉッ!蛇か?熱に反応する訳だ…」


「…おおッ!なんか格好良いよ!花月さん!」


「シッポかと思ったら頭だったのね…」


「なんか、怒ってねぇ?」


「……海鼠が蛇になった」


「これが…小演の本当の姿?私の力?」


「花月ちゃん、動かしてみてくれないか?」


「…だっ、大丈夫ですか?」


「君の力だ!君が信じないで誰が信じるのだ!さあ!やってみてくれ!」


「…分かりました。やってみます!」


 花月さんは短刀から伸びている蛇を見据え、そっと呼び掛けてみる


「…小演、おいで…」


 火の蛇は空中をゆっくりと左右に揺れながら、花月さんの前で(とぐろ)を巻く。


「よろしくね…小演」



 (うっす)ら瞳に涙を浮かべ、微笑みを浮かべる彼女を皆が優しく見詰めていた……




 それから闘技室では小演の能力測定が行なわれ、花月さんは熱心に小演を操り、小演を理解しようと努力していた。

 武装修練の時間内にはある程度の操作が出来る様になった。


「志緒さん。今日は本当に有難うございました。武装の悩みに真剣に向き合ってくれて、嬉しかったです。自信もちょっとだけ、付きました。これから頑張っていきます」


「花月さん、良かったね」


「はい。……それで…次からは…花月さんじゃなくて…花月と呼んで下さい!」


「あ、ああ…分かった花月…」


「きゃっ!嬉しいです志緒さん」


「志緒、あんまり花月ちゃんにちょっかいを出すなよ。それと、今日の経費に付いて話しがある。モニター室に来い」


「……経費?なんで?」


「彼女達が誰かさんのデレ具合を見て壊したモニター代に付いてだ……」


「…………えっ?」


 後ろを振り向くと、女性陣はそっぽを向いている。どうやら機嫌を直すには暫く時間が掛かりそうだ……


「……分かったよ。真木さん…」


「特注だから覚悟しとけよ」


「……特注?」


 志緒は周りを見渡すが、誰も視線を合わせてくれなかった…………




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