第三十八話 嘘
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夢を見る。
鬼様がいなかった頃の夢だ。
魔法少女になるって言っても怪人もいない、魔法もない。
困ってる人をみつければ助けるだけ、私はそんな……ただのいい子だった。
「これでいいのかな?」
誰にでもなく呟いた言葉、きっとコガネちゃんに聞けばそれがいいと答えてくれるだろう。
おばあちゃんに聞けば何も言わずに頭を撫でてくれるだろう。
現実に私の理想、魔法少女は存在しなかった。
でも、鬼様が現れて捨てる直前だった夢が現実になった。
魔法少女は楽しいだけじゃなかった。
怖いことも、辛いことも、取り返しのつかないこともあった。
でも、鮎喰さんとコガネちゃんと鬼様と……
みんながいてくれるなら私は頑張れる。
だって私が魔法少女なんだから。
◆
目を覚ますと自室のベッドの上だった。
「鬼様!」
声をかけてから時間が経っても返事がない。
「私……コガネちゃんに首を絞められて、それから……」
どうなったんだろう。
部屋に置かれた鏡を見れば不安そうに眉を歪める私の姿があった。
階段を駆け下りて、朝食の準備をしているおばあちゃんを見つけた。
「おばあちゃん! 私、昨日どうやって帰ってきたの?」
いきなりの問いかけに上体を引いたおばあちゃんが驚いた表情で私を見ていた。
「歩、あんた……何も知らないのかい?」
「何を……?」
はぁ、とため息をついたおばあちゃんが目を伏せて考える仕草をする。
僅かに魚の皮が焦げた匂いがした。
「昨日、鬼様があなたの体で帰ってきて……世話になったって」
世話になった。
「世話になったって……」
「ちょっと、歩どこ行くの⁉︎」
おばあちゃんの制止を無視して、私は鬼様の本体が奉納されている蔵に走った。
「鬼様!」
蔵の扉を開けて中を確認する。
掃除用の道具が置かれた棚のさらに奥鍵付きの扉の奥にそれはあった。
御神体と書かれた箱が小さな棚に祀られていた。
「返事をして、何があったんですか! 鬼様!」
箱を開けるとそこには愛呼と書かれた木簡が納められていた。
「鬼様!」
私の言葉は蔵の中に染み込むように消えていく。
「鬼様……呼べば出てくるって言ったじゃないですか…….」
私が呟いたタイミングでおばあちゃんが蔵の扉を叩いた。
「学校、休むかい?」
おばあちゃんはそう言うと、心配そうに私の肩に手を置いた。
学校……
「行く、大丈夫だから」
コガネちゃんなら何が知ってるはずだ。
/
学校に着いた時、コガネちゃんはまだ登校していなかった。
空いた時間で鮎喰さんの教室を覗いてきた。
鮎喰さんも登校していなかった。
教室で待っているとギリギリの時間になってコガネちゃんが登校してきた。
「コガネちゃん!」
名前を呼んで駆け寄るとコガネちゃんは私を見て眉を顰めた。
「歩ちゃん……ホームルームはじまりますよ」
コガネちゃんがそう告げたタイミングで予鈴が鳴って山田先生が入ってきた。
先生と視線が合って私はコガネちゃんを横目で見ながら自分の席に戻る。
コガネちゃんは一切私の方を見ようとしなかった。
一限目が終わったタイミングで私が席を立つとコガネちゃんは逃げるように教室を出て行った。
次も、その次も、私と目を合わせようとすらしない。
明らかに私を避けていた。
昼休み、教室を出たコガネちゃんを追いかけて私も教室から飛び出した。
廊下を越えて、階段の踊り場で私はコガネちゃんに追いついた。
「コガネちゃん!」
腕を掴んだ私を両目を開いてコガネちゃんが睨みつける。
真っ赤な瞳と縦に裂けた瞳孔が責めるように私を見つめた。
「何か……用事ですか?」
今まで聞いた事もないような感情を感じられない声色でコガネちゃんが私に問いかけた。
一瞬躊躇して、それでも、とコガネちゃんを見据える。
私はコガネちゃんに聞かないといけないことがある。
「昨日の夜、あれからどうなったの……? 鮎喰さんはどうなったの⁉︎ 鬼様もいないし……コガネちゃんも……なんか変だよ……」
ギリッ、とコガネちゃんが奥歯を噛み締める音が鳴った。
「鮎喰さんは死にました。私と鬼様が殺した」
コガネちゃんはまるでお面みたいな、今まで見た事もないような形相で私を睨んだ。
そして、それ以上に信じられない言葉がコガネちゃんから飛び出した。
死んだ……鮎喰さんが
「そんな……私のせいで……?」
呆然とした私の肩をコガネちゃんが掴んだ。
痛い程の力が込められて、私は眉を顰める。
「馬鹿ですね……あなたは所詮ただの器です。思い上がらないでください」
「え……?」
呆然とする私にコガネちゃんが言葉を続ける。
「魔法少女? 世界を救う? 何、寝ぼけてるんですか? 鬼様がいなければ何もできないくせに! 所詮あなたはおまけなんですよ!」
突き放すように手を離したコガネちゃんと目が合った。
光を反射して僅かに光って見えるそれが滲んで見えた。
「なんで……そんなこと言うの?」
胸が痛くて蹲りそうになりながら涙を流して私はコガネちゃんを見つめる。
そんな私を見てコガネちゃんは大きくため息をついた。
「そんな事もわからないから馬鹿だって言ってるんです。二度と私に話しかけないでください」
そう言うと、コガネちゃんは階段を登って行った。
「嘘つき……」
私を守ろうとする嘘が胸に刺さった。
鮎喰さんが死んで、コガネちゃんは私を遠ざけて、鬼様がいなくなった。
コガネちゃんと鬼様が私を守ろうとしてくれていることはわかった。
「……どうして何も言ってくれないの」
その日から私は一人になった。




