第四十六話 ちゃんと勝ったよ!
「そういえば……食べちゃいましたけど、また内側から出てきたりしませんか?」
お腹をさするとじんわりと暖かい、なんとなく大丈夫だという感覚はあるけれど一応確認してみる。
『今までわしは食ったものを内側に沈殿させておったが、今回こやつに限っては完全に吸収した……もう、あのクソガキはどこにもおらん』
私達が手を薙ぐとそれに合わせてオーラが放たれてハングリーに飲み込まれていた山を青く包み込んだ。
沈み出した夕日に照らされた青い山は幻想的な美しさを纏っていた。
「……綺麗ですね」
『そうじゃな……』
私達はオーラに包まれた山へ落下して地面にぶつかる直前に身を翻し、ふわりと着地した。
そして私達の体が光り輝くと弾かれるように二人に分裂した。
「あ! これって元に戻れる感じなんですね……」
『お前のぶんの体を用意してそっちに魂を移すだけじゃ……クソガキを食ったエネルギーが溢れておるからこの程度は朝飯前じゃな』
鬼様の服装は綺麗に整えられて若干空中に浮いている。
その姿はまるで御伽話の天女様みたいだ。
【魔法少女様、お疲れ様です】
私達が言い合っていると蔵の方から鮎喰さんが歩いてきた。
その体の色は薄くなり、向こう側が透けて見えた。
「鮎喰さん!」
私が抱きつこうとすると空気を掴むように通り抜けてしまう。
【レッドもいなくなりました。今は魔法少女様の結界のおかげで止まれていますが、いつまでも魂だけでいられるほど世界は優しくありません……お別れですね】
鮎喰さんが私に向かって優しく微笑んだ。
『お前はずっと早合点しておるなぁ……大団円にしてやると言ったじゃろう?』
鬼様は得意げに微笑んだ後、鮎喰さんに手を翳す。
すると薄かった体がみるみる色づいていく、よろめいた鮎喰さんが体勢を整えようとしてパキリと地面の小枝を踏んだ。
「え? 私……生き返ったんですか?」
困惑する鮎喰さんの頬を私がそっと触れると柔らかくも暖かい感覚が伝わってくる。
「鮎喰さん!」
今度こそ私が抱きつくと鮎喰さんから優しく抱擁が返ってくる。
その様子を見た鬼様が短く笑った。
『さて……感動に水を差すようで悪いが……玲子、お前に二つの選択肢をやろう』
「なんでしょう……」
私が離れると目元に涙を溜めた鮎喰さんが鬼様に向き直る。
『もう気づいておるだろうが、お前はまともな精神をしておらん……その影響を取り除く為にはお前の記憶を消さなければならない』
「なっ! なんですかそれ⁉︎」
叫ぶ私を鬼様が優しく見つめた。
『精神と記憶は密接に絡みついておる、怪人に関する記憶を全て消してしまうのが玲子という魂を守りつつ、健常な精神を取り戻す方法なんじゃ……もしもこのままの精神で放っておけば、歪みは広がり、やがて玲子は人ではなくなるかもしれん』
「その二択は、記憶を残すか、消すかということですか?」
鮎喰さんの問いに鬼様が頷く。
『お前が決めろ、わしはそれを尊重しよう』
「鮎喰さん……」
私の呼びかけに鮎喰さんが私と鬼様を交互に見て目を閉じ、深く息を吐いた。
「記憶が無くなっても私がやったことは消えません、そのうえで私は魔法少女様とずっと一緒にいたいです。人として、だからお願いします……私の記憶を消してください」
「鮎喰さんは本当にそれでいいの?」
私がそう言うと、鮎喰さんは笑って私の手を取った。
「大丈夫、私はきっと覚えています。だって私の心には、こんなにも愛と希望に満ちているんですから……だから、これからもずっと友達ですよ、歩さん」
鮎喰さんが言い終わると鬼様は目を閉じて指を鳴らした。
そして、私に倒れ込むように鮎喰さんが意識を失った。
『さて……歩、しばしの別れじゃ』
私が鮎喰さんを膝に寝かせていると鬼様がふと呟いた。
「どういう意味ですか……?」
私が聞くと鬼様がそっと地面に足を付けた。
瞬間、鬼様を中心に草木が生い茂り木々が一気に成長して地面から水が沸き、湖が発生した。
『今のわしは世界を新しく作ってしまえる程に大きな存在になった。
わしがおるだけでも世界に悪影響なのじゃ』
「…‥ずるいですよ、今おろしたら鮎喰さん溺れるじゃないですか」
足元までやってきた水を掬って鬼様に掛けると鬼様が声を出して笑った。
『そういじけるな……また会える』
鬼様は宙に浮いて私の頭をそっと抱きしめた。
「今日の晩御飯はカレーだったのに……鬼様は食べたこと無かったですよね……」
『魅力的な誘いじゃがそろそろ行かねばな……』
鬼様はそう言って私から離れるとそのまま真っ直ぐ空に向かって飛んで行った。
「歩ちゃん! そんな……うそ、鮎喰さん?」
鬼様が飛んで行ってすぐにコガネちゃんが麓の方から歩いてきた。
「コガネちゃん、ちゃんと勝ったよ!」
私は目元の涙を拭いて満面の笑みでコガネちゃんにピースサインをしてみせた。




