第七話 私にできる事
二章スタートとなります
・この世界では髪や目の色は様々な色をしています。
色によって人種や出身を示すものではありません
先輩が死んだ日から時々、夢を見る。
座敷牢に座った少女の夢。
私は半分その子の視点でその夢を見ている。
ジメジメとカビの匂いが充満する座敷牢、熱心に少女を拝む信者達、粘ついた視線を向ける肥えた父親。
運ばれてきた食事に全身が強張る。
昨日の儀式で抵抗してしまい、腕が僅かに痺れていた。
信者達が見守る中、出された食事を箸で口に運んでゆく。
ふと、炒った豆が箸の隙間から滑るように地面に落ちた。
ゾッと全身から血の気が引いて父親を見た。
【申し訳ありま――】
言い切る前に裏拳が頬を打って、軽い少女の体が座敷に転がる。
【ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……】
謝るたびに振るわれる鞭が乾いた音を座敷に響かせていく。
死装束のような白い着物と化粧の下には消えることのない傷跡がいくつも残っていた。
格子の向こうに座る信者達は笑顔で少女を拝んでいる。
極め付けは儀式だった。
長い黒髪を綺麗に纏め、普段よりも丁寧に化粧を施される。
儀式の間にて信者達と向かい合うように座らされた少女の前に盃が置かれる。
トプトプと音を立てて注がれた乳白色の液体、ありがたい酒と呼ばれたそれを少女は深く息を吐いてから一息で飲み干した。
苦くて、甘くて、酸っぱくて、辛くて、痛い。
舌の上で踊るように味が暴れる。
やがて痺れるように体が動かなくなっていく。
動けなくなった少女に群がるように信者達が駆け寄って少女の衣服に手をかける。
人形のように動けない少女の金の瞳が虚空に浮いた私を見つめている気がした。
【ひどいことしないで……】
ザワリッと全身を撫でるような不快感が襲った。
なんで、なんでこんな酷いことができるのだろうか、彼女が一体何をしたというのだろうか。
耳を塞いで蹲りたい衝動に駆られながら生臭い空気の充満する部屋で儀式の様子をただ見ていた。
◆
「うわぁ!」
跳ねるように飛び起きた私の視界にいつもの自室が映る。
『朝から騒々しいぞ……』
鬼様の言葉を聞いてパンッ、と頬を叩いて気合いを入れる。
きっと心が弱っているからあんな夢を見たに違いない。
「鬼様! 今日から魔法少女再開です!」
あれから五日、殆どを寝るかアニメを見て英気を養っていたけれど。
そろそろ人としてダメになってくる頃だ。
『ほう、それでどうするのじゃ?』
「とりあえず情報収集がしたいんですよね、そんな時に頼りにできる友人がいます」
私はスマホの電源を入れて着信履歴を確認する。
50件近くかかってきている電話の主、コガネちゃんに通話を繋げた。
「歩ちゃん⁉︎ 電話にも出ないで、心配したんですよ!」
スマホの向こうから聞き慣れた幼馴染の声が聞こえてくる。
「ごめんごめん、ちょっと……かなりへこんでたんだけど、立ち直ったから相談したいことがあって……」
「先輩のことは、残念でしたね……」
私を心配して最大限、言葉を選ぶコガネちゃんに苦笑いを浮かべる。
「うん、だからコガネちゃんに手伝って欲しいんだ。実は私、魔法少女なんだよね」
/
わかりました、という言葉から数十分、大きめのカバンに白いワンピースという清楚な格好のコガネちゃんが家の前に立っていた。
「お待たせしました」
「全然待ってないよ……ていうかコガネちゃん、準備良すぎじゃない?」
そのままおばあちゃんに挨拶して、勝手知ったる様子で私の部屋に上がり込んだ。
何回か遊びに来たことはあるけどいつもながら動きに迷いがない。
「それでは、詳しく聞かせてください」
テーブルの前に座ったコガネちゃんがまるで取調室の刑事のように私に言った。
「その前に、これを見てほしい、鬼様! 変身!」『仕方ないの……』
私の口が軽快なBGMを口づさみ、青い光を纏い始める。
「愛と希望を力に変えて――
――邪悪な闇を打ち払う
人呼んで! 魔法少女! オーガブルー!」
ビシッと腰に手を当ててコガネちゃんを指差すキメポーズをとる。
一秒、二秒、沈黙が流れてコガネちゃんがふぅ、とため息をついた。
「処理に時間がかかってました。なるほど、どういうことですか?」
両手の指先を引っ付けて、顔の前に持ってきたコガネちゃんがじっとこちらを見て観察している。
「それよりも何かいう事ない? 魔法少女だよ! 全国の女児の憧れ!」
「私は今、現実を受け止めるのに必死なんです……想像よりヤバいの出てきたんですから」
眉間に皺がよって普段閉じて見える目がうっすら開かれている。
「ついでに、この変身は私の家に祀られてる鬼様に手伝ってもらってます!」
『こうして話すのは初めてじゃの、鬼と呼ばれておる、気軽に鬼様と呼んで良いぞ』
そこまで話した時点でコガネちゃんは目を覆って天を仰いだ。
「一個ずつ持ってきてください!」
/
しばらく無言でカタカタとカバンから取り出したノートパソコンを操作する事数分、コガネちゃんの眉間から皺が消えた。
「とりあえず、怪人と戦っていた魔法少女は歩ちゃん達って事で大丈夫?」
「そうなるかな……ごめんね、混乱させちゃって」
私の言葉にいえ、とコガネちゃんが答えた。
「そこまでは予想してました。予想より愉快な事になってましたけど……」
そう言って腕を組んで人差し指をトントンと動かしている。
「それで、怪人を倒すのに協力して欲しいの、コガネちゃん、パソコンとか詳しいでしょ?」
コガネちゃんがチラリと開いたノートパソコンを見た。
「私はSNSで得られる情報しかわかりません。なのでまず、わかる情報を整理させてください。怪人とはなんですか?」
そこまで言ってコガネちゃんが再び険しい表情になって指先を合わせた。
「えっと……生き物に寄生して、人を食べる……虫? みたいな?」
斜め上を見て覚えている事を思い出そうとする私の口からため息が溢れた。
これは鬼様だ。
『わしも知る事は多くない、
わしが初めてアレに出会ったのはコヤツ、歩に話しかける数日前じゃ
突然、御神体が納められた蔵の空間に亀裂が走った』
私も知らなかった新情報がつらつらと私の口から紡がれていく。
「亀裂……ですか?」
『ああ、裂け目と言い換えてもいいかもしれんが……』
私たちのやりとりを横目にコガネちゃんがカタカタとパソコンのキーボードを操作している。
「続けてください」
コガネちゃんの言葉にフン、と鼻を鳴らして鬼様が続ける。
『亀裂から現れた虫はわしに取り憑こうとしてきおってな、逆に喰ろうてやったら蔵の亀裂は消えた。
なかなかに美味だったのでたまには外食でも、と思って歩に声をかけたのよ』
満足そうに頷いた鬼様に呆れてしまう。
「鬼様が適当だってことがよくわかりましたよ」
『それは何より』
しばらくして、キーボードを叩く音が止まった。
「つまり、その裂け目はまだどこかにある。という事ですね」
コガネちゃんの言葉に鬼様が首肯する。
『そういう事になるな……』
「つまり、当面の目標は裂け目の場所を探す事ですね!」




