第二十六話 作戦開始
空がオレンジ色の光に包まれはじめた夕暮れ、歩ちゃんの家からの帰りに私と鮎喰さんは近くのファミレスに立ち寄った。
ボックス席、他の客に会話が聞こえにくい場所を選んで私と鮎喰さんが対面に座る。
「それで……話というのはなんでしょう? コガネさん」
先に注文したフライドポテトを蜘蛛に与えながら鮎喰さんが私に問いかけた。
「明日の団地での鮎喰さんの動きについてと今後の確認です。こればっかりは歩ちゃんには聞かせられないので……」
私が歩ちゃんの名前を出すと鮎喰さんの眉がピクリと震えた。
「何か不備がありましたか?」
自覚がなさそうな鮎喰さんの言葉に思わずため息が溢れた。
「まず、自分を軽んじる発言を改めてください、ついでに他人もです。
……そういうのは、歩ちゃんが嫌がります」
私の言葉にムッと鮎喰さんが眉間に皺を寄せた。
「別に……魔法少女様が聞いてないならいいじゃないですか……」
拗ねたようにケチャップにディップしたフライドポテトを口に運ぶ。
私が言いたいのはそういう部分だ。
「例外は作れば作るほど、元のルールは意味を失います!
どんな時でも歩ちゃんが見てると思って行動してください!」
強めに注意すると蜘蛛がキュー、と鳴いて鮎喰さんが諦めたようにはい、と返事をした。
「はぁ、困った時には私も相談に乗ります。
明日の作戦でも困ったら私に連絡してください……ボタン押してる間は歩ちゃんには聞こえないので」
言われて鮎喰さんがポケットからインカムを取り出し、ボタンを確認している。
「このボタンってそういう機能があるんですね……」
「本当はもう少し違うんですけど、設定を色々いじってますから」
私がポテトを取ろうと思ったら二匹の赤蜘蛛が食べ尽くしており、塩やケチャップまで無くなっていた。
「……次に確認です。
歩ちゃんがいる前だとちゃんと申告してくれるかわからなかったので今、聞きますけど、ぶっちゃけあの作戦で大丈夫ですか?」
鮎喰さんは空を飛べる。
結界を張れる。
前回の団地を見ても雑魚は数に関係なく処理できる能力がある。
でもしっかりと何が出来て出来ないか確認したわけじゃない、ここで無理だというなら作戦は延期せざるを得ない。
私がジトっと鮎喰さんに視線を向けるとキョトンと私を見た。
「強い個体を魔法少女様が相手してくれるなら余裕ですよ? ハングリー同士は基本的に格下はどれだけ集まっても格上には勝てないので!」
初耳な情報が出てきたけど、とりあえず納得してため息をついた。
「それはどういう理屈ですか? 基本的にって事は例外もあるという事ですよね?」
私の問いに鮎喰さんが少し困ったような表情をして赤蜘蛛がキュー、と鳴いた。
「えーっと、情報強度……? ごめんなさい、私も頭の中に流れ込んでくるものを口にしてるだけなのではっきりとは言えません……感覚的なものなんです」
気まずそうに鮎喰さんが頭を下げた。
「はぁ、わかりました。困った時には歩ちゃんと合流して早めに逃げてください……」
ここまで話して結局、得られた情報は根拠なしの大丈夫という言葉だけ。
でも、調べても好転しないならひとまず信じるしか無い。
「とりあえずフライドポテト頼みましょうか、私食べてませんから……」
「ごめんなさい……」
小盛りのフライドポテトを食べてから私達は店を出た。
◆
翌日
団地をぐるっと囲むフェンスを飛び越えて私達は土地の内部に侵入した。
「コガネちゃんは前回と同じ駐車場で待機、鮎喰さんはここから別行動だよね……」
私の言葉にインカム越しのコガネちゃんと隣の鮎喰さんから肯定の返事があった。
私も頷いていると鮎喰さんがフェンスの方を見る。
「これ、前来た時には無かったですよね……」
《建物の解体も請け負う契約で如月グループが買い取りました》
フェンスに貼られた私有地の看板の端に如月グループのロゴが入っていた。
「コガネちゃんの根回し凄すぎでは⁉︎」
《……しばらくは親の要求を断れないくらい、借りをつくりましたね……》
インカムの向こうからドスの効いた底冷えするような低い声が聞こえてきた。
「え、コガネちゃん?」
《なんでもありません、歩ちゃんの目的地は正面の建物の三階ですけど大丈夫そうですか?》
いつもの調子に戻ったコガネちゃんが作戦を確認するので、建物を見る。
『余裕じゃな!』
鬼様が軽快に答えたのを確認して鮎喰さんも反対側に向かって飛んでいった。
《こちら鮎喰です。配置に着きました!》
しばらく待つとインカムの向こうから元気のいい声が聞こえてきた。
「いくよ、鬼様!」『おう!』
言葉に呼応するように右足と体の前面に青いオーラが集まっていく。
そのまま地面を蹴るとピュ、と風を切る音と共に私はその場から消えてるような速度で跳び、そのまま三階の窓を突き破った。
砕け散ったガラスを前面のオーラが弾き、フローリングの床に滑るように着地する。
《作戦開始です!》
インカム越しにコガネちゃんが告げた。




