さて、問題です
残る回答はこの世に居る理由、帰還手段、これ以降の動向について。
いちいち説明するのも面倒になってきているが、これも一日一善だとこらえて口を開く。
「さて、この世にいる理由だが、今までの会話からでも十分推察できるだろう」
「召喚とか、トリップとかいうやつデスネ」
「そうだ」
「俺、なんかしなきゃならんわけ?」
「いや。お前は人知れず渡ってきたタイプだ。特に何をする必要もない」
「マジで?」
「マジだ」
この人間とは別に召喚された例の勇者とやらには、魔王討伐の任が課せられたようだが、こいつは違う。
よくあるトリップ物語的には、元の世界に戻るための手段を探す旅に出、ごたごたに巻き込まれるパターンだろうが、ごたごたに巻き込まれるどころか、物語開始から帰還手段、つまりは俺に出会っている。
なんとも運のいい奴だ。
「これ以降の動向と、帰還手段だが、これはまとめて話すぞ」
「おうさ」
やはり帰還手段となると、少々不安があるのだろう。
今まで緩んでいた顔に緊張が走る。
どうせすぐ解れる事になるんだろうが。
「まず、この世界にはお前のような迷い子や、テンプレ勇者召喚によりこちらの世界に来る者が非常に多い」
「多いんだ」
「腹立たしいほどにな」
「ははは。サーセン」
言えば人間は引き攣ったように笑った。
「そのような類の人間は世界渡りに耐えるほどだ。中々に能力値の高い人間が殆どでな。まず、勇者に祭り上げられる」
「ふむふむ」
「後に帰還させるとの約束の元、利用されるだけ利用され、処分されかけたり、勝手に呼びつけられ勇者としての責を押しつけられ、自力で逃亡する者等、勇者も色々だ」
「苦労してんのな」
お前もその一人になるはずだったんだがな、と口に出さず思う。
つくづく運のいい奴。
「しかし実際この世界にある魔術は、他所の世界の人間をこちらに引き摺り込むものだけ。初めて召喚が行われた時、国は勇者をこの世界に拘束し、国同士の対戦や、我らのとの戦に利用する事を考え、こちらから他所へ行く術をあえて生みださなかった。して、国同士の大戦を勇者を使い制した後、今度は欲をかいて勇者の居た世界をも支配しようと試みた」
「ちょ、嫌な予感しかしねぇ」
あながち間違いではないが、案ずるほどの予感ではないぞ。人間。
とはあえて言わない。面白いからな。
「が、国や魔物との熾烈な争いにより、優秀な魔術師らは次々に命を落とし、気付けば世界渡りなどという高度な技に関する知識、技量は潰えていた。というわけで、こちらからあちらへ渡る魔術は存在しない」
「マジかー。うーわー。マジかー」
やはり相当にショックだったらしい。
唐突に歩みを止め、頭を抱えてその場に座り込んだ。
よく俺の言葉を咀嚼すればすぐ気付くはずなんだがな。
「まぁ聞け」
「うい」
項垂れたまま、短く返事を返す人間。
魔術は、と言ったろうに。
「初めに言った勇者や迷い子達は当然路頭に迷い、元の世へ戻る為の道を模索する」
「そりゃそーだわな」
「そして俺か俺の僕に出会う。こちらの世界へ来た者を率先して観察したがる僕がいるから、大抵は僕の方と出会うな」
「で?」
「魔界を訪れ、【召喚・トリップ被害者の会】の存在を知り、意気投合。即入会」
「同じ被害者同士だしな」
「元の世界に帰って、またちょくちょくこの世界に遊びに来たり、ここに留まったり」
「へぇ~……はっ!?」
緊張が解れるどころか目が点になった。
こういうのを鳩が豆鉄砲をとか何とかいうのか。
効果音がリアルに聞こえそうなほどの勢いでこちらを見る人間。
「いやいやいや、今アンタ、帰れないって!」
「帰れないとは言っていない。魔術による帰還の術が無いとは言ったがな」
思わず人の悪い笑みを浮かべる。
他者をからかうのは誰だって愉快なものだろう?
「帰還手段は俺だ」
「……one more prease」
「帰還手段は俺だ」
「マジで?」
「しつこい」
はぁぁぁぁぁぁ、と大仰な溜息を吐いてもう一度顔を手で覆った人間。
俗にジト目と呼ばれる目つきで見られた。
「性質わりぃ説明の仕方すんじゃねぇよ……。色々覚悟したってぇのに」
「しかし結果オーライだろう?」
「だとしても心臓に悪いんです。寿命縮まるんです」
「なに、死にはせん」
「性悪っ!」
もう一度不敵な笑みを向けてやると、今まで俺を睨んでいた人間が、諦めたように溜息を吐いた。
「くっそ。真面目な面っつうか、無表情でさらりとからかいやがって。兎に角、俺は元の世界に帰れると?そういうわけか?」
「ああ、いつでも好きな時に帰してやろう」
「あーでも、そう言われると、なぁ……」
何やら複雑そうな顔。
「ちょっと異世界観光とか期待してたんだけど……」
「何、今すぐ帰れとは言わん。被害者の会と交流を持つも良し、世界を廻るも良し。今すぐ帰って時間のある時にここへ来るも良し」
「サービスいいのな」
「初回のみに限り、ここへ来る直前の時間に帰してやることにしているから、時間のことは気にするな。とはいえ、この世界で自身が成長することを忘れるなよ」
「魔王陛下!万歳!」
諸手を挙げ、俺をヨイショする人間。
「して、どうする?」
「なら―――」
次回こそ、次回こそ少年の名を明かさねば……!
そして今回の魔王様はなぜか意地悪でした。
どうしてこうなった。




