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第三十一話 裂け目

『さてと、次はどうする?』

 頭の中でレッドの声が聞こえた。

「次……次は……」

 魔法少女様の元に戻ってそれから。

「お腹、空いたなぁ」

 視界が歪む、流石に無理をしすぎたのか、足に力が入らない。

 倒れそうになった私を横から抱きつくように抱える影があった。

「コガネさん……こんな所まで、巻き込まれたら魔法少女様が悲しみますよ」

 私の言葉にコガネさんが覗き込むように私をみた。

「ボロボロじゃないですか……」

 体を見れば目立った怪我は無いけれど服がボロボロだった。


「魔法少女様……嫌がりますかね?」


 私の言葉にコガネさんは唇を噛んだ。

 私を支える手に力が入って顔が少し近づく。

「ありがとうございます。そんなになるまで戦って、歩ちゃんを守ってくれて……でも、あまり無茶はしないでください」

 涙で光を反射した赤い瞳に私の顔が映って見えた。

 優しく微笑む私を見て、戦いが終わった事を実感した。


『つまんないの……』


  ◆


 ほっぺたをツンツンと突く感触で目を覚ました。

 目を開くと少しにやけた表情でこちらを見下ろすコガネちゃんと鮎喰さんが見えた。

「よく眠れましたか?」

「おはようございます……?」『もう夕方じゃけどな!』

 鬼様の元気な声が私の口から飛び出して体が痛くない事に気がついた。

 確認するとボロボロだった四肢は健常な見た目に戻っていた。

「敵は、どうなったの?」

 私に掴み掛かったネズミ怪人の群れを思い出していると鮎喰さんがそっと手を上げた。

「倒しました」

  鮎喰さん、よく見たら服がボロボロだ。

「怪我してるの⁉︎ よく見ると所々血も付いてるし!」

 駆け寄って服が破けて露出したお腹に触る。

 ツルツルした綺麗な肌の感触がする。

「ひゃぃ! け……怪我は無いです!」

「歩ちゃん、ナチュラルにセクハラやめなよ…….」

 鮎喰さんが顔を真っ赤にしてコガネちゃんがその様子を見て額を押さえた。


『……怪我は無いか、まぁそういう事にしておいてやる』

 鬼様のいじけたような様子に、鮎喰さんの怪我もきっと鬼様が治したんだろうなと思い至った。

「鬼様、ありがとうございます!」『あ? ……ああ、どういたしまして』

 とぼけた様子の鬼様につい笑ってしまう。


 安心すると自分の失敗が頭によぎった。

 私のせいでみんなの準備を無駄にして、敵の罠に引っかかって足を引っ張ってしまった。

「ごめんなさい……私のせいでみんなを危ない目に遭わせて」

  私はそう言って頭を下げた。

「謝らないでください! 魔法少女様が無事で本当に良かった」

「そうですよ……みんな無事で敵も倒せたんですから、ハッピーエンドです!」

 鮎喰さんとコガネちゃんがそれぞれフォローしてくれる。


『結果良ければというやつじゃな……』

 鬼様の言葉についため息が溢れた。

「息巻いて突入したのに今回、私ほとんど寝てただけだぁ」

 私の愚痴にコガネちゃんと鮎喰さんが顔を見合わせて笑った。


 


 しばらく休憩してから私達は残った北東の建物にやって来ていた。

 建物に入った瞬間からゾクゾクと背筋を走る悪寒が止まらない。

「大丈夫ですか?」

 顔を青くする私を見兼ねてコガネちゃんが私の手にそっと手を重ねた。

「裂け目が近いので魔法少女様には少し居心地が悪いかもしれませんね……」

 鮎喰さんが先頭を歩きながら顎に手を当てて言った。

「大丈夫……裂け目を閉じに行こう」

 三階、わずかな柱だけが残されたそのフロアにそれはあった。

  一本の線が空間を押し広げ赤い霧のような何かを吐き出し続けている。

 それは空気に触れるとすぐに薄れて消えていた。

 まるで大量の水に絵の具を溶かそうとするように見えた。

「これが……裂け目」

 私の言葉にコガネちゃんが息を呑み、鮎喰さんが頷く。

「世界の抵抗力、この世界にあるべきでは無いものを押し返そうとする力によって蓋をされたこの世界におけるハングリーの発生源です」

 鮎喰さんの言葉に反応するように裂け目から大量の赤い煙が溢れて纏まり、一匹の赤蜘蛛へ変化した。

 私に向かって来たそれを鬼様が踏みつけて潰す。

「閉じられますか?」

 コガネちゃんの言葉に鮎喰さんが頷いた。


「魔法少女様の青い光なら確実に裂け目を破壊できます」

 その言葉に私は息を呑んで手のひらを見た。

 鬼様との出会い、魔法少女としての日々、それらが一つの終わりを迎えようとしている。

 名残惜しさを感じて、すぐに蓮夜先輩、鮎喰さんの両親、助けられなかった人たちが脳裏によぎった。

『歩……?』

 鬼様の言葉に現実に引き戻される。

 深く息を吐いて自分を落ち着かせる。

「やろうか、裂け目を閉じるよ鬼様!」


『そうじゃな……一撃くらいならなんとかなるか』

 私が身に纏っていた衣装が青い光に変換され右手に集まっていく。

「いくよ鬼様! ラブ・オーガ・フラーシュ!」

 言葉と共に振り抜かれた拳から放たれた青い光が裂け目を飲み込む、やがて内側に吸い込まれるように裂け目は消えてなくなった。


「……終わったんだよね」『さぁな、だが裂け目が無くなったのは確かじゃ』


 裂け目の消えた部屋にジャージ姿の私とコガネちゃん、それにボロボロの鮎喰さんだけが残った。

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。


四章完結となります。

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