↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/48

第三十七話 ありがとう魔法少女様

第三十七話 ありがとう魔法少女様

 ニヤニヤと笑っている玲子を睨みながら腕を回して手首を振る。

 体を動かそうとする歩の抵抗が無いので普段よりも動かしやすい。


 不意に、首筋に湿った感触が伝わった。

 続いて鼻を啜って嗚咽をこぼす声が聞こえる。


『コガネ……後にしろ、戦いにくい』


「鬼様……歩ちゃんを守ってください……」

 絞り出すようなコガネの声にわしはおう、と短く返事をする。


 玲子はいっそ気持ちが悪いほどに沈黙を守っていた。


『なんじゃ? 戦う気がないならこの世界から出ていってもらえるか? 玲子を置いてな、今なら深追いはせんぞ……』


 見え透いた挑発だろうが、これで少しでも意識が乱れてくれれば儲けものだ。


『ハハ、冗談……玲子は私だし、世界ももうすぐ私のものになる。

 鬼ちゃんが友達になってくれるなら世界の半分くらいはあげてもいいよ?』

 

『ハッ! こいつは傑作じゃな! 貴様、ここまでやっておいてまだ、友達が欲しいとか抜かしおるのか?』


 わしの挑発に玲子は今度はわかりやすく眉を顰めた。


『黙れ!』


 玲子が叫ぶと同時に玲子の足元から直線的な軌道でわしに泥が飛んでくる。


 槍か、棒のように見えるが本質的には得体の知れない泥だ。

 紙一重で避ければいらぬ手傷を負いかねない、と少し大きく横に回避し、オーラを纏った手で振り払った。


 そのまま、一息に玲子に接近して頭部に向かって蹴りを放った。


『歩め……全力の速度を見せすぎじゃ!』


 放たれた蹴りは玲子に掴まれて止められた。

 わしは掴まれた足を軸に体を捻り、逆側の足で玲子の頭を蹴り飛ばした。

 玲子が吹き飛ぶ直前に掴まれた足を羽衣で切り離し、即座に修復する。

 このタイミングで羽衣が一本完全に消失した。

 

 残り一本。

 

 さっさと決着をつけねばまずいな、と内心でため息をつく。


 見下すように笑ってみせると玲子はちぎれかけた首を治しながらわしを睨んだ。


『調子に乗るなよ! 私の世界だったならお前なんか――』

『奇遇じゃな、わしも本来の体なら貴様なぞ歯牙にもかけん』


 玲子が言いかけた言葉を途中で遮り、胸に手を当てて挑発してやれば悔しそうに玲子は歯を食いしばった。


 なるほどな、存在の割にこいつの精神は幼い、癇癪を起こしたガキか、と内心で評価を下した。


『わしに勝とうなど千年早いわ、クソガキ!』


 玲子は苛立ちが抑えられないのか髪を掻きむしって解けたリボンを強く握った。


『何も知らない癖に……好きだから食べるの! 愛しているから飢えるの! あなたならわかるはずでしょ⁉︎』


 握られたままの青いリボンを一瞥して、再び玲子に視線を向ける。


 ガキの理論に付き合うのは面倒じゃが、受け答えしないのも大人げないと努めて優しく笑ってみせる。


『それで、今のお前に笑いかけてくれるものはおるのか?』


 気持ち悪いほどの沈黙が一瞬場を支配した。


 やがて、玲子はガリガリと血が出るほどに首を掻きむしりはじめる。

『あ、ああ、あぁぁぁあああ! 違う……私は一つで、みんな一緒で、だから! 私は一人じゃない……どうしてそんな酷いこと言うの!!』


 感情に流されるように泥がわしに向かってくる。


 それを真上に跳躍して回避し、羽衣を玲子に向かって伸ばす。


 玲子の体に巻き付いた羽衣を引き寄せようとした瞬間に、嫌な感覚が全身を襲った。


 何かわからないが、何かをやろうとしている。


 攻撃を中断して避けなければ回避が間に合わないと勘が告げている。


 玲子の手に握られた歩が贈ったリボンが見えた。


 記憶はある。

 肉体があるなら感情もまだ残っている。

 ならば、呼び起こすのに必要なのは意思のみだ。


 一人じゃないと言うのなら、確かめてやる。

『鮎喰玲子!!』


 わしが言葉を放った瞬間、玲子の体が一瞬硬直して嫌な感覚が霧散する。


 すぐに元の感覚が戻ってくるが今更遅い、青いオーラを纏った拳が引き寄せられた玲子の首に直撃し、頭部が吹き飛んだ。


 羽衣を切り離して頭部に巻き付ける。


 頭を失ってなお抵抗する胴体は手足を折って心臓を潰したらおとなしくなった。


『コガネ、お前しばらく羽衣をお前に割けんから死ぬ気でしがみついておけ……』

「……はい」

 返事と一緒にコガネの腕に力が入ったのがわかった。


 ダルマとなった胴体を引きずりながら、羽衣に包まれた頭部に近づき、拾い上げた。


『今の貴様は玲子か? それとも……』


 羽衣をめくってみれば開いたままの虚ろな瞳と目が合った。


 勢いこそ落ちているが今なお、その目から赤い泥が溢れている。

 我ながら意味のない問いだ、と自嘲気味に笑った。


『玲子、既にお前を残しておくことはできん、お前の肉体は既に裂け目そのものじゃ……わしのように封印してもいずれは世界に災いを齎すだろう』

 この言葉はコガネに聞かせるためのものだ。

 何故わしが玲子を殺すのか、コガネには知る権利がある。


『はぁ、お前が死ねば歩は泣くだろう。だが、お前のためにも歩のためにも世界を終わらせられん』

 玲子の首を脇に抱えて、手を合わせた。


『いただきます』


 玲子の首を持ち直してその眼球に歯を立てた。


 ◆


 幼い、五歳くらいの玲子が両親の手を握って笑顔で歩いていく。


 その後ろを腐れ縁の幼馴染と一緒に小学校の制服を着た玲子が歩いて行く。


 その背後、中学の制服を着た玲子が何も言わずに眺めている。


「思い出せないんです。あの時の私が何を思っていたのか……

 善意で赤蜘蛛に手を差し伸べた時から私が私じゃなくなっていくんです」


 誰もいないはずの真っ暗な空間に玲子は語りかける。


 頭を抱えて呻くように、懺悔するように心の中を吐き出し続ける。


「レッドの手を取ったのは魔法少女様を助けるためだったのに……私は怪人がいなくならなければいいって思ってしまった。

 コガネさんがいなければ魔法少女様は私を見てくれるって思った。

 食べてしまえば一つになれるって思ってしまった」


 気がつくと暗闇には生首になった玲子が浮かんでいた。


【ありがとう、魔法少女様……こんな救いようのない私を助けてくれて】


 生首を拾い上げてわしはそれを抱き寄せた。


『馬鹿じゃな……おぬしは、最後の最後で歩自身を見ることができなかったか……』


 溶けゆく玲子の魂にわしはそっと口をつけた。

五章終わりになります。


ここまでお付き合いいただきありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。