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第四十五話 それもまた愛である


 赤い壁が私達を取り込もうと迫る。


 それら全てが羽衣とオーラによって阻まれ私達に触れることさえできない。


『油断するな、ここは奴の体内……何が起こるかわからんぞ』


 赤い壁を越えると一際赤く煌めく結晶が見えた。

 拳大ほどのそれの前で赤い髪の少女が私達を睨んでいた。


『さっきぶりじゃな! クソガキ!』

「悪いけど、倒させてもらうから!」


 一つの口でかわりばんこにしゃべる私達を見て少女は口を歪めた。


『ハッ! 結局お前達も同じじゃないか……』


 少女の言葉に鬼様が深くため息をついた。


『お前は一人、わしらは二人じゃ! この違いもわからんから頭が悪い答えに辿り着く!』

「鬼様……言い方ってものがあるでしょ?」


 私達の言葉に少女は頭を掻きむしって叫び声を上げた。

『うるさい! うるさい! うるさい!

 消えろ! 消えろ! 全部、私になればいいんだ!』


 ゾワッと嫌な気配が四方八方から湧き上がった。


『歩!』「見えてます!」


 私は即座に空中に飛び上がり回転しながら全方位を警戒する。


 空間が歪んで黒く見える球が辺り一面に見えていた。


『くたばれ……』


 少女がドスの効いた声と共に手を振ると一斉に黒い球が私に向かって飛来した。


 前後左右の攻撃を下に落ちて回避する。


 避けきれない球を羽衣で受け止めると空間が歪んで表面を削られた。

 合間に羽衣を光の矢に変えて飛ばしたけど命中しているのに一切効果はなさそうだ。


『これ見よがしに見せてる結晶は罠くさいんじゃよな……』「でもこのままだとジリ貧ですよ!」


 黒球を防ぎながら相談する。


『よし、歩……突っ込め! 後はわしがなんとかする!』

「つまり、いつも通りってことですね!」


 返事をした瞬間、黒球を弾いた羽衣が一本消える。


 それに構わず私は結晶に向かって直進し、手を伸ばした。


 私を覆うように展開したオーラが黒球を弾き、それでも貫通してきた黒球を羽衣で受け止める。


 そして、結晶を掴んだ。



 瞬間、結晶から無数の手が伸びる。


『ふふ、捕まえた……』


 私達を捕まえた腕が残った羽衣を引きちぎり、少女が私の前に得意げに現れた。


『そういうところが馬鹿なんじゃよなぁ……何故自分と同じ知恵を相手が巡らせると思わん?』


 目の前に立った少女の腹を金の羽衣が貫いた。

 その瞬間、私が持っていた結晶は私達を掴む手ごと消滅して羽衣の先に結晶が握られていた。


『なん……で? 確かに全部消えたはず……』


 苦しそうに呟く少女に私達は視線を向ける。


「最初に羽衣を消したのはわざと、維持できなくなったんじゃなくて神力に戻して体内に収納したの、パッと見なら消滅したように見えたでしょ……?」

『これ見よがしな行動は罠じゃよなぁ!』


 少女は腹に刺さった羽衣を掴んで私達を睨む。


『愛してるから食べるの!

 愛してるから飢えるの!

 あなたなら……あなた達ならわかってくれるでしょ?

 愛しているから食べるあなたなら、求めるあなたなら……』


 その言葉に鬼様はため息をついた。


『わからんなぁ、これは自慢なんじゃが……わしは生まれて一度も飢えたことはない! だからわしに理解を求めるな……お前とわしは違うのだから』

「わかるよ……でもね、だからって食べたら無くなるんだよ……それじゃあいつまで経っても満たされない、それは寂しいよ」


 私と鬼様の言葉に少女は目を見開いた。


『食べれば食べるほど、消えない飢えが私を苛むんです。もっと食べろと囁くんです。

 私はお兄ちゃん達を食べた。

 星を食べた。世界を食べた。

 私は間違ってたの?』


 少女の頬に赤い雫が伝った。


 鬼様は少女から羽衣を引き抜くと統率を失ったように赤い霧が地面へと落ちていく。


『お主の愛は悪ではなかろう……だが腹減り虫には退散願おうか』

「あなたの想いもきっとまた愛なんだろうね、でもそれは世界には重すぎる」


 私達が結晶に力を向けると周囲の霧を飲み込んで結晶が圧縮されていく、飴玉サイズになったそれの前に音がならないように手を合わせた。


「『いただきます』」


 そのまま人差し指と親指で結晶を摘み口の中に放り込んで飲み込んだ。


 深く息を吐いて全身に力が染み渡っていくのを感じた。


「ごめんね……」『やつも散々食ってきたのだから今更自分の番に文句も言うまい……』


 お腹をさすって私達がそれぞれ呟き、そして再び手を合わせた。


「『ごちそうさまでした』」

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