生きてます。死んでません。
wktkするあまり翼を広げてしまったが、下界に降りるのに特に翼は必要ない。
しかし、一度広げてしまったものをすごすごと仕舞うのもどうかと思うので、そのまま翼で下界へ降りる事にする。
気分は失楽園。
いや、墜落はしていないから御降臨か?
しかし降臨するのに黒い翼はな。
白い翼にすればよかったか。
いやしかし、それでは魔王のイメージが。
特に焦る必要も無い為ゆるゆると降下しているせいか、思考がバンバンずれていく。
そろそろ軌道修正せねば。
さて、我ら魔物、魔族のイメージ撤廃の為にはまず、俺が魔王であることを包み隠さず前面に押し出し、その上で善行に励むのが一番いいだろう。
人間は魔王=諸悪の根源が善行、のようなギャップ萌えに弱い。とすっかり異世界のオタク文化に魅了された天馬が言っていた。
あれでも奴は神馬、スレイプニルなんだがな。
非常に残念なキャラ変だ。
ところで萌えってなんだ。
ここで一つ問題が発生した。
別に俺が墜落死したとか、忘れ物したとかではない。
善行をする方法は大きく二つ。
蔓延る悪をLED蛍光灯っぽい光の剣で削除するか、何事かに苦労する者の手助けをするかだ。
しかし、今俺の目の前に何かに苦悩している者は見られない。
それどころか現地点森だ。
久々の下界行きに目測を誤ったらしい。
たった一人分だが、人間の気配が確かにしたんだがな。
上空から見ているが、ここは森の奥の奥。
そのようなところにいる人間が困っていない訳がないと踏んだのだが。
人影すら見当たらないとは。
「む」
また、人の気配。
ちらり、ちらりとその存在が揺らぎ、霞み、現れるように、曖昧で、途切れ途切れで、おぼろげな。
これは、トリップか?
ちらつく気配といえば、トリップか消えかけの霊魂くらいなもの。
昔は転移魔法、なんてモノもあったが、今の人間にとっては手の届かぬ高等魔法だ。
かなりの魔力を要するし、そうホイホイとは使えまい。
それに転移魔法なら人体より先に魔力が現れる。
よってこれは除外。
いつまでも霞んだ気配がゆらゆらぐらぐらしているのもうっとおしい。
……よし。引きずり出そう。
どうせ今放置しようと後々には保護するだろうしな。
やり方は簡単。
1、空間と空間の間に手を突っ込む。
2、その辺を移動中な人間を掴む。
3、引きずり出す。
「うお!?」
開いたマーブル空間から、奇声と共に人間が出てきた。
黒髪、学生服(詰襟)、ショルダーバッグ。男。
とりあえず第一印象は黒い。
「うっ……!ぐぇぇぇぇ!」
「む」
引きずり出し、人間の体がこの世界の重力に従うと共にもがき始めた。
これが俗に言う蛙の潰れたような声というやつだ。
「し、ぬっ!マジ、で!死ぬっ!離し…はなせっ!」
失念していた。
人間は首にある器官を圧迫すると呼吸ができなくなる。
深い森を見渡せる高度に滞空し、人間の襟を掴んでいる今の状況では、確実に軌道は締まるだろう。
このままでは死ぬか。
脳に酸素が行かねば人は数分で死ぬらしい。
「っ!?」
文字通り、離した。
「ぎゃあああああああああ!」
「あ」
しまった。またも失念していた。
俺の身の回りには人間がほぼいない。
飛んで当たり前の魔族、魔物たちばかりだ。
その上被害者の会の面々は生き残りの為魔法の腕を磨くからな。
奴らも大半が飛ぶ。
中には元から飛行可能な者もいる。
しかし、こちらへ来たばかりの人間の大半は、魔法だの何だのといった特殊能力を備えていない。
備えていたとして、使い方を知らない。
要は、落ちる。
一直線に落ちて逝った人間。
樹の枝をバキバキとその身でへし折りつつ、わずかながらに失速し、なおも落ちる。
あの人間からは初代勇者軍程の魔力を感じた。
だからまぁ、あの程度の墜落では死にはせんだろう。
俺の手のうちから逃れようともがく力も、人間のそれではなかった。
おそらく肉体強化もかかっている。
普通なら死んだだろうが、今なら軽い全身打撲で済みそうだ。
グロいことにはならんだろうが、痛そうは痛そうなので落ちる寸前に目を閉じた。
どすんという、鈍い音。
下がコンクリでなくて良かったではないか。人間。
「いっつ~~~!!……て、は……?いき、て、る……?」
それだけはこの世界に感謝するといい。
いや、そもそもの原因はこの世界なのだが。




