落下少年 時は駆けません
*少年視点*
今日も今日とて何ら問題なく笑顔で帰ろうしたはずだ。
俺に打撃を与えたテストは胸の内に仕舞って、漫画でも読もうとスキップしていた、はず。
だのに次の瞬間、目の前が霞んで、歪んで。
道が、空が、人が、車が、家が遠くなった。
「うおっ!?」
何だこれ、なんて意味もわからずパニくってたら、後ろから何かに襟首掴まれて後ろに引っ張られる。
碌な抵抗もできねぇ、なんて思ったら今まで安定してたはずの体が急に重くなって、下に落ちた。
かと思えば俺を引っ張ったそれのせいで首が締まる!
「うっ……!ぐぇぇぇぇ!」
死ぬっ!何これ!死ぬっ!
意味わかんねぇよ!俺は将来美人な嫁さんとヨボヨボになるまで生きて死ぬって決めてんだぞおい!
「む」
む、じゃねぇぇぇぇぇぇえぇぇぇ!
何能天気に人様の首絞めてやがんだおい!
空気嫁やぁぁぁぁぁ!
「し、ぬっ!マジ、で!死ぬっ!離し…はなせっ!」
俺をぬっ殺そうとするそいつは意外素直に俺を離した。
で、俺は気付く訳だ。
超、たっけぇのな。ココ。
ヤバいこれ。マジ高いわ。
アレだ。テレビのレポートで森全体映すヘリ並みに高い。
実際どれくらいの高さなんか知らんがな!
ふっざけんなちくしょーー!
確かに離せと言った僕も悪ぅござんしたよ!
だからって落とすことねぇだろ!
離せとは言ったが落とせとは言ってねぇンだよぼけぇえぇ!
「ぎゃあああああああああ!」
無駄な事つらつら考えてる間にも落ちる落ちる落ちる。
アイキャンフライでも猫型ロボットでもいい!
ヘルプ!ヘルプミーーーー!!
「あ」
あ、じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
末代まで祟ってやるぅぅう!
地面が、地面が、地面が迫って!
こんなのテレビでしか見ねぇと思ってましたっ!
バンジーすらする奴の気が知れん、俺は死んでもやらんぞとか思ってたのによぉ!
なんだこの仕打ち!耳元で風が轟々なってんだけど!
体勢整える事すら初心者には不可ですよ!
初バンジーがこれかよ!
ふざけんなっ!
神よ俺が何をした!
こぇぇぇぇぇぇぇ!
嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!!
死にたくないっ!
「い゛っ!だっ!い゛ぃ゛っ!!」
落下速度もそのままに俺に追い打ちをかける枝、枝、幹!
SMバラ鞭で叩かれた方がまだマシだ!
いや、嫌だけど!
1m先に地面が見えた。
ふっと意識が遠のく。
ああ、俺、死ぬのか……。
鈍い音が体中から響いた気がする。
何の音だ……?
それから、体中痛くなって……。
痛くな……って!?
「いっつ~~~!!……て、は……?いき、て、る……?」
全身の痛みにばっちり目が覚めた。
がばっと体を起こせば、血の海。わお★
え、何これ。俺ってば出血多量?
死ぬの?死ぬの?
助かったと思ったら死ぬの?
どうしようもなく情報処理が追いつかない。
何で生きてる?とか、どうしてこうなった、とか、これ何の血、とか。
茫然と血の海を眺めていたら、ふと、影が差す。
「見事に顔から落ちたな。人間。酷い鼻血だ」
そう言って俺の前に現れたのはさっき俺を落としたらしい声の主。
「……あ……?」
俺を無表情で見下ろす男は、何というか、俺の目から見ても素直に美しいと言える。
美しい、けどこう、女性的でなく、男性的な逞しさというか、男前。
日の光を背に三対の翼を広げ、ゆるりと俺の前に舞い降りるその姿があまりにも神々しくて、思わず息を忘れた。
「人間」
天使……じゃぁねぇな。絶対。
金髪どころか黒髪。目は血のような紅。
生えてる羽だって形は天使のだけど闇のように深く黒い。
「人間」
つか、総じて厨二っぽいのに面もスタイルもいいせいで寧ろ自然体というかマッチしてて非常にむかつく。
何だお前。
魔王降臨ってか。
様になりすぎてて笑えねぇよ。
「人間、呆けるのはいいが、止血したらどうだ」
「おぉ!?」
忘れてた。すっかり忘れてた。
そういや俺、血ぃダラダラ何だっけか。
我にかえればさっきよりはだいぶ治まったものの、鼻からは未だに血が。
やっべ。服血だらけじゃねぇか。
落下少年、異様に精神安定してます。
作者自身に落下経験がないため、こればかりはどうしようもなく。
目を瞑っていただけると幸いです。




