第四十一話 手を繋ぐ
『まったく、歩のやつ懲りもせず毎日顔を出しおって、鬱陶しいことこのうえない』
御神体が納められた蔵の中、頬を掻きながらわしはため息をついた。
『まさか、死ぬまで続けるつもりではあるまいな……』
歩ならありえる、と首を傾げる。
『どうしたものか……』
【まほうしょうじょさま】
考えすぎじゃな、幻聴が聞こえてくるわ。
【魔法少女様!】
二度目の声が聞こえた時ズキズキと腹が痛んだ。
『玲子⁉︎ 腹の中から、こんなこと今まで一度も……いったい何が起こって……』
瞬間、雷のような衝撃が内側に響いた。
『まさか、あのクソガキ内側から食い破ろうとしておるのか? チッ! 抑え込めん!』
どうする。
あまり時間はない。
歩の祖母を避難させる。
その後は歩に逃げるように伝えて、それから……
『寓話や童話じゃあるまいし、内側から攻撃はシャレにならんぞ!』
叫んでからわしは指二本を喉に突っ込んだ。
わしが吐き出そうとしたことを察したのか神体の腹に穴を開けて赤い霧のような大群が溢れ出してくる。
霧はそのままわし全体を呑み込もうと迫ってくる。
『う、オェ』
口から吐き出した白骨混じりの大量の何かが赤い霧を押し返し、わしは取り込まれずに済んだ。
◆
『そういうことがあったのじゃ……』
ポリポリと頬を掻く鬼様を横目に足元を確認すると大量の白骨死体で埋め尽くされていた。
【これって鬼様のゲロなの?】
『……まぁ吐瀉物といえばそうといえなくもないが……』
歯切れが悪くなる鬼様をジトっと眺めているとそんなことより、と鬼様が続ける。
『お前、何故来たんじゃ? コガネはどうした?』
【コガネちゃんを説得して鬼様を助けに来ました!】
『馬鹿タレが! 護符が無かったら、お主消えるところだったんじゃぞ!』
怒鳴られてピクリと体が跳ねた。
【だって……】
『コガネの護符はもうないんじゃよな……?』
鬼様に言われて粉々になったキーホルダーを差し出した。
【コガネちゃんも直接渡してくれればよかったのに……】
多分抱きしめた時にポケットに忍ばせたんだと思う、急いでて気がつかなかった。
『あると知ってればそれを盾にお主が無茶をするからじゃろ』
【うぐぐ……それは……いなめないけど】
私が認めると鬼様はため息をついてキーホルダーの破片を摘んでもう使えんな、と呟いた。
『少しでも使える神力が欲しかったんじゃが仕方がない……』
【……鬼様、帰り道の心当たりとかってあったりしますか?】
私が尋ねると鬼様が呆れた視線を私に向けて長くため息をついた。
『それがあったらお主が来る意味ないじゃろ?』
【それはそう】
『まぁ、ないこともないが……』
【あるんですか? 私無駄足⁉︎】
そこまで言って、ドンッと衝撃があって足元が揺れた。
よろめく私を鬼様が支えてくれる。
『とりあえず。ここはわしが作った結界の端で危険じゃから……少し歩くか』
そう言って鬼様は私に手を差し出した。
私が手を掴むと少し暖かい手の温度と感触が伝わってくる。
『足場が悪いからコケないように……な?』
【はい!】
そうして私達は屍の山を歩きはじめた。




