最終話 ハッピーエンド
魔法少女は多忙である。
夏休みだからといって自堕落に生活しているわけにはいかないのだ。
朝、祖母が作った朝食を食べて横断歩道で困ってるおばあちゃんを助け、図書館でコガネちゃんと勉強をする。
「コガネちゃんは読書感想文、何書くか決めた?」
私が声を潜めてコガネちゃんに聞くと、コガネちゃんが一冊本を取り出した。
最近話題になってる小説だ。
「読み終わったら貸しますよ?」
コガネちゃんの言葉にやった、と小さくガッツポーズしてページをパラパラめくってみる。
それだけで文字が全部目に飛び込んできそうになって、急いで本を閉じた。
「鬼様がいた時の後遺症が……」
気を抜くと遠くまで見えすぎるし、この前は力が入りすぎてシャーペンを一本粉砕した。
おかげでペン入れには予備を含めて三本のシャーペンが入っている。
私が頭を抱えているとコガネちゃんが懐からスマホを取り出した。
「コガネちゃん……図書館でスマホはマナー違反じゃない?」
私を無視してテキパキとコガネちゃんが広げてあった夏休みの宿題を片付けはじめた。
「今すぐ病院に行きますよ、鮎喰さんが目を覚ましました」
/
私達が病室に入ると鮎喰さんが剥いたみかんを食べていた。
「ん? ぐっ、んー⁉︎」
「ごめんなさい、ノックくらいすればよかったですね」
驚いてむせる鮎喰さんにコガネちゃんが優しく微笑んだ。
「けほっ、ゴホ……お見舞いに来てくれたんですね、ありがとうございますコガネさん」
私とコガネちゃんが目を見開いて顔を見合わせると鮎喰さんは不思議そうに首を傾げた。
「覚えてるんですか?」
コガネちゃんが聞くと鮎喰さんが顎に人差し指を当てて考えるポーズをした。
「えっと、私はいろいろ忘れてるらしい事はなんとなく覚えてるんですけど……コガネさんですよね、一緒に遊園地に行った」
「じゃあ、私のことは⁉︎」
私が近づいて両手を取ると鮎喰さんは困ったように曖昧に笑った。
「ごめんなさい……」
鮎喰さんの言葉に思わず目を伏せる。
「でも、私達は友達だったんですよね? よかったら名前を教えてもらえますか?」
落ち込んだ私を気遣ったのか声をかけてきた鮎喰さんに私は努めて笑顔を向けた。
「私はあゆみ、渡辺歩です」
告げた瞬間、手の甲に暖かい感覚があった。
よく見ると鮎喰さんの頬に一粒の涙が伝っていた。
「ごめんなさい、何でかわからないけど……すごく安心してしまって……」
拭ったそばから涙を流す鮎喰さんをそっと抱きしめる。
「また、私と友達になってくれますか?」
私が問いかけると鮎喰さんはピクリと震えて笑った。
「はい!」
私達のやりとりを見て背後でコガネちゃんがため息をついた。
「二人とも何言ってるんです? 私達はずっと友達じゃないですか?」
/
家に帰る、あの日から参拝客が増えておばあちゃんは少し大変そうだ。
青いオーラもハングリーの赤い霧も機械には映ってなかったみたいで世間では心霊現象とか言われている。
部屋に戻って荷物を置く、私はそのままベッドに腰掛けて窓の外の、赤くなりはじめた空を見た。
また会えるって鬼様は言っていたけれど、それがいつになるのか私にはわからない。
もしかしたらもう会えないかもしれない、鬼様は忘れっぽいから。
「意外とすぐ近くにいたりして……」
見えはじめた月に手を伸ばすと鬼様が側にいる気がした。
「話ができないのは寂しいけどね……」
『なんじゃ、話がしたかったのか?』
突然、私の口が意思に反して喋りはじめた。
「え? 鬼様⁉︎」
私の反応が面白かったのか鬼様が口を開けて笑う。
『おう、蔵より少し遠くなったが……今は遥か上空におるぞ……ここからでもお前の間抜け顔が見えそうじゃ』
「え? なんで⁉︎ 色々台無しじゃないですか⁉︎」
『なんでってお前……あれから宙を漂っておったんじゃが、何せ暇でなぁ……それに言ってただろう? 呼ばれたら出てきてやるとな』
センチメンタルな気持ちを返してほしいと思わずため息をついた。
「でも、この方がハッピーエンドっぽいですね……」
『魔法少女はハッピーエンドって相場が決まっとるらしいからの!』
鬼様の言葉に僅かに微笑む。
「今日の晩御飯はそうめんです」
『わしのカレーは?』
「また今度ですね」
私達は晩御飯の話をしながら部屋を出た。
魔法少女オーガブルー 完
これにて魔法少女オーガブルー!完結になります
ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます。
またどこかで!




