第四十四話 魔法少女オーガブルー!
神妙な面持ちで私が死んでいると告げた鬼様は変わらずこちらを見つめている。
助けを求めるように鮎喰さんに視線を向けると鮎喰さんは視線を下に向けた。
【いつからですか……? わかって……黙ってたんですか?】
震える声で鬼様に問いかける。
『わしが引き上げた時には、お主は既に魂だけの状態じゃった。
だが、悲観的になるな……まだ生き返る術はある』
鬼様は再び木簡を手で鳴らした。
【なんですかそれ、また勝手に……!】
私が睨みつけると鬼様が私の頭に手を置いた。
『悪かった……驚く時間は短い方がいいと思ってな……』
【……それで、どうすればいいんですか?】
問いかけると鬼様は木簡を私に渡してきた。
『この木簡にはわしの肉体が封じられておる。
封印を解いて、魂を乗せれば魂の持ち主に合わせた肉体に再構成されるじゃろう……そうすれば外の世界でも生きられる』
木簡に書かれた愛呼という文字を見て、鬼様を見つめ直す。
【それって鬼様はどうするんですか? また一つの体に同居すれば一緒に出られますよね、鮎喰さんも一緒に!】
『無理じゃろうな……外を囲んでおるクソガキはわしを狙っておる。
わしが逃げれば追いかけてくるじゃろう』
呆然とする私の手に鮎喰さんがそっと手を重ねた。
【魔法少女様は生きてください……それが私たちの望みです……】
『何言っておる、玲子……お前は歩と一緒に行けばいいじゃろ?』
呆れたような表情で鮎喰さんを見た。
【いや……私、体ありませんし……同居もちょっと、恐れ多いというか……】
【いやです……】
私の発言に鬼様が驚いて目を見開く。
【ほら、魔法少女様もこう言ってますし……私はちゃんと死んでますから……】
『歩……お前、ここまできて……』
【なんで鬼様が残る前提なんですか!
鮎喰さんも助かる気がないんですか!
どうして私の大切な人たちはいつも私の前からいなくなるんですか!
私は絶対に嫌です!】
言葉に押し出されるように大粒の涙が溢れた。
そのまま二人を睨みつけると鮎喰さんは驚いて固まり、鬼様は長く息を吐いた。
『歩、ここに来るまで大量の骨山を歩いたじゃろう? アレは全て、わしが食った者達じゃ……年老いた者も、幼い者も、男も、女も、赤子でさえわしは喰ろうてきた。
死にたくないと言う者の願いを手折り、殺してくれと言う者の願いを聞き届けた。
だがな、わしは悪いことをしたとは思っておらん……ただ、今は自分の番だと言うだけじゃ』
【……いやです!】
目を合わせられずに下を向いた私の頭に鬼様がそっと手を置いた。
『お主らが逃げた後、わしは存在ごとエネルギーに変換してクソガキを吹き飛ばすつもりじゃ……神体がないから仕留めることは出来んじゃろうが……お主がいる。
わしの体を持つお主なら一人でも戦えよう、後は頼んだぞ……魔法少女』
そのまま消えてしまいそうな鬼様に飛びつくと手足を使ってがっちりホールドした。
『ちょっ! 何やっておる、いい雰囲気じゃったじゃろ! ええい、玲子! こいつ引っぺがせ!』
【離してあげてください、魔法少女様! もう覚悟を決めてるみたいです!】
服を引っ張る鮎喰さんに抵抗するためにより手足に力を込める。
【そんなの私には関係ないもん!】
やがて背後に倒れ込んだ鬼様が諦めたようにため息をついた。
『では、どうしろというのじゃ……わしはこれ以上の解決策など持っておらんぞ……』
力なく呟いた鬼様に私は必死で叫ぶ。
【鬼様は神様なんでしょ? 万能なんでしょ? 私の家に祀られるくらいすごいんでしょ⁉︎ だったらなんとかしてください!】
服を引っ張っていた鮎喰さんが不意に手を離した。
【魔法少女様……】
鮎喰さんは横に膝をつくと宥めるようにそっと背中をさすった。
【何かありませんか? 魔法少女様の願いを叶えたいんです】
やがて鮎喰さんは鬼様を真っ直ぐに見つめて問いかけた。
『ここまできて、神頼みか……』
鬼様は目を閉じると私の頭をそっと撫でた。
『わしは望まれることが嫌いじゃ、皆わしに何かを望む……富、力、名声……神とは人を助けない、大それた願いに罰を与える者こそが神なのじゃ……』
鬼様は私を引き離しながら立ち上がり、見下ろした。
鮎喰さんがそっと私の肩を抱いて立ち上がらせる。
その様子を見て鬼様が続ける。
『お主達の願いは大変美味であった。
しかし、その願いを聞き届ける神はいない……故にこの願い応えるわしは神ではない――魔法少女じゃ』
そう述べた瞬間、御神体が金色に輝き始めた。
『懐かしい感覚じゃ――玲子、お主の希望もわしらに力をくれた。
しばし待っておれ、大団円で終わらせてやる。
さぁ、手を伸ばせ、魔法少女オーガブルー! 愛と希望が魔法少女の力なんじゃろう?』
そう言うと鬼様は私に向かって手を差し伸べた。
私は鬼様の手を掴み、笑ってみせる。
【鬼様は私の魔法少女です!】
『馬鹿いえ、わしらは二人で魔法少女じゃ』
私達の魂が光に変わって木簡へ流れ込む。
木簡は形を人型へと変化させ、やがて一人の少女へ姿を変えた。
「愛と希望を力に変えて!」『邪悪な闇を裂き喰らう!』
「私達!」『我ら!』
「『魔法少女オーガブルー!』」
変身した私達の見た目はいつもより神々しい、というか衣装と羽衣が金色に煌めいていた。
髪色以外ブルー要素が消失している。
【眩しい見た目になりましたね……】
鮎喰さんの言葉に苦笑いする私と鼻を鳴らす鬼様。
「オーガゴールドに改名かな?」
『このままでいいじゃろう、面倒くさい』
鬼様が頬を掻くと、羽衣が胴体に巻き付いて余った部分が翼のように背中から伸びた。
「鬼様、これって⁉︎」『もちろん、飛ぶぞ!』
羽衣が羽ばたくように上下すると体が浮力を持って浮き上がる。
【魔法少女様! 気をつけて……】
駆け寄ってきた鮎喰さんはそれだけ告げると深く頭を下げた。
「うん、世界を救ってくる」
『当然じゃろう!』
再び羽衣が羽ばたくと私達は弾丸のような勢いでハングリーの海に侵入した。




